連載コラム「おすすめ新作・名作見比べてみた」第4回
公開中の新作映画から過去の名作まで、様々な映画を2本取り上げ見比べて行く連載コラム“おすすめ新作・名作を見比べてみた”。
第4回のテーマは「手紙」です。
岩井俊二監督の新作で、代表作『Love Letter』(1995)の姉妹篇となる『ラストレター』が2020年1月17日から全国公開。
『ラストレター』は『四月物語』(1998)以来22年ぶりに岩井作品へ出演する松たか子、岩井作品へは初出演の福山雅治の2人が主演です。
また『Love Letter』のメインキャストであった中山美穂と豊川悦司の出演も話題となっています。
そこで今回は岩井俊二監督の代表作で「手紙」が題材の映画『Love Letter』(1995)と、その翌年に公開された作品で“メール”を題材にした『(ハル)』(1996)を見比べます。
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CONTENTS
映画『Love Letter』の作品情報
【公開】
1995年(日本映画)
【監督・脚本】
岩井俊二
【音楽】
REMEDIOS
【撮影】
篠田昇
【キャスト】
中山美穂、豊川悦司、酒井美紀、柏原崇、塩見三省、鈴木慶一、光石研、田口トモロヲ、鈴木蘭々、篠原勝之、范文雀、加賀まりこ
映画『Love Letter』の作品概要
ミュージックビデオやテレビドラマで活躍していた岩井俊二監督の初の長編映画作品。婚約者を亡くした女性・渡部博子と、その婚約者と同姓同名の女性・藤井樹の2人による奇妙な文通を通して描かれるラブ・ストーリー。
主演は中山美穂で、渡部博子と藤井樹の1人2役。中山は本作で各映画賞・映画祭で主演女優賞を受賞しました。相手役は当時TVドラマ『NIGHT HEAD』の主演などで若い女性を中心に人気を博していた豊川悦司。本作は1995年度キネマ旬報ベストテン第3位、読者選出ベストテン第1位に記録されるなど高い評価を獲得しました。
岩井俊二が描いた“少女漫画的世界”
」
山岳事故で婚約者“藤井樹”を亡くした渡辺博子は、藤井樹宛の手紙を彼がかつて住んでいた小樽へ差し出します。
すると“藤井樹”から返事が返ってきます。差出人の“藤井樹”はもちろん本人ではなく、同姓同名の女性。ただし彼女は亡くなった藤井樹の中学時代のクラスメイトだったのです。顔も知らない2人の不思議な文通が始まります。
手紙で語られる内容は中学時代の“藤井樹”についてです。手紙をやり取りしていく内に、それぞれが“藤井樹”への恋心を思い出していきます。
本作の特徴は視点の変換です。最初は手紙を差し出した渡部博子の視点で本篇が進んでいきますが、次第に視点は手紙を受け取った藤井樹へと変わり、物語の比重も彼女の方へかたむいていきます。
“天国へ差し出した手紙”という本作のコンセプトなど、本作からは少女漫画的な匂いを強く感じます。
特に手紙や図書館、顔がそっくりな2人の人物、物語の中心にいる人物がすでに故人である点など、本作の中心にある要素は萩尾望都の代表作である漫画『トーマの心臓』と共通しています。
手紙や図書館という要素は映画『チャーリング・クロス街84番地』(1987)からの転用のようで、実際に『トーマの心臓』からの影響があったのかどうかはわかりません。
ただし岩井俊二監督が少女漫画から影響を受けているのは、本人のインタビューでも時おり語られているため事実のようです。
映画『(ハル)』の作品概要
【公開】
1996年(日本映画)
【監督・脚本】
森田芳光
【撮影】
高瀬比呂志
【音楽】
野力奏一、佐橋俊彦
【主題歌】
THE BOOM
【出演】
深津絵里、内野聖陽、戸田菜穂、宮沢和史、竹下宏太郎、山崎直子、鶴久政治、平泉成
映画『(ハル)』作品概要
『の・ようなもの』(1981)や『家族ゲーム』(1983)などで知られる森田芳光監督のオリジナル企画で、当時まだ珍しかった“メール”と言うメディアをテーマに描いたラブ・ストーリー。
主演は深津絵里と、当時本作が映画出演2本目であった内野聖陽の2人です。深津は『阿修羅のごとく』(2003)、内野は『黒い家』(1999)、さらに戸田菜穂は『間宮兄弟』(2006)と、メインキャストの多くが本作以降の森田芳光監督作品にも出演しています。
また主題歌を担当しているTHE BOOMの宮沢和史、チェッカーズの鶴久政治、米米CLUBの元メンバー・竹下宏太郎など、他の出演者もユニークな面々となっています。
森田芳光が描いた新たなメディア“メール”
恋人を亡くした女性・(ほし)と、肩を壊してアメリカン・フットボールに挫折した男性(ハル)。顔も知らない2人ですが、メールのやり取りを通してお互いを理解していき、次第に惹かれあっていきます。
本作が公開された1996年はまだインターネットが普及しておらず、メールも珍しいメディアでした。
トム・ハンクスとメグ・ライアンが共演したハリウッド映画『ユー・ガット・メール』(1998)よりも3年近く早い公開で、森田芳光監督の先見性がうかがえます。
一方SNSが普及した現在の視点で本作を鑑賞すると、(ほし)と(ハル)の2人が初めて顔を合わせる際の感情や、大きなPCモニターなどの画面に映るガジェットがむしろノスタルジックな印象を与えます。
終盤に登場するフロッピーディスクも今となっては珍しい物になってしまいました。
劇中のパソコン通信のやり取りは一字一句すべて画面上に字幕で表現され、メールの場合は字幕に送信者の声を重ねるという演出がとられています。
(ハル)が(ほし)へ嘘の内容のメールを送った際、字幕の色が赤になる演出がありますが、これは「真っ赤な嘘」という意味でしょう。また無機質な字幕と対照的な(ほし)の手書きの「お品書き」が登場するのも。
まとめ
手紙を用いたラブ・ストーリー『Love Letter』と、パソコン通信を用いたラブ・ストーリー『(ハル)』。コミュニケーション・ツールを用いた恋愛映画という点、主人公の女性が恋人を亡くしている点などが2作に共通しています。
『Love Letter』が手紙に描かれる過去の描写に重点を置いて2人の女性の恋心を描いているのに対し、『(ハル)』には回想の描写がまったくなく(ほし)と(ハル)の2人が少しずつ前進していく過程が描かれています。
映画のジャンルや要素共通している2作ですが、表現方法や物語の構成は対照的なものとなっています。
次回の『映画おすすめ新作・名作見比べてみた』は…
次回のおすすめ新作・名作を見比べてみたは『日本沈没』(1973)と、リメイク版『日本沈没』(2006)を見比べます。お楽しみに。
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