連載コラム「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第27回
深夜テレビの放送や、レンタルビデオ店で目にする機会があったB級映画たち。現在では、新作・旧作含めたB級映画の数々を、動画配信U-NEXTで鑑賞することも可能です。
そんな気になるB級映画のお宝掘り出し物を、Cinemarcheのシネマダイバーがご紹介する「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第27回は、20世紀スタジオが製作した大人気アメコミ映画「X-MEN」シリーズの最終作となる『ニュー・ミュータント』(2021)。
度重なる製作期間の延長と公開日の延期を経て公開された『ニュー・ミュータント』は、日本では劇場公開されることなく配信スルーとなりました。
しかし、能力を目覚めさせた少年少女が己のトラウマと対峙し、2度と大切な人を失わないために奮闘する物語は「X-MEN」シリーズのファンでなくとも心打たれるような作品となっていました。
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CONTENTS
映画『ニュー・ミュータント』の作品情報
【原題】
The New Mutants
【日本公開】
2021年(アメリカ映画)
【監督】
ジョシュ・ブーン
【キャスト】
ブルー・ハント、アニャ・テイラー=ジョイ、メイジー・ウィリアムズ、チャーリー・ヒートン、ヘンリー・ザーガ、アリシー・ブラガ
【作品概要】
20世紀フォックスがマーベル・コミックスの人気ヒーローチームを映画化した「X-MEN」シリーズの13作目となる作品。
映画『スプリット』(2016)で主演を務めたアニャ・テイラー=ジョイを始め、ドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」のメイジー・ウィリアムズや、ドラマ「ストレンジャー・シングス 未知の世界」のチャーリー・ヒートンなど若手有名俳優が出演しています。
映画『ニュー・ミュータント』のあらすじとネタバレ
ある日、街に異変が襲いかかり、少女のダニの父親が彼女の目の前で死亡してしまいます。
気を失ったダニは見覚えのない部屋に右腕をベッドに拘束された状態で目を覚ましました。
部屋に現れた医師のレイエスはダニの拘束を解くと、ダニの街を台風が襲い彼女以外の全員が死亡したと告げます。
ダニは竜巻ではなく熊のような雄叫びをあげる何かが街を襲ったと反論しますが、レイエスはトラウマが別の記憶を植え付けたと彼女の記憶を否定しました。
レイエスはダニが突然変異し人間では持ち得ぬ能力を手に入れた「ミュータント」であり、自分自身と周囲の人間に対する危険が去るまでの間、この施設の管理下に置くと話します。
この施設は若い「ミュータント」の管理と育成を行う施設であり、ダニの他にはレイン、ロベルト、イリアナ、サムの4人の少年少女が暮らしていました。
レイエスを嫌うイリアナに脱走するように吹聴されたダニは施設から敷地外に向かって走りますが、敷地の外には「フォースフィールド」が張られており、全速力で「フォースフィールド」にぶつかったダニは怪我をしてしまいます。
ダニは「フォースフィールド」のことを知っていたイリアナに怒りをぶつけようとしますが、イリアナは能力を使いその場から消えます。
この日以降、ダニとイリアナは事あるごとに喧嘩するようになり、イリアナがダニを殺害しようとした際には、レイエスが「フォースフィールド」を出現させる能力を使い2人の喧嘩を仲裁。
ここに至ってもダニの能力は未だに分からず、レイエスは能力が判明し制御出来るようになるまで隔離する事が、この施設の目的であり、退所後は「X-MEN」の組織に加入することも可能であるとダニを励まします。
高速で空を飛ぶ能力を持つサムは、父の働く鉱山での作業中に能力が目覚めてしまい、結果として父を殺害してしまった過去のトラウマに苦しめられていました。
心に蓋をしていたはずの鉱山での悪夢を再び見るようになったサムは、施設からの退所を求めますがレイエスは聞き入れません。
その日の夜、富豪の息子でありながら施設に入れられたロベルトはイリアナと性行為に及ぼうとしますが、興奮すると体温が加熱する能力で恋人を殺してしまった過去から行為に及ぶことができませんでした。
イリアナにその過去を吐露するとイリアナはロベルトに燃えた女性の幻覚を見せ、動揺したロベルトは能力を暴走させます。
警報で目を覚ましたレイエスはロベルトをプールに落とし解熱させます。
ロベルトは自身を暴走に追い込んだイリアナと共に暮らすことを拒否し施設から出ようとしますが、監視カメラの映像から実際はイリアナは部屋に留まっており、ロベルトの見たイリアナは幻覚だったことが分かりました。
映画『ニュー・ミュータント』の感想と評価
シリーズ初の青春ホラー
自分の持つ超能力を理解した上で力に溺れ始める納涼者の恐怖を描いた作品と言えば『ブライトバーン 恐怖の拡散者』(2019)が記憶に新しく、超能力とホラーの組み合わせは決して珍しいものではありません。
映画『ニュー・ミュータント』では、物語のメインとなる5人の少年少女は自身の能力の暴走によって大切な人を殺害してしまった過去を持っています。
そのため本作での恐怖の対象は「自分自身の能力」であり、悪に堕ちた明確なヴィランが恐怖の対象となる『ブライトバーン 恐怖の拡散者』などの作品とは一線を画する映画になっていると言えます。
さらに本作にはもうひとつの恐怖要素が存在します。
医師のレイエスが5人を管理下に置く施設の中で物語が展開していきますが、「能力に目覚めた少年少女の隔離」と言う施設の目的はレイエスの口から語られるのみであり、真の目的は終盤まで明らかになりません。
施設とレイエスは5人に取って味方となる存在なのか、それとも自分たちは何かの目的を持って集められたのか。
『約束のネバーランド』(2020)を彷彿とさせる「世界に対する疑心暗鬼」と言うジャンルのホラー要素も持ち合わせた作品です。
「X-MEN」シリーズとの繋がりとは
本作は直接的に他の「X-MEN」シリーズからのキャラクターの参加はなく、「X-MEN」と言う単語のみが登場する比較的シリーズ色の薄い作品。
しかし、作中にたった1度だけ「エセックス・コーポレーション」と言う企業名が映ります。
「エセックス・コーポレーション」は「ミュータント」たちが死に絶えた絶望の未来を題材とした映画『LOGAN/ローガン』(2017)に登場。
実は遺伝子操作の研究を中心とする「エセックス・コーポレーション」こそが「ミュータント」の絶滅を引き起こした企業であり、「人間」の私利私欲のために「ミュータント」の命を使うシリーズ屈指の悪の組織。
「X-MEN」そのものは登場せずとも、本作は「エセックス・コーポレーション」と「ミュータント」の戦いを描いたシリーズの骨子を引き継いでいます。
まとめ
20世紀スタジオによる「X-MEN」シリーズには、人知を遥かに越えた能力を持つ「ミュータント」と「人間」の対立が物語の根底に常に存在し、それぞれのエゴによる差別と戦争の始まりが繰り返し描かれてきました。
他者を傷つけかねない危険な能力を持った相手に暴力で立ち向かうのではなく、相手を理解し信頼を寄せることで共に困難に立ち向かう……。
バラバラの境遇ゆえに対立しながらも徐々にお互いを知り、自身たちを襲う「恐怖」に挑む5人を描いた映画『ニュー・ミュータント』。
映画『ニュー・ミュータント』は、実力派若手俳優を集めた結果として出来上がった魅力的なキャラクターたちと、「X-MEN」シリーズらしい迫力満点の戦闘シーンも楽しむことのできる、全く新しい形の青春ホラーヒーロームービーです。
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