連載コラム「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第45回
深夜テレビの放送や、レンタルビデオ店で目にする機会があったB級映画たち。現在では、新作・旧作含めたB級映画の数々を、動画配信U-NEXTで鑑賞することも可能です。
そんな気になるB級映画のお宝掘り出し物を、Cinemarcheのシネマダイバーがご紹介する「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第43回は、『シックス・センス』(1999)、『サイン』(2002)など、衝撃的な結末で話題となった、M・ナイト・シャマラン監督のファンタジー作品『レディ・イン・ザ・ウォーター』です。
舞台はフィラデルフィア郊外にある、多国籍の個性豊かな住人が住んでいる「コーブ・アパート」、住人に快適な暮らしを提供するため、仕事をこなしている管理人のクリーブランドは、敷地内のプールに異変をみつけ調査します。
ある晩、無断でプールを使用する者を目撃し、そこが不思議な女性“ストーリー”です。ヒープは彼女の“目的”に関わるうちに不思議な体験をしていきます。
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CONTENTS
映画『レディ・イン・ザ・ウォーター』の作品情報
【公開】
2006年(アメリカ映画)
【原題】
Lady in the Water
【監督/脚本】
M・ナイト・シャマラン
【キャスト】
ポール・ジアマッティ、ブライス・ダラス・ハワード、ジェフリー・ライト、ボブ・バラバン、サリタ・チョウドリー、シンディ・チャン、M・ナイト・シャマラン、フレディ・ロドリゲス、ビル・アーウィン、メアリー・ベス・ハート、ノア・グレイ=ケイビー、ジャレッド・ハリス
【作品概要】
主役のクリーブランド・ヒープには、『プライベート・ライアン』(1998)や『PLANET OF THE APES 猿の惑星』(2001)などの大作にも出演し、『シンデレラマン』(2005)でアカデミー賞助演男優賞ノミネート、『バーニーズ・バージョン ローマと共に』(2010)で、ゴールデングローブ賞 ミュージカル・コメディ部門で主演男優賞を受賞した、ポール・ジアマッティが務めます。
謎の女性ストーリー役はシャマラン監督作品『ヴィレッジ』(2004)で、主役を務め、『スパイダーマン3』(2007)、「ジュラシック・ワールド」シリーズなどで、主要な役を演じたブライス・ダラス・ハワードです。
M・ナイト・シャマラン監督は自身の作品に、カメオ出演することでも有名ですが、本作ではキーパーソン的な役柄で出演しています。
映画『レディ・イン・ザ・ウォーター』のあらすじとネタバレ
フィラデルフィア郊外のアパート、コープ・アパートで管理人をしているクリーブランド・ヒープは、日々、アパートでの管理人業務に勤しんでいました。
共用部分の掃除や居住者達の要望に応えながら、多国民の人々が住むこのアパ-トで多忙な暮らしをしています。
その日、ペレスの家では5人の娘が害虫で大騒ぎ、映画の批評家をしているファーパー氏が新しい住人としてやってきました。
韓国人女子大生のヤン、右半身だけを鍛えているレジー、部屋に引きこもっているリーズ、動物愛護家のベル、無駄話でつるむ男のグループなど、個性的な住人が暮らしています。
ヒープはアパートの共用プールに、深夜許可なく使用している気配を感じていました。プールの水の汚れが酷いからです。
無断使用を疑ったヒープは、住人たちに聞いて回りますが、誰も使用していないと答えます。そこで彼は深夜のパトロールを開始します。
手がかりが掴めないまま経ったある日、ヒープは家の窓からプールで泳ぐ人影をみつけ、急いで外に出て懐中電灯でプールを照らしますが誰もいません。
落とし物のアクセサリーをリクライニングチェアに置き、椅子の位置を揃えたりしながら、家へ戻ろうとした時、プールからそのアクセサリーを取って潜る者に気づきます。
ヒープは警告をしながら、プールに入って潜りますがみつからず、プールから上がりますが、足を滑らせ転倒し気を失ったままプールに落ちてしまいます。
ところが彼が気がついた時には、家のベッドで横になっていて、ソファーには見知らぬ少女が座っていて、助けてくれたのか訪ねると彼女は頷きます。
ヒープがどこから来たのか聞くと“ブルー・ワールド”と答え、彼に“心を針で指されたような目覚めは感じるか?”と訊ねます。
少女は“ストーリー”と名乗ります。ヒープもフルネームを教えると、クリーブランドは、“崖の土地”という意味があるといいます。
ヒープはストーリーに家に帰るよう促しますが、彼女は何かに怯えて涙を流します。それを見た彼は落ち着くまで居ることを許し、一緒にうたた寝してしまいます。
明け方目覚めたヒープは、しがみついて眠るストーリーに困惑します。そして、何者なのか独り言を言うと、“ナーフ”だと彼女はつぶやきました。
ストーリーを抱きあげ外へ出たヒープは、草むらの中からうごめくものを感じます。プールサイドから振り向くと、草と同化する何か襲いかかろうとしていました。
目が覚めたストーリーもその存在に気がつき、悲鳴をあげプールを指さしますが、ヒープは家に慌てて逃げ帰ります。
朝になりヒープは保険局に通報したり、居住者の韓国人大学生のヤンに、“ナーフ”の意味がわかるか訊ねます。
ヤンはナーフのことを東洋の物語に出てくる、海の妖精だと教えてくれます。幼い頃に祖母から聞いたが覚えていないと言います。
ヒープはヤンの母親が物語のことを知らないか訊ね、彼女の母親から物語を聞き始めます。
“ナーフ”とは水の精のことで、“器”と呼ばれる選ばれし者の前に現れます。“選ばれし器”はナーフに出会うと、ある“感覚が目覚める”といいます。
そして、選ばれし器に会えたナーフは、迎えに来た巨大な鷲と共に元の世界に帰り、自由になれます。
ヒープは家に戻ると、ストーリーに誰に会いに来たのか聞くと、“作家”だと答えます。名前も性別もわからないが、アパートの住人である事だけは確かでした。
“選ばれし器”に出会えれば、その日の晩にでも帰ることができると彼女は話し、ヒープは探すことを約束します。
映画『レディ・イン・ザ・ウォーター』の感想と評価
『レディ・イン・ザ・ウォーター』は、人間世界の危機を察したナーフが、秘密裏にブルーワールドからやってきて、その危機をダイレクトに伝えるのではなく、人が持っている性善説に委ねていく物語でした。
人には自分でも気がつかない役割を担っていて、信じる気持ちと優しさがあれば、協力し合う知恵が湧き、ピンチから脱出することができると伝えていました。
“ヒーラー(癒す人)”がヒープだったのも、もともと医師だったと考えれば適任者でした。
そしてカメオ出演の多いシャマラン監督が、今作に限っては主要人物として登場します。そこには何か意図があったのでしょうか?
猛獣“スクラント”の正体を考察
シャマラン監督といえば、『シックス・センス』(1999)や『アンブレイカブル』(2000)、『サイン』(2002)で鬼才と名高い監督となりますが、のちにその『サイン』と『ヴィレッジ』(2004)で、盗作疑惑が起き起訴されてしまいます。
そんな渦中を経て制作されたのが本作となります。『レディ・イン・ザ・ウォーター』は興行的にも批評家たちからの評判も悪く、第27回ゴールデンラズベリー賞で助演男優賞、監督賞を受賞してしまいます。
若くして成功を収めたシャマラン監督でしたが、“盗作”という汚名で一気に色眼鏡で見られるようになり、新作へのモチベーションも奪われたのではないかと考えます。
それを名もなき小説家ビック・ランに投影させ、彼に再び創作意欲を与えようとした、ストーリー的な役割の人物も実際にいたのかもしれません。
映画界には成功者を妬み、業界から引き釣り下ろそうとする“権力”もあったのでしょうか?それらを見つけにくい姿の“スクラント”に例え表現したのかもしれません。
エンターテイメントで人を楽しませる、純粋な気持ちを持ったクリエイター達は、その世界を守るために、スクラント(権力)からストーリー(映画)を守ろうとしたとも捉えることができます。
シャマラン監督の出演により、そのメッセージが露骨な形で、目に映った業界人もいたのではないでしょうか?
興行的に成功するしないに関わらず、シャマラン監督自身が見えない何かの恐怖から、立ち直るための作品だったと思えてなりません。
邪悪と呼ばれる“タートゥイック”が守護神の理由
それでは邪悪と称された“タートゥイック”は、なぜブルー・ワールドの守護神なのでしょう?
“タートゥイック”も草のような毛で覆われ、見つけにくい存在です。ブルー・ワールドの守護神とされていましたが、これは“同族嫌悪”による逆襲のようにも感じます。
全ての悪が敵というわけでなく、悪が悪の足を引っ張る場合もある・・・そんな風に見ることはできませんか?権力者にとって別の驚異は悪で、邪魔者になりうるからです。
右半身だけを鍛えるレジーの存在は、異端で驚異な存在だと思います。わけのわからないものには悪も恐れるでしょう。それを上手く利用するのも悪だと考えたら、あのキャラクターの存在にも納得できました。
変わったことをするという意味では、シャマラン監督も異端な存在だったでしょう。彼をいぶかる業界人もいれば、上手く利用したい業界人もいるということです。
タートゥイックがなぜ守護神なのか、少し理解に苦しみましたが、人間界に置き換えてみると、味方ではないけど、結果的に味方の役割になった人がいて、勝手に守護神と崇めてしまうこともあるのでは?と感じたのです。
まとめ
映画『レディ・イン・ザ・ウォーター』は、水の精(ナーフ)と人間が共存し、自然の知恵を与えてもらいながら、平和な世界を保っていました。
やがて文明の発展とともに距離ができ、ナーフの助言を聞かなくなった人間達は、争いごとが絶えなくなりました。ナーフは諦めて人間に助言することを止めてしまいます。
本作は危機の迫る人間界に再び、メッセージを残すためブルーワールドから、ナーフが現れるところから物語がはじまりました。
残念ながらあまり好評といえる作品ではありませんでしたが、観方によってだいぶ印象が変わりました。
近年、M・ナイト・シャマラン監督作品は再び息を吹き返しており、新作への期待も大きくなっています。ストーリーが予言で数十年後、ビックの小説が日の目をみると言ったように・・・。
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