Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2024/11/01
Update

『孤立からつながりへ ローズマリーの流儀』あらすじ感想評価。“難民の孤立”と向き合う女性が目指す“同じ人間”としての相互理解|いま届けたい難民映画祭2024・3

  • Writer :
  • 菅浪瑛子

連載コラム『いま届けたい難民映画祭2024』第3回

難民映画祭は、難民をテーマとした映画を通じて、日本社会で共感と支援の輪を広げていくことを目的とした映画祭で、世界各地で今まさに起きている難民問題、1人ひとりの物語を届けています

第19回難民映画祭では、困難を生き抜く難民の力強さに光をあてた作品をオンラインと劇場で公開します。公開される6作品をCinemarcheのシネマダイバー菅浪瑛子が紹介します。

難民映画祭は2024年11月7日(木)〜30日(土)までオンラインにて開催!

今回紹介するのは、孤立しがちな難民・移民の警察やコミュニティへの橋渡し役を続ける女性を描いた『孤立からつながりへ ~ローズマリーの流儀~』(2020)です。

【連載コラム】『いま届けたい難民映画祭2024』一覧はこちら

『孤立からつながりへ ~ローズマリーの流儀~』の作品情報

【日本上映】
2024年(オーストラリア映画)

【原題】
Rosemary’s Way

【監督】
ロス・ホーリン

【作品概要】
監督を務めたロス・ホーリンは、2017年度の難民映画祭でも『私たちが誇るもの アフリカン・レディース歌劇団』(2016)が上映されました。

警察とコミュニティの橋渡しを行う、地元のヒーローのような女性ローズマリーの姿を映し出したドキュメンタリー『孤立からつながりへ ~ローズマリーの流儀~』は、シドニー映画祭やビッグアップル映画祭などの映画祭にも出品されました。

映画『孤立からつながりへ ~ローズマリーの流儀~』のあらすじ

オーストラリアに住む難民や移民の中には、社会とのつながりを持てずに孤立してしまう女性たちがいます。

そんな女性たちを警察や難民・移民コミュニティとつなぐ橋渡し役の活動を続けているのは、自身も故郷から逃れてきたという経験を持つローズマリー。

ローズマリーは女性たちをコミュニティにつなぐだけでなく、イラク、コンゴ、ペルーなど多様な文化圏からやってきた女性たちとの交流も促していきます。

多文化共生、相互理解。難しいと躊躇してしまうことをローズマリーはパワフルな明るさと、自然体の姿で皆に指し示してくれます。

本作はそんなローズマリーの姿と、ローズマリーと出会い人生が変わったという女性たちの姿を映し出すドキュメンタリーです。

映画『孤立からつながりへ ~ローズマリーの流儀~』の感想と評価

手を差し伸べることの意義

警察に勤めながら、難民や移民のコミュニティの橋渡し役を務めるローズマリー。ローズマリー自身も、ケニアからオーストラリアへと渡ってきた難民であり、家庭内暴力のサバイバーでもあります。

ポジティブで明るいローズマリーは、時に親友のように、あるいは姉、母親のように人々に寄り添い、包み込みます

難民や移民の多くは、孤立し、社会が行うべき支援の手が行き届いていない現状があります。それだけでなく、DVなど社会的抑圧によって故郷を追われて難民となった女性や、難民となった地でDVに遭い社会との関わりを断たれた女性もいます。

オーストラリアの地では、故郷とは違い女性の社会進出が進んでいることから、女性が働きに出ることで自分の社会的地位が危うくなったと感じたり、難民となって仕事がなくなったりしたことで、男性からの抑圧が強くなるという背景もあると言います。

移住者にとって一番良くないのは孤立」とローズマリーは言います。外に出ることを禁じられた、仕事をしていたらPCの電源を切られてしまった……など女性たちが語るDVの体験は悍ましく、怒りも覚えます。

孤立し、抑圧を受けた女性が再び社会とつながりを持つのは大変なことです。一歩を踏み出す勇気と、どこに何を頼れば良いのか教えてくれる存在は大きな救いになります。ローズマリーによって救われた女性は数知れないのではないでしょうか。

難民の問題だけでなく、女性を取り巻く抑圧は未だ世界各地に蔓延っています。また現代社会において、女性だけでなく子どものDVも問題になっています。支援が必要なのに孤立している人々がいることは、現代を生きる私たちにとって身近な問題といえます。

「同じ人間」同士の相互理解という希望

ローズマリーが女性の社会復帰の手助けとして行なっている取り組みの一つに、コミュニティで行われるイベントがあります。イラクやコンゴ、ペルーなど様々な文化圏からやってきた女性たちが歌ったり踊ったり、共に食事を作ったりします

全く違う文化を持つ人々が集まり、互いのことを知ろうとする、その空間に差別や偏見はありません。トラウマを抱え、うまく人と交流できずにいた女性もコミュニティに受け入れられ自然と笑顔になっていきます

ローズマリーは決して無理強いはしません。それでも声をかけることはやめず、常に安心できるように働きかけているのです。

ドキュメンタリーを観ていると、まるでローズマリーが魔法使いのように思えてきますが、本来はそうあるべきなのです。互いをよく知らず、溢れかえった情報や、ヘイトによって誤解をし、知らずに壁を作っていることに気がつけないでいます

その壁を壊すのに大きな力は必要ありません。一歩踏み出して、互いを知ろうとする一人ひとりの歩み寄りが大切なのです。

難民や移民はよく分からない存在ではありません。同じ人間です。言葉が通じなくても、文化が違っていても、同じ人間です。交流することで分かり合える、そんな希望を感じさせてくれます。

まとめ

紛争や軍事侵攻によって難民や移民が増え続け、グローバル化も進みつつある現代社会において“多文化共生”という言葉も聞かれらようになってきました。

それは日本においてもそうです。また、コロナ禍によって加速した貧困、孤立……で特に問題になっているのは女性の孤立です。

“ご近所付き合い”など地域での連携も減ってきた現代社会において、コミュニティとはどうあるべきなのでしょうか。

ローズマリーの姿を見ていると、実は難しく考えすぎないほうが良いのかもしれないと思わせてくれますが、その一歩を踏み出すことが多くの人にはできません

それでも、少しでもいいから何か自分にできることをしてみよう、そんな勇気をくれるドキュメンタリーになっています。

難民映画祭は2024年11月7日(木)〜30日(土)までオンラインにて開催されます。

難民映画祭の詳細はHPにて

【連載コラム】『いま届けたい難民映画祭2024』一覧はこちら





関連記事

連載コラム

【ネタバレ】ゴジラ最新作内容は?マイナスワン続編か?考察で予想するG細胞感染が生む《ポスト・ゴジラ=新人類》時代|0-1方程式の名はゴジラ5

山崎貴監督による新作「ゴジラ」は《人種間戦争》? 日本制作の実写ゴジラシリーズ作品としては『シン・ゴジラ』(2016)以来の7年ぶりとなる「ゴジラ」生誕70周年記念作品として、山崎貴監督が手がけた映画 …

連載コラム

映画『空の大怪獣ラドン』ネタバレ感想と評価。メガヌロンの解説や特撮の見どころも|邦画特撮大全46

連載コラム「邦画特撮大全」第46章 2019年公開を目前に控えたハリウッド大作『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』。 この作品にはゴジラの他、キングギドラ、モスラ、ラドンといった東宝の人気怪獣たちも …

連載コラム

【映画ジョーカー特集】バットマン歴代の“恐怖のピエロ”一覧解説。怖さとキャラの秘密を紹介|最強アメコミ番付評36

連載コラム「最強アメコミ番付評」第36回戦 こんにちは、野洲川亮です。 今回は2019年10月4日公開、ヴェネツィア国際映画祭でアメコミ映画史上初の、コンペティション部門最高賞にあたる金獅子賞を受賞し …

連載コラム

アミール・ナデリ映画『山〈モンテ〉』内容解説と考察。「シーシュポスの神話」から不条理との戦いを読み解く|映画道シカミミ見聞録31

連作コラム「映画道シカミミ見聞録」第31回 こんにちは、森田です。 今回は2月9日よりアップリンク吉祥寺にて公開される映画『山〈モンテ〉』を紹介いたします。 題名が示すとおり、不毛の地にそびえる「山」 …

連載コラム

森達也映画『FAKE』ネタバレ感想と考察。ゴーストライター疑惑の作曲家・佐村河内守の真実と嘘|だからドキュメンタリー映画は面白い11

連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』第11回 “奇跡”の人から一転、“疑惑”の人へと変貌してしまった男。 日本中の注目を集めてしまった一人の作曲家に密着した、衝撃の119分。 『だからドキ …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学