連載コラム「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第44回
深夜テレビの放送や、レンタルビデオ店で目にする機会があったB級映画たち。現在では、新作・旧作含めたB級映画の数々を、動画配信U-NEXTで鑑賞することも可能です。
そんな気になるB級映画のお宝掘り出し物を、Cinemarcheのシネマダイバーがご紹介する「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第44回は、永遠に真実を語れない、孤独な運命を背負うヴァンパイアの少女の姿を描いた映画『ビザンチウム』です。
16歳の少女エレノアと8歳年上の姉クララには、人には語れぬ秘密があり放浪生活をしています。姉妹はさびれた浜辺の保養地で暮らすようになり、エレノアの自我の目覚めから、彼女たちの秘密が明らかになっていきます。
本作は『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』(1994)のニール・ジョーダン監督が、19年ぶりに吸血鬼作品を制作し話題となりました。
主人公エレノアには『レディ・バード』(2017)でゴールデングローブ賞の映画部門で主演女優賞を受賞したほか、『ストーリー・オブ・マイライフ』(2019)で、各映画賞にノミネートされた若手実力派俳優のシアーシャ・ローナンが務めました。
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映画『ビザンチウム』の作品情報
【公開】
2012年(イギリス映画)
【原題】
Byzantium
【監督】
ニール・ジョーダン
【原作/脚本】
モイラ・バフィーニ
【キャスト】
ジェマ・アータートン、シアーシャ・ローナン、サム・ライリー、ジョニー・リー・ミラー、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ、ダニエル・メイズ、マリア・ドイル・ケネディ、ウォーレン・ブラウン、トゥーレ・リントハート、トム・ホランダー
【作品概要】
ニール・ジョーダン監督は『クライング・ゲーム』(1993)で、アカデミー賞脚本賞、『マイケル・コリンズ』(1996)でヴェネツィア国際映画祭金獅子賞を受賞しており、出身国のアイルランドの歴史やゴシック・ホラーなどを題材にした作品で、ハリウッドで活躍するストリーテラーです。
クララ役には『ディストピア パンドラの少女』(2016)、『人生はシネマティック!』(2016)で主演を務め『キングスマン: ファースト・エージェント』(2020)など、ホラーやコメディ、アクションと幅広い作品で活躍中のジェマ・アータートンが務めます。
映画『ビザンチウム』のあらすじとネタバレ
薄暗い部屋で少女は語ることのできない自らの秘密を抱えて、苦悩していることを手記にしています。
彼女は人目を避けて潜める場所を転々としていて、住む場所を変えるたびに、話すことのできない真実を描き直し、破り捨て誰かの目に留まることを願っていました。
ある日、彼女は手記を破り窓から捨てますが、それを拾った老人と親しくなります。老人は彼女を散歩に誘うと自宅に招き入れます。
老人はアルバムをめくり、一生の愛を捧げた女性の話をし、エレノアの書いては捨てた手記を収集したページを見せると、彼女の秘密について触れます。
老人は「人生にはいつか秘密を語るべき時がくる」と、諭して幼い頃に教会で聞いた、魂を失い生きる“不死なる者”の逸話を話すと、少女はエレノア・ウエッブと名乗ります。
老人はエレノアに心の準備はできていると言い、エレノアは老人の手首に鋭利な爪を刺すと、あふれ出る血液をむさぼりました。
エレノアには売春で生活費を稼ぎ、養育してくれる″姉”のクララがいます。エレノアが老人の家にいるころ、クララはトラブルを起こして店を出ますが、ある男に追われます。
男はクララを捕り抑えると、彼女(エレノア)の存在について追及します。あきらめたクララは男を隠れ家に連れて行って油断させ、ワイヤーで首を切り落として殺害します。
帰宅したエレノアは惨状を見ると激高し、クララはよそへ移ると告げます。そして、殺害はエレノアのためにしたことで、いつかわかる日がくると言いました。
そして、エレノアは殺害された男が誰なのか聞きますが、クララは何も話そうとしません。
クララは部屋に火を放ち2人は出て行きます。そして、ヒッチハイクでトラックに乗り込むと、寂れた海辺の街へとたどり着きました。
エレノアが浜辺に出ると奇妙な光景を目にします。大昔の衣装を着た同じ年頃の女の子が、整列して歩く姿で、その中に自分とそっくりな顔の少女をみつけます。
クララに前にも来たことのある場所か聞きますが、そんなことはないと言われました。
2人はこの海辺の町を新たな居住地に決め、クララはさっそくひと稼ぎすると言って、寂れた夜のリゾート街に立ちます。
エレノアは時間つぶしで町を散策していました。セレブな老人が滞在している保養所のラウンジに、グランドピアノがあるのをみつけます。
エレノアは、吸い込まれるように中に入り、ピアノの椅子に腰かけ、もの悲しい曲を弾き始めます。
その様子を見ていた青年スタッフが、演奏を終えたエレノアに声をかけ、難しい曲を暗譜で弾けるなんてすごいと言います。
彼は老人たちを陽気にさせる曲を…と、リクエストしますが、エレノアはラウンジを出て行き、青年はエレノアにバイトは22時で終わると言います。
クララはカミラという名で仕事をはじめます。そして、初めての客ノエルの身の上話を聞きました。彼は事業に失敗し、母親を亡くしたばかりだと言います。
更に母親が営んでいたホテルも廃業させてしまったと、後悔し嘆いていました。クララはノエルの話を親身に聞きつつ、そのホテルに住むために彼をたぶらかします。
エレノアが時間をつぶすために海岸にいると、ラウンジで出会った青年がやってきました。彼はエレノアが去った後、ラウンジの客たちを廻り、チップをもらったので届けてくれたのです。
そして、連絡先のメモも渡しますが、エレノアは電話は持っていないと言います。彼はエレノアに会えて嬉しいと握手を求めます。
ところがエレノアは親しくならないつもりで、さよならと握手を返しました。
ノエルはエレノアとクララを母が経営していたホテル“ビザンチウム”に連れて帰ります。ノエルは“妹”のために、身を粉にして働くクララを敬いました。
“死を覚悟した者だけが、永遠の命を得る”
エレノアはその晩、クララに岩の砦に連れて行かれる夢を見ます。彼女はエレノアに中に入るよう促すと、数百匹はいたであろうコウモリが、外へ飛び出していきました。
そして、エレノアが中へ進んで行くと、同じような背格好の少女が、血を流しながら立っています。顔をみるとそれは自分でした。
首の傷跡から血を流しながら彼女は「ここで時は終わる」と言い、エレノアの首筋に咬みつきました。
映画『ビザンチウム』の感想と評価
映画『ビザンチウム』は幼気な少女を食い物にする軍人によって、人生を狂わされたクララと、その娘エレノアの辛く悲しいヴァンパイア物語でした。
ニール・ジョーダン監督の『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』も、冷酷な吸血鬼と他人の命を奪って生きることに抵抗のある吸血鬼という、対称的な姿を現していました。
本作は母が愛する娘をそばに置いて彼女を守るために吸血鬼にしたのに、他人の命を奪うことに抵抗のある娘の姿を描いていました。
いずれも“永遠の命”を得た孤独と、苦悩を描いた作品でしたが、『ビサンチウム』には男尊女卑という、命題も含んでいて古い“掟”によって生じる、人生のゆがみを現代に表していたとも観れました。
新しいヴァンパイアの姿
古来から表されているヴァンパイアは、人の首筋に牙を立てて生き血を吸うという姿が、多くあります。
本作は親指の爪が伸びて、動脈のどこかを刺し血を吸うというスタイルでした。しかも、血を吸われた者がヴァンパイアになってしまうというものでもありません。
起源がどういうものなのかはわかりませんが、寿命を迎えた高貴な階級の“男子”だけが、吸血鬼として永遠の命を受け継ぐことができる。そんな設定でした。
作中ではその爪を“正義の爪”と呼び、正義のために使う命のように語られていましたが、ダーヴェルはラヴェルの裏切りを知ってか知らぬか、同盟に招き入れようとしていました。
ダーヴェルや他の同盟者は刑事となり、犯罪者を追うという正義の下で、クララたちを追っていましたが、クララの横取りがなくラヴェルが吸血鬼になったら、果たして正義のために生きたのだろうか疑問です。
永遠の命を受けたものには、他にも特殊な能力が具わるという流れでしたが、ダーヴェルは純粋なものを見抜く能力があって、クララとエレノアを助けるべきと判断したように感じました。
変わりゆく“掟”の予感
永遠の命との引き換えに“魂”が無くなると言われていましたが、人間に対する扱いは冷酷であったものの、同類に対してはとても愛情深かった印象です。
しかも、エレノアに関していえば、孤児院での教育の賜物があったとはいえ、死期の近い人間の同意があっての搾取というのが、冷酷なヴァンパイアには必ずしもならないと象徴しています。
エレノアには人の寿命がみえる能力が具わっていました。きっとフランクの死期も見えていたはずです。それでも彼の命を奪えなかったのは、彼を愛したからです。
クララが愛する娘に永遠の命を与えたように、エレノアもまた愛する人に永遠の命を授け、同盟の掟を破りました。しかし、そこには若干違いがありました。
クララは何の説明もなく、一方的な愛情でエレノアに永遠の命を与えましたが、フランクの場合は、彼がエレノアの真実に理解が伴っていたということです。
運命を共有できることで、エレノアは孤独ではなくなりました。クララもダーヴェルと共にすれば、独りで抱え込まずに生きていけるでしょう。
さて、フランクにはどのような能力が授かるのか…?そこが気になるところですが、こうして古い掟も時代によって塗り変わっていくのです…。
伝統あるイギリスは多くのしきたりや掟のある国ですが、古き善き掟は守られ、時代にあわせた改革も成されていると感じます。
古き善きしきたりなのか? 吸血鬼が他人の家に入る時には、家人に招き入れられないと入れないというものがあり、この作品にもそういうシーンがありました。
そこからは相手をよく見て、用心深い行動をとる大切さを物語っていることがうかがえます。
まとめ
映画『ビサンチウム』は、これまでのヴァンパイア物語とは全く違う設定でした。新しいヴァンパイアの姿です。
ジェマ・アータートンが演じるクララが痛々しくも、母親の強さと無償の愛の表現が圧巻でした。その愛を理解しつつ、母親の運命に振り回される娘エレノアの孤独と苦悩も、シアーシャ・ローナンの透明感のある演技で際立ちました。
現代も弱者を食い物に富を得る人や、望まぬ妊娠で悩み苦しむ女性、貧困や虐待は今も昔も変わらずあって、正直者だけが馬鹿をみるような時代でもあります。
実際に永遠の命はないにしても、“世襲”という性質がある意味、受け継がれる悪しき習慣の場合もあるので、新しい血を入れることで、より良い影響を社会に繋げる意味も含んでいたように感じる作品です。
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