連載コラム「邦画特撮大全」第30章
前回では『ゲゲゲの鬼太郎』実写化の歴史をたどりました。
妖怪たちも怪獣と同じく想像力によって作り出された存在(キャラクター)ですので、映像作品では特撮を駆使して表現されます。
今回も引き続き“妖怪”を題材とした特撮作品を紹介します。
今回取り上げる作品は『妖怪大戦争』(1968)と、そのリメイク作品『妖怪大戦争』(2005)の2作です。
CONTENTS
妖怪ブームの中で1968年版『妖怪大戦争』
『妖怪大戦争』(1968)の作品概要
『妖怪大戦争』(1968)は大映京都製作の特撮映画で、『蛇娘と白髪魔』と同時上映でした。
本作は『妖怪百物語』(1968)、『東海道お化け道中』(1969)と併せて“大映の妖怪三部作”と呼ばれることもあります。
監督は『大魔神』シリーズの特撮監督を務めていた黒田義之。脚本も「大魔神」シリーズの吉田哲郎が担当しました。
公開当時の1960年代後半は“妖怪ブーム”といわれ、子どもたちの間では妖怪が流行していました。
きっかけは水木しげる作品の相次ぐ映像化です。
まず東映が実写特撮ドラマ『悪魔くん』(1966~1967)を製作しました。そして1968年1月から『ゲゲゲの鬼太郎』のアニメ第1シリーズが放送開始。『鬼太郎』の人気とともに、妖怪そのものが子どもたちの間で人気になりました。
これを受けて大映が妖怪を題材とした特撮映画『妖怪百物語』を製作・公開。『妖怪百物語』のヒットを受けて、続けて製作されたのが本作『妖怪大戦争』なのです。
本作はバビロニアから飛来した吸血妖怪・ダイモンに、日本妖怪の連合軍が立ち向かうという物語が描かれます。前作『妖怪百物語』以上に子どもたちに受け入れてもらうため、勧善懲悪な物語が主軸となりました。
序盤に登場するバビロニアのウル遺跡の崩落シーン。嵐で船が難破する場面など、妖怪たちの戦いの他にも、特撮の見所がたくさんあります。
『仮面ライダー』に連なるキャラクター造形
ダイモンをはじめ登場する妖怪の造型を担当したのがエキスプロダクションです。
エキスプロダクションは「ガメラ」シリーズや「大魔神」シリーズなど、大映の特撮映画で造型を務めてきました。
エキスプロダクションは後に、特撮テレビドラマ『仮面ライダー』のショッカー怪人の造型を担当します。
ダイモンをはじめとする本作の妖怪造型の表現は、その後『仮面ライダー』に登場するショッカー怪人に受け継がれていきました。
ダイモンの目は造形物ではなく、スーツアクターである橋本力・本人の目によって表現されています。
造形物と生身の人間の目を合わせることで、より怪奇性や恐怖を表現しているのです。
『仮面ライダー』の初期に登場するショッカー怪人も同様の表現がなされています。
蝙蝠男やさそり男、サラセニアンといった怪人たちは眼窩にスーツアクター自身の目が配されています。
こちらもダイモン同様に、恐怖や怪奇性を表現するための手法です。
そもそも『仮面ライダー』は当初“怪奇性”に重きを置いた作風でした。こうしたショッカー怪人のデザインは、『仮面ライダー』という作品が持つ空気と非常に上手く合致したのです。
水木しげるが込めた思い2005年版『妖怪大戦争』
『妖怪大戦争』(2005)の作品概要
『妖怪大戦争』(2005)は、角川グループ60周年記念作品として製作されました。
1968年版『妖怪大戦争』のリメイク作品ではありますが、内容はほとんど別のものとなっています。
本作は水木しげるの出身地・鳥取県境港市を舞台に、小学生の少年・稲生タダシと妖怪たちが、魔人・加藤保憲と戦うというストーリになっています。
主人公・稲生タダシを演じたのは公開当時12歳だった神木隆之介。タダシをサポートする妖怪たちには近藤正臣(猩々)、阿部サダヲ(河太郎)、高橋真唯(川姫)、田口浩正(一本ダタラ)らが特殊メイクをして演じました。
また竹中直人(油すまし)、忌野清志郎(ぬらりひょん)、石橋蓮司(大首)、遠藤憲一ら(大天狗)も特殊メイクで妖怪に扮しました。
さらに荒俣宏の著作『帝都物語』に登場する魔人・加藤保憲も登場。ただし映画『帝都物語』で加藤を演じた嶋田久作ではなく、豊川悦司が冷酷に魔人・加藤を演じています。
プロデュースチーム「怪」
本作製作のため、プロデュースチーム「怪」が結成されました。
メンバーは漫画家の水木しげる、作家の荒俣宏、京極夏彦、宮部みゆきの4人です。
4人が映画の原案となるプロットを執筆し、アイディアの擦り合わせを行い本作の物語が作られていきました。
本作のメディアミックスに関しても、マンガ版を水木しげる、小説版を荒俣宏が執筆するなど「怪」のメンバーが担当しました。
ちなみに京極夏彦の小説『虚実妖怪百物語』は、本作で採用されなかったアイディアを元に執筆されています。
また宮部みゆきはタダシの担任役、荒俣宏は山本五郎左衛門、京極夏彦は神野悪五郎、水木しげるは妖怪大翁の役で映画本編に出演しています。
2005年版の『妖怪大戦争』は水木しげるの思いが強く込められた作品と言えます。
実は本作のテーマに「反戦」があると考えられるからです。水木しげるは南方に出兵しラバウルで終戦を迎えました。その当時、爆撃で左腕を失ったのは有名な話です。
水木しげる演じる妖怪大翁の台詞には次のようなものがあります。
「勝ち戦?馬鹿言っちゃいけません。戦争はいかんです。腹が減るだけです」
この台詞は実際に戦地で地獄を経験し、自著で反戦を訴え続けていた水木しげる自身の言葉として響いてきます。
また本作は題名に“大戦争”という言葉があるものの、妖怪たちには戦っているという意識がありません。
妖怪たちが日本各地から戦場となっている東京へ集まってくるのですが、妖怪たちは“お祭り”と勘違いして集まってくるのです。
こちらにも水木しげるの“妖怪観”が反映されているのではないでしょうか。
まとめ
同じ題名ではあるものの、全く違う肌触りの映画である2作の『妖怪大戦争』。両作の違いを比べてみるはいかがでしょうか。
また特撮によって表現された“妖怪”たちの活躍を楽しんでみてはいかがでしょうか。
次回の邦画特撮大全は…
次回の邦画特撮大全は、2019年1月25日より期間限定上映が開始されたVシネクスト『ビルド NEW WORLD 仮面ライダークローズ』。
2017年から2018年にかけて放映され人気を博した『仮面ライダービルド』を取り上げます。
お楽しみに。