連載コラム『いま届けたい難民映画祭2024』第4回
難民映画祭は、難民をテーマとした映画を通じて、日本社会で共感と支援の輪を広げていくことを目的とした映画祭で、世界各地で今まさに起きている難民問題、1人ひとりの物語を届けています。
第19回難民映画祭では、困難を生き抜く難民の力強さに光をあてた作品をオンラインと劇場で公開します。公開される6作品をCinemarcheのシネマダイバー・菅浪瑛子が紹介します。
今回紹介するのは、第7回難民映画祭(2012)で上映された『ぼくたちは見た -ガザ・サムニ家の子どもたち』(2011)。
難民映画祭は2024年11月7日(木)〜30日(土)までオンラインにて開催されます。
ジャーナリストの古居みずえが2008年から2009年にかけてのイスラエル軍によるパレスチナ・ガザ地区への攻撃の後ガザに入り、一族の大半を失ったサムニ家の子どもたちをカメラで捉えたドキュメンタリー。
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CONTENTS
『ぼくたちは見た -ガザ・サムニ家の子どもたち』の作品情報
【日本上映】
2011年(日本)
【監督】
古居みずえ
プロデューサー
野中章弘、竹藤佳世
音楽
ヤスミン植月千春
【作品概要】
監督を務めたのは、1988年よりパレスチナに目を向け、取材活動を続けてきた日本人ジャーナリストの古居みずえ。『ガーダ パレスチナの詩』(2006)で初監督を務め、本作は2作目の長編となりました。
また、2011年の東日本大震災を機に日本にも目を向け取材活動を始めた古居みずえは、福島第一原発の近くの飯舘村で仮設住宅で暮らす女性を捉えた、『飯舘村の母ちゃんたち 土とともに』(2016)、『飯舘村 べこやの母ちゃん それぞれの選択』(2023)の2作のドキュメンタリー映画を手がけました。
『ぼくたちは見た -ガザ・サムニ家の子どもたち』(2011)は、第7回難民映画祭(2012)で上映されました。
映画『ぼくたちは見た -ガザ・サムニ家の子どもたち』のあらすじ
2008年、イスラエルによるガザの攻撃が始まり、1400人という多くの犠牲を出しました。長年パレスチナを取材してきたジャーナリストの古居みずえは、すぐにガザへ向かいます。
ガザ南部の農業地帯ゼイトゥーンに住むサムニ家の子どもたちは、イスラエルの攻撃により、一度に一族の29人を失うという過酷な経験をしていました。
子どもたちはカメラに向かって自分が体験した恐ろしい経験や今の生活などを語ります。その心の傷の深さと、それでも懸命に生きようとする子供たちの姿が、そこにはありました。
映画『ぼくたちは見た -ガザ・サムニ家の子どもたち』の感想と評価
監督を務めたのは、1988年よりパレスチナに目を向け、取材活動を行ってきた古居みずえ。
パレスチナをはじめ、インドネシアのアチェ自治州、タリバン政権下のアフガニスタンなどを訪れ、現地の様子を取材してきました。そしてNHKのドキュメンタリー番組を手がけるほか、長編ドキュメンタリー映画としてパレスチナを舞台に『ガーダ パレスチナの詩』(2006)、『ぼくたちは見た -ガザ・サムニ家の子どもたち』(2011)を手がけました。
更に、東日本大震災を機に日本でも取材活動を始め、ドキュメンタリー映画『飯舘村の母ちゃんたち 土とともに』(2016)、『飯舘村 べこやの母ちゃん それぞれの選択』(2023)を手がけます。
そんな古居みずえ監督によるドキュメンタリー映画『ぼくたちは見た -ガザ・サムニ家の子どもたち』(2011)は、2008〜2009年にかけてイスラエル軍による軍事侵攻直後のガザの様子を映し出しています。
1400人という多くの犠牲を出した軍事侵攻。この侵攻の後も2012年、2014年、2021年とイスラエル軍は逃げ場のないガザに軍事侵攻をしています。そして2023年の10月7日から現在にかけて、市民に対する虐殺が今なお行われている状況です。
『ぼくたちは見た -ガザ・サムニ家の子どもたち』(2011)から10年余り。映画に登場した子どもたちは成人し、もしかしたら親になっている人もいるかもしれません。あの苦しみを繰り返し経験しなければならないむごさにやりきれない気持ちになります。
「なぜ私たちから奪ったの?」「なぜ目の前で家族を殺したの?」
映画の中で切実に問いかける子どもたちの姿に、瓦礫の中で子どもたちが泣き叫んでいる現在のガザの状況を思わずにいられません。ガザの人々が殺されていい理由などあるわけがありません。
子どもたちは家族が亡くなった時の様子を淡々と語ります。しかし、その光景は想像するのも恐ろしいほど凄惨な状況です。
それだけでなく、父親の血がついた石や、父親や家族を撃ったかもしれない薬莢を集めていたり、イスラエル兵のように顔を黒くすることでイスラエル兵がしたことを忘れずにいられると語っていたり……多くの子どもたちの心に負った傷の深さ、植え付けられたトラウマが与える影響を考えさせられます。
ガザだけでなく、多くの紛争を経験した子どもたちの心のケアというのは、大きな問題になっています。本作の中でも子どもたちがケアセンターの職員と絵を描いたり、体を動かしたりしている姿が映し出されています。
子どもたちが描く絵には、イスラエル兵の姿や赤く塗られ倒れた家族の姿が描かれています。忘れられない、忘れたくない記憶。
それだけでなく、「何でもない」と言いながら誰かに殴られたように激しく泣いていたという子どもや、イスラエルの侵攻後弟が小さい子を殴ることが増えたと言う子どももいました。戦争や紛争は終結すれば全て解決ではなく、何年も人々を苦しみ続けるものなのです。
瓦礫だらけで、住む家も、食べ物も、何もかも失い、それでも懸命に生きていこうとする人々。なぜ彼らは奪われ続けなければいけないのでしょうか。一刻も早く停戦をするために、自分ができることは何か考えるきっかけにもなるドキュメンタリーです。
まとめ
2023年10月7日から今も続くイスラエルによるガザへの軍事攻撃。幾度となく繰り返されてきましたが、ここまでの攻撃は前例になく、1年経った現在、4万2000人近くのパレスチナ人がガザ地区で殺されているといいます。
2006年、選挙によってパレスチナ自治政府の統治が穏健派からハマスに移行し、事実上ガザを支配するようになります。それによりイスラエルはガザを封鎖し、食料や燃料など生存に必要な物資を最低限しか供給しなくなりました。
逃げ場のないガザでは、軍事侵攻以前から厳しい生活は続いていました。そんななか起きた2008〜2009年のイスラエル軍による軍事侵攻。
「手をあげて出て行ったのに殺された」……無抵抗な市民に対する容赦ない虐殺。なぜそのようなことができるのか、と怒りすら感じます。それでも怒りや悲しみを抱えながら瓦礫だらけの街で生きていこうとする人々の強さが胸をうちます。
しかし、今を生きる私たちは、2009年以降も繰り返しガザの人々が奪われ続け、虐殺が続いていることも知っています。切実な子どもの瞳、その叫びを私たちは忘れてはいけないのです。
難民映画祭は2024年11月7日(木)〜30日(土)までオンラインにて開催されます。
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