連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2021見破録」第41回
世界各地の埋もれかけた貴重な映画を発掘する「未体験ゾーンの映画たち2021見破録」。第41回で紹介するのは『スプートニク』。
東西冷戦時代、アメリカと激しく競ったソビエト連邦の宇宙開発。一時は世界をリードし、社会主義陣営の優位を示したと世界に宣伝されます。
一方で軍事利用や事故の隠ぺいなど、秘密のベールに包まれた旧ソ連宇宙開発。それを背景に描かれたSFホラー映画が誕生しました。
宇宙船事故の隔離された生存者に謎の生命体。秘密裡に処理された事故の背後には陰謀が潜んでいたのです。
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CONTENTS
映画『スプートニク』の作品情報
【日本公開】
2021年(ロシア映画)
【原題】
Спутник / Sputnik
【監督】
エゴール・アブラメンコ
【出演】
オクサナ・アキンシナ、フョードル・ボンダルチュク、ピョートル・フョードロフ、アントン・ワシーリエフ
【作品概要】
地球への帰還中に事故を起こした宇宙船の生存者は、軍事施設に監禁されます。彼を診察した女性医師は、恐るべき事実に遭遇します。旧ソ連を舞台にしたSFスリラー映画。
監督はこれが初長編映画のエゴール・アブラメンコ。彼の短編映画『Пассажир(Passazhir)』(2017)をより発展させた本作を手がけました。
主演は『ヴァーサス』(2016)のオクサナ・アキンシナ。『ワールドエンド』(2020)のピョートル・フョードロフ、『アトラクション 制圧』(2017)シリーズの監督フョードル・ボンダルチュク、『ストリート・レーサー』 (2008)のアントン・ワシーリエフらが共演した作品です。
映画『スプートニク』のあらすじとネタバレ
1983年、ソビエトの宇宙船オービタ4号の乗員コンスタンティン(ピョートル・フョードロフ)は、『百万本のバラ』の歌を歌っています(『百万本のバラ』は原曲は1981年のラトビアの歌で、翌年ロシア語版が生まれソ連の大ヒット曲になる)。
同僚のキリルと地球に帰還した後が話題になり、彼はロストフに行くと答えます。キリルは女性かと聞きますが、詳しく話さないコンスタンティン。
宇宙船の帰還カプセルが切り離されます。異常な振動が起きますが、カプセルの姿勢の安定に成功します。緊張を解いて笑う2人。
ところがカプセルの外から奇妙な音が聞こえます。窓の外で何かが動いていました。その音はハッチへと移動します…。
パラシュートを開いた帰還カプセルは、旧ソ連のカザフスタンに降下します。馬に乗った遊牧民風の男が直陸したカプセルに近寄りました。
そこには頭部を損壊した宇宙飛行士キリルの体がありました。カプセルからはコンスタンティンが苦しみながら姿を現します…。
モスクワのソ連科学アカデミー脳医学研究所では、査問会が開かれます。脳神経生理学者の女性医師タチアナ・ユリエヴァナ(オクサナ・アキンシナ)は、査問委員から追及されました。
彼女は17歳の少年を救おうと、通常の手順を逸脱した蘇生処置を行いました。それが人命を危険にさらしたと追及されたのです。納得していない表情を見せるタチアナ。
この件で彼女は少年の母親から告訴されていました。自分の処置は正しいとタチアナは強く主張しますが、委員会は彼女が責任を認め解雇を受け入れるか、裁判で争うか選択しろと迫ります。
まだ査問委員と争う姿勢の彼女を1人の男が見つめていました。査問会終了後、彼はタチアナに近づきました。
男は警戒するタチアナにセミドラフ(フョードル・ボンダルチュク)と名乗ります。自分は保険省の人間ではない、一緒に来て欲しいと告げるセミドラフ。
軍人らし男に、2週間待って欲しいとタチアナは告げます。診せたいが動かせない患者がおり、すぐ来て欲しいと言うセミドラフに、彼女はそれは命令かと尋ねました。
自分は科学者で研究所を持っている、患者は君の興味を引くはずと話すセミドラフ。タチアナは承諾しました。
彼女はセミドラフと共にヘリコプターに乗ります。患者のカルテが見たいと言うタチアナに、機密扱いで書類は無いと答えるセミドラフ。
かれは口頭で説明します。患者は宇宙船オービタ4号で事故に遭い生還した宇宙飛行士のコンスタンティン。彼は英雄だと報道されていました。
事実は報道と異なり、オービタ4号は帰還前日に交信が途絶え、何か事故があったとセミドラフは説明します。記憶を失い異常な言動も見られるコンスタンティンを、秘密裡に治療して欲しいと言うのです。
ヘリから降りたタチアナは、カザフスタンの厳重に管理された秘密研究施設に案内されます。セミドラフは施設の責任者であり軍人で、彼女とコンスタンティンの元に向かいました。
コンスタンティンは取調室のような隔離室で、催眠療法で記憶を呼びさまそうとされます。階級と名を聞かれ、陸軍元帥のロバート・デュヴァルと答えるコンスタンティン。
からかわれたと受けとったヤン・リゲル医師(アントン・ワシーリエフ)に、コンスタンティンは精神的強さも条件に選ばれる宇宙飛行士は、催眠術にかかりにくいと言いますこれは催眠術でなく医学療法だとリゲルは怒ります。
タチアナにリゲルは研究所の科学部長だと紹介するセミドラフ。その彼をコンスタンティンは大佐と呼びました。
彼は同僚の安否を尋ねます。事故の責任を取らせ自分を有罪にしてもいい、そうでないなら解放しろ、場合によってはハンストで抗議すると叫ぶコンスタンティン。
隔離室に入るタチアナ。彼にお茶の入ったコップを勧め、自分はあなたを評価するよう求められたと説明します。
部屋にあった赤ん坊の、おきあがりこぼし(ロシアでも一般的な乳幼児玩具)が誰のものか聞くタチアナ。自分のもので、宇宙飛行士が宇宙に身近な物を持ち込む伝統に従ったと話すコンスタンティン。
タチアナに何を覚えているか聞かれ、彼は地球に帰還する準備を始めたことは覚えているが、その後の記憶は無く気が付けばこの施設にいたと説明します。
コンスタンティンは彼女に自分を外に出せるか尋ねます。権限は無いが力にはなれると告げるタチアナ。
彼はタチアナにモスクワに戻ったら、母に電話し無事だと伝えて欲しいと頼み、電話番号を渡します。心配させた家族のために必ず家に戻ると言うコンスタンティン。
隔離室から出たタチアナは彼をどう診察するか聞かれますが、彼女はもう行ったと答えます。コンスタンティンはPTSDを発症し、熱いコップを平気で持つ彼は指先の感度は低下し、末梢神経が破損している可能性があると指摘しました。
しかし事故に遭遇し、監禁されたことを考慮すれば彼は正常。診断は終わり帰りたいという彼女に、セミドラフは帰りのヘリは明日発で、一晩施設に泊まるよう告げます。
大佐は兵士にタチアナを宿舎へ案内させます。彼女は敷地内で作業中の男たちを目にします。それは労役に駆り出された囚人でした。
部屋に案内された彼女はモスクワに電話したいと告げますが、ここには長距離電話は無く、使用には大佐の許可が必要と告げられます。
シャワーを浴びるタチアナの背には、背骨に沿って大きな傷跡がありました。シャワーから出ると持参した薬を服用するタチアナ。
寝付かれない彼女は敷地内をランニングし、労役中の囚人とぶつかります。彼女の手を握り、離さない囚人を兵士が注意し彼女を去らせました。
部屋に戻った彼女をセミドラフ大佐が迎えに来ます。彼女を監視室に案内した大佐は、時間が来ると部屋の防護扉を閉め、兵士たちを配置します。
隔離室内で眠るコンスタンティンは苦しみ、その姿は暗視カメラで撮影されています。彼の口から何かがゆっくりと吐き出されます。
彼の体内から現れた、粘液と被膜に包まれた何かはゆっくりと四肢を広げます。タチアナに奴と会いたくないか、とささやく大佐。
隔離室に近づいた彼女は、ガラス越しに生き物と対面します。不気味な姿の生き物は彼女を見つめ、飛び掛かかって激しくガラスに衝突します。
驚き倒れたタチアナは廊下に出ます。大佐にあれは何かと尋ねますが、地球上の物では無いと答えるセミドラフ。
この生命体はコンスタンティンの体内に潜んで生息します。宿主の体に大きなダメージを与えず、体外で活動後また彼の体に戻るのです。コンスタンティンはこの事実に全く気付いていません。
コンスタンティンと同じ宇宙船の飛行士は死んだと告げ、自分は宇宙で何が起きたか解明するのが使命だ。君に彼と宇宙生命体を分離する方法を探して欲しいと告げるセミドラフ大佐。
なぜ自分を選んだか問うタチアナに、大佐は患者の命を救うため迷わず通常の手順を無視する姿勢を評価した、と告げました。
他に適任者はいなかったのかと彼女は質問します。結果が全てで実際君は少年を救ったと大佐は語り、今度は英雄を救って欲しいと頼みます。
そこでコンスタンティンに関する全ての資料と映像記録、この件に関するセミドラフ大佐の証言を要求したタチアナ。
地球に帰還したコンスタンティンは病院に送られますが、その夜体内から現れた生命体が看護士を襲い殺害し、彼は隔離されることになります。謎の生命体とコンスタンティンから分離することは出来ません。
生命体が外に出ると彼の生命に危機が迫る。しかし体内に戻った生命体はコンスタンティンの体を修復する能力を持ち、彼の大きな負傷を2日間で直したと告げます。
胃の中に戻った時の生命体の大きさは30㎝程度。筋肉を弛緩させる毒素のようなものを放出し、体内に居場所を確保します。
目覚めたコンスタンティンは、自分の体の生命体の出入りを全く知らず、健康そのものに行動します。夜になると毎日午前2時40分から3時10分、体外で活動する地球外生命体。大佐は全ての資料をタチアナに提供しました。
翌朝何も知らぬコンスタンティンは体に問題ないと主張し、尋常でない回復力が問題だと告げるリゲル医師。
記録映像を確認中のタチアナは部屋に来たリゲルに、ロストフにいるらしいコンスタンティンの息子は、今どこにいるか尋ねます。
それを知らず関心も無さそうなリゲル。彼女は続けてコンスタンティンは何を食べているか質問します。非協力的なリゲルに、あなたの研究を邪魔しないと告げるタチアナ。
リゲルは彼女に全ての情報にアクセズ可能で、必要なものはセミドラフ大佐に申請しろと冷たく告げました。
タチアナはセミドラフの前で長距離電話をかけ、コンスタンティンの子供を探します。歳は7~8歳、姓はコンスタンタンティンとは異なるかもしれないと、関係各所に問い合わせます。
ロストフの孤児院で、車椅子の少年が苦労して鍵を盗もうとして職員にとがめられます。注意されても固い表情で何も答えぬ少年。
タチアナが現れた時、隔離室のコンスタンティンは歌っていました。宇宙では様々なことが起こるが、歌を持っている事が大切だと語った彼は、「百万本のバラ」を歌い出しました。
話しかけたコンスタンティンに、私を連れて来た責任者はあなたが精神に異常をきたし、同僚のキリルを殺害したと疑っていると話すタチアナ。
監視室のセミドラフ大佐とヤン医師は驚きます。それは記憶の無いコンスタンティンをいたずらに刺激するものでした。
異常な殺人者は英雄扱い出来ず隔離した、全ての異常者は正常に見えると告げたタチアナに、彼は厳しい訓練に耐え長い年月を待って宇宙に行った事実を強調します。
宇宙飛行士は英雄ではなく、宇宙船のコクピットに座っただと告げるタチアナ。彼女はコンスタンティンの息子について話しました。
彼はある女性と子供を作っていました。しかし宇宙飛行士に選考される際、婚外子の存在は不利に働くので存在を隠したコンスタンティン。
母が死にその子は孤児院に送られロストフにいる。英雄なら我が子を置き去りにしないと告げるタチアナ。彼女は黙ったコンスタンティンを残して隔離室を出ます。
リゲル医師は彼を不当に責めたと非難しますが、タチアナは彼のホルモンレベルを調べろと要請します。彼女は昨日のコンスタンティンの反応に違和感を感じていました。
彼女は寄生した宇宙生物が、彼の体から何を得て生命活動を維持しているのか突き止めようと、あえて彼にストレスを与えたのです。宇宙生物の食物を突き止めれば、人体から分離も可能と判断したのです。
原因の究明には彼を不必要に外部と隔離せず、日常生活に近い環境を与え変化を観察するべきとセミドラフに訴えるタチアナ。
それを受け入れた大佐は、コンスタンティンを宿舎に移動させます。彼が部屋のTVを付けると、ニュースはソ連のアンドロポフ書記長とキューバのカストロ議長の会談を伝えています。
続くニュースは宇宙飛行士のコンスタンティンとキリルは無事地球に帰還し、現在リハビリセンターにいると伝えるものでした。
そこにタチアナが現れます。彼女はストレス状態でのホルモンレベルを測定する必要があり、厳しいことを言ったと謝ります。
去ろうとする彼女に、子供の存在は宇宙飛行の1週間前に知らされたと語るコンスタンティン。ロストフから母親の死を知らせる連絡で知り、身寄りのない子供は孤児院に送られたと知りました。
地球に帰還すれば子供を迎えに行くつもりだったと語り、タチアナに協力を求めるコンシタンティン。
その夜彼は隔離室に戻されます。そして彼が眠り同じ時間が訪れると、体内から宇宙生命体が現れました。
隔離室のガラスの前に立つタチアナ。中にいる生命体は彼女と同じ姿勢をとり、おきあがりこぼしに反応を示します。タチアナはガラス扉を開けろと監視室に要求します。
セミドラフ大佐は彼女に宇宙服を着せると扉を開けさせます。おきあがりこぼしを持ち隔離室に入るタチアナ。
彼女が床におもちゃを置くと怪物はそれを抱え込みました。彼女は生命体に近づきます。
生命体に触れようとした彼女は粘液に滑り倒れます。それに反応したのか彼女を掴み、引き付り込もうとする怪物。
それを見た大佐は照明をフラッシュさせます。怪物が怯んだ隙に兵士がタチアナを助け出し、直ちに扉を閉めるセミドラフ大佐。
彼女を救出すると、大佐は隔離室のガラス扉の前に立ち怪物を睨みつけます。宇宙生命体も大佐を睨みつけました…。
映画『スプートニク』の感想と評価
参考映像:短編映画『Пассажир(Passazhir)』(2017)
宇宙から帰還した宇宙飛行士の体に、地球外生命体が潜んでいた!古典的SF小説にも登場する題材で、映画ではハマープロ製作の『原子人間』(1955)までさかのぼり、有名な作品は『エイリアン』(1979)でしょう。
本作と似たテーマの作品にジョニー・デップとシャーリーズ・セロン出演の『ノイズ』(1999)、また『ライフ』(2017)も人間の体内に潜まないものの、謎の生命体と宇宙飛行士の攻防を描く作品です。
『スプートニク』は冒頭で紹介した通り、エゴール・アブラメンコ監督の短編映画『Пассажир(Passazhir)』が基となった映画です。ただしアイデア一発勝負の短編を、『スプートニク』は様々な形で発展させています。
『Пассажир』の舞台は1970年で、『スプートニク』は1983年。ソ連崩壊が近づく頃の陰鬱とした時代を背景に作られました。
ロシアでは旧ソ連時代への懐古趣味がブームになっています。それは強大なソ連への憧れから、近年は当時の雰囲気を懐かしむ懐古趣味が主流となっています。
ソ連時代をレトロ趣味で描いても、日本の昭和時代をバラ色に美化した映画とは異なり、暗く陰鬱なムードを漂わせた映画になってしまうのは、お国柄とその歴史が成せる技でしょうか。
本作はSF映画だけではなく、旧ソ連を描いた映画であることにも注目すると面白くなる作品です。
当時ソ連には絶望的雰囲気が漂っていた
舞台となった1983年。ソ連は1979年にアフガニスタンへ侵攻して以来、ドロ沼の戦いを続けています。日本では知名度は低いもののアフリカのアンゴラ内戦にもソ連は介入、出口の見えない戦いを繰り広げていました。これは本作のセリフにも出てきます。
1980年にレーガン政権が誕生したアメリカは、ソ連を「悪の帝国」と呼び軍備を拡張します。こうしてソ連は米との軍拡競争に突入、ますます疲弊していきます。
世界は米ソが全面核戦争に突入する可能性に怯え、1983年米で全面核戦争を描いたTV映画『ザ・デイ・アフター』(1983)が放送、視聴率46%を記録します(日本では翌年劇場公開)。
1983年は北海道付近で発生した、ソ連軍機による大韓航空機撃墜事件に日本中が震撼した年です。『ターミネーター』(1984)も当時の雰囲気を背景に作られました。
さらにこの年はレーガン政権が戦略防衛構想、いわゆるスター・ウォーズ計画を打ち出し、軍拡競争は宇宙に舞台を広げます。『スプートニク』の宇宙生命体を軍事利用する設定も、非現実的なようで当時を背景にした設定です。
そんな時代でも、人には懐かしいものです
そんな時代が青春だった、という方もいるでしょう。また当時を知らない人には、レトロ文化の対象として興味の対象にもなります。
本作で重要な役割をする『百万本のバラ』の歌は、日本では加藤登紀子がカバーして歌い、1987年に発売されたシングル盤が大ヒットを記録しています。あらすじで紹介した通り、この時代のソ連歌謡曲を代表する歌でした。
劇中でコンスタンティンがTVで見ている映画は『ヒューマノイド・ウーマン』(1981)、当時製作されたソ連のSF映画です。
この映画を見ながら「戦争映画の方が好き」と言うコンスタンティンは、催眠療法を受けた際自分をロバート・デュヴァルと名乗ります。これは『地獄の黙示録』(1979)の影響でしょう。『地獄の黙示録』はソ連でも1979年に公開されました。
時代を感じさせる歌や映画を紹介していきましたが、ブラウン管TV、ビデオカメラにフィルムカメラ、電話機に無線機などレトロアイテムが多数登場します。
そして映画の大部分が、モスクワにある研究所の建物で撮影されました。この建物は1959年に建てられた、ブルータリズム(1950年代に流行した建築様式)のソビエト建築を代表する建物です。
本作全編に漂う雰囲気は選ばれたロケ地が生んだ物です。映画を撮影した場所が、映画全体のトーンを決めた好例と言えるでしょう。
まとめ
旧ソ連を舞台に、硬派なタッチで描いたSF映画『スプートニク』。全編に展開される暗い映像も、80年代のソビエト社会と当時製作された映画の雰囲気を再現するのに活躍しています。
この全編に漂うムードが、気に入った方にはとことんハマる作品です。かつて存在したソビエトSF映画の雰囲気を再現した佳作と言えるでしょう。
さてマーベル映画など、ハリウッドのヒーロー・アクション映画には時に平凡な人物が、多くの人々の運命を左右する大きな決断を強いられるシーンが度々登場します。
映画の主人公ではなく映画を見ている者に近い存在の、モブキャラが重大な決断を下すシーンはつい我が身に置き換えて受け取るもの。その結果多くの人が救われ、平凡な人物が脚光を浴びる状況は観客にカタルシスを与える人気のシーンです。
本作でこのポジションに立つ登場人物がリゲル医師です。旧ソ連の超監視・官僚的社会で、長い物に巻かれて生きていた人物として描かれました。
その彼が勇気を振り絞り、大きな決断を下すのですが…その後の展開は爽快感とは真逆です。でも現実的なのはこちらだろうなぁ、と思わせる悲しい展開になります。
これこそハリウッド映画とロシア映画の、典型的な違いでしょうか。ステレオタイプな意見かもしれませんが、ハリウッド的展開よりもこちらの方が好みという方も多いでしょう。
本作にはSF要素やアクション、流血シーンもありますが、全編に漂う暗さこそ魅力的です。鬱になるバットエンドは嫌だが、暗い雰囲気の映画は大好きな方に、強くおススメする作品です。
次回の「未体験ゾーンの映画たち2021見破録」は…
今回で全41作品をすべて紹介しました。次回42回は最終の締めくくりとして、独断と偏見による「未体験ゾーンの映画たち2021」ベスト10作品を紹介させて頂きます。それではお楽しみに。
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