連載コラム『おすすめ新作・名作見比べてみた』第2回
公開中の新作映画から過去の名作まで、様々な映画を2本取り上げ見比べて行く連載コラム“おすすめ新作・名作を見比べてみた”。
第2回のテーマは「スター・ウォーズ」。2019年12月20日(金)には「スター・ウォーズ」シリーズ・新三部作の最終作『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』が公開を迎え、“スカイウォーカー”をめぐる物語もついに幕を閉じます。
今回は、「スター・ウォーズ」シリーズの幕開けとなった第1作目『スター・ウォーズ/新たなる希望』の公開を控えた日本において東宝が製作した『惑星大戦争』(1977)、その作品のベースとなった特撮映画『海底軍艦』(1963)を見比べます。
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CONTENTS
映画『海底軍艦』の作品情報
【公開】
1963年12月22日(日本映画)
【原作】
押川春浪
【監督】
本多猪四郎
【脚本】
関沢新一
【特技監督】
円谷英二
【キャスト】
高島忠夫、藤山陽子、藤木悠、佐原健二、小泉博、平田昭彦、小林哲子、田崎潤、天本英世、上原謙
映画『海底軍艦』の作品概要
押川春浪の科学冒険小説『海底軍艦』を自由かつ大胆に翻案した特撮映画。監督には本多猪四郎、特技監督には円谷英二、脚本は関沢新一と、メインスタッフは数多くの東宝特撮映画を生み出してきた黄金トリオ。
主人公を演じた『キングコング対ゴジラ』(1962)の高島忠夫のほか、藤木悠、佐原健二、平田昭彦、小泉博と、出演者も東宝特撮映画でお馴染みの面々が顔を揃えています。
キャストで衝撃的なのがムウ帝国猊下(長老)を演じる天本英世。長い白髪とヒゲに杖といかにも老人という出で立ちですが、天本英世は当時まだ38歳だったのです。
人気メカ“轟天号”の初登場作品
YouTube『海底軍艦』(1963)予告編
1万2千年前に海の底に沈んだ“ムウ帝国”が、地熱エネルギーを利用して海底で生き延びていました。彼らは地上を植民地とするため、世界各地を総攻撃します。ムウ帝国の脅威に対し、終戦間際に消息を絶った旧日本海軍の神宮司大佐が密かに建造した万能潜水艦“轟天”が挑むのです。
前半は相次いで失踪する技術者たちをめぐるサスペンス・スリラー風、中盤は海底軍艦“轟天”を建造する旧日本海軍を追って南の島へ向かう冒険ロマン風になっています。そしてクライマックスは特撮を駆使した轟天とムウ帝国との激突が見せ場となっています。本作『海底軍艦』は様々なジャンルを横断した楽しい娯楽映画なのです。
『海底軍艦』の見所はやはりタイトルにある海底軍艦“轟天”でしょう。全長150メートル・自重1万トンという魚雷型潜水艦で、船首にある高速回転ドリルと絶対零度冷線砲などの武器が搭載されています。東宝特撮映画に登場するメカの中でも特に人気の高いものの1つで、後述する『惑星大戦争』や『ゴジラFINAL WARS』(2004)にも登場。
劇中で轟天を設計・建造したのは、神宮司大佐率いる「轟天建武隊」です。彼らは太平洋戦争末期に消息を絶った大日本帝国の軍人で、終戦から20年近く経っても日本再興を目指しています。本作の公開は終戦から18年後の1963年で、東京オリンピック開催の前年です。この轟天建武隊は戦争の記憶がまだ鮮明だった時期ゆえに可能だった設定でしょう。
本作のもう一つの見所が敵であるムウ帝国。女性の皇帝を頂く帝国で、マンダという巨大な竜を崇拝しています。ムウ帝国皇帝はクレオパトラを思わせる風貌で、ほかのムウ帝国人や王宮なども古代エジプト文明を彷彿とさせるデザインで統一されています。また彼らが赤や紫などビビッドな髪色をしているのもユニークです。
映画『惑星大戦争』の作品情報
【公開】
1977年12月17日
【原案】
神宮寺八郎
【監督】
福田純
【脚本】
中西隆三、永原秀一
【特技監督】
中野昭慶
【キャスト】
森田健作、浅野ゆう子、沖雅也、宮内洋、新克利、山本亘、平田昭彦、中山昭二、大滝秀治、睦五郎、池部良
映画『惑星大戦争』の作品概要
劇場用アニメーション映画『劇場版 宇宙戦艦ヤマト』(1977・8月)のヒット、翌年には『スター・ウォーズ』(米公開1977・5月)の日本公開が控えるなどの当時のSFブームを受け、東宝が製作したのが本作『惑星大戦争』です。『海底軍艦』に登場した万能戦艦“轟天”を宇宙に上げるというコンセプトのもと製作されました。
本作の監督である福田純と特技監督の中野昭慶は『ゴジラ対メカゴジラ』(1974)のコンビです。主人公である轟天号の乗組員には森田健作、浅野ゆう子、沖雅也とこれまでの東宝特撮映画とは違う空気感を持った面々が選ばれました。一方敵役である銀河帝国司令官ヘルには、『ゴジラ対メカゴジラ』でも敵の侵略者を演じた睦五郎がキャスティングされています。
宇宙(そら)飛ぶ戦艦“轟天”
YouTube『惑星大戦争』(1977)予告編
時代は1988年、舞台は“銀河帝国”と名乗る侵略者によって無差別攻撃を受ける地球。国連は滝川博士が設計・建造した宇宙防衛艦“轟天”を金星へ向かわせ、地球侵略を狙う恒星ヨミ第3惑星人の軍勢と戦うのです。
本作『惑星大戦争』はズバリ宇宙版『海底軍艦』。原案にクレジットされている“神宮寺八郎”は田中友幸プロデューサーの変名で、『海底軍艦』に登場する神宮司大佐から取られた名前です。人類が轟天を武器に侵略者と戦う、敵側が轟天の建造計画を察知しその存在を危険視する点など、『惑星大戦争』の物語の大枠は『海底軍艦』とほとんど同じなのです。
次に『海底軍艦』と『惑星大戦争』の相違点を見てゆきます。ムウ帝国が古代エジプトを思わせる文化を有していましたが、本作の敵であるヨミ第3惑星人は古代ローマ帝国風にその見た目などがまとめられています。ヘル司令官は古代ローマ帝国風の甲冑に身を包んでいますし、敵の戦力である“金星大魔艦”もガレー船を模したデザインをしています。
そして轟天のデザインも『惑星大戦争』ではリファインされています。『海底軍艦』に登場した轟天は曲線を強調した円筒形でしたが、本作に登場する轟天はより戦艦然としたデザインとなりました。船首のドリルの装備は変わらずにあるほか、リボルバー・ビームという武器が新たなに装備されました。
まとめ
中野昭慶監督によると『海底軍艦』は撮影期間が実質3週間というハードなものだったそうです。そのため円谷英二率いるA班、川上景司のB班、中野昭慶のC班という3班同時進行で撮影が行われました。『惑星大戦争』も同様にタイトなスケジュールで製作され、本編3班・特撮2班体制で撮影が行われています。
過酷な状況で製作された点は同じなのですが、『惑星大戦争』は『海底軍艦』に比べどこか映像に寂しさを感じてしまいます。『惑星大戦争』検討稿には、動く植物のツタによる襲撃やナメクジのような金星怪獣、敵の大神殿などが登場しており、『海底軍艦』に似た雰囲気のものでした。これらの要素が登場していれば、また違った作品に仕上がっていたのではないでしょうか。
次回の『映画おすすめ新作・名作見比べてみた』は…
次回の『おすすめ新作・名作を見比べてみた』は今回と同じく「スター・ウォーズ」をテーマに、『宇宙からのメッセージ』(1978)と『里見八犬伝』(1983)を見比べます。お楽しみに。
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