連載コラム『すべての映画はアクションから始まる』第25回
日本公開を控える新作から、カルト的に評価された知る人ぞ知る旧作といったアクション映画を時おり網羅してピックアップする連載コラム、『すべての映画はアクションから始まる』。
第25回は、2021年6月4日(金)より新宿バルト9ほかにて全国公開予定の『コンティニュー』です。
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映画『コンティニュー』の作品情報
【日本公開】
2021年(アメリカ映画)
【原題】
BOSS LEVEL
【監督・製作・共同脚本】
ジョー・カーナハン
【原案・脚本】
クリス・ボーレイ、エディ・ボーレイ
【製作】
フランク・グリロ、ランドール・エメット、ジョージ・ファーラ
【編集】
ケビン・ヘイル
【キャスト】
フランク・グリロ、メル・ギブソン、ナオミ・ワッツ、ミシェル・ヨー、ケン・チョン、アナベル・ウォーリス
【作品概要】
殺し屋に襲われる1日を繰り返す元デルタフォース特殊部隊員を描く、タイムループアクション。
主人公のロイを演じるのは「キャプテン・アメリカ」シリーズ(2014~16)、「パージ」シリーズ(2015~17)のフランク・グリロで、本作では製作も兼任。
物語の鍵を握る元妻ジェマ役を『インポッシブル』(2012)のナオミ・ワッツ、ラスボスとなるヴェンター大佐役を「リーサル・ウェポン」シリーズ(87~98)のメル・ギブソンがそれぞれ演じます。
『スモーキン・エース/暗殺者がいっぱい』(2007)、『特攻野郎Aチーム THE MOVIE』(2010)のジョー・カーナハンが監督と製作、および共同脚本を手がけました。
映画『コンティニュー』のあらすじ
朝目覚めた瞬間から、謎の殺し屋に襲われ殺される元デルタフォース特殊部隊員のロイ。
銃で撃たれることもあれば、爆弾で吹き⾶ばされ、首を切られることもあれば、刃物で刺されることも…。
しかし何度殺されても⽣き返り、同じ1日を繰り返すのです。
死のループから抜けだそうと何度もトライ&エラーを重ねる中、ロイは元妻の科学者ジェマから、タイムループの鍵を握る極秘計画の⼿掛かりをつかみます。
その計画には、謎の男ヴェンター大佐の危険すぎる野望が…。
はたしてロイは、ヴェンターを阻止し、タイムループを抜けて“明日”にたどり着くことはできるのか?
死ぬ度に強くなる――フランク・グリロの魅力が全開!
「同じ日を何度も繰り返す」という内容の、いわゆる“タイムループもの”映画。
本作『コンティニュー』の主人公ロイもまた、何度も何度も謎の殺し屋たちから殺されるも、その度に生き返る1日を送っていますが、記憶はリセットされません。
死んでも記憶がそのままという設定は、『恋はデジャ・ブ』(1993)や『ミッション:8ミニッツ』(2011)、または今年劇場公開の『パーム・スプリングス』(2021)でも踏襲された、タイムループもののお約束ですが、本作はそういう点でSFアクション『オール・ユー・ニード・イズ・キル』(2014)と似ています。
それじゃあ既視感がありすぎて面白くないのでは…と思う方もいるでしょうが、ロイ役をアクションスターのフランク・グリロが演じているというのがポイントです。
プレスリリースで紹介される際に、“マーベル映画(MCU)「キャプテン・アメリカ」、「アベンジャーズ」シリーズのヴィラン、クロスボーンズ役で知られる”、といった前置きがされがちなフランク・グリロ。
ですが、クライムドラマ『パージ』(2013)の続編2作『パージ:アナーキー』(2015)、『パージ:大統領令』(2017)での暴徒と戦う刑事や、SFアクション『スカイライン-奪還-』(2017)で地球侵略を目論むエイリアンと殴り合いをする警官など、頼れる主人公を多くこなしていることを忘れてはいけません。
そんな、「何があってもこの男がいれば安心」なグリロが、本作では銃で頭を撃ち抜かれ、爆弾で吹き⾶ばされ、車に轢かれ、日本刀で首を切られと、まるで殺人品評会のような死に方をする――このメタ的なブラックユーモアが、本作の最大の魅力と断言しましょう(メタといえば、MCUでクロスボーンズ役を演じたグリロが、宿敵キャプテン・アメリカの名セリフを喋るシーンも…)。
何度も死ぬ度に、「こういう行動をすれば死なない」、「この場所でこうすれば敵を倒せる」とレベルアップしていくロイは、まさにグリロがお得意とするキャラクターです。
ちなみに本作は、グリロと監督のジョー・カーナハンが共同で設立したプロダクション「ウォーパーティ・ピクチャーズ」が製作。
当初は20世紀フォックス製作で進む予定でしたが、グリロが主演することに難色を示し、立ち消えになったといわれています。
それだけに、「大手メジャー会社の意向にとらわれない、自分が作りたいアクション映画を撮る」というグリロの執念がこもっていると言えます。
『パージ:大統領令』(2017)
陰陽を行き来する監督ジョー・カーナハン
そんなグリロとのタッグで本作製作に着手したカーナハン監督は、長編2作目の『NARC ナーク』(2002)で脚光を浴びました。
秘めた過去を持つ2人の刑事の心情に迫る演出が際立つこのクライムドラマで、新たな社会派ドラマ監督の誕生と思われた矢先、次作『スモーキン・エース/暗殺者がいっぱい』では一転して、大金を狙う殺し屋とFBIのバイオレンスな攻防をブラックユーモア満載で描きました。
続く『プライド&グローリー』(2008)では過去のトラウマを引きずる刑事を主人公に、『NARC ナーク』を焼き直したようなクライムドラマを撮れば、次の『特攻野郎Aチーム THE MOVIE』では、上空で戦車が大砲を連発し、巨大コンテナを津波のようにやぐら倒しさせるなど、アクション映画ファンもビックリなやりすぎ展開を用意。
シリアステイストの“陰”なドラマと、コメディ色の強い“陽”なアクションを交互に撮り続ける監督は、カーナハン以外にいないかもしれません。
ただ、エクストリームなアクションからなる『コンティニュー』は、表向きこそ“陽”にカテゴライズされますが、もう一つの、“陰”の要素も含まれています。
カーナハンの“陰”ドラマに通底するのが、「辛い過去を持つ男の死と再起」です。
例えば、アラスカの山奥で遭難した男たちの極限サバイバル劇『THE GREY 凍える太陽』(2011)で、リーアム・ニーソン扮する主人公は、妻を亡くして生きる気力を無くしているも、次々と仲間を失ううちに「最強の敵を倒せたら死んでも悔いはない」として、襲い来るボス狼との決戦に臨みます。
また、監督と脚本を担当予定だった(最終的に脚本家としてクレジット)『デス・ウィッシュ』(2018)では、殺された妻の仇討ちで街の悪人を狩ることを生きる糧としていく男が主人公でした。
カーナハンが本作の想を得たのは、「あなたの作るコメディはあまり好きじゃない。あなたのドラマの方が好き」という妻の言葉からだったとか。
「だったらその両方が入った映画を撮ってやろうじゃないか」と、カーナハンは原案を書いたクリスとエディーのボレイ兄弟と共に、脚本を手がけました。
かくして完成したのは、自分の過ちで妻子と別居してしまった男が、何度も滑稽に死ぬ1日(ちなみにその日付である5月9日はカーナハンの誕生日)を繰り返すうち、その過ちを正そうとするという、まさしく「辛い過去を持つ男の死と再起」のお話。
「誰だって、過去の作品を超えることを願いながら作品を作り続けるものだ。この作品を撮ろうと思ったのも、そういう気持ちと大いに関係している」とカーナハンが語るように、本作は彼にとっての新機軸となるはずです。
『THE GREY 凍える太陽』(2011)
相対する2人の“ボス”
本作の原題『BOSS LEVEL(ボス・レベル)』とは、対戦型ゲームにおける最高難易度を誇るラスボス(Last boss)を意味します。
ここでいうラスボスとはヴェンター大佐(極悪ぶりが演技に見えないメル・ギブソンが必見!)ですが、一方のロイも、死んでコンティニューを繰り返ることでボス・レベル級に強くなっていきます。
2人の“ボス”が相対した先にあるものとは?
そして、タイムループを抜け出そうとするロイが選ぶ運命とは?
奇想天外な新感覚マッチタイプ(対戦型)アクションの、幕が開きます。
次回の『すべての映画はアクションから始まる』もお楽しみに。