Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

『シャクラ』あらすじ感想と評価解説。“宇宙最強の男”ドニー・イェンが中国武侠ヒーローを颯爽と演じる痛快映画【すべての映画はアクションから始まる41】

  • Writer :
  • 松平光冬

連載コラム『すべての映画はアクションから始まる』第41回

日本公開を控える新作から、カルト的に評価された知る人ぞ知る旧作といったアクション映画を時おり網羅してピックアップする連載コラム『すべての映画はアクションから始まる』。

第41回は、2024年1月5日(金)からTOHOシネマズ日比谷ほかにて全国公開の『シャクラ』

“宇宙最強の男”ドニー・イェンが、香港の国民的小説「天龍八部」の武芸ヒーローを演じる超絶武侠歴史アクションです。

【連載コラム】『すべての映画はアクションから始まる』記事一覧はこちら

映画『シャクラ』の作品情報


(C)2023 Wishart Interactive Entertainment Co., Ltd. All Rights Reserved

【日本公開】
2024年(香港・中国合作映画)

【原題】
天龍八部之喬峰傳(英題:Sakra)

【製作・総監督】
ドニー・イェン

【監督】
カム・カーウァイ

【共同製作】
ウォン・ジン(バリー・ウォン)

【原作】
金庸著「天龍八部」(徳間文庫・刊)

【アクション監督】
谷垣健治

【キャスト】
ドニー・イェン、チェン・ユーチー、リウ・ヤースー、ウー・ユエ、カラ・ワイ、チョン・シウファイ、グレース・ウォン、ドー・ユーミン、レイ・ロイ、チョイ・シウミン、谷垣健治(カメオ出演)

【作品概要】
「イップ・マン」シリーズ(2008~19)で“宇宙最強の男”の称号を得たアクションスター、ドニー・イェン主演の歴史アクション。

香港を代表する武侠小説家・金庸(きんよう)著の「天龍八部」の主人公の1人、喬峰(きょうほう)の活躍を描きます。

ドニーは総監督も兼任し、現場監督に『スーパーティーチャー 熱血格闘』(2019)のカム・カーウァイ、アクション監督に『燃えよデブゴンTOKYO MISSION』(2021)の谷垣健治と、長らくドニー主演作品に携わってきたスタッフが集結しました。

共演に2021年の東京国際映画祭にて上映された『リンボ』のリウ・ヤースー、『イップ・マン 完結』(2019)のウー・ユエ、『インビジブル・スパイ』(2019)のグレース・ウォンなど。

映画『シャクラ』のあらすじ


(C)2023 Wishart Interactive Entertainment Co., Ltd. All Rights Reserved

宋(そう)時代の中国。丐幇(かいほう=乞食の生活面における共同組織)の幇主・喬峯は、人々から慕われる英雄的存在でした。ところが突如、副幇だった馬大元殺しの濡れ衣を着せられてしまいます。

さらには漢民族ではなく契丹(きたん=モンゴル系民族)の血を引く者として丐幇を追放された喬峯は、自分を陥れた人物を探すとともに、自身の出生の真実を突き止めるべく旅に出る。

しかし彼の行く手には、さらなる罠が。武林(武術界)最強の技「降龍十八掌」を駆使して、刺客たちを次々と倒していく喬峯でしたが……。

ドニー・イェン視点でとらえた中国の英雄譚


(C)2023 Wishart Interactive Entertainment Co., Ltd. All Rights Reserved

1963年に香港で連載が開始した金庸の長編武俠小説「天龍八部」。11世紀末の宋の時代を背景に、段誉、喬峯(後の蕭峯)、虚竹、慕容復という4人を取り巻く群像劇として中華圏では幾度となくドラマや映画になっており、2021年には6度めのドラマ化となる『天龍八部 レジェンド・オブ・デスティニー』が製作されました。

本作『シャクラ』は、4人の中でも屈指の人気を誇るとされる喬峯のエピソードを主軸としており、彼の出生の謎や、根深い人種間対立がもたらす復讐譚が描かれます。

喬峯を演じるのは、「イップ・マン」シリーズ(2008~19)で“宇宙最強の男”の称号を得たアクションスター、ドニー・イェン。『ジョン・ウィック:コンセクエンス』(2023)の演技も記憶に新しい彼は本作で製作と総監督を兼任しており、なかでも監督業に至っては2004年の『ツインローズ』以来(共同監督)19年ぶりというだけあって、並々ならぬ情熱を注いでいます。

私の喬峯は2023年の感覚で撮影している。自分に対するすべての批判に向き合い、言いたいことはあれど何も言うことができない。それでも喬峯は自分が正しいと思うことをし続けるんだ」と、ドニーの現代視点解釈による喬峯像を構築しました。

テレビドラマ『天龍八部 レジェンド・オブ・デスティニー』(2021)

アメコミヒーローのような無双アクション


(C)2023 Wishart Interactive Entertainment Co., Ltd. All Rights Reserved

アクション面においても、「2023年の視点で撮影した」というドニーの意向が反映されたと言えます。ズバリそれは、リアルファイトとデジタルVFXの融合。

喬峯の最大の武術である降龍十八掌は、これまで映像化された作品では拳や気功をベースに表現していましたが、ドニーは剣を使用したコレオグラフィをプラスしてVFXでド派手に演出。それでいて、トランポリンやワイヤーワークを用いた香港アクション映画の系譜もきっちり抑えています。

アクション監督の谷垣健治に「従来の型にはまった武侠映画を撮る気は全くない」と語ったというドニー。縦横無尽に無重力で空を駆け、襲い掛かる大勢の敵をたった1人で返り討ちにしていく喬峯の姿は、まるでアメコミヒーローを観ているようで、実に痛快。

「現在、ハリウッド発のヒーローアクションものが映画界を席捲しているが、中国独自のヒーローの存在を知ってもらい、武俠映画の新たな高みを創り出したいと考えた」という言葉からしても、すでにイップ・マンという中国の英雄を演じた実績を持つドニーの真髄が詰まっています。

「天龍八部」ユニバースを想定?

(C)2023 Wishart Interactive Entertainment Co., Ltd. All Rights Reserved

疑惑と恩讐入り混じる戦乱の中、果たして喬峯は、自らの出生の秘密と事件の黒幕を暴くことができるのか?

「アメコミヒーローを観ているよう」と前述した本作『シャクラ』ですが、もしかしたらドニー・イェンは、マーベル・シネマティックユニバースやDCユニバースといったアメコミヒーロー映画のようなユニバース構想を、「天龍八部」で企画しているのでは…と思わせる節が。

そもそも本作には登場しなかった原作のキャラクターも多数存在しますし、何よりも喬峯のエピソード自体、まだまだ続きがあります。

ハリウッドでも活躍するドニーですが、やはり彼が本領発揮できる場は中国・香港映画。「イップ・マン」シリーズがひと段落着いた(…と思いきや自身のインスタグラムにて『葉問5(仮題)』の製作を発表!)今、ドニーが新たに仕掛けるやもしれぬ、“天龍八部ユニバース”の息吹を感じてみてはいかがでしょうか。

次回の『すべての映画はアクションから始まる』もお楽しみに。

【連載コラム】『すべての映画はアクションから始まる』記事一覧はこちら

松平光冬プロフィール

テレビ番組の放送作家・企画リサーチャーとしてドキュメンタリー番組やバラエティを中心に担当。主に『ガイアの夜明け』『ルビコンの決断』『クイズ雑学王』などに携わる。

ウェブニュースのライターとしても活動し、『fumufumu news(フムニュー)』等で執筆。Cinemarcheでは新作レビューの他、連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』『すべてはアクションから始まる』を担当。(@PUJ920219



関連記事

連載コラム

【ネタバレ】アベンジャーズ/エンドゲーム|感想解説と評価考察。結末エンドロールまで集大成のファン大感謝祭|最強アメコミ番付評33

連載コラム「最強アメコミ番付評」第33回戦 こんにちは、野洲川亮です。 今回は4月26日公開の『アベンジャーズ/エンドゲーム』をネタバレ考察していきます。 MCUシリーズ11年目、22作品目に作られた …

連載コラム

映画『食べる虫』あらすじ感想と評価解説。金子由里奈監督が死を望む少女と記録する少女の小旅行を描く|インディーズ映画発見伝6

連載コラム「インディーズ映画発見伝」第6回 日本のインディペンデント映画をメインに、厳選された質の高い映画をCinemarcheのシネマダイバー菅浪瑛子が厳選する連載コラム「インディーズ映画発見伝」第 …

連載コラム

実写映画『スポーン』あらすじと解説。ジェイミー・フォックスでリブートするダークヒーローとは|最強アメコミ番付評17

こんにちは、野洲川亮です。 今回は『ヴェノム』を生んだ作者の代表作、ダークヒーロー映画『スポーン』を解説していきます。 映画『スポーン』の魅力、そして2019年にジェイミー・フォックス主演で公開予定と …

連載コラム

細野辰興の連載小説 戯作評伝【スタニスラフスキー探偵団~日本俠客伝・外伝~】12

細野辰興の連載小説 戯作評伝【スタニスラフスキー探偵団~日本俠客伝・外伝~】(2020年12月下旬掲載) 【細野辰興の連載小説】『スタニスラフスキー探偵団~日本俠客伝・外伝~』の一覧はこちら CONT …

連載コラム

細野辰興の連載小説 戯作評伝【スタニスラフスキー探偵団~日本俠客伝・外伝~】11

細野辰興の連載小説 戯作評伝【スタニスラフスキー探偵団~日本俠客伝・外伝~】(2020年9月下旬掲載) 【細野辰興の連載小説】『スタニスラフスキー探偵団~日本俠客伝・外伝~』の一覧はこちら CONTE …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学