連載コラム「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第43回
深夜テレビの放送や、レンタルビデオ店で目にする機会があったB級映画たち。現在では、新作・旧作含めたB級映画の数々を、動画配信U-NEXTで鑑賞することも可能です。
そんな気になるB級映画のお宝掘り出し物を、Cinemarcheのシネマダイバーがご紹介する「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第43回は、映画『エスケーピング・マッドハウス』です。
19世紀後半のアメリカに実在した、潜入取材を得意とする女性記者ネリー・ブライ。彼女が追ったのは、悪名高いニューヨークのブラックウェル島精神病院の闇です。本作はネリー・ブライがブラックウェル精神病院に、10日間潜入した実話が基になっています。
ネリー・ブライ役には「アダムス・ファミリー」シリーズや『キャスパー』(1995)の子役で人気を得て、『スリーピー・ホロウ』(1999)、『モンスター』(2003)などの注目作品にも出演した、クリスティーナ・リッチが演じます。
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CONTENTS
映画『エスケーピング・マッドハウス』の作品情報
【公開】
2019年(アメリカ映画)
【原題】
Escaping the Madhouse: The Nellie Bly Story
【監督】
カレン・モンクリーフ
【脚本】
ヘレン・チルドレス
【キャスト】
クリスティーナ・リッチ、 ジュディス・ライト、 ジョシュ・ボウマン、アンニャ・サヴィッチ、マーク・ヒルドレス、ニッキー・デュヴァル
【作品概要】
精神病院のグラディ寮長役には、2011年から2012年にかけてブロードウェイで上演された「Other Desert Cities」でシルダ役で、初のトニー賞を受賞した、ジュディス・ライト。
ネリーの主治医ジョサイア医師を演じたのは、海外ドラマ「リベンジ」のメインキャスト、ダニエル・グレイソン役で一躍人気を得た、ジョシュ・ボウマンです。
本作は女性向けドラマを多く手掛ける、アメリカ合衆国の有料テレビ局“Life Time”で、2019年に放映されたドラマ映画です。
映画『エスケーピング・マッドハウス』のあらすじとネタバレ
1887年ニューヨーク「ブラックウェル島精神病院は、一度入ったら最後…人間用ネズミ捕りだ」
「私はネリー・ブラウン…」彼女は、心神喪失状態で街中をさまよっていたところを保護され、ブラックウェル島精神病院に連れて来られました。
巷では彼女を“ブラックウェル島の謎の女”という呼び名で、ゴシップ記事が広まっていました。なぜなら覚えているのが名前だけの記憶喪失で、新聞の尋ね人欄に写真付きで載せても、身内や知人が名乗り出ないからです。
そんな彼女の元には行方不明になった妻ではないか?という男が、新聞を見てネリーに面会しにきます。
主治医のジョサイアが彼女は完全に記憶を失っている。と、説明すると男は新聞に書かれていた“美しい女”という部分に、興味をひかれ来てみたという感じに「人違いだと」言って帰っていきます。
面会が終わるとネリーは、何かを感じたとイングラム医師に話しますが、医師はそれは記憶とは違う言います。
ネリーとジョサイアが施設を出ると、対岸に見えるニューヨークの街並みを見て、ネリーは自分の住んでいた街に戻れば、何か思い出すかもしれないと彼に言います。
ジョサイアは記憶が戻るまで、施設にいるよう諭しますが、ネリーは地獄に落とされたタンタロスのように、もがき苦しいだけで記憶が戻るとは思えないと訴えます。
イングラム医師に言った“感覚”についてネリーは、ある男性に向けた愛情だと話し、それが誰なのか顔も思い出せず、懐かしい感覚と“バット”という言葉を発したと伝えました。
ジョサイアは記憶を取り戻す突破口となる、“言語連想”かもしれないと、ネリーに希望を持たせます。
ジョサイアはイングラム医師の後任で精神病院に赴任してきた医師で、ネリーの主治医でもありました。
ネリーは足枷がきつくて記憶回復に集中できないと訴えます。ジョサイアは精神病院の寮長をしているグラディと面会したとき、彼女の足枷を緩めるよういいますが、特別扱いはできないと拒否します。
ジョサイアは健康は心と身体が関係していると説得し、自らの手でネリーの足枷を緩めてあげます。
新しい入寮者を入浴させる時間がきました。ネリーはそこで名家“ホリスター”の出身だという、女性と出会いネリーは再び、断片的な記憶を思い出します。
新聞を広げ記事に書かれた、“ホリスター”の名前を読み上げ、髭をたくわえた紳士の顔と水中にいる自分です。
ホリスターの人間だというロッティは、産後うつを発症しているのか、乳飲み子を残したまま収容されたと訴えます。
ネリーは施設に来る前、自分に会ったことはないか聞きますが、ロッティははじめて会ったと言います。
ネリーは寮での劣悪な扱いや環境について、記憶回復の邪魔になるとジョサイア医師にぶつけます。
先天性や加齢による精神障害の人もいれば、ほとんどの患者は正気なのに、寮での虐待で壊れていくと訴えますが、ジョサイアは訝しく彼女の話を聞きます。
そして、記憶喪失の原因の多くは、心の奥に潜むトラウマが影響すると言い、グラディ寮長の“治療”のおかげで、ネリーは正気に戻っていると諭します。
ネリーは“ホリスター”の名前で、自分の姿やいる場所の雰囲気までを思い出しますが、はっきりとした居場所まではわかりませんでした。
彼女は足枷がきつすぎて、思考が霧散するというとジョサイアは、鍵を見せながら毎日受診にくれば、緩めてあげると言いますが、鍵を持っていることは秘密だと約束させます。
“バット”というキーワードから野球のバットを使い、ジョサイアは素振りをしてみたりしますが、ネリーの記憶には変化はありません。
ジョサイアには妻子がいます。ネリーは乳飲み子を恋しがるロッティを励ますために、揺り椅子に座らせてほしいと頼みます。
誰でも自由に座れるはずの椅子を、グラディが使用を禁止し、自分は患者の前で椅子に座る、残酷なことをすると教えました。
ジョサイアは憤慨し彼女の望みを叶えますが、寮内はそのことで統制が崩れ、患者と看護師達で混乱しはじめます。
映画『エスケーピング・マッドハウス』の感想と評価
映画『エスケーピング・マッドハウス』は実在した女性記者、ネリー・ブライが実際に精神病院に潜入取材をした実話をもとに、制作されたドラマ映画です。
本作を観て感じたことは、この作品内の精神病院は入浴もできて、食事も与えられている、比較的まともな施設だったのでは?という印象でした。
また、ジョサイアのように職権を乱用し、お気に入りの患者に手を出す行為も、実際にあったのではと想像できるため、女性患者をそういう輩から守ってもいました。
この映画を観終わって、ネリー・ブライの暴いたことは、本当に弱者を守ることに繋がったのか?少々疑問も残ります。
「ブラックウェル島精神病院」は本当に悪名高かったのか?
グラディは施設へ運ばれてきたころの患者は、他人に危害を加えたり、自傷行為をする自我を失った者ばかりだったが、矯正のおかげで穏やかに過ごせるようになっていると話します。
言って聞かせることのできない患者に、ある程度の刺激を与えて、制御できるように統制していたということです。
つまり、食事を与えなかったり、不衛生な環境で管理はしておらず、“しつけ”や“治療”と称した行為が、強引かつ乱暴だったということです。
グラディが鳥籠の扉を開けても、鳥が飛び出さないシーンがあります。鳥はそこにいれば食べ物や寝る場所に困らず、安穏に暮せることを知ってしまったからです。
それは言葉の通じない移民者や生活力のない老人が、それまで寝食に困らなかった環境から、精神疾患がない健常者として世の中に戻された時、どうなるのかという心配に繋がります。
つまり、施設がなくなることで、居場所を失う者もいると想像ができ、グラディは精神病患者であろうが、事情の違う人間であろうが、入所した者には、最低限の生きる糧を提供していたともいえるのです。
また、グラディに強烈な悪意を感じなかったのには、没収した患者の私物の一つ一つに、名札が付けられ、箱の中に奇麗に保管されていたという一面を見たのもあります。
回復する見込みのない患者ばかりの物であれば、全て自分の物として独り占めしてもおかしくはありません。
“暴露”はネリー・ブライの過ちではないか?
この潜入取材はある意味、ネリーの独りよがりによって、施設の行き過ぎた行為が誇大して、暴露されたのかもしれません。
例えば専門医でもないネリーが、ロッティがなぜ精神を病んでしまったのかもわからず、ブランケットを渡したり、乳飲み子を思い出させる行為は、グラディのいう通り“苦悩”を与え、逆効果になったとも考えられます。
ロッティの息子は生まれてまもなく、亡くなってしまい精神的に病んでしまったとしたら、緩やかに忘れさせるのが癒しともいえるからです。
ネリーは自分が有名紙の記者であるという自負から、特ダネを得るためにあらゆることをしてきました。
彼女が出版した「マッドハウスでの10日間」は逆に10日間の潜入取材だけで、何がわかったというのか?とも取れるのです。
つまり、ネリーの潜入取材は正義のためというより、単に売名行為のための取材だったともいえます。
一方グラディは40数年間、精神病院で患者を見続けた経験があり、患者の扱いや守り方も熟知していたとはいえないでしょうか?
ネリーの暴露本は逆に多くの患者を劣悪な環境に追いやり、宿無しの患者を路頭に迷わせ、職員の生活や人生を壊したかもしれません。
まとめ
『エスケーピング・マッドハウス』は、女性ジャーナリストとして名を馳せた、ネリー・ブライの栄誉ある業績を紹介した作品です。
彼女のサクセスストーリーは華々しいものでしたが、その陰に散ったものも見えた気がしまいました。
ともあれ先駆者は成功するためにはなんでも試みます。そして、若さゆえに後先のことも考えずに行動してしまうものです。
したがってネリーを讃えるだけの作品ではなく、グラディにモデルとなる人物がいたとすれば、彼女にも偉業があったと感じさせたドラマでした。
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