連載コラム『すべての映画はアクションから始まる』第41回
日本公開を控える新作から、カルト的に評価された知る人ぞ知る旧作といったアクション映画を時おり網羅してピックアップする連載コラム『すべての映画はアクションから始まる』。
第41回は、2024年1月5日(金)からTOHOシネマズ日比谷ほかにて全国公開の『シャクラ』。
“宇宙最強の男”ドニー・イェンが、香港の国民的小説「天龍八部」の武芸ヒーローを演じる超絶武侠歴史アクションです。
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映画『シャクラ』の作品情報
【日本公開】
2024年(香港・中国合作映画)
【原題】
天龍八部之喬峰傳(英題:Sakra)
【製作・総監督】
ドニー・イェン
【監督】
カム・カーウァイ
【共同製作】
ウォン・ジン(バリー・ウォン)
【原作】
金庸著「天龍八部」(徳間文庫・刊)
【アクション監督】
谷垣健治
【キャスト】
ドニー・イェン、チェン・ユーチー、リウ・ヤースー、ウー・ユエ、カラ・ワイ、チョン・シウファイ、グレース・ウォン、ドー・ユーミン、レイ・ロイ、チョイ・シウミン、谷垣健治(カメオ出演)
【作品概要】
「イップ・マン」シリーズ(2008~19)で“宇宙最強の男”の称号を得たアクションスター、ドニー・イェン主演の歴史アクション。
香港を代表する武侠小説家・金庸(きんよう)著の「天龍八部」の主人公の1人、喬峰(きょうほう)の活躍を描きます。
ドニーは総監督も兼任し、現場監督に『スーパーティーチャー 熱血格闘』(2019)のカム・カーウァイ、アクション監督に『燃えよデブゴンTOKYO MISSION』(2021)の谷垣健治と、長らくドニー主演作品に携わってきたスタッフが集結しました。
共演に2021年の東京国際映画祭にて上映された『リンボ』のリウ・ヤースー、『イップ・マン 完結』(2019)のウー・ユエ、『インビジブル・スパイ』(2019)のグレース・ウォンなど。
映画『シャクラ』のあらすじ
宋(そう)時代の中国。丐幇(かいほう=乞食の生活面における共同組織)の幇主・喬峯は、人々から慕われる英雄的存在でした。ところが突如、副幇だった馬大元殺しの濡れ衣を着せられてしまいます。
さらには漢民族ではなく契丹(きたん=モンゴル系民族)の血を引く者として丐幇を追放された喬峯は、自分を陥れた人物を探すとともに、自身の出生の真実を突き止めるべく旅に出る。
しかし彼の行く手には、さらなる罠が。武林(武術界)最強の技「降龍十八掌」を駆使して、刺客たちを次々と倒していく喬峯でしたが……。
ドニー・イェン視点でとらえた中国の英雄譚
1963年に香港で連載が開始した金庸の長編武俠小説「天龍八部」。11世紀末の宋の時代を背景に、段誉、喬峯(後の蕭峯)、虚竹、慕容復という4人を取り巻く群像劇として中華圏では幾度となくドラマや映画になっており、2021年には6度めのドラマ化となる『天龍八部 レジェンド・オブ・デスティニー』が製作されました。
本作『シャクラ』は、4人の中でも屈指の人気を誇るとされる喬峯のエピソードを主軸としており、彼の出生の謎や、根深い人種間対立がもたらす復讐譚が描かれます。
喬峯を演じるのは、「イップ・マン」シリーズ(2008~19)で“宇宙最強の男”の称号を得たアクションスター、ドニー・イェン。『ジョン・ウィック:コンセクエンス』(2023)の演技も記憶に新しい彼は本作で製作と総監督を兼任しており、なかでも監督業に至っては2004年の『ツインローズ』以来(共同監督)19年ぶりというだけあって、並々ならぬ情熱を注いでいます。
「私の喬峯は2023年の感覚で撮影している。自分に対するすべての批判に向き合い、言いたいことはあれど何も言うことができない。それでも喬峯は自分が正しいと思うことをし続けるんだ」と、ドニーの現代視点解釈による喬峯像を構築しました。
テレビドラマ『天龍八部 レジェンド・オブ・デスティニー』(2021)
アメコミヒーローのような無双アクション
アクション面においても、「2023年の視点で撮影した」というドニーの意向が反映されたと言えます。ズバリそれは、リアルファイトとデジタルVFXの融合。
喬峯の最大の武術である降龍十八掌は、これまで映像化された作品では拳や気功をベースに表現していましたが、ドニーは剣を使用したコレオグラフィをプラスしてVFXでド派手に演出。それでいて、トランポリンやワイヤーワークを用いた香港アクション映画の系譜もきっちり抑えています。
アクション監督の谷垣健治に「従来の型にはまった武侠映画を撮る気は全くない」と語ったというドニー。縦横無尽に無重力で空を駆け、襲い掛かる大勢の敵をたった1人で返り討ちにしていく喬峯の姿は、まるでアメコミヒーローを観ているようで、実に痛快。
「現在、ハリウッド発のヒーローアクションものが映画界を席捲しているが、中国独自のヒーローの存在を知ってもらい、武俠映画の新たな高みを創り出したいと考えた」という言葉からしても、すでにイップ・マンという中国の英雄を演じた実績を持つドニーの真髄が詰まっています。
「天龍八部」ユニバースを想定?
疑惑と恩讐入り混じる戦乱の中、果たして喬峯は、自らの出生の秘密と事件の黒幕を暴くことができるのか?
「アメコミヒーローを観ているよう」と前述した本作『シャクラ』ですが、もしかしたらドニー・イェンは、マーベル・シネマティックユニバースやDCユニバースといったアメコミヒーロー映画のようなユニバース構想を、「天龍八部」で企画しているのでは…と思わせる節が。
そもそも本作には登場しなかった原作のキャラクターも多数存在しますし、何よりも喬峯のエピソード自体、まだまだ続きがあります。
ハリウッドでも活躍するドニーですが、やはり彼が本領発揮できる場は中国・香港映画。「イップ・マン」シリーズがひと段落着いた(…と思いきや自身のインスタグラムにて『葉問5(仮題)』の製作を発表!)今、ドニーが新たに仕掛けるやもしれぬ、“天龍八部ユニバース”の息吹を感じてみてはいかがでしょうか。
次回の『すべての映画はアクションから始まる』もお楽しみに。
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松平光冬プロフィール
テレビ番組の放送作家・企画リサーチャーとしてドキュメンタリー番組やバラエティを中心に担当。主に『ガイアの夜明け』『ルビコンの決断』『クイズ雑学王』などに携わる。
ウェブニュースのライターとしても活動し、『fumufumu news(フムニュー)』等で執筆。Cinemarcheでは新作レビューの他、連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』『すべてはアクションから始まる』を担当。(@PUJ920219)