50代半ばで仕事と妻を捨て、理想の人生をおくるはずだった誤算とは?
Netflix映画『コネチカットにさよならを』は、早期退職し仕事や、離婚後の妻や子供とのしがらみから逃れ、悠悠自適な生活をおくるはずだったイタイ中年男の物語。
主演に『ダークナイト ライジング』や『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』で、陰湿な悪役のイメージが強いオーストラリア人俳優のベン・メンデルソーン。
自尊心だけで無計画な独身生活を選び、先の読めない情けない中年男を演じたNetflix制作のコメディ映画『コネチカットにさよならを』を紹介します。
映画『コネチカットにさよならを』の作品情報
【公開】
2018年(アメリカ映画)
【原作】
テッド・トンプソン作『The Land of Steady Habits』
【原題】
The Land of Steady Habits
【監督/脚本】
ニコール・ホロフセナー
【キャスト】
ベン・メンデルソーン、イーディ・ファルコ、トーマス・マン、エリザベス・マーヴェル、 マイケル・ガストン、チャーリー・ターハン、ビル・キャン
【作品概要】
『コネチカットにさよならを』の監督は人気テレビシリーズ「SEX AND THE CITY」の演出や、『ある女流作家の罪と罰』(2018)の脚本をてがけたニコール・ホロフセナーです。本作は2018年第43回トロント国際映画祭でプレミア上映されたのち、Netflixオリジナル映画として配信されています。
アンドレス役のベン・メンデルソーンは、映画『君といた丘』(1987)の非行少年役でオーストラリア映画協会賞の助演男優賞を受賞したオーストラリアの俳優です。『ダークナイト ライジング』(2012)で、本格的にハリウッド映画の出演を開始しました。
また、アンドレスの元妻役はテレビドラマ『ザ・ソプラノズ 哀愁のマフィア』(1999)で3度エミー賞を受賞しているイーディ・ファルコです。
映画『コネチカットにさよならを』のあらすじとネタバレ
アンドレスは長年勤めた金融会社を早期退職し、煩わしく感じた妻とも離婚し、主婦の多い時間帯のショッピングモールで日用品を買い込み、気ままで自由な独身ライフを始めています。
ショッピングモールで声をかけた主婦と昼間の情事に興じたあと家に帰ると、家族ぐるみでつきあっていた、アシュフォード家からクリスマスパーティーの招待状が届いていました。
一方、元妻のヘレーンは教育支援学校を経営しています。息子のプレストンは麻薬の更生施設を出所し、母親の学校で臨時講師をしていました。
アンドレスは離婚後も元家族のいる街に家を借りて住んでいるのです。
そして、何もすることがなく時間を持て余しているアンドレスは、毎年恒例になっているアシュフォード家のパーティーに出向きます。
そこでヘレーンと久しぶりに再会しますが、彼女は怪訝そうな顔をします。アシュフォード・ソフィーが招待リストからアンドレスの名前を消し忘れたからでした。
ヘレーンは「来るべきじゃない時に限ってあらわれるんだから」と、ぼやきます。
アンドレスはパーティー会場でも居場所がなく、親しく声をかける友人もいません。むしろ、周囲からはあまり快く思われていないようでした。
アンドレスがおもむろに裏庭に出ると、植え込みの陰でマリファナを吸っている若者に声をかけました。そこにいたのはアシュフォード家の息子チャーリーと友人たち。
チャーリーは彼がアンドレスだと気がつきません。両家はことあるごとに交流していましたが、子供の成長と共に親同士だけのつきあいになっていたからです。
しかし、アンドレスはアシュフォード夫妻のことを毛嫌いしています。
アンドレスはマリファナのことは黙っているからと立ち去ろうとしますが、逆にチャーリーは、両親を悪く言うアンドレスをフレンドリーにグループへ招き入れます。
そして、チャーリーはアンドレスに、マリファナの吸引機を差しだし、すすめます。アンドレスはパーティーを楽しめず、やけになってマリファナを吸ってみることにしました。
アンドレスはマリファナを吸うと、愉快な気持ちや悲しい気持ちになると言います。しかし、チャーリーから学校で手に入れた、PCP(違法薬物)の混ぜ物だと聞くと、罪悪感にさいなまれパーティー会場に戻ります。
中ではヘレーンが知った顔の男の傍らで、他の友人たちと楽し気に歓談していて、ヘレーンは今交際している人だと紹介をしました。
アンドレスはもうろうとしながらヘレーンに文句を言いますが、「自由がほしいと言い出したのはあなたで、あなたの世話をする役割はもう私ではないの」と言い聞かせます。
すると次の瞬間、裏庭からチャーリーを探していた父親が「救急車を呼んでくれ!」と、慌てて入ってきます。その肩にはチャーリーが担がれていました。
映画『コネチカットにさよならを』の感想と評価
邦題になっているコネチカットは金融と教育の都市といわれる州で、こじんまりとした自然も豊かで住みやすい地域です。
主人公のアンドレスも金融関係の仕事をし、ヘレーンは教育機関の仕事でした。経済的にもゆとりのある世帯が暮らしていて、生活水準は高めといえます。
無計画と自己顕示欲
主人公のアンドレスには妻の理想と言い分を聞き、毎日長時間をかけて仕事に出かけ、生活を支えてきた自負がありました。
アンドレスが離婚や仕事を辞めたの理由を聞かれても、明解な理由を言えないのは、妻に対する衝動的な不満であとに引けなくなったからでしょう。
きっかけは些細なケンカが原因で、アンドレスには隠居後の生活ビジョンなどまったくなかったのです。残ったのは意地と見栄だけで、未練たらたらなのです。
チャーリーと意気投合したのも、自己主張や自己顕示欲の強いところが似ていて、認められないとやけになってしまうからだと思われます。
アンドレスの何をやってもパッとせず、言い訳や見栄が観ていてとにかくイタイタしいのです。
狭い街で完結する生活
この映画を観て、本当にしたたかだと思ったのはヘレーンです。夫が時間をかけて通勤する間に、ドリーとの関係を深めていて、ソフィーと秘密を共有していたからです。
そして、彼女のちょっとしたわがままで、アンドレスが勝手にキレて離婚につながったのですから、面倒が省けたと思ったに違いありません。
ヘレーンにとっては、職場も自宅も地元という根付いた生活でしたから、周囲とのコミュニケーションも完璧です。
一方、アンドレスは妻主導の近所付き合いに合わせるだけで、自分で構築したわけではありません。ですから、彼女の言い分でアンドレスが悪者になってしまうのも簡単だったのです。
まとめ
「コネチカット」とは、アンドレスにとって愛する妻と息子のいる場所で、ヘレーンにとっては自分のこだわりと思い出の詰まった家がある場所の象徴でした。
つまり、『コネチカットにさよならを』は、バラバラになった家族が新しい人生を歩むためには、“愛着”や“住みやすさ”のようなものを、一切捨てることから始まるのだということを、コミカルかつシニカルに表現している映画です。