あなたもスオミの虜に。
語りたくなる女、スオミとは?
日本映画界の喜劇王、三谷幸喜。5年振りの監督・脚本作品『スオミの話をしよう』。長澤まさみを主演に迎え、豪華キャストで贈るミステリー・コメディ。
売れっ子詩人・寒川の妻スオミが行方不明に。事件を表ざたにしたくない寒川は、スミオの元夫で刑事の草野を招き、事件解決を依頼します。
草野は事件を誘拐と判断。部下の小磯と共に犯人からの連絡を待ちますが、何処からか事件を知った男たちが次々と寒川の豪邸にやってきます。
集まったのは、スオミの元夫たち。その数、5人。彼らは、「自分が一番スオミを理解している」と、スオミについて語り出しますが、男達の口から語られるスオミは、どれも別人のようでした。
スオミは一体、何者なのか。そして、どこへ消えたのか。映画『スオミの話をしよう』を紹介します。
映画『スオミの話をしよう』の作品情報
【公開】
2024年(日本映画)
【監督・脚本】
三谷幸喜
【キャスト】
長澤まさみ、西島秀俊、松坂桃李、瀬戸康史、遠藤憲一、小林隆、坂東彌十郎、戸塚純貴、阿南健治、梶原善、宮澤エマ
【作品概要】
『記憶にございません!』(2019年)以来5年振りとなる、三谷幸喜による監督・脚本作品。
主演には、これまで三谷幸喜の脚本ドラマ出演や、舞台での共演はあるものの、三谷映画には初出演となる長澤まさみ。魅力的で謎めいた女・スオミ役にぴったりです。
そんなスオミを取り巻く5人の元夫たちを演じるのは、西島秀俊、坂東彌十郎、松坂桃李、遠藤憲一、小林隆と、個性豊かな豪華キャストが集結。
作品は、スオミの名前にちなんだ、フィンランドにて「ヘルシンキ国際映画祭特別招待作品」にも選出されました。
映画『スオミの話をしよう』のあらすじとネタバレ
「あはははは」。どこからか、女の高笑いが聞こえた気がします・・・。刑事の草野圭吾は、部下の小磯杜夫と共に、有名詩人・寒川しずおの豪邸に来ていました。
寒川の妻・スミオが、昨日の朝から行方不明になったと連絡が入ったからです。あまり騒ぎ立てたくない寒川は、スオミの元夫・草野に穏便に済ますよう依頼したのでした。
「すぐ帰ってくる」と自分勝手な寒川に対し、「誘拐に違いない」と神経質に犯人からの連絡を待つ草野。
草野は、寒川とスオミの結婚生活について調べるうちに、自分が知っているスオミではないことに違和感を感じます。
スオミは、自分では何も決められない、運転も料理もできない、大人しく不器用な女でした。それが、どうでしょう。
寒川との生活では、毎朝子どもの弁当を作り、手の込んだ料理を得意とし、車の運転も上手な活動的で器用な女のようです。
「自分の方がスオミを理解している」とイライラしだす草野。「メンタルふくざつ~」と、部下の小磯も興味深々です。
そんな中、もう一人スオミを心配する人物がいました。使用人の庭師・魚山大吉です。名前を聞いて草野はピンときます。「あなたは、スオミの最初の夫・魚山さんですね」。
スオミの高校の体育教師だった魚山は、職を失い困っていたところを、スオミの口利きで寒川家の使用人として働いていました。
魚山いわく、スオミは人に合わせるのが得意なタイプで、自分には時に厳しく時に優しいツンデレタイプだったといいます。料理を作っていたのは、魚山でした。
そこに、草野の上司・宇賀神守がやってきます。「スオミのことで知らない事はない」と意気込む宇賀もまた、スオミの元夫です。
草野から、スオミの最初の夫である魚山を紹介された宇賀は、「自分が1番目だと思っていた」と落ち込みます。
さらに、宇野は3番目の夫で、宇賀が知っているスオミは中国人だったといいます。言葉が通じず、国に帰ったと思っていたのに、部下の草野と結婚し悔しかったと。
もはや、それぞれのスオミは、本当に同一人物なのでしょうか。
緊張感も薄まりつつある時、屋敷の電話が鳴り響きます。逆探知機というのも名ばかりの録音機材をスタンバイした草野は、寒川に電話に出るよう指示します。
それは犯人からの強迫電話でした。要求は3憶円。今の夫の寒川に皆の視線が集まります。
しかし、寒川は3億円出すのを渋ります。金額は用意できるものの、儲かっているイメージが詩人には合わないという理由でした。
呆れて、警察に通報するという草野を制し、寒川は提案します。「2億5千までは出す。あとの5千万は、お前たちで出せ。皆のスオミだろ」。3人の男たちの合計金額は微々たるものです。
困り果てた男たちの前に、あの男がやってきます。これまで「自分が一番、スオミを理解し、頼りにされていた」と、どこか優越感に浸っていた草野を脅かす男。それは、2番目の夫・十勝左衛門でした。
映画『スオミの話をしよう』の感想と評価
スオミという女をめぐり、5人の男達が滑稽にも振り回されるコメディ映画『スオミの話をしよう』。三谷ワールド全開の極上喜劇となっています。
相手が望む理想の女に変貌するスオミ。男たちを騙そうとしている訳でもなく、それが性格なのだから仕方がない。
元教え子に手を出した魚山、マルチ商法まがいのユーチューバー十勝、台湾の妻に憧れる宇賀、不器用な女を世話したい草野、自分にしか興味のない寒川。
それぞれの夫に合わせて、ツンデレ、屈強、不器用、外国人にもなれるスオミ。妻に興味がない寒川の相手は一番ラクでしたが、やっぱり最後は疲れちゃう。
5人の元夫たちは、それぞれが作り上げたスオミを愛していました。そして、スオミにも愛されていたと確信を持ちたいのです。
それゆえに、自分の知らないスオミがいることに戸惑い嫉妬し、自分だけのスオミであって欲しいと願います。逃げられてもどこか憎めない。男たちはみな、スオミの虜でした。
「自分が一番スオミのことを知っている」と、得意げに話す男達の姿が滑稽に見えてきます。
次から次へと元夫が登場し、スオミについて語るうちに、観客は「スオミとは、一体どんな魅力的な女性なんだ」と気になりだします。
そんな観客の気持ちを代弁してくれるのが、草野の部下・小磯です。自分の知らないスオミの話にテンションが下がっていく草野に、「メンタルふくざつ~」と声をかけたり、どんどん登場する元夫にワクワクしたり、スオミに会えるチャンスを逃して悔しがったり、そんな小磯に感情移入してしまいます。
ラストには、「これからは人に頼らず生きて行きます」と晴れ晴れしい笑顔で言い放つスオミ。正直、「無理だろ」と突っ込んでしまいましたが、それすら魅力に見えてしまうから、自分もスオミの虜になったのかもかもしれません。
物語は、豪邸を舞台に登場人物が増えていき、元夫たちがスオミの話をしていく展開となっていますが、ほとんどが長回しのシーンとなっています。
役者が台詞を言いながら立ち回り、細かい仕草同士が絡み合い、周りの演者も自然と写り込む、ノンストップな演出は、まるで舞台を見ているような感覚です。
元夫たちを演じた、西島秀俊、坂東彌十郎、松坂桃李、遠藤憲一、小林隆の5人の絡みは、さすが舞台もこなす実力派俳優と魅入ってしまいました。
また、脇を固める草野の部下・小磯役の瀬戸康史、寒川の世話係・乙骨役の戸塚純貴の小回り上手な演技が見事、三谷喜劇にハマっていて笑いを誘います。
そして何と言っても、この作品はスオミがスオミでないと成立しない作品です。型にはまらない魅力的な女性でありながら、憎めない茶目っ気のある女優。
スオミが長澤まさみなのか、長澤まさみがスオミなのか。長澤まさみの魅力が存分に味わえる長澤まさみ映画と言っても過言ではありません。
さらに、スオミの友達・薊を演じた宮澤エマの七変化も、くすっと笑えて可愛らしいです。今作は、ころころ変わる女性の軽やかな一面を具体化した作品かもしれません。
そんな豪華キャストがエンドロールで見せるのは、ヘルシンキを歌ったミュージカルです。これがまたしっかりとした舞台で、笑ってしまいます。
スオミの名は「フィンランド」そのものを意味しています。亡くなった父親が最も愛した国、フィンランド。スオミのヘルシンキへの愛が歌われています。
スオミが誰よりも何よりも愛したもの。それはヘルシンキでした。
後に、今作は「ヘルシンキ国際映画祭特別招待作品」となり、三谷幸喜監督が作中に登場するフィンランドの名所を巡るという、素敵なオチがつきました。
まとめ
5人の夫に愛された女、スオミとは一体何者なのか。三谷幸喜監督作品『スオミの話をしよう』を紹介しました。
まさにタイトル通り!スオミについて話したい男たち。そして、スオミを知るうちに、いつしか自分もスオミの虜になっているはず。
相手に自分の好みを押し付けようとする人、反対に相手に自分を合わせてしまう人。誰もが少なからず持っている願望が、思わぬ事件を引き起こします。
三谷ワールド全開の笑って泣かない、ほんわか心あたたまる喜劇作品。鑑賞後は、ヘルシンキに行きたくなること間違いなしです。