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映画『夜明けへの道』あらすじ感想と評価解説。コ・パウ監督のセルフドキュメンタリーが訴えるミャンマー軍政の現実と“戦いへの決意”

  • Writer :
  • からさわゆみこ

繰り返される独裁と軍政。
その映画監督は、それでも戦い続ける。

今回ご紹介する映画『夜明けへの道』は、ミャンマーで自由のために戦う市井の人、コ・パウ監督自身を映すドキュメンタリー映画です。

ミャンマーでは半世紀続いた軍事政権が終結した2011年以降、市民に平穏と豊かさが芽生え始めますが、その矢先の2021年2月に勃発したミャンマー国軍によるクーデターは、3年が経った現在も継続中です。

街に出て抗議デモを先導したことで指名手配されたコ・パウ監督は国軍から追われる身に。民主派勢力の支配地域に逃亡し、現在も潜伏生活を続ける中で、自らのリアルな姿を撮影しました。

映画『夜明けへの道』は、2024年4月27日(土)新宿K’sシネマほか順次全国公開。本作の配給収益の一部は支援金とし、コ・パウ監督らを通じてミャンマー支援にあてられます

映画『夜明けへの道』の作品情報


(C)Thaw Win Kyar Phyu Production

【日本公開】
2024年(ミャンマー映画)

【原題】
Rays of Hope

【監督・脚本・撮影・音楽】
コ・パウ

【作品概要】
コ・パウ監督はミャンマーを代表する俳優であり、ミャンマーの映画祭で監督賞を受賞している映画監督でもあります。俳優としては悪役を演じて有名になり、多くの映画やビデオドラマに出演し、制作の方にも意欲を抱くようになり、ビデオ映画や長編映画の監督を務めました。

2021年に勃発したミャンマーの国軍によるクーデターによって、再び軍事政権反対派の市民が反対デモの活動を開始します。その中心者であるコ・パウ監督も指名手配され、追われる身となった監督は自身の逃亡の日々を撮影し、セルフドキュメンタリーとして完成させました。

本作は日本国内で「福岡アジアフィルムフェスティバル2023」にて上映され、支援の声が多数寄せられました。そしてついに、日本での劇場公開が実現しました。

映画『夜明けへの道』のあらすじ

ミャンマーは半世紀にわたる軍事政権下から、2011年に民主化の道を歩み始めます。コ・パウ監督は俳優・監督として、自由なエンターテインメントを謳歌し表現活動をしていました。

2019年には世界中に蔓延したCOVID-19による厳しいロックダウンが発令され、外出もままならない状況へ追い込まれます。それでもエンターテイナーとして生きる監督は、生気を失い沈んだ市民の気持ちを和ませるように、コメディ動画をSNSで拡散する活動をしていました。

2021年2月。民主化へと進むきっかけとなった前年の総選挙に「不正」があったと主張する国軍は政権奪還のクーデターを企て、一夜にして市民の平穏な暮らしを崩壊させます。

国軍は「非常事態宣言」を発令し再び全権を握ると、クーデターに対し抗議デモをする市民を次々と弾圧。非暴力民主運動家のアウンサンスーチー国家顧問などの民主派政権の幹部を拘束します。

パウ監督は抗議デモを先導する中心者だったため、軍から逮捕状が発令されますが、憲兵が拘束に来た時、ちょうど抗議活動に出ていたことで難を逃れました。

指名手配されたパウ監督は仲間の助けを得ながら、家族を残して単独で隠れ家を転々とする逃亡と潜伏の日々が始まります。

そしてCOVID-19への感染など、逃亡生活の中での様々な事件の中で、多難続きの逃亡の先にやるべき使命があると、パウ監督は新たな決心へと至ります……。

映画『夜明けへの道』の感想と解説

(C)Thaw Win Kyar Phyu Production

「ビルマ」と呼ばれていた時代

かつてミャンマーは「ビルマ国」と呼ばれた時代がありました。第二次世界大戦中の「ビルマ戦線」をきっかけに、イギリスの植民地支配から「ビルマ連邦共和国」として独立をしました。

映画『ビルマの竪琴』(1985)はそのビルマ戦線を描き、敗戦した後に戦死した多くの兵士を弔うために、僧侶となってビルマに残った青年の物語です。

共和国として独立後もビルマは他民族ゆえの“民族紛争”が絶えず1962年にはビルマ社会主義計画党のネ・ウィンの独裁政権となります

1988年に独裁政権は崩壊するものの、今度は国軍によるクーデターが勃発し、軍事政権が設立されます。このようにビルマの歴史で人々は、内戦に巻き込まれ自由をはく奪され、組織的な人権侵害を否応なく受けてきました。

非暴力民主化運動の指導者アウンサンスーチーは、アメリカへの留学を経て国連に勤める中で、自身の父親であり「ビルマ独立の父」と呼ばれたアウンサン将軍の歴史研究をします。

1988年、一時帰国したビルマは反政府活動が激化。戒厳令下に反政府デモを敢行した学生が虐殺されるなど、反政府運動は激化しました。アウンサン・スーチーもビルマの民主化を目指し、選挙に出馬する準備を重ね全国遊説を行うも、1989年7月に自宅軟禁されてしまいます。

映画『The Lady アウンサンスーチー ひき裂かれた愛』(2012)では、そんな軍事政権と戦い続ける彼女の半生を描いています。

「ミャンマー」の誕生と懐疑的な時代

2011年には前年のビルマ総選挙で大勝し軍事政権が解散されたのを機に、アウンサンスーチーや収監されていた政治犯は釈放。対外関係も改善されたことで経済制裁も緩和され、豊かな国の一歩を踏み出します。

そして「ビルマ」という国名は消え、「ミャンマー連邦共和国」に改名されました。

しかし平穏な時代も束の間、2021年には再び軍事クーデターが勃発し全権を握った軍により、アウンサンスーチー国家顧問ら民主派政権の幹部は拘束されてしまいます

権力を握った国軍の反対勢力への弾圧が激化しますが、それに伴い民衆側の抗議デモと民主派勢力の攻勢も強まります。

ミャンマー(ビルマ)は「支配と独立」を繰り返してきた歴史があります。2011年に民主国家になったミャンマーですが、民主派にとって軍は懐疑的な存在であったでしょう。

それがあらわになったのが、2021年2月のクーデターだったと言えます。

まとめ

(C)Thaw Win Kyar Phyu Production

映画『夜明けへの道』は、ミャンマーの人々を解放した民主化がいともたやすく崩壊させられる、軍が権力を握る怖ろしさを伝えています

コ・パウ監督は発信力のある人物であり、軍事クーデターに激しく対抗し、反対運動を先導したため指名手配されますが、それを逆手にとってプロジェクトの一環としてドキュメンタリー映画を完成させました。

クーデターから3年が経った2024年現在も、ミャンマーの内戦は続いています。ウクライナやイスラエルの紛争の影になっている、ミャンマーの現状をこの映画を通して、広く伝えられることを願わずにいられません。

コ・パウ監督の歩む道は“民主国家”という未来へ向かっています。映画『夜明けへの道』はミャンマーの市井の人が今も暗闇の中を歩んでいることを知る映画です。

映画『夜明けへの道』は、2024年4月27日(土)新宿K’sシネマほか順次全国公開。本作の配給収益の一部は支援金とし、コ・パウ監督らを通じてミャンマー支援にあてられます



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