連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2021見破録」第11回
公開の危ぶまれる映画から、奇抜なものからお約束映画までそろえた「未体験ゾーンの映画たち2021見破録」。第11回で紹介するのは、お馴染みの”ワニ映画”『ブラック・クローラー』。
B級映画を代表するジャンルである動物パニック映画。人を襲うサメやタコ、蜘蛛や蛇…いったい何度目撃したでしょう。
忘れていけないのがワニ。巨大な口を持つ水辺に潜む怪物には、誰も襲われたくありません。
『ファインディング・ニモ』(2003)で「魚をトイレに流してはいけない」と教わりましたが、『アリゲーター』(1980)という映画には「ワニをトイレに流してはいけない」と学びました。
さて、今回紹介するのはオーストラリアを舞台にした、洞窟に潜むワニを描いた作品です。どんな恐怖が待っているのでしょうか。
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CONTENTS
映画『ブラック・クローラー』の作品情報
【日本公開】
2021年(オーストラリア・アメリカ合作映画)
【原題】
Black Water: Abyss
【監督】
アンドリュー・トラウキ
【キャスト】
ジェシカ・マクナミー、ルーク・ミッチェル、アマリ・ゴールデン、ベンジャミン・ホーチェス、アンソニー・シャープ
【作品概要】
人跡未踏の洞窟を探検中の一行が、巨大なワニに襲われるアニマルパニックムービー。
アンドリュー・トラウキは本作以外にも”ワニ映画”『ブラック・ウォーター』(2007)、”サメ映画”『赤い珊瑚礁 オープン・ウォーター』(2010)、そして”ヒョウ映画”…ではないモンスター映画『ジャングル 不滅』(2013)を監督しています。
『MEG ザ・モンスター』(2013)で巨大サメと対決したジェシカ・マクナミー、何種類もの巨大モンスターが登場する『Love and Monsters(原題)』(2020)のアマリ・ゴールデンらが出演した作品です。
映画『ブラック・クローラー』のあらすじとネタバレ
オーストラリア北部の密林地帯を歩く日本人旅行者のカップル。地図もGPSも役に立たず、2人は迷っていました。
地表に開いた裂け目から、誤って地下の洞窟に転落した2人。洞窟にたまった水の中から、何かが近づいてきます…。
ジェーンことジェニファー(ジェシカ・マクナミー)は探検好きの恋人エリック(ルーク・ミッチェル)に強く誘われ、アウトドア旅行の準備をしていました。
友人のビクター(ベンジャミン・ホーチェス)とヨランダ(アマリ・ゴールデン)の2人がやって来ます。2組のカップルは、ちょっとした冒険の旅に出発します。
彼らは車でオーストラリアの北部に向かいます。そして今回の旅の案内人、キャッシュ(アンソニー・シャープ)と酒場で合流した4人。
アウトドア旅行ツアーが生業の陽気な男キャッシュは、今回向かう洞窟は発見されたばかりの、人跡未踏のものだと説明します。
酒ではなく水を飲むヨランダを見て、彼女は妊娠しているのではと気付くジェーン。
ジェーンはヨランダを祝福しますが、彼女はまだビクターには話していないと告げました。
その晩は皆で楽しく過ごしましたが、2人になるとビクターはヨランダに洞窟探検を止め、一緒にどこかの島にでも行こうと提案します。
ビクターが写真を撮れば、自分が行かずとも旅行ガイドを書けると言うビクターに、今までの人生に無い本物の体験をすべきだと話すヨランダ。
翌朝、一行は密林の中にある洞窟を目指します。キャッシュは行方不明の日本人旅行者の捜索に加わった際、偶然発見したと説明しました。
洞窟が観光に適したものならエリックがツアーを組み、観光ガイドを書く仕事を持つビクターが宣伝し、ビジネス化する計画です。
今回の旅はその下見をかねたものでした。車で進む道路沿いの川にワニがいると気付き、写真に収めるヨランダ。
この辺にワニがいるが、いざという時はと拳銃を出すキャッシュ。それを見たエリックは危険だと取り上げ、ダッシュボードのグローブボックスに収めました。
一行は林道に車を止め、密林の中に入ります。気象予報では強い雨雲が近づいていましたが、エリックとキャッシュは大丈夫だと判断します。
地表に開いた、目的の洞窟に続く裂け目に到着しました。装備を身に付けロープを垂らし、垂直降下で洞窟に降りる5人。
地下の空間には、はって進めば先に行ける洞窟が続いており、一行は先へと進みます。その頃、空には雲が立ち込めていました。
ここで遭難しても、誰も気付いてくれないと不安を口にしたジェーンとビクターに、先に行こうと促すエリック。
洞窟内にはヤギか何かの動物の骨がありました。ヤギはどうやってここに降りたのか、とヨランダは疑問を口にします。
壁からは水がしみ出し流れていました。どこから流れてきたのか不明です。その頃洞窟の外は、激しい嵐に襲われていました。
狭い洞窟を抜けた先に、広い空間がありました。エリックがランタンで照らすと、そこには地底湖が広がっていました。
目の前に広がる景観に上がる歓声。地下川がこの空間を生んでいました。洞窟を利用した観光ビジネスも成功間違いなし、と興奮するエリックとキャッシュ。
2人は水の中に入り、この空間をチェックします。そして壁面からしみ出し流れる水に気付きました。
天候を気にしたエリックは引き上げるべきだと口にしますが、キャッシュは洞窟にはまだ調べるべきことがある、と反対します。
ジェーンが水中の物音に気付きます。何かいると彼女が叫んだ時、轟音が聞こえてきました。
洞窟内に大量の水が流れこんできました。水に飲み込まれながらも何とか高台に逃れた5人。
キャッシュはバックを流されます。その中には車のキーも入っていました。
この空間に入ってきた通路は水没しています。当然ながらスマホも通じません。狭い洞窟を泳いで通り抜け、入り口に戻ろうと告げるエリック。
水中に何かを見たジェーンは反対しますが、水かさが増せばこの空間全体が水没します。
一行は水の中に入り、もと来た通路を目指します。ビクターは水面に浮かぶキャッシュのバックを見つけました。
彼はそれをつかもうとします。エリックたちがどうするか相談していると、ビクターの悲鳴が聞こえます。
ビクターの体が水面に現れます。彼の体をくわえたワニが体を回転させると、悲鳴と水しぶきが起きました。
エリックとジェーン、ヨランダとキャッシュは水中から別々の高台に逃れます。
ヨランダは水面に浮いていた体を引き上げますが、それは行方不明の旅行者の死体でした。
ワニから逃れたビクターが泳いできました。助けようと水中に飛び込むエリック。
背後にワニが迫ります。エリックはビクターと共に、ジェーンのいる高台に逃れました。
ビクターは気丈に振る舞いますが傷は重く、病院に運ぶしか救う手段はありません。
エリックは離れた場所のキャッシュに、泳いで洞窟の入り口に戻ろうと告げます。ワニがいると反対するキャッシュ。
入り口まで戻れば外部と連絡が取れる。キーが無く車を動かせなくとも、車に保管した銃があればワニを倒せると説得するエリック。
身を守るナイフは持ってる、と言うエリックに『クロコダイル・ダンディー』(1986)かよ、と言って反発するキャッシュ。
しかし彼も覚悟を決めました。旅行者の遺体を投げ込み、ワニがそれを襲っている隙に行動しようと提案します。
ヨランダが遺体を水面に落とすと、ワニはそれをくわえて姿を消しました。エリックとキャッシュは行動を開始しました。
水没した通路を泳いで進み、空気が残る空間まで進んだ2人。
ビクターは喘息の発作に襲われます。彼の吸入器を持っていたヨランダはジェーンの方に投げますが、吸入器は手前で水面に落ちました。
ヨランダは吸入器を取りに水の中に入ります。ワニが現れますが息を殺してやり過ごし、死体をくわえた隙にジェーンの元に逃れたヨランダ。
彼女が回収した吸入器のお陰でビクターの発作は収まります。
一方エリックとキャッシュは、入り口に続く水没した狭い箇所に到着します。そこは濁流で流れ込んだ石に塞がれていました。
2人がかりで挑んでも石は動きません。やむなく引き返すことにしたエリックとキャッシュ。
しかしエリックが岩に足を挟まれ遅れます。彼と離れたと気付いたキャッシュは立ち止まり、様子をうかがいます。
そこにワニが現れました。逃げ場のない空間で襲われ、絶叫するキャッシュ。追いついたエリックは、姿を消したキャッシュの名を叫びます。
映画『ブラック・クローラー』の感想と評価
参考映像:『ブラック・ウォーター』(2007)
ジャンル映画の定番としてお馴染みの動物パニック映画。CG技術のおかげで冗談みたいな状況で、トンデモなサイズ・デザイン・数で暴れるサメ、ワニ、その他もろものの猛獣たち。
おかげでコメディとして、皆で笑い飛ばす映画として大人気ですが、本作はオーソドックスに緊迫感と恐怖をもって描くスタイルの作品です。
アンドリュー・トラウキ監督の前回のワニ映画『ブラック・ウォーター』同様、北オーストラリアの大自然を舞台にした、サバイバル映画こそ本作です。
このジャンルにこだわる監督の作品
実際の事件をモチーフに作られた『ブラック・ウォーター』は評判を呼びますが、自分が映画を作るには常に資金面の困難に遭遇する、と説明するトラウキ監督。
成功は収めたものの、同じジャンルしか撮れない監督と思われて果たして良いものかと悩み、一方で人々からはアニマルパニック映画の製作を期待されていたと振り返ります。
そんな彼は『ブラック・クローラー』の脚本に出会った際、洞窟の暗闇とワニの恐怖が融合した物語に強い興味をひかれました。
こうして彼は監督を引き受けます。自然の中ロケを行った前作よりも、セットで制御された環境の本作は撮影し易かったと話しています。
一方で危険と困難をともなう水中撮影が行わます。過去のトラウマがこのジャンルへのこだわりを生んだのか、と聞かれた監督。
自分はビーチ近くに住み、サーフィンを楽しむ男だと答え、もし何か理由があるなら、前世の因縁か何かが自分を駆り立てているんだ、と笑って答えています。
リアルを追求するためワニの生態を学び、ワニの扱いに慣れた生物学者の協力で、本物のワニも登場する本作。
むろん特殊効果も利用して描かれますが、猛獣映画正統派の恐怖はこうして描かれました。
どこの海でも想像されるサメの恐怖に比べれば、棲息するエリアが限られているワニは、今一つ人気で劣るのだろう。
しかし人間に遺伝子レベルで刷り込まれた、捕食される恐怖が存在する限り、アニマルパニック映画は今後も好まれるだろうとトラウキ監督は説明しています。
無駄を排した展開が魅力的なホラー映画
本作に厳しい評価を与える人は、ジャンル映画のパターン通りの作品だと考えているようです。
お笑いシーンは無く、登場人物の愛憎劇が登場しますがストーリーの進行を妨げません。
死体や捕食シーンが登場しますが、過剰な身体破壊描写は無し。何か一つ目玉になる要素が欲しい、という方には物足りないかもしれません。
しかし全編に緊張感を維持させ、最後までリアルを積み重ねた本作は、「真面目な」アニマルパニック映画を期待した人を、大いに満足させるでしょう。
B級映画ファンなら、奇をてらったり様々な要素を詰め込んだ結果、何ともバランスが悪くなった作品を数多く見ているはず。
「古池や ワニが飛び込む 水の音」。これ位シンプルな方が、ホラー映画も面白いんです。
まとめ
期待にそぐわぬ水準で完成度を誇る”ワニ映画”『ブラック・クローラー』。ワニ映画やアニマルパニック映画は、こういう映画でいいんだよ!という方は大満足するでしょう。
出演者はハリウッド映画も撮影される、オーストラリア映画界で活躍する俳優たち。撮影スタッフ含め、オーストラリア映画産業の水準の高さを教えてくれます。
B級映画・ジャンル映画ファンは、オーストラリア映画から目が離せません。
ところで映画の中の”死亡フラグ”、これを言ったら、こう行動したら死亡確定、というネタは映画ファンの間でよく話題になります。
本作に登場する「妊娠を告げる」、「三角関係がバレる」も有力な死亡フラグ。ただし状況によっては”生存フラグ”にもなる、重要なワードです。
サバイバル映画を見る時は皆、誰が死に誰が生き残るか想像しているはず。B級映画は、そんな楽しみ方でイイんです。
次回の「未体験ゾーンの映画たち2021見破録」は…
次回第12回は、アンソニー・マッキーは時空を超え親友の娘を救えるのか。異色の設定を持つSF映画『シンクロニック』を紹介します。お楽しみに。
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