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【第6回グリーンイメージ国際環境映像祭2019リポート】アフリカのセネガル作品が最高賞に輝く『黄金の魚 アフリカの魚』

  • Writer :
  • シネマルコヴィッチ

2019年2月22日〜24日(日)まで、東京・日比谷図書文化館にて、第6回グリーンイメージ国際環境映像祭が開催されました。


©︎Cinemarche

世界48の国と地域から応募された映像作品は163作品。その中から2度の審査を通して、グリーンイメージ賞に選ばれた10作品を上映。

今回エントリーされた10作品も、制作された国や地域は広範囲に渡っています。

海外作品はアメリカ、イラン、シンガポール、セネガル、ブラジル、フランス、ロシア。国内作品は京都、宮城県南三陸町、石川県加賀市からの作品が選出されました。

質の高いドキュメンタリーとアニメーション作品が、映像祭の開催期間に上映されました。

本リポートでは映像祭の概要紹介とともに、グリーンイメージ大賞(最高賞)が贈られた『黄金の魚 アフリカの魚』の内容解説と、アフリカの今を考えるトークセッションの様子を中心に報告します。

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グリーンイメージ国際環境映像祭とは

映像を通して地球環境を考える場

グリーンイメージ国際環境映像祭は、毎年開催され2019年で第6回を迎えます。

国内および世界各地で制作された映像作品を募集し、2度の審査を通過して選ばれた作品を入賞作品として、制作者を招き上映するイベントです。

映像作家が製作に至った背景や、その映像から変わりゆく環境の最前線を知ることを目的にしており、様々な地域の課題や取り組みを紹介したり、それらについて対話やセッションの場を設けています。

環境問題に関する対話と言うと、少し難しいと思われがちですが、決してそれだけではありません。

ブラジルのアニメーション作品『ナマズとボール』

環境とは人の生活であり、暮らしそのものであることから、次の世代の担い手である子どもたちに興味を喚起するために、アニメーション作品などの上映も行われています。

第6回の映画祭には、ブラジルとイランから2つのアニメーション作品も選出され、川の魚や森の猿が登場するユニークな作品が上映されました。

グルーンイメージ賞の10作品のテーマ

ロシアのドキュメンタリー作品『流れに抗って』

この映像祭は、世界最大の国際環境映像祭のネットワーク「グリーンフィルムネットワーク」にも参加しています。

世界各地の国際環境映像祭との情報交換と連携によって、世界の優れた環境映像を日本に招いたり、また日本の各地で環境問題に関心のある上映会に優れた作品を広める活動も行なっています。

2019年の映像祭では厳選された10作品の上映が行われ、映像の視点となるテーマも多岐に渡りました。

・エクアドルの熱帯雨林と先住民
・狩猟とコミュニティ
・生きものの現在
・食といのち
・ゴミを出さない生活
・私たちが消費しているモノと生産地
・東日本大震災の津波により被災した小さな漁村
・故郷とダム

このように各作品が現場で起きている今を見つめ、映像に収めています。

またこれらの映像作品の上映に加えて、「狩猟、東北、アフリカ」をテーマとしたトークセッションと、はたらく馬と生きることを考えるトークセッションも映像祭内の会場で行われました。

2019年グリーンイメージ大賞『黄金の魚 アフリカの魚』

プロデューサー兼、監督のトマ・グラン


©︎Cinemarche

映像祭の最終日となる2月24日には、10作品の中からより優れた映像作品に贈られる、グリーンイメージ大賞の発表も行われました。

みごと大賞に輝いたのは、セネガルから応募されたトマ・グランとムサ・ジョップのふたり監督が制作した『黄金の魚 アフリカの魚(原題:Golden Fish, African Fish)』。

この作品は、セネガル南部にあるカザマンスを映像に収めたものです。

作品の舞台である港は、近隣のアフリカ諸国から難民たちが雇用先を求めて集まる場所です。

生活の糧を得ようとする人々は、過酷な労働環境下に耐え、仕事に精を出します。

本作は発展するアフリカの今が凝縮した作品であり、そこで生きる人たちがどうすれば持続可能な社会を形成できるか、観客に問いかけてきます。

それはアフリカだけの問題ではなく、既存のコミュニティが持つ特有の体系をどのように維持するか、利益中心の社会を持続させられるかという疑問です。

ひとつの団体の利益追及のために、水や木々といった自然環境、果ては食糧があるのではなく、その地域に暮らす全体の利益のために、それらがある。それこそが、“共に生きる環境”といえるでしょう。

『黄金の魚 アフリカの魚』のあらすじ

西アフリカのサハラ砂漠西南端に位置するセネガル共和国。

デルタ地帯である、カザマンス一帯に広がる海洋地域は、“アフリカ諸国の食と職を支える”豊かな漁場です。

国境に面した北東にモーリタニア、東にマリ、南東にギニア、南にギニアビサウなど多くの国々から、漁師、魚の運び屋、燻製加工などに従事する移民労働者が集まってきます。

その様子はまるで一攫千金のゴールドラッシュのように賑わっています。“黄金の魚”であるアジやイワシは燻製に加工され、アフリカ諸国の庶民の食として支えていました。

しかし活気を見せていたこの場所で、その魚を魚粉にして牛や豚の家畜の餌に変えるという動きが出てきました。

しかも家畜は主に先進国の輸出品になる。地域に暮らす人々の食糧が、先進国に輸出される家畜の餌として供給される。

魚粉工場が建つと噂が流れると、賑わっていた出稼ぎの移民たちに大きな不安が立ち込めてしまい…。

『黄金の魚 アフリカの魚』の感想と評価

トークセッションで思いを語るトマ・グラン監督


©︎Cinemarche

2018年にトマ・グランとムサ・ジョップの両監督が制作した『黄金の魚 アフリカの魚』は、60分とコンパクトにまとめられた作品です。

セネガルに集まる近隣諸国のアフリカ人たちを詩情的に見つめています。

映画冒頭の漁師たちの勢いよく魚網を引きあげ、働く勇ましさに目を奪われます。

彼らは肉体を躍動させながら、労働歌を唄い士気を高め、呼吸を合わせていきます。

その歌詞に込められた言葉は、伝統的な漁師の唄ではありません。

漁師になった若者たちが、自己の漁師の誇りや自身を奮起させる強いメッセージ性を含み、とても魅力的です。

漁師の姿、労働歌、そして漁師たちの足元に溢れかえる大漁の黄金の魚に、観客は言葉を失います。

最近の映画ではあまり見ることが無くなった、画から溢れ出る身体的行為がもたらす躍動感に圧倒されてしまい、営みの活気に品格すら感じるようになります。

漁船が浜に戻ると、今度は大きなプラスチックケースを頭に乗せた荷運び人の男たちが、打ち寄せる大波にもまれながら、魚を運び出す過酷な作業過程が映し出されます。

荷運びをする男たちの働く姿は、駅伝やトライアスロンの選手以上の運動量に匹敵するものです。

セネガルに出稼ぎで集まった彼らは、1ケース約70円ほどの低賃金で、1日8〜15箱を海から浜の燻製場まで運搬します。

波間に揺れる漁船から漁師によって大きなケースに魚が分配されたものを、荷運びの男たちは、女たちが働く浜の燻製場まで何度も往復するのです。

その光景は、イラン出身の映画監督アミール・ナデリの『駆ける少年』に登場した少年たちのようにも見えました。

豪華客船から投げ捨てられ、海に浮かぶ空き瓶を争いながら拾い集めていたシークエンスを彷彿させられます。

しかし、本作『黄金の魚 アフリカの魚』に映し出されたのは、幼い少年たちではありません。

自国では働き口がなくセネガルに来た青年たちであり、中には大学に入学して政治学を修士したような人もいました。

このドキュメンタリー作品には、大学は出たけれど職のない荷運び屋、女性として自立し20人もの同郷の女性を雇用をする燻製場を経営者、また燻製場の職人で健康を害しながら働く者、さらに環境について強く語りかける庭師など、雄弁な証言者がインタビューに収められているのも見どころになっています。

アフリカの現状や人生観を語る彼らの声にも、ぜひ注目してください。

本作を通して、セネガルに出稼ぎにやって来たアフリカ人たちの熱量を感じた後に、観客は言葉にはできない心の喪失感を突き付けられるでしょう。

働くとは何か、既存のコミュニティとは何か、そして多様な人々が生きている権利とは何か。その問い国や地域を問わずメッセージを持ったもので必見です。

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2019年に行われた映像祭のトークセッション

日本のドキュメンタリー作品『けもの道 京都いのちの森』

映像祭で行われた4つのトークセッションは、次のようなゲストを招いて行われました。

会場に集まった環境問題に関心のある観客は、今、起きている環境の課題を映像から知り、さらに掘り下げて映像作家や当事者、また各分野に詳しい専門家のからも聴くことができたようです。

猟の世界に踏み入れる 今なぜ狩猟なのか?】の登壇ゲスト

今井友樹監督(『坂網猟-人と自然の付き合い方を考える』)
川原愛子監督(『けもの道 京都いのちの森』)
千松信也(猟師)
竹山史朗(株式会社モンベル常務取締役・広報部本部長)

東北を語る-記録を続けて伝えたいこと】の登壇ゲスト


©︎Cinemarche

我妻和樹監督(『願いと揺らぎ』)
山田徹監督(『新地町の漁師たち』)

「2050年」のアフリカを語る】の登壇ゲスト


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紀谷昌彦(外務省 中東アフリカ局アフリカ部国際協力局参事官アフリカ開発会議(TICAD)担当大使)
小松原茂樹(国連開発計画(UNDP)アフリカ局 TICAD プログラムアドバイザー)
若林基治(独立行政法人国際協力機構アフリカ部次長)
清水貴夫(京都精華大学アフリカ・アジア現代文化研究センター設立準備室研究コーディネーター・総合地球環境学研究所・文化人類学者)
合田真(日本植物燃料 代表取締役)

特別プログラム【在来馬等の里山での育成を考える はたらく馬と生きる人たち-現代社会で馬と人がつくる暮らし・仕事】の登壇ゲスト

岩間敬(馬搬振興会 代表理事・馬方)
中川剛(木曽馬保存会)
塚田直子(馬搬・馬耕研修生)
松山久(公益財団法人松山記念館 理事長)

トークセッションに訪れた来場者の多くは、この場でしか聴くことができない貴重なエピソードに耳を傾けていました。

即時的な問題解決を行うのではなく、まずは環境の変化に視線を向けて、それらを認識するところから始める。

世界と日本各地から応募され、今回選ばれて映像祭で上映された作品の視点。その“映像のまなざし”を通して、地域それぞれが抱える多様性や課題を知るとともに考え続けることに意味があるのかもしれません。

地球の環境の今を目撃した映像作家と専門家たちが語り合うという、有意義なトークセッションの3日間でした。

まとめ


©︎Cinemarche

トマ・グラン監督は映画『黄金の魚 アフリカの魚』で、本映像祭で最高賞であるグリーンイメージ大賞を受賞しました。

フランス人であるトマ監督は、今はセネガル共和国に住んでいます。

映像祭内のトークセッション【「2050年」のアフリカを語る】に参加したトマ監督は各有識者を前にして、アフリカに住むひとりの市民の意見であると前置きしたうえで、「アフリカにはいろいろな価値があって変化している、とても魅力的な大陸だと思っています。いろんな人を魅了するアフリカであって欲しい」と述べました。

トークの司会者から、2050年のアフリカについて尋ねられたトマ監督は、「協力をしていくことが大切である」と言い、新たにアフリカの経済交流として北と西の繋がりが活発になっていることを例に挙げ、このような“協力がもっと良い条件”になるようであって欲しいと話しました。

それはトマ監督の作品『黄金の魚 アフリカの魚』の映画中盤に描かれていた、カザマンスという地域で難民たちが溢れかえった、多様なコミュニティをつぶさに見つめる中で育まれた言葉でしょう。

各国のアフリカ人の生き生きしていた姿は、国や地域を問わず人間としての多様性と、民族が混血のように混ざった状態を願い、課題に立ち向かって行く、“協力という祈りではないか”と感じました。

トマ監督の受賞をお祝いに駐日セルガル大使館の一等書記官の方が駆けつけてくれました


©︎Cinemarche

映画『黄金の魚 アフリカの魚』は、単に環境問題を描いた作品として評価をするだけでなく、かつてフランス人が植民地としていたセネガルに住むトマ監督の心境にも興味はつきません。

また誰しもが知るフランス人作家『星の王子様』の原作者サン・テグジュペリも飛行士として、セネガルのダカールからトゥールーズを飛んだことがあります。

トマ・グラン監督が“協力”という言葉で述べた結ぼうとしたものは何なのか。日本人である私たちも少し考えて行く必要があるかもしれません。

グリーンイメージ国際環境映像祭 公式HP

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