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Entry 2019/03/14
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【大阪アジアン映画祭インタビュー】暉峻創三プログラミング・ディレクターに聴くアジア作品の現在|OAFF大阪アジアン映画祭2019見聞録7 

  • Writer :
  • Cinemarche編集部
  • 加賀谷健

連載コラム『大阪アジアン映画祭2019見聞録』第7回

いよいよ開幕した第14回大阪アジアン映画祭

2019年はアジアの17の国と地域から51作品が集まり、プログラムにはスリランカや香港の有名監督の最新作の他に、韓国、中国、台湾、フィリピン、タイ、ベトナムなどの国々の注目作が並びます。

その多くが日本初上映。なかには海外初上映作品も含まれています。これらの作品の水準は高く、国内の主要映画祭と比べると群を抜くものが多く上映されています。

「大阪発」をモットーに映画祭を強化してきたプログラミング・ディレクターの暉峻創三

2019年に14回目を迎えた映画祭の開催趣旨を伺い、アジア映画の魅力などを語っていただきました。

【連載コラム】『大阪アジアン映画祭2019見聞録』記事一覧はこちら

映画祭運営での大きな改革

──大阪アジアン映画祭発足と、暉峻さんがプログラミング・ディレクターに就任された経緯を教えてください。

暉峻創三(以下、暉峻):発足した時、僕はいなかったんですが、映画祭が始まったのは2005年で今年で14回目。

最初は「韓国エンターテインメント映画祭」と呼ばれていて、それが成功し翌2006年は韓国映画だけでなくアジア映画全体をやろうということになり、第2回から「大阪アジアン映画祭」になりました。

第3回の時に東京国際映画祭側の人間として協力したのが最初です。東京国際で上映した作品を大阪にも貸し出したという感じです。

直接関わるようになったのは2009年の第4回で、当初は特集の一つを依頼されたのですが、最終的には全体のプログラムを担当しました。

──プログラミング・ディレクター就任後の作品選びについてお聞かせください。

暉峻:大阪で初めて上映する作品をメインに据えたということです。

東京でやったものを大阪にもってくるのではなく、むしろ大阪初、その後、東京や海外に紹介していく方向で考えていました。

このことが評価され、翌年からは単に作品選びということではない、もっと深い関わり方をするようになりました。


©︎ Cinemarche

──資金面での施策などはいかがでしょうか?

暉峻:映画祭はお金の問題が常に切って離せません。

最大の資金源は大阪市ですが、財源の面での多角化が自分としては重要なこととしてあって、大阪市のお金だけに頼る映画祭にはしないように考えました。

それは、大阪市の文化関係の予算が減っていくことが目に見えていたことと、映画祭の独立性という二つの理由からです。

ある一つのところに資金源が縛られているのはあまり健康的じゃない。プログラムをやりながら色々な資金源を作っていくようにしました。

特に日本初上映という評価が高まってからは、文化庁系の「芸術文化振興基金」が割と大きな補助金を出してくれるようになったんです。

その後、国際交流基金や海外の政府とも相談し協賛金を出してもらうようになり、今はかなり多角化されている状態です。

プログラミング・ディレクターの仕事というと作品選びばかりのようですが、そうした資金面の多角化が自分が就任してからの一番の改革点ですね。

“受け皿”としての大阪アジアン映画祭


©︎ Cinemarche

──国内の他の映画祭とのプログラムの違いはいかがですか?

暉峻:最近は国際映画祭に入選するために作られたと思しき作品が目立つ映画祭も多いですが、大阪アジアン映画祭では、現地の観客に見せるために作られた映画の紹介を、重要視しています。

今年の例で言えば『オレンジ・ドレスを着た女』のように、フィリピン現地では広く見られているけれど、海外の映画祭では初紹介となる作品があります。

アジアの“今”が反映されたプログラム


©︎ Cinemarche

──2017年の第12回、2018年の第13回と2年連続で香港映画がグランプリを受賞し、今年の第14回でも香港映画特集が組まれていますが、それはアジア圏の中で大きな流れがある国の映画の勢いと熱気を伝えるということでしょうか?

暉峻:香港特集に関しては、香港政府が大阪アジアンを評価し、7年前から協賛してくれているんです。

年によって規模は変わりますが、香港映画『十年』をやったあたりが雰囲気的には変わり目だと思います。

香港自体のマーケットは小さいので、香港映画人も中国大陸のお客さんに向けて作るのが返還後のトレンドになっています。

けれど、香港の観客たちは自分たちの物語を見たいとか、自分たちがほんとうに自己同一性を感じられる映画を見たいという気分が盛り上がっているわけです。

さらに中国に呑み込まれることへの恐怖もあります。そういうのが最初に現れたのが『十年』で、大阪がインターナショナルプレミアでした。

香港でも大ヒットし、その年の香港電影金像奨でもグランプリを受賞しましたよね。

その頃から大阪アジアンでも、香港人たちが自己同一性を感じられる映画を優先的に紹介するようになりました。

香港人のために作られた香港映画を上映するという性格が強くなってきていますね。

インディーズ系作品を世界へ発信するメリット


©︎ Cinemarche

──東京国際映画祭では「アジアの三面鏡」が若いクリエイターにとっての交流の場として機能していましたが、大阪アジアン映画祭では特に人材交流に力を入れているのでしょうか?

暉峻:様々な機会を作って日本を含むアジア映画人の交流を促進しています。

また日本映画が海外に出ていくための交流窓口になる、という考えもあります。

ここで初上映された日本映画がその後、海外のサイトで紹介され、ヨーロッパの有名な映画祭に招待されていく流れも出来ています。

特にインディ・フォーラム部門はチケット販売上は苦労の多い部門ではあるのですが、インディーズ系の日本映画を海外に紹介していく意義を考えて、重点部門の一つとしています。

大阪アジアン映画祭にとっても、この部門があるが故に、海外の映画人、ジャーナリストや映画祭関係者が注目してくれるというメリットも、ありますね。

オープニング・クロージング作品の選定の新機軸

──オープニング作品とクロージング作品が両方とも日本監督の作品という意図は何かありますか?

暉峻:奇しくも2019年は、オープニングもクロージングも日本人の監督の作品にはなりましたね。

ただオープニング・クロージング作品に関しては、2015年の第10回が新機軸を打ち出すことになった年でしたね。

どこの映画祭でもオープニング・クロージングは派手な映画をやるじゃないですか。

それが確かに世界の映画祭の常識ではあるんで、自分でも一時期当然のようにそうしていましたが、第10回からはその考えを意識的にはっきり変えたんです。

アジアで最も成功した映画祭と言われる釜山国際映画祭を研究してみると、意外とオープニング・クロージングにマイナーな映画を持ってきてるんですよ。

これだけ名声を確立した映画祭なのに、20年近い歴史の中でオープニングとクロージングはどちらもアジア映画で固めるというのは常に踏み外さずやってるし、どちらかにインディーズ映画をやったりしています。

それも参考にして、オープニングとクロージングの華やかな場をあえてちょっとマイナーな映画や社会的課題を孕む問題作にそのスペースをあげることの方が社会に対しての意義があると考え始めたんです。

──映画祭に来られた来場者の反応はいかがですか?

暉峻:開閉幕作の座に据えたことでそれで見にきてくれたお客さんが凄くいらっしゃいますね。

もし同じ映画をインディ・フォーラム部門でやってたら、ここまでお客さんは来なかったような映画でも、開閉幕作であることによって見に来てくれる人々がいる。

そういう人たちが、一人でも多く日本を含むアジアで作られてる映画の面白さや、意義に目ざめてくれれば、と思っています。

映画祭が志向するもの


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──プログラミング・ディレクターとしての暉峻創三さんの今後の展望をお聞かせください。

暉峻:年々新しいことを考えるんじゃなく、一貫してここ10年、大阪発、日本全国、そしてアジアへという標語を掲げてやっています。

基本的にはその継続ですね。

大阪発でアジア映画に関する何かを発見して、日本中に紹介され、世界中に紹介されていく映画祭でありたいと考えています。

2018年は香港映画の『中英街一号』が世界初上映でグランプリになって、その時まで香港で公開出来る目処がなかったのが、グランプリをとったことによって香港でもロードショーに至りました。

このように、単に大阪で上映して大阪のお客さんに喜ばれて終りではなく、映画祭自体が世界に対しても未来に対しても役割を果たしていけるものになっていくべきだと思っています。

必見の作品

『WHOLE』予告編


──最後に「これだけは見て欲しい」という、おすすめ作品を教えてください。

暉峻:すべての作品が、「これだけは見て欲しい」作品です。

なので、敢えて見逃されがちなものからに限定して選ぶなら、まず日本映画では、川添ビイラル監督の『WHOLE』というのがインディ・フォーラム部門に入っています。

神戸在住の監督が自身の生活に根ざして構想した素晴らしい作品なので、これは必見ですね。

『アサンディミッタ』予告編

逆にうんと遠くから選ぶと、コンペディション部門の『アサンディミッタ』という作品がスリランカから来ています。

このアソカ・ハンダガマ監督は、香港で言えばウォン・カーウァイ、台湾で言えばホウ・シャオシェンに相当する存在です。

この先日本でのロードショーが難しい『アサンディミッタ』も必見ですね。

暉峻創三(てるおか そうぞう)のプロフィール


©︎ Cinemarche

80年代後半よりアジア映画に注目し、批評活動を開始。

2002年に東京国際映画祭「アジアの風」部門プログラミング・ディレクターに就任します。

2009年からは大阪アジアン映画祭プログラミング・ディレクターとなり、アジア映画の発掘に努めています。

主著に『香港電影世界』、監修書に『中華電影データブック完全保存版』(2010)などがあります。

インタビュー/ 加賀谷健
写真・監修/ 出町光識

【連載コラム】『大阪アジアン映画祭2019見聞録』記事一覧はこちら

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