連載コラム『すべての映画はアクションから始まる』第30回
日本公開を控える新作から、カルト的に評価された知る人ぞ知る旧作といったアクション映画を時おり網羅してピックアップする連載コラム、『すべての映画はアクションから始まる』。
第30回は、1973年製作の伝説的アクションスター、ブルース・リーの代表作『燃えよドラゴン』。NHK BSプレミアムにて2022年7月20日(水)に放映されます。
【連載コラム】『すべての映画はアクションから始まる』記事一覧はこちら
映画『燃えよドラゴン』の作品情報
【日本公開】
1973年(香港・アメリカ合作映画)
【原題】
Enter the Dragon(中国語題:龍争虎闘)
【監督】
ロバート・クローズ
【製作】
フレッド・ワイントローブ、ポール・ヘラー、レイモンド・チョウ
【脚本】
マイケル・オーリン
【撮影】
ギルバート・ハッブス
【音楽】
ラロ・シフリン
【キャスト】
ブルース・リー、ジョン・サクソン、シー・キエン、ジム・ケリー、アーナ・カプリ、ロバート・ウォール、アンジェラ・マオ、サモ・ハン・キンポー、ジャッキー・チェン
【作品概要】
世界的アクションスター、ブルース・リーのハリウッド進出作。
1973年に製作されるも、同年7月20日にリーは夭折。アメリカでは8月、日本では12月に劇場公開され、一大クンフー映画ブームを巻き起こしました。
共演はジョン・サクソン、シー・キエン、ジム・ケリーのほか、下積み時代のサモ・ハン・キンポー、ジャッキー・チェン、ユン・ピョウも出演しています。
監督のロバート・クローズは後年、未完となっていた『ブルース・リー 死亡遊戯』(1978)、ジャッキー・チェン主演の『バトルクリーク・ブロー』(1980)も手がけています。
リー自ら監督したシーンを追加したディレクターズカット版も存在します。
映画『燃えよドラゴン』のあらすじとネタバレ
少林寺で、2人の男が模範試合で向き合います。1人は体格の良さが目立ち、もう1人は細身ながらも贅肉一つない鋼のような身体をしています。
試合が始まるも、細身の男が終始圧倒し、最後は締め技で決着。
試合の勝者となった少林寺の高弟リーは、国際情報局のブレイスウェイトから、香港から離れた要塞島にいるハンという男の調査を依頼されます。
ハンはかつては少林寺の高弟でしたが、悪事に手を染めて破門された後、島で武術アカデミーを興していました。しかしその裏では、麻薬密売と売春組織を牛耳っているとの疑いがありました。
島内で3年に1度開催されるという武術トーナメントの参加者として島に入り、先に潜り込むも連絡が取れなくなった女性調査員のメイ・リンと接触して内偵をして欲しいという依頼に、当初は消極的だったリー。
しかし父親から、数年前に死んだ妹のスー・リンは、ハンの手下オハラと仲間に襲われそうになった後、自ら命を絶ったと聞かされ、調査依頼を受けることに。
武術トーナメントの参加者には、借金を重ねてマフィアに追われているローパー、黒人蔑視した警官に暴力をふるって逃亡状態のウィリアムズもいました。
島に入ったリーら3人は、ハンに仕える女性タニアの招きでトーナメントの前夜祭に参加。リーはそこで、奉仕係になりすましたメイ・リンを見つけます。
宴が終わり、ローパーとタニアが一夜を共にする一方、リーはメイ・リンと接触。彼女は奉仕係の女性がハンに呼ばれた直後に、次々と姿を消していると告げます。
翌日、トーナメントが開始され、ローパーとウィリアムズは順調に勝ち上がります。その夜、リーは見張りをしていたハンの部下たちを倒しながら島を内偵。
その姿をベランダに出ていたウィリアムズが目撃するも、リーとは認識できませんでした。
翌日、トーナメント開始前にハンは、屈強な体の部下ボロに、リーに倒された見張り番を職務を怠った罰として殺させます。
トーナメントに出たリーの相手は、スー・リンを死に追いやったオハラ。リーに問答無用に叩きのめされ激高したオハラは、割れた瓶の欠片を手に襲い掛かるも、返り討ちに遭い命を落とします。
トーナメント終了後、ウィリアムズはハンに呼び出されます。
前夜の外出を部下に目撃されていたことで、島内を探っていた人物との関与を疑われたウィリアムズはハンのやり方に嫌気が差し、その場を離れようとします。しかし、左手に金属の義手を持つハンに惨殺されるのでした。
ハンに呼び出されたローパーは、地下のアヘン製造部に案内され、仲間になるよう誘われます。
働きアリとして牢屋に閉じ込めている囚人たちを嘲るハンは、誘いを躊躇するローパーにウィリアムズの死体を見せつけ、服従を強制。
一方、内偵を続けていたリーは、アヘン製造などの犯罪の証拠を見つけ、国際情報局に向けてモールス信号を送ります。
姿を見つけて襲い掛かるハンの部下たちを倒していくも、ハンに捕らえられるのでした。
すべてはブルース・リーから始まった
『燃えよドラゴン』シーン「板は反撃しない」
1973年12月22日、ある1本の映画が日本公開されました。
当時ベストセラーだった司馬遼太郎の『燃えよ剣』にあやかった邦題が付けられたその作品『燃えよドラゴン』は、ブルース・リーという無名俳優が主演ということで、期待値は高くありませんでした。
ところが封切られるや否や、響き渡る怪鳥音や無駄のない肉体が繰り出すアクションに圧倒され、かつ5か月前に急逝していたリーの神秘性に惹かれた観客がリピーターとなり、劇場は連日満員。1974年の日本配給収入トップ10で『エクソシスト』(1974)に次ぐ第2位を記録する大ヒットとなりました。
本作以降、日本のみならず世界でクンフー映画(当時は空手映画と呼ばれていた)が大ブームとなり、アクション映画に新たなジャンルを確立。
格闘技界でもリーを崇拝する者は数知れず、マニー・パッキャオやジョン・ジョーンズといった名だたる格闘家が影響を受けていることを公言すれば、本作の冒頭でのリーとサモ・ハンの模範試合シーンには、MMA(総合格闘技)のファイトスタイル「打・投・極」の原型があります。
ドニー・イェンがリスペクトを捧げる作品を作り続け、ブラッド・ピットが『ファイト・クラブ』(1999)で動きを模倣するなど、時代を経ても存在するフォロワーたち。
そのすべてはブルース・リーから始まり、そのきっかけは『燃えよドラゴン』から始まったのです。
ブルース・リーのすべてを集約
『燃えよドラゴン』シーン「考えるな、感じるんだ」
アメリカでの成功を望むも、アジア人ということで満足な役に恵まれず、失意のうちに香港に戻ったリーにとって、ワーナーブラザースというハリウッド・メジャー会社が出資する本作は、彼の悲願でした。
主演のみならず製作面でもイニシアチブを取り、監督のロバート・クローズは、処女作『闇の閃光』(1970)のアクションシーンを気に入ったリーの推薦で抜擢。
脚本も、マイケル・オーリンが書いた「007」シリーズを意識したスパイ要素高めの初稿から、自ら創設した武術哲学「截拳道(ジークンドー)」の要素を大幅に加え、少林寺での老師との会話シーンを追加で撮影(そのシーンは初公開版ではカットされるも、後年ディレクターズ・カット版で復活)。
アクションシーンでは、『ドラゴン危機一発』(1971)『ドラゴン怒りの鉄拳』(1972)、『ドラゴンへの道』(1972)といった過去作のコレオグラフィーを再現すれば、タイトルもワーナーが提示した『Blood and Steel』から、自身の強い希望で『Enter the Dragon(「ドラゴン登場」の意)』に変えています。
クライマックスの鏡張りの部屋のシーンも、リーが好きだったというオーソン・ウェルズ製作・監督の『上海から来た女』(1947)から引用するなど、『燃えよドラゴン』には細部に至るまでリーの“すべて”が集約されているのです。
2022年にはブルース・リーの命日に放映
『燃えよドラゴン』製作40周年記念特典映像
毎年必ずといっていいほど、どこかのチャンネルで放映される『燃えよドラゴン』。2022年には、NHK BSプレミアムにて7月20日(水)に放映されます。
ファンならこの日にちを聞けば、すぐピンとくるはず。7月20日はブルース・リーの命日にあたります。
「多くのものは型にはまっているが、型は超えなくてはならない」――リーが常々口にしていたというこの言葉は、少林寺で老師との会話シーンでも引用されています。
2005年には、分断が続くボスニア・ヘルツェゴビナ南部の都市モスタルに、「民族共通の英雄」としてリーの銅像が建てられました。俳優、武道家としてだけでなく、平和の象徴としての顔も持つ――その存在は正に、“型破り”です。
『燃えよドラゴン』は、間違いなく全世界を揺るがした、型破りな映画です。
次回の『すべての映画はアクションから始まる』もお楽しみに。
【連載コラム】『すべての映画はアクションから始まる』記事一覧はこちら
松平光冬プロフィール
テレビ番組の放送作家・企画リサーチャーとしてドキュメンタリー番組やバラエティを中心に担当。主に『ガイアの夜明け』『ルビコンの決断』『クイズ雑学王』などに携わる。
2010年代からは映画ライターとしても活動。Cinemarcheでは新作レビューの他、連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』『すべてはアクションから始まる』を担当。(@PUJ920219)