連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2021見破録」第39回
世界各地の埋もれかけた様々な映画を発掘・紹介する「未体験ゾーンの映画たち2021見破録」。第39回で紹介するのは『パニック・イン・ミュージアム モスクワ劇場占拠テロ事件』。
様々な民族を抱えた社会主義国家・ゾビエト連邦は崩壊し、それを引き継いだロシアは今も民族紛争を抱えています。世界を震撼させたテロ事件も発生し、その一つが『TENET テネット』(2020)冒頭の、オペラハウス襲撃シーンのモデルになりました。
そのテロ事件をロシアで映画化した作品を紹介します。果たしてドキュメント調のリアルな作品か、エンタメ重視のアクション映画か、プロパガンダ色の強い作品なのか。
アクション・戦争映画ファンなら、登場する武器や装備に興味があるでしょう。マンガ「ゴルゴ13」に描かれるような国際情勢に関心のある方も、関心と注目を寄せる作品を紹介いたします。
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CONTENTS
映画『パニック・イン・ミュージアム モスクワ劇場占拠テロ事件』の作品情報
【日本公開】
2021年(ロシア映画)
【原題】
Последнее испытание / THE LAST TRIAL
【監督・脚本・製作】
アレクセイ・ペトルヒン
【出演】
イリナ・クパチェンコ、イリナ・アルフェロバ、アンドレイ・メルズリキン、ミクハイル・エブラノフ、アナ・チュリナ、エレナ・ザクハラワ
【作品概要】
テロリストに占拠された劇場で、実行犯・特殊部隊そして人質たちが緊迫した駆け引きを繰り広げます。息詰まる攻防を描いたサスペンス・アクョン映画です。アレクセイ・ペトルヒンが監督した映画『Училка』(2015)の続編で、『Училка』に主演したイリナ・クパチェンコが本作でも重要な役を演じます。
イリナ・クパチェンコは旧ソ連で、アンドレイ・コンチャロフスキー監督作の『貴族の巣』で映画デビューし、同じ監督が「チェーホフの戯曲を映画化した『ワーニャ伯父さん』(1971)でソーニャ役を演じています。
以降ソ連・ロシアを代表する女優として活躍を続けています。彼女を軸に映画を見ると、通常のテロ事件を扱うアクション映画とは異なるメッセージが受け取れる作品です。
映画『パニック・イン・ミュージアム モスクワ劇場占拠テロ事件』のあらすじとネタバレ
今は職を辞した老歴史教師アッラ・ニコラヴェナ(イリナ・クパチェンコ)が1人で暮らすアパートを、在職した高校の卒業生たちが訪ねてきます。
元11Aクラス(ロシアの義務教育は11年制。アッラは最終学年の11年生/17歳のクラスを受け持っていた)の女子たちは卒業生が舞台に立つ、ミュージカル「ロミオとジュリエット」のチケットを持っていました。
今日誕生日を迎えた、敬愛する元女教師アッラを観劇に招待したのです。彼女が最後に指導した11Aクラスの卒業生たちは、他にも多くの者が劇場に来る予定でした。感慨にふけるアッラ。
モスクワ市内の劇場、文化宮殿「ミール」の支配人は本日初演の「ロミオとジュリエット」について、TVクルーの取材を受けていました。リハーサルが続く劇場に大道具を積んだトレーラーが向かっています。
開園が近づいた劇場にアッラの元教え子たちが集まり、久々の再会を楽しんでいました。アッラは11Aの卒業生に歓迎されます。その姿を高級車で乗り付けた男が見ていました。
車に乗った非番の特殊部隊員カディシェフ大佐(アンドレイ・メルズリキン)や、妊娠中の妻レナ(エレナ・ザクハラワ)と2人の子供と共に安全運転で向かう男サーシャなど、多くの人々が劇場を目指します。
アッラは劇場前で校長のアグネッサ(アナ・チュリナ)と話し、旧交を温めます。アッラの教え子のシャイロは、尊敬する元教師の彼女に誕生日プレゼントを渡します。同じ頃、劇場にトレーラーが到着していました。
劇場のロビーに入ったアッラは、現役の文学教師ナタリア(イリナ・アルフェロバ)を紹介されます。アッラと過去に何かあったらしいナタリアは、指導中の高校生たちを引率していました。シェイクスピア劇に関心を待たず、騒ぐ生徒に苦労している様子のナタリア。
カディシェフ大佐の車はパンクしていました。先に劇場に入った同伴予定のアグネッサに電話し、間に合わず入場出来なければ外で待つと伝えたカディシェフ大佐。
ロビーのバーではチェチェン出身の若い男2人が。1人の女性に声をかけていました。それに気付いた連れの男が怒り出し、ちょっとしたトラブルになります。
女性トイレにはヒジャーブ(スカーフ)を付けた、イスラム教徒らしい女性も複数いました。チェチェンで紛争が続きモスクワでもテロが頻発し、その姿は見る者に緊張を与えていました。
客席では教師のナタリアが、騒ぎを止めない生徒たちに手を焼いていました。教育者として投げやりな態度の彼女に冷たい視線を送るアッラ。
アッラの前に現れたナタリアは、今は教職を退いた彼女を理想主義者と非難します。確かに自分の生徒は問題児でいさめる事も出来ずにいるが、青少年を取り巻く社会環境を問題にしたアッラも、結局教え子を救えなかったとナタリアは告げました。
長年教師を務めた2人に深い確執があるようです。場内で劇場の支配人や演出家と握手を交わす高級車で現れた男は、貴賓席に向かうVIP客を眼で追っていました。
開園の時間が迫り劇場は閉ざされますが、車で劇場向かっていた家族4人はギリギリで入場できました。その直後に現れたカディシェフ大佐は入場を断られます。
開演の直前、支配人の元に男が手下と共に現れます。アガマットと呼ばれた男は武器を取り出し、部下は支配人を射殺しました。
ミュージカル開演と共に、大道具を積んだトレーラーから武装した覆面姿のテロリストたちが現れます。出入口に鍵をかけ、警備員や劇場の職員を制圧し捕らえて監禁するテロリストたち。
場内に自爆ベストを付けた女たちが立ちます。劇場を制圧したテロリストたちは舞台に乱入し、発砲をすると観客は悲鳴を上げました。
観客席の妊娠中のレナは抗議しますが、テロリストは彼女の夫サーシャを殴り倒します。テロリストが妊婦と子供は解放すると告げると、家族に逃げるよう強く言い聞かせるサーシャ。
道化役の俳優2人が事件に気付かずロビーに現れ、1人がテロリストに射殺されます。黄金のニワトリの衣装の俳優は慌てて逃げ出しました。
テロリストのリーダー、アガマットは人質に席を立たぬよう命じます。逃げようとした男が射殺されると、観客たちは抵抗を断念します。
アルメニア人とパスポートを持つ外国人、イスラム教徒も解放するとアガマットが叫ぶと、チェチェン人のコメディアン2人は自分が残るので、ロビーで知り合った若い女性を解放して欲しいと頼みました。
なぜお前たちはロシア人と闘わない、と言うアガマットに復讐は神の仕事だと答える2人。その勇気を認めたアガマットは要求を認めます。逃げることを渋る女を、元教師のアッラが説得して去らせます。
イスラム教徒だと名乗ったシャイロもアガマットと直接交渉し、自分が残る代わりに恋人を逃がしました。しかしロシア人男性からの同様の申し出は受け入れません。
解放すべき人物を逃がしたテロリストたちは、残る観客を銃で脅し一か所に集めます。そして人質たちに3分時間を与え、家族や親しい人に連絡する許可を与えるアガマット。
多くの人々に事態を伝えさせ家族に騒がせる事で、ロシア政府を動かしチェチェン独立派の要求を飲ませる企てでした。
舞台でロミオとジュリエットを演じる、高校の卒業生の俳優は将来を約束する仲でした。何としても生き延びて一緒になろうと誓います。
ナタリアの引率した女生徒がオセチア人と知ると、アガマットは解放しようとします。しかし彼女は自分はクリスチャンで、友人の残して行けないと訴えますが、ナタリアの説得で劇場から出ました。
もう一人のテロリストの指導者、セイフィは捕らえて別室に監禁したロシア政府の要人に要求を伝えます。
多くの人質が家族に連絡する中、元教師のアッラは警察に通報しテロリストの人数や状況を正確に伝えました。その冷静な行動を拍手して讃えるアガマット。
劇場の外のカフェに、入場出来なかった非番のカディシェフ大佐がいました。劇場正面ではTVレポーターが撮影中です。
パトカーから降りた警察官は劇場正面に立つ覆面姿の男に気付きます。テロリストは発砲しパトカーを蜂の巣にしました。
それを撮影した映像が速報でTVに流れます。カフェでそれを見たカディシェフ大佐は、スマホを置いたまま外へ飛び出します。
ニワトリの衣装を着た俳優は、衣装を脱ぎ捨てテロリストの目を逃れ劇場の屋上に出ました。シャイロに命じ人質のスマホを回収させるアガマット。
指示に従いスマホを集めたシャイロは、密かに1台隠し持ちます。屋上から非常階段で地上に逃れた俳優に駆け寄るカディシェフ大佐。
彼は相手が逃れた人質で、屋上から脱出したと聞き出します。彼からスマホを借りアグネッサにかけますがつながりません。
アグネッサが提出しなかったスマホが鳴り、気付いたテロリストは彼女を殴り倒します。カディシェフは屋上に登り出入口を探します。
劇場の前にFSB(ロシア連邦保安庁)特殊部隊の車両や隊員が集結します。指揮官は状況を分析しますが、全ての出入り口は防犯カメラで監視され、うかつに手出しできない状況でした。現在交渉人のセルゲイが向かっていると報告されるFSB指揮官。
単身劇場内に忍び込んだカディシェフ大佐は、すのこ(ステージの上にある、照明などの道具を吊るす天上部)で逃げた俳優が脱ぎ捨てたニワトリの衣装を見つけます。そこに1人のテロリストがやって来ました。
テロリストはカディシェフが入った屋上の通用口に、監視カメラを設置して封鎖します。支配人室のテロリストのリーダー、セイフィは何者かと電話で話します。
ナタリアの引率した生意気盛りの高校生たちも、今は怯えて動揺していました。ナタリアは生徒たちの解放を望みますが、場内で人質を見張るテロリストのリーダー、アガマットは拒絶します。
生徒たちはもう子供ではない、そして教師のナタリアは生徒に年長者を敬うよう教えていないと告げるアガマット。
甘やかされた子供を導くには、アッラーの神と両親と教師の導きが必要だと、イスラム教の教義を持ち出したアガマットは、生徒への厳しい指導を怠り、その結果尊敬されていないと文学教師ナタリアを批判します。
それを聞いていた元歴史教師のアッラは、皆が沈黙する中アガマットに冷静に抗議します。敬虔なムジャヒディンである自分の行動は全て神の意志だと言うアガマットに、ならば神の慈悲を示せと人質への待遇改善を求めるアッラ。
観客席のアガマットと連絡をとりあう支配人室のセイフィ。2人がテロリストのリーダー格で、セイフィは外部からの指示でアガマットと協力するよう命じられていました。そして彼は事件を計画した者から、アガマットたちが知らぬ使命を与えられたようです。
身元を隠すためにニワトリの衣装を身に付け、テロリストの目を避けつつ場内の様子を伺うカディシェフ大佐。
劇場の外ではTV局のクルーが中継を行っていました。解放されたアッラの教え子の女は、治安部隊の一員となった同級生に再会します。アッラが最後に教鞭をとった11Aクラスの生徒たちは、それぞれの人生を歩み始めていました。
カディシェフはテロリストに発見され、銃撃を受け逃げ出します。その様子を監視カメラでみていたセイフィは、相手は隠れていた俳優だと判断しいて部下に追わせます。
人質の中に要人がいたことから、特殊部隊の指揮所にロシア連邦警護庁(ロシア版シークレットサービス)の幹部が現れます。指揮所の幹部たちは事態は複雑化したと感じていました。
トイレに逃げ込んだカディシェフは、テロリストの1人と格闘します。そしてトイレからニワトリの衣装を着た死体を引きずり出す、覆面姿のテロリストが現れます。人質たちに愚かな行動をした俳優は死んだ、と告げるアガマット。
それはイスラムの聖戦士を名乗る者の、市民への不当な攻撃だと冷静に指摘するアッラ。アガマットがイスラム教徒に対する十字軍の横暴を例に挙げると、アッラはチェチェンを含むコーカサス地方のイスラム系住民が、ナチスに協力した歴史を指摘します。
イスラムの神学の意味と、民族対立の歴史の意見をぶつけ合うアッラとアガマット。周囲の人質もテロリストも固唾を呑んで議論を聞いていました。
特殊部隊司令部に交渉人のセルゲイが到着しました。膠着状態と混乱に司令部は苛立っていましたが、今日はもう誰も死なせないとつぶやくセルゲイ。
テロリストのセイフィは、外部からの事件を最大限政治的に利用しろと指示されていました。そして報酬に関する話題も口にします。
人質たちは疲れ果て、アッラとアガマットは先程交わした議論の意味を考えていました。改めてアッラにイスラム教徒にとってのジハード(聖戦)の意義を話すアガマット。
ロシアがジハードを行うムジャヒディンを、テロリストと宣伝していると指摘すると、本来のジハードは神に従いより良き人間を目指す、精神的な闘いで破壊活動ではないと告げるアッラ。
2人の議論は結論に至りませんが、アガマットは歴史教師アッラの深い知識と思慮深い態度に感銘を受け、これからも教育者として若者を指導して欲しいと語りかけます。
アガマットはイスラム教徒でないアッラに、特別の敬意を払い解放しようとしますが、彼女はそれを断り残ると言いました。
彼女の態度に1人のテロリストが動揺します。ロビーに出て覆面を取ったその男デニス(ミクハイル・エブラノフ)は、やり場の無い怒りをぶつけていました……。
映画『パニック・イン・ミュージアム モスクワ劇場占拠テロ事件』の感想と評価
1991年ソビエト連邦が崩壊しつつある中、独立を宣言したチェチェン。ロシアはそれを認めず軍事行動を開始、1994年第一次チェチェン紛争が開始されます。
終結後も周辺地域を巻き込んだ緊張状態は続き、1999年ロシアは軍事行動を再開、第二次チェチェン紛争となります。この際欧米各国はロシアによる弾圧だと非難しました。
ところが2001年アメリカで同時多発テロが発生すると、対テロ戦争への支援が欲しいアメリカはロシアに対する姿勢を軟化させ、イスラム過激派に対する世界の見方も大きく変わります。
第二次チェチェン紛争勃発時ロシア首相だったウラジーミル・プーチンは、大統領代行を経て2000年に大統領に就任します。「強いロシア」の復活を目指したプーチン大統領は、この紛争を対テロ戦争の一部と位置づけ、徹底的な軍事行動を実施します。
圧倒的な軍事力に敗れたチェチェン独立派は、テロ活動で対抗します。そして2002年10月に発生したのが”モスクワ劇場占拠事件”でした。
この事件はロシア連邦保安庁の特殊部隊が突入し解決しますが、その際非致死性の無力化ガスを劇場内に散布します。このガスによって、900名以上いた人質の内129名が死亡する悲劇が起きました…。
その衝撃的展開を今も記憶している方も多いでしょう。この事件が本作のモデルであり、『TENET テネット』のオペラハウス襲撃シーンに影響を与えました。
事件を振り返ると、本作の展開とは大きく違っていると気付くでしょう。そして旧知のように振る舞う登場人物たち、主人公の先生とテロリストの徹底討論に、多くの方が違和感を覚えたでしょう。
実は本作、とある映画の続編として作られた作品です。
このアクション映画、実は熱血教師モノです
参考映像:『Училка(The Teache)』(2015)
前作の映画は『Училка』、「先生」の意味を持つ題名の作品です。40年間歴史を教えてきたアッラ先生は、無軌道に振る舞う若者たちに教訓を与えようと、教室に銃を持ち込み生徒たちを監禁します。
事件を通じ世代間の意識の違いや、ロシア社会の抱える問題が露わになります。事件の解決に現れた特殊部隊のカディシェフ大佐も、かつてアッラ先生に教えられた生徒でした。『Училка』の予告編をご覧頂くと、前作の登場人物が本作に集結していると確認できます。
とはいえ先生が教室に銃を持ち込んで、生徒に教訓を与える過激さはドラマ『女王の教室』(2005~)で天海祐希が演じた鬼教師どころの騒ぎではありません。
生徒に殺し合いをさせる『バトル・ロワイアル』(2000)のビートたけし、生徒を全員殺そうとする『悪の教典』(2012)の伊藤英明よりマシ、というのは冗談ですが実に凄い設定です。
しかしこの作品はロシアで高く評価されました。社会主義から資本主義へ体制が変わり、ネットやSNSなど生活環境も激変する中、若者と良心的な老教師の対立を通し現代ロシアを描いた、問題提起型の学園ものと評されたのです。
ドラマ『3年B組金八先生』(1979~)よりも、個々の生徒と社会問題に真剣に向き合うアッラ先生。映画とはいえありえない教師像ですが、ロシアの大女優イリナ・クパチェンコが演じたことで、説得力あるキャラクターとして確立しました。
日本に例えると吉永小百合がこの役を演じ、テロリストと激論を交わすようなものです。『パニック・イン・ミュージアム~』の印象が変わってきましたか?
作品の中で議論し、社会問題の考察を深める映画
本作は”モスクワ劇場占拠事件”の設定を頂きながらも、再現に重きを置いた映画ではありません(一方で本作の人質役エキストラには、医師の勧めで参加した実際の事件の被害者もいました)。
劇中で議論を戦わせて問題を観客に提起し、考えさせる機会を与える重厚な作品です。現在アクション・歴史映画は世界的に娯楽性を重視し、ストーリーや登場人物を簡略化し単純な善悪ものにした作品が増えていますが、本作は真逆の姿勢で作った意欲作と呼べるでしょう。
そもそもロシア文学はドストエフスキーの著作のように、登場人物が議論したり自問自答して、様々な問題を読者に示し考えることを促す作品を数多く輩出してきました。
本作はその系譜である「考えさせる映画」と呼んで良いでしょう。テロリスト側に究極の「知的で良心的なテロリスト」を用意して、議論を深める相手として登場させます。
映画をご覧の方は、ネタバレあらすじで紹介しきれないアッラ先生の深い意見に、納得と同時に違和感も覚えるでしょう。
これが「知的で良心的なロシア人」の世界観だ、と興味深く認識することもできます。もっともロシアで公開される映画を審査する人々に配慮した意見でもあるはずです。
一方で映画を堅いだけの作品にしないよう、テロリスト側にハリウッド映画的な金目当ての悪党も配しています。そして孤軍奮闘するカディシェフ大佐はアクション映画の主人公そのもの、娯楽映画として楽しめる作品にもなっています。
まとめ
実際のテロ事件を基にした、実は学園ドラマをテロ事件の現場で描いた作品の『パニック・イン・ミュージアム モスクワ劇場占拠テロ事件』。
鑑賞する前は単純なアクション映画か、プロパガンダ的性格の強い映画を予想していただけに、劇中で展開される熱い議論に驚きました。その誰もが感じる違和感の正体を解説してきました。
本作と『TENET テネット』には、テロ事件以外にも共通点があります。それは対比される赤色と青色。『TENET テネット』は順行する時間の世界を赤色、逆行する時間の世界を青色で表現しています。
『パニック・イン・ミュージアム~』にもミュージカルのポスターなど、様々な場面で対になる赤色と青色が登場します。これは異なる価値観を象徴するものであり、視覚からも異なる意見と立場の対立を描きました。
最後に。本作の原題『Последнее испытание(THE LAST TRIAL)』を直訳すると、「最後のテスト(試練)」です。
前作でアッカ先生の起こした事件で成長した登場人物たちが、教室から場所を移した劇場でテロ事件に遭遇しました。究極の危機的状況に遭遇した時、現代ロシア社会の抱える問題や宗教的価値観の対立などに直面した時、どう振る舞うのか試される映画を意味したタイトルです。
それは鑑賞した我々に対しても配られた、「最後のテスト」とも言えるでしょう。
次回の「未体験ゾーンの映画たち2021見破録」は…
次回第40回はゾンビに支配された終末世界を親子が愛車で激走する!ゾンビサバイバル・アクション映画『アンデッド・ドライバー 怒りのゾンビロード』を紹介します。お楽しみに。
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