「誰が始末すんのかな?」。
巨大怪獣が死んだ。あとしまつはどうするの?
突然死んだ巨大怪獣のあとしまつを題材に、三木聡監督のオリジナル脚本で映画化された空想特撮エンターテイメント『大怪獣のあとしまつ』。
人類を恐怖に陥れた巨大怪獣の突然の死に国民は歓喜するも、残された死体は腐敗し膨張し続けていました。怪獣の死因も分からないまま、日本政府はゴミ処理問題に頭を悩ませます。
この巨大怪獣の死体処理を任されたのは、帯刀アラタ(山田涼介)が所属する特務隊員たちでした。国民の安全を守りながら、この大怪獣をどうするべきか。アラタたちの戦いが始まります。
全力本気のおふざけ特撮エンターテイメント『大怪獣のあとしまつ』を紹介します。
映画『大怪獣のあとしまつ』の作品情報
【公開】
2022年(日本映画)
【監督】
三木聡
【キャスト】
山田涼介、土屋太鳳、濱田岳、眞島秀和、ふせえり、六角精児、矢柴俊博、有薗芳記、SUMIRE、笠兼三、MEGUMI、岩松了、田中要次、銀粉蝶、嶋田久作、笹野高史、菊地凛子、二階堂ふみ、染谷将太、松重豊、オダギリジョー、西田敏行
【作品概要】
ドラマ「時効警察」シリーズ、『亀は意外と早く泳ぐ』(2005)『図鑑に載ってない虫』(2007)などコミカルな人間ドラマを得意とする三木聡監督が、巨大怪獣の死体処理を題材に描いた特撮作品『大怪獣のあとしまつ』。
主人公の特務隊・アラタ役に「Hey! Say! JUMP」の山田涼介を迎え、元恋人のヒロイン役に土屋太鳳、元同僚に濱田岳、総理大臣役に西田敏行が登場。
また、オダギリジョーをはじめ、ふせえり、岩松了など三木組常連の俳優たちが集結しました。テンポ良い台詞の掛け合いに三木ワールド炸裂です。
大怪獣の造形には、「平成ゴジラ」シリーズや、「ウルトラマン」シリーズを手掛けてきた若狭新一が担当。さらに、特撮監督として「仮面ライダー」シリーズの沸田洋、VFXプロデューサーに『男たちの大和/YAMATO』(2005)など邦画CG製作の野口光一が務め、特撮映画のプロフェッショナルがタッグを組みました。
映画『大怪獣のあとしまつ』のあらすじとネタバレ
突然の眩い光に覆われ、巨大怪獣は倒れました。最全長380m(東京ドームの長径の約1.5倍)、倒れた状態での全高155m(通天閣の1.5倍)です。
これまで巨大怪獣との戦いのため招集されていた若者兵たちも帰還し、人類に平和な日々が戻ったかのようでした。
怪獣討伐のため結成された首相直轄組織・特務隊の隊員である帯刀アラタは、再び基地に呼び戻されます。アラタが命じられたのは、倒れた巨大怪獣の死体処理でした。
巨大怪獣は確かに死んだものの、腐敗による体温上昇で徐々に膨張し、このままではガス爆発を起こしてしまう恐れがあります。
政府官邸では、総理をはじめ官房長官、環境大臣、国防大臣ら各代表が顔を合わせ話し合うも、死体処理の押し付け合いで一行に解決策は得られません。
「もう、誰が始末すんの?」。イラつく総理に、総理秘書官の雨音正彦が提案します。「特務にさせましょう」。元特務隊員でもある正彦は、この仕事を最後に特務を解散させようと企んでいました。
環境大臣の蓮佛はイメージアップを図るために、いち早く現場に駆け付けます。秘書の雨音ユキノも同行します。
現場でアラタに再会したユキノ。ユキノもまた元特務隊員であり、3年前までアラタの恋人でした。ある事件をきっかけに別れ、いまでは正彦と結婚しています。
ユキノの過去を知る蓮佛は、特務から情報を集めるようにユキノに命令します。ユキノは、死んだ巨大怪獣に細菌や放射能の洩れはないというデータを入手。
環境大臣の蓮佛は巨大怪獣の死体の上からTV中継を行い、国民に危険性がないことを体を張って主張します。
これにより外国の政府も態度を一変。怪獣の死体の所有権争いが勃発。日本政府は、巨大怪獣に「希望」という名をつけ、観光地や環境資源としての利用も視野に入れ始めます。
この間にも怪獣「希望」の乙腐敗隆起は膨れ上がっています。手を焼く特務の前に、国防軍の真砂大佐が乗り込んで来ます。「今後、指揮は国防軍にあります」。
国防軍は冷却作戦にでました。失敗は目に見えていましたが、アラタたち特務は補佐にまわります。案の定、「希望」の膨れ上がった乙腐敗隆起は盛大に爆発。膿のような液体が降り注ぎます。
「臭っ!」。現場は強烈な匂いに包まれます。ウンコのようなゲロのような異臭でした。政府は国民に「ウンコ」か「ゲロ」かどちらの匂いなのか正確に伝えなければと揉めます。結果、総理が発表したのは「ぎんなん」の匂いでした。
河川に横たわる「希望」を、もやは汚物扱いです。ならばとユキノが思いついた作戦は、上流のダムを崩壊し、大量の水で「希望」を海まで流そうという、水洗トイレ作戦でした。
しかし、ダムの爆発には相当の技術が必要です。アラタはユキノの兄で元特務隊員・青島、通称ブルースに爆破を依頼します。
ブルースは、度重なる避難勧告で家に帰れない国民の苦しみを目の当たりにし、作戦への協力を決意。正彦も政府関係者からダムの断面図を入手します。
こうして、特務のメンバーが再集結となりました。再び、力を合わせ大怪獣のあとしまつに乗り出します。
映画『大怪獣のあとしまつ』の感想と評価
ウルトラマンや仮面ライダー、ゴジラと大怪獣は暴れまくりヒーローに倒されるのがお決まりですが、そのあとはどうなるの? そんな疑問に答えるべく製作された映画『大怪獣のあとしまつ』。
おふざけが過ぎるようでいて、なかなかの的を得たシリアスな展開を見せる本作。むしろ、怪獣を倒すより、あとしまつの方が大変なのでは?
倒れた怪獣の大きさは、渋谷のハチ公象から渋谷パルコまで(徒歩5分)というから大迫力です。
ゴジラのようでいて、ちょっと間抜け顔。手足が短く、背中にはキノコのような突起。それ何足?という足を天にかざし横転しています。
死体から発生するガスは、強烈な異臭を放ち、浴びた者は体にある変化が起こってしまいます。
「ヒーローは倒した後の後始末のことも考えてるのかしら」。「大怪獣の後始末って大変だよね」と同感しちゃいます。
自分たちのイメージアップのために、国民をなだめようと必死な政府の閣僚たち。彼らの的外れな政策に振り回される現場の隊員たち。何も知らされず、不安で家にも帰れない国民。今の日本の情勢を思い浮かべてしまいます。
政府の閣僚たちが集まり、怪獣は燃えるゴミ対応、動物の死体は保健所まかせと紆余曲折しながらも、倒れた大怪獣に今後の生物学史上に残る貴重な環境資源として「希望」と名付け、吹き出した異臭を「ウンコ」か「ゲロ」かどっちだと議論するあたりで、馬鹿馬鹿しさマックス。
突然殺されて、終始邪魔者扱いなうえに、散々な扱いの大怪獣「希望」。名前が付くと、その横転する姿にも哀愁が漂うかのようです。
特撮世代には堪らない「あるある」に、散りばめられた小ネタの数々、個性派俳優たちのコミカル演技に笑いが止まりません。
さらに「デウス・エクス・マキナ」の落ちに、爽快感さえ味わってしまうから、これぞ三木ワールド。
「デウス・エクス・マキナ」とは、ラテン語で「機械仕掛けから出てくる神」の意味があり、演劇などで解決困難な局面になったとき、絶対的な神が現れ解決に導くという、物語の収束方法のひとつということです。
そんな一種の反則業とも言える落ちを繰り出し、あっけなく解決する問題に、「考えても仕方ないこともある」と達観さえ感じます。
また映画の見どころに、俳優陣たちの演技があげられます。主人公のアラタを演じた山田涼介のヒーローにふさわしいカリスマ性。戦闘服を着こなす姿にため息がこぼれます。
そして、ユキノ役の土屋太鳳の見事なヒロイン役。綺麗なだけでなくしたたかさを持ち合わせた、今までにない大人の色気をまとった演技を見せてくれます。
ここで見せなくてもというほどの無駄な名演技の数々に、やっぱりニヤニヤが止まりません。
まとめ
大手映画配給会社「松竹」と「東映」が史上初のタッグを組み、日本が誇る特撮映画のプロたちが作り上げた、異色特撮エンターテイメント映画『大怪獣のあとしまつ』を紹介しました。
何事にも後始末はつきもの。それは耐え難い困難を伴うこともあるでしょう。
しかし、最後まで「希望」を捨てず、懸命に取り組むことが大切です。