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Entry 2019/06/25
Update

映画『デヴィッド・リンチ:アートライフ』感想と評価解説。アカデミー名誉賞監督の創造の源とは|だからドキュメンタリー映画は面白い20

  • Writer :
  • 松平光冬

連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』第20回

『イレイザーヘッド』、『ブルーベルベット』を生んだ鬼才の“脳内”を覗いてみよう――。

今回取り上げるのは、2018年公開の『デヴィッド・リンチ:アートライフ』。

映画界で最も得体の知れない監督、デヴィッド・リンチの創造力の源に迫ります。

【連載コラム】『だからドキュメンタリー映画は面白い』記事一覧はこちら

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映画『デヴィッド・リンチ:アートライフ』の作品情報


(C)Duck Diver Films & Kong Gulerod Film 2016

【日本公開】
2018年(アメリカ・デンマーク合作映画)

【原題】
David Lynch: The Art Life

【監督】
ジョン・グエン、リック・バーンズ、オリビア・ネールガード=ホルム

【キャスト】
デヴィッド・リンチ

【作品概要】
『イレイザーヘッド』(1976)、『ブルーベルベット』(1986)、「ツイン・ピークス」(1990~91)シリーズなどの話題作、問題作を発表してきた鬼才・デヴィッド・リンチ。

映画のみならず、絵画、写真、音楽など、幅広いジャンルで独特の世界観を作り出しているリンチの創作の謎に迫ります。

彼自ら幼少期から青年期に抱えた退屈と憂鬱の日々を回顧しつつ、その得体の知れない創造力を考察していきます。

監督は、『リンチ1』(2007)、『Lynch 2』とリンチの過去のドキュメンタリーを手がけてきたジョン・グエンを中心とした3名で担当。

映画『デヴィッド・リンチ:アートライフ』のあらすじ


(C)Duck Diver Films & Kong Gulerod Film 2016

映像作品のみならず、絵画、写真、音楽など様々な方法で表現活動を続けているデヴィッド・リンチ。

美術学生時代の退屈と憂鬱、自身が「悪夢のような街」と評するフィラデルフィアの暮らし、そして映画監督デビュー作『イレイザーヘッド』を生むこととなる経緯を、リンチ本人が語ります。

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リンチ自身による25時間ものインタビュー


(C)Duck Diver Films & Kong Gulerod Film 2016

本作の見どころは、なんといってもデヴィッド・リンチ本人によるインタビューでしょう。

フィラデルフィアで家族と過ごした幼少期に、映画や美術などジャンルに囚われないアーティストとしての飛躍を夢見るも、思うようにならずに苦悩する学生時代。

後年に『マルホランド・ドライブ』(2001)でもコンビを組む美術監督ジャック・フィスクとの友情や、当時の妻ペギーの予期せぬ妊娠・出産を経て、ついに発表した『イレイザーヘッド』に至る過程などを、実に25時間ものインタビューで回顧していきます。

クセのある内容の映画ばかり手がけてきているだけに、リンチ自身もさぞかし劇的な人生を送ってきたのではと思いがちですが、本作を観ると意外にも平坦な道のりを歩んできたことが明らかとなります。

しかし裏を返せば、平坦な人生だったからこそ、その反動でめくるめく創作ヴィジョンを掻き立てて行ったとも言えます。

リンチの脳内ヴィジョンを引き出す工夫

(C)Duck Diver Films & Kong Gulerod Film 2016

監督の一人であるジョン・グエンは、リンチの過去のドキュメンタリー『リンチ1』から、彼との信頼関係を築いてきた人物。

本作でも、どちらかといえば寡黙なリンチから言葉を引き出すべく、ハリウッドにある自宅兼アトリエをインタビュー場に設定しつつ、カメラの存在を感じさせないよう尽力したと語っています。

実は本作製作時点においては、リンチの友人にもインタビューを行っていますが、あえて本編では使用しなかったとのこと。

リンチの創作ヴィジョンを探るには、やはりリンチ本人の言葉でしか表せられない――という監督の判断が働いたのは言うまでもありません。

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誕生が新たな“誕生”を生む


(C)Duck Diver Films & Kong Gulerod Film 2016

リンチがこれまでの歩みを回顧するという内容の本作ですが、過去の映画作品について振り返るという構成とはなっていません。

そのため、『ブルーベルベット』や『ワイルド・アット・ハート』(1990)の撮影秘話や裏話が知れるのでは?という目的でこれから本作を観ようと考えている方は、いささか肩透かしを喰らうかも。

ただ一つ言えることは、作品全体には“不穏”が漂っています。

リンチが淡々と語っているドキュメンタリー映画のはずなのに、これから何か良からぬことが起こるのでは?という気持ちになってくるのです。

おそらくリンチ作品の雰囲気に合わせての意図的な演出と思われますが、何よりもリンチ本人が醸し出す雰囲気がそう感じさせるのでしょう。

自作品についてはほとんど語らないリンチですが、唯一『イレイザーヘッド』について、「興行も意識せず本当に作りたいようにできて幸せな体験だった」と囁きます。

『イレイザーヘッド』は、生活苦に喘いでいた時期に妻ペギーの妊娠が発覚したことで、意図せずに自分が父親になることへの不安と恐怖を映画化したと云われています。

そして本作『デヴィッド・リンチ:アートライフ』でインタビューを受けることを決めたのは、2012年の娘の誕生がきっかけだったと語るリンチ。

娘の誕生が大きく関わっている『イレイザーヘッド』と『デヴィッド・リンチ:アートライフ』は、ある意味でコインの裏表的な存在なのかもしれません。

結論として本作もまた、“リンチワールド”に満ちた作品なのです。

参考映像:『イレイザーヘッド』予告

アカデミー賞名誉賞を受賞したリンチの今後は

リンチの近年の動きとしては、2017年に『ツイン・ピークス』の続編『ツイン・ピークス:リミテッド・イベント・シリーズ』(wowow放送時のタイトルは『ツイン・ピークス The Return』)を製作。

リンチが全18章すべての監督を務めたこのテレビドラマは、前作同様に難解なストーリー展開が話題を呼び、長らくのファンを歓喜させました。

一方、映画に関しては『ラッキー』(2018)に俳優として出演するも、監督としては2007年の『インランド・エンパイア』以降、劇場用長編映画を撮っていません。

それどころか、「今後映画を撮ることはないと思う」とも発言しています。

もはや映画という媒体では、自身が考える創作ヴィジョンを表現するには困難を擁すると自覚しているからこそ、彼は距離を置いたのでしょう。

そんなリンチに2019年6月、アカデミー賞を主催する映画芸術科学アカデミーが、名誉賞にあたるガバナーズ賞を授与すると発表しました。

これまでに3度のアカデミー賞監督賞にノミネートされたリンチですが、受賞はしていません。

映画制作への関心が希薄となっている現状を鑑みても、リンチが個人でアカデミー賞を受けるのは、これが最初で最後となる可能性が高いです。

もっとも、10月に開催予定の授賞式にリンチ本人が出席するかは分かりませんし、7月の時点で、受賞したことへの彼からのリアクションも一切示されていません。

いずれにせよリンチの動向からは、今後も目が離せなさそうです。

次回の連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』もお楽しみに。

【連載コラム】『だからドキュメンタリー映画は面白い』記事一覧はこちら

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