連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」第4回
映画ファンにとって新年初の大イベント、劇場発の映画祭「未体験ゾーンの映画たち2020」が、今年も1月3日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷で開催中。2月7日(金)からはシネ・リーブル梅田で実施、一部上映作品は青山シアターで、期間限定でオンライン上映されます。
前年は「未体験ゾーンの映画たち2019」の全58作品のすべてを見破し、紹介させて頂きました。
今年もやります!「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」。第4回で紹介するのは、心理戦サスペンス『スパロークリーク 野良犬たちの長い夜』。
ハリウッドには様々な形で人材を育成し、活躍の場があり、「Script Pipeline」もそのひとつです。才能あるライターを発見・育成し、業界と結びつける事を目的に1999年設立されました。
「Script Pipeline」では、ワークショップやコンテストを通じて見出した人材を、業界で活躍できるよう継続的にサポートしながら、新たなライターを映画・ドラマ・ゲーム・コミック業界に送り出しています。
2015年の「Script Pipeline」ライディングコンペティションの優勝者がヘンリー・ダナム。その脚本を自らの手で、初の長編映画作として監督した作品です。
【連載コラム】『未体験ゾーンの映画たち2020見破録』記事一覧はこちら
CONTENTS
映画『スパロークリーク 野良犬たちの長い夜』の作品情報
【日本公開】
2020年(アメリカ映画)
【原題】
The Standoff at Sparrow Creek
【監督・脚本】
ヘンリー・ダナム
【キャスト】
ジェームズ・バッジ・デール、ブライアン・ジェラティ、パトリック・フィッシュラー、ハッピー・アンダーソン、ロバート・アラマヨ、ジーン・ジョーンズ、クリス・マルケイ
【作品概要】
銃乱射事件の犯人は誰か、互いを疑いあう武装民兵の男たち。尋問と描け引きが繰り返される緊迫した状況を描く、密室サスペンス映画。主演は『蝿の王』の子役として強烈なデビューを飾った後、『SHAME -シェイム-』や『THE GREY 凍える太陽』、『ワールド・ウォーZ』に『オンリー・ザ・ブレイブ』など様々な映画で、印象を残す役を演じているジェームズ・バッジ・デール。
共演には『ランボー』や『ヒドゥン』に出演後、多数のアクション・刑事映画などに顔を見せる大ベテランのクリス・マルケイ、『ハート・ロッカー』のブライアン・ジェラティら、演技派俳優が顔をそろえています。ヒューマントラストシネマ渋谷とシネ・リーブル梅田で開催の「未体験ゾーンの映画たち2020」上映作品。
映画『スパロークリーク 野良犬たちの長い夜』のあらすじとネタバレ
猟銃を構え獲物を狙うギャノン(ジェームズ・バッジ・デール)。彼は鹿を仕留め引き上げます。狩猟シーズンを迎え、あちこちで猟銃の銃声が響いています。
森の中で1人暮らす家に戻ったギャノン。ところが遠くから猟銃と異なる、自動小銃が連射される発砲音が響きます。更に発砲音や爆発音が続き、銃撃戦の様相となります。
隠し持った無線機のスイッチを入れた彼は、警察無線で重武装した男が乱射事件を引き起こし、多数の警官が死傷したと知りました。
彼の元にフォード(クリス・マルケイ)から、直ちに集合するよう指示が来ます。急ぎ準備をする中、ギャノンはノア(ブライアン・ジェラティ)に連絡しますが、返事はありません。
ギャノンの車は郊外の倉庫に着き、彼をフォードが迎えます。次々と男たちが到着します。彼らはそれぞれが知った銃撃事件の情報を、断片的に持っていました。警官の葬儀が襲撃され、参列していた警官が撃たれた。犯人は1人、森から現れ、乱射後自殺せず逃亡している。
リーダーであるフォードに招集されるや、直ちに集合した彼らは、武装民兵組織のメンバーでした。いつか公権力に挑み、警察と戦争を行うために集まり、密かにその準備を進めている過激な団体のアジトがこの倉庫でした。
彼らもこの乱射事件の犯人を知りません。この組織は危険な団体として、警察に目を付けられていました。事件を理由に今ここに踏み込まれては、大量に準備した違法な武器を発見されます。彼らは逮捕されれば皆20年は刑務所入りで、組織は壊滅します。
ノアも遅れて到着します。彼は一番最近に加わったメンバーでもあり、疑いの目で見られます。
警察無線は犯人をAR-15自動小銃を持ち、武装した1名の民兵と発表していました。使用した銃弾400発、現れた場所や犯行に要した時間なども伝えています。情報から警察が武装民兵組織を疑っているのは間違いありません。
警察に居所を追跡されぬよう、フィードの指示で携帯は処置した上で回収されます。ネットも無くラジオと無線のみが、情報収集と外部連絡の手段となりました。
全員が集まりましたが、誰も自分がやったとは語りません。フォードは普通乱射犯はその場で自殺するもの、とその意図をいぶかります。やがて彼らは倉庫から、1丁のAR-15と防弾チョッキ、そして手榴弾が無くなっていると気付きます。
武器庫は自動的に変わる暗証番号で管理されており、それを知るのはメンバーだけ。間違いなくこの中に乱射事件の実行犯がおり、それを警察に突き出さないと全員が逮捕されます。組織を守る為にも彼らはこの場所に籠り、犯人と捜し出す必要があります。
ギャノンの元警官という経歴を疑う者もいましたが、フォードは尋問のプロであった彼を信頼していました。残るメンバーに5人の中の、誰かが犯人だと疑います。
5人は遅れて来たノア、通信技術に詳しい教師のベックマン(パトリック・フィッシュラー)、元軍人の帰還兵モリス(ハッピー・アンダーソン)、口のきけない青年キーティング(ロバート・アラマヨ)、孤独な老人のハベル(ジーン・ジョーンズ)でした。
小男で神経質なベックマンと、老人のハベルに犯行は無理、遅れて来たノアは一同から隔離し、外のフェンスに縛りつける。そして疑わしいモリスとキーティングを拘束し、別々の場所で尋問するとフォードに説明したギャノン。
集合した時血に汚れていたハベルを疑う意見も出ましたが、彼は直前まで鹿狩りをしていたと説明します。確かに車には仕留めた鹿がありました。
まずモリスを尋問するギャノン。真犯人のキーティングを油断させるため、お前を拘束しただけと語るなど、硬軟とりまぜた態度で彼を揺さぶります。ギャノンはイラクに従軍した元爆弾処理兵のモリスを、一番に疑っていました。
尋問からモリスは、戦場から帰国した後ある時から、白人至上主義団体など、様々な過激な団体を渡り歩いてきたと判明します。しかし犯人との確証は得られません。
事態を収拾させる為に犯人を出す必要がある、場合によってはでっち上げてもいい。彼はギャノンに、遅れてきたノアを犯人に仕立てる事を持ちかけますが、ギャノンはモリスかキーティングが犯人だと言って止め、一度ノアと話すと言って外に出ます。
ノアと2人だけで話すギャノン。実はノアは彼の弟で、武装民兵組織の実態を知るため潜入していた警官でした。それを知るのはギャノンのみで、ノアにこの事態は想定外でした。彼は自分の上司の葬儀に参列して襲撃事件に遭遇、集合時間に遅れたのです。
彼の潜入を知っているのは死んだ上司のみ、いや、コワルスキーなら知っているかもしれない、とノアは兄に自分を示す緊急コードを伝えます。ギャノンは無線を操作するベックマンに、得た情報として、警察無線にコワルスキーが現れたら、コードを伝えるよう依頼します。
モリスを尋問し、彼がギャングに娘を殺され、警察を恨んでいると知ったギャノン。しかし彼の告白には嘘があります。挑発に応じなかったモリスを、ギャノンは犯人でないと判断します。
そこに警察無線を傍受していたベックマンが、新たな情報を持ってきます。事件の触発された近隣の武装民兵団体が警察を襲撃、影響は広がり戦争の様相になりつつあります。準備不足の状態で、意図せず始まった闘争は、フォードの望む状況ではありません。
その時老いたハベルが自分の身の上を語ります。かつて工事現場で働き、手抜きから事故を引き起こした上司をかばったハベル。しかし上司は彼を裏切り、ハベルやその部下に責任を押し付けようとします。
部下とその家族の生活を守るため、上司を殺し逃亡したハベル。この町に移り住み、孤独の中不満をつのらせ民兵組織に入りました。そして武装蜂起の日を持ち望み準備する中、老いていった彼は誰よりも警察との戦争を望んでいました。
手にした電話を発信させ所在を明らかにし、警察に踏み込ませる事で、皆で武器を取って戦う状況をのぞんだハベル。しかしフォードは早まった行為を諫めます。
突然倉庫の前にパトカーが向かってきます。慌てて電気を消し、無人を装う民兵たち。事件を受けパトロール警官が様子を見にきたのです。ベックマンが警察無線で偽の襲撃情報を流すと、それを信じた警官は、外のノアに気付くことなく去って行きます。
ギャノンはフォードに、外のノアの様子を見て来ると伝え倉庫を出ます。弟にモリスは犯人ではないと語った彼は、必ずキーティングの口を割らせ、お前を守ると言い戻ります。
喋れないキーティングに犯行が計画、実行できる訳がない、そう信じる者もいました。ギャノンに対し必ず口を割らせろ、でなければノアを犯人として突き出すと迫るフォード。
一方ラジオの報道は、新たな警察発表として最初の襲撃に使用された銃弾は1400発、犯行にに要した時間や襲撃方向などを、訂正した新たな情報を伝えていました。ベックマンは警察無線や近隣の武装民兵組織と連絡を取り合い、情報の収集に務めます。
そして拘束したキーティングのロッカーを探し、何かを見つけ確証を得たギャノンは改めて彼の尋問に向かいます。
倉庫のフォークリフトにロープを結び、それを拘束されたキーティングの首にかけるギャノン。いきなり発砲し彼の反応を見て、お前は耳は聞こえる、自白しなければここで吊るすと脅し、尋問を開始します。
キーティングのロッカーから、彼の日記やサリンジャーの小説『ライ麦畑でつかまえて』を見つけたギャノン。それを突きつけ責め始めます。しかし尋問テクニックは本で学んだ、お前の脅しは見抜いていると、突然語りだすキーティング。
その頃無線で、警官のコワルスキーと接触したベックマンは、彼に指示されたノアの緊急コードを伝えます。しかしコワルスキーは新たな襲撃に巻き込まれたのか、明確な返事は帰ってきません。
銃声を聞いて駆け付けた民兵たちは、喋り出したキーティングに驚きます。ギャノンは彼こそ犯人だとフォードに告げます。口を開くとキーティングは雄弁でした。学校では優秀な成績でしたが、やがて孤立し退学した彼は、周囲の人間を見下していました。
世間への恨みや、襲撃計画を記した日記について聞かれると、執筆中の小説だと言うキーティング。自分が森から現れた襲撃犯なら、服は泥で汚れていたはず。一方モリスやノアは汚れていた。
自分はここに集まった時、警察無線の内容を話した。襲撃しながら無線は聞けないと反証するキーティング。一方ギャノンは、ここで密かに吊るされたら、乱射事件を実行し戦争を引き起こした犯人とし、名を残す栄誉は、孤独な存在にすぎないお前から消えると告げます。
するとキーティングが訊ねます。自分を孤独というなら、警察を辞め、森で孤独に暮らし始めた男、そして孤独に耐えかね民兵組織に入った男はどうなのか、と。
その問いに怒り、キーティングに詰め寄るギャノン。真犯人が判明しない状況に、フォードはノアを連れて来いと命じます。そうした中ギャノンは、自分が警察を辞めた理由を話します。
映画『スパロークリーク 野良犬たちの長い夜』の感想と評価
『レザボア・ドックス』のパクリと片づけないように
B級映画の数々、あるいは刑事物・犯罪物ドラマを見ていると、あきらかにあの作品の設定を頂いているよね、という作品に出会うことがあります。
なかには臆面も無く真似ている作品も存在しますが、多くの場合は過去の作品が生んだアイデアや状況に、新機軸を与えようと一工夫も二工夫も加えています。そういったヒネリを楽しむのが、こういった作品への正しい接し方です。
明らかにクエンティン・タランティーノ監督・脚本・出演作品、『レザボア・ドックス』から頂いている映画ですが、乱射事件や武装民兵、社会に不満を持つ者のホームグロウン・テロなど、現在的な設定要素を加えた物語になっています。
見どころは90分に満たない上映時間で、あらすじで紹介した分に収まらない濃厚な会話劇。なるほど「Script Pipeline」ライディングコンペティション優勝の脚本だと実感しました。
それを脚本執筆者が自らが、芸達者な俳優を集め監督した映画ですから、面白くない訳がありません。状況在りきの映画ですから、警察の計画のアラは見逃してあげましょう。
この脚本を書く前に監督が身に付けたもの
監督・脚本のヘンリー・ダナムは、10代でタランティーノ作品『パルプ・フィクション』の脚本を読み、夢中になったと語っています。
当初何も考えずに脚本を書き始めていましたが、映画学校で学び始めてから具体的に、何が上手くいき何が不出来なのか、理解出来るようになったと振り返っています。
ヒッチコックの『救命艇』や『ロープ』は、見る者に登場人物が、いつかはこの部屋(閉鎖された環境)を出るという思いを抱かせない、優れた密室サスペンスであり、それは状況と登場人物を興味深く描く事である、と分析しているダナム監督。
またジャン=ピエール・メルヴィル監督作品や、ギリシア出身のコスタ=ガヴラス監督作品など、フランスのスリラー映画のファンであるとも語っています。
若くして過去の映画から多くを学んだダナム監督は、今後も様々なサスペンス・スリラー要素のある、脚本や監督作品を生んでくれるでしょう。
まとめ
女性の登場人物いたっけ、女性の警官も映っていたかな…という位、実に男臭い映画『スパロークリーク 野良犬たちの長い夜』。その点でも『レザボア・ドックス』に似ています。
『レザボア・ドックス』で男たちが、犯罪者の仁義や友情と結ばれていた事を思うと、本作の民兵たちの、心の闇と孤独という屈折した絆で結び付いていた姿は、銃乱射事件を扱う以上に現代的な設定だと言えます。
濃厚な対話劇がクライマックスへと突き進む様は、犯罪劇が好きな方にはたまらないでしょう。脚本の生んだ状況の妙を楽しんで下さい。
過去の作品に似ているからと、映画を見るのを遠慮すると面白い作品を見逃す事になる。これ、B級映画ファンの常識です。『レザボア・ドックス』のMr. ブロンドこと、マイケル・マドセンに風貌の似た、クリス・マルケイの本作起用は…多分狙ってやってます。
次回の「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」は…
次回の第5回は<span class="fontBold"エイドリアン・ライン監督の伝説的サイコスリラー映画をリメイクした、『ジェイコブス・ラダー』を紹介いたします。
お楽しみに。