働いても働いても裕福になれない!?
現代の資本主義に潜む闇とは。
フランスの経済学者トマ・ピケティの著書「21世紀の資本」を映像化した社会派ドキュメンタリー映画。
「21世紀の資本」は、35カ国で翻訳され、経済学書としては異例の300万部という売り上げを記録しています。日本でも2014年に発売されブームとなりました。
映画化では700ページを超える本書の内容をぎゅっと凝縮。資本の観点から過去300年の世界の歴史を時系列に並べ、当時の資料映像を挟みながら、著書のピケティをはじめ、様々な専門家が分かり易く解説してくれます。
世の中に渦巻く格差社会への不満や政治不信。現代の資本主義の実態がわかる『21世紀の資本』を紹介します。
映画『21世紀の資本』の作品情報
【日本公開】
2020年(フランス・ニュージーランド合作映画)
【原作・監修】
トマ・ピケティ
【監督】
ジャスティン・ペンバートン
【キャスト】
トマ・ピケティ、ジョセフ・E・スティグリッツ
【作品概要】
世界中で翻訳されベストセラーを記録、日本でも13万部売り上げた経済学書、トマ・ピケティ著『21世紀の資本』が映像化されました。
フランスの経済学者であるトマ・ピケティは、パリの経済学校教授であり、2002年にはフランス最優秀若手経済学者賞を受賞しています。
今作『21世紀の資本』の映像化にあたり、著者ピケティが自ら監修をし出演も果たします。誰もが理解出来るように、難しい数式などは使用せず映画や小説、ポップカルチャーを取り入れ映像で表現しました。
軽快な映画音楽は、フランスのエレクトロポップデュオ『エール』のジャン=ブノワ・ダンケルが担当しています。
映画『21世紀の資本』のあらすじとネタバレ
1961年、ドイツのベルリンに突如、東西を隔てる壁が建てられました。米英仏の統治する資本主義の西ドイツと、ソ連が統治する社会主義の東ドイツに分けられたドイツ。
途端に、国家が経済を管理する社会主義国になった東ドイツの人々は戸惑い、西ドイツに逃げようとします。当時は、自由競争で個人や企業が利益を追求できる資本主義が指示されていたからです。
ベルリンの壁が崩壊する1989年までの間、多くの市民が逃亡の際、命を落としてきました。
フランスに住む『21世紀の資本』の著者トマ・ピケティも、ベルリンの壁の崩壊で受けた衝撃は忘れられないと言います。
そして現代、資本主義国では格差問題が深刻化しています。ピケティは宣言します。「18世紀から19世紀にかけて起こった凄まじい格差社会が、今まさに復活しているのだ」と。
そもそも資本の歴史とはいったいどのようなものなのでしょうか。
18世紀のヨーロッパでは、一部の貴族が資本を蓄え国を支配していました。出世も結婚もお金次第。金貸しで資金を増やし、土地を買い占め、資本と権力は代々相続されました。
映画『プライドと偏見』(2005)に見られるように、18世紀のイギリスでは女性に相続権はなく、豊かな財政の男と結婚するのが幸せとされていました。身分の差が問われる時代です。
19世紀初めのパリでは、ブルジョア層と民衆の貧富の差が大きく、絶対王政に苦しむ民衆が平等と自由を求め革命が続きます。その時代を描き出した映画には『レ・ミゼラブル』(2012)が挙げられます。
イギリスでは、18世紀中頃から産業改革が進みます。産業改革は資本主義生産様式を確立させますが、労働者は無権利で保証がなく、やはり格差を生み出します。労働者の地位向上を求めストライキが頻発します。
格差社会を逃れようと多くの難民がオーストラリアやカナダへと向かいました。しかし、待っていたのは、植民地における奴隷制度、広大な土地を所有する金持ちの支配でした。
鉄道、大量生産、鉱山資源など、世界中に広がる産業革命は、1914年とうとう世界大戦を引き起こします。第一次世界大戦は、愛国心を煽った資本の取り合いの戦争でした。
戦いに勝ったアメリカは、一攫千金を狙った成金たちが裕福層にのし上がります。酒の密輸に株の売買、銀行マンの悪徳取引。映画『華麗なるギャッツビー』(2013)状態です。
資本の肥やし期、バブルは一気にはじけます。1930年前後、アメリカニューヨークを皮切りに起こった世界恐慌。ウォール街の株価大暴落、金融崩壊、貿易戦争による倒産、失業が襲い掛かります。
映画『怒りの葡萄』(1940)に見られるような、農業不況の折、機械化で儲けようとする資本家たちが、貧困農民層を立ち退かせるという横暴ぶりも、自国の経済を衰退させていきました。
大規模なインフラ政策に乗り出したのが、1931年大統領に就任したルーズベルトです。地域開発に力を入れ、雇用と経済成長を促しました。
世界恐慌は資本主義国の経済に大きな打撃を与えました。植民地を持つ大国イギリス、フランスはブロック経済を、日本など植民地を持たない国は新たな資源を求め侵略行為に走りました。
時を同じくしてドイツでは、第一次世界大戦の敗北により多額の戦争賠償を支払わされ、貧困に陥いっていました。
ハイパーインフレと呼ばれる状態は、樽一杯に紙幣を詰めてもパン一斤すら買えませんでした。
1933年、アドルフ・ヒトラーが首相へ就任。ナチズムにより国民のあらゆる活動を統治し、義務付けることで結束をはかりました。
「ドイツ国民よ立ち上がれ」。そのファシズムは、1939年、世界を巻き込む第二次世界大戦の火種となりました。
映画『21世紀の資本』の感想と評価
資本主義とは、労働力に応じて報酬を得られ、自由に経済活動を行える社会です。世界的には、18世紀後半から19世紀半ばに起こった産業革命以降に、資本主義が広がりました。
資本主義は、貴族など一部の金持ちがはびこっていた格差社会から、自由な経済活動で中産階級が出現することで、所得格差が縮まり所得分布が平等な社会になるとされていました。
しかし、現代の社会はどうでしょうか。貴族の世だったように資本が一部のエリートに集中し、見事な格差社会が誕生しています。
これまで、「資本主義は所得格差を生む」と大体的に宣言したものはありませんでした。「21世紀の資本」の著者ピケティは、200年以上にもわたる資本の歴史を紐解き、粘り強く統計を取りこの結論に至ったのです。
映画の予告でピケティは言います。「21世紀は恐ろしい時代に突入する。それは、歴史が証明している」と。
ところで、この映画の中で大変興味深い実験結果が紹介されています。カリフォルニア大学の心理学教授が行った、人生ゲームを使った実験です。
金持ち役と一般市民役にわかれ、人生ゲームをスタートさせます。金持ち役は、最初からサイコロを2個振ることができます。サイコロを振れば振るほど、人生に差が出来ていきます。
金持ち役は、たまたまスタート時点からサイコロを2個持っていただけなのに、ゲームに勝ったのは自分の実力であるかのように傲慢な態度をみせます。自分は他人より優秀であると勘違いしているようでした。これはとても怖い心理です。
資産を持てば持つほど、他人のために平等に分けるという行為には至らず、さらに資産を増やそうとしてしまいます。
さらにピケティは、一部の政治家がこの格差拡大の状況を悪用していると指摘します。そして、タックスヘイブンなどで税金を支払わない多国籍企業や、裕福層への課税を提唱しています。
日本の資本主義は、明治維新以降とされています。日本では「一億総中流」という言葉が盛んに使用されたように、他国に比べると貧富の差を抑え、社会保障等で貧困を減らしてきたように見えます。
しかし、日本も他人事ではないのです。高齢化や地域格差、ひとり親世帯の所得差、教育格差、情報格差と、貧困層の拡大が問題となっています。
ジャーナリストの池上彰氏も、本作に寄せたコメントの中で「まずは、映画で現実を直視しよう」と言っています。
この問題は、個人の力ではどうにも出来ないものであり、社会全体で取り組まなければならない大きな問題です。
そのためにも、まずは21世紀の資本の仕組みについて、世界の格差について知ることが大切です。
そして、自分の置かれている立場で出来る事を考えていく必要があるのです。まずは、国の政策を任せられるトップを選びましょう。
まとめ
今世紀最大のベストセラー経済書『21世紀の資本』。著者のトマ・ピケティが自ら解説で登場し、本の内容を映像化した『21世紀の資本』を紹介しました。
ピケティが実証した資本主義社会の諸問題を、世界中の著名な経済学者や歴史家、評論家の証言を加え、映像化しています。
21世紀は、急速に進化し続けるIT社会の中で、ますます格差が広がると警報を鳴らします。
私たちは、21世紀をどう生きるべきか。もう「知らない」では済まされない時代に突入しているのです。