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Entry 2020/04/19
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映画『ストレイ 悲しみの化身』ネタバレ感想と結末までのあらすじ。ラスト描写は“ホラー版の惑星ソラリス”とでも名付けたい|未体験ゾーンの映画たち2020見破録39

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連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」第39回

「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」の第39回で紹介するのは、大人の心を翻弄する、恐るべき子供を描いたホラー映画『ストレイ 悲しみの化身』

世界各地の伝わる精霊や怪物たちの物語。それぞれの土地の文化に根差した存在として、語り継がれてきました。ロシアも魔女など、キリスト教圏ならではの怪物が伝承されています。

その一方で、自然や大地に根差し古くから伝わる怪物たちは、不思議と日本の妖怪に近い存在として姿を現します。そんなロシアには、人を惑わせ操る怪物も存在しています。

そんな伝統的な怪物像に、現代的な設定を与えたホラー映画が、また一つ生まれました。

【連載コラム】『未体験ゾーンの映画たち2020見破録』記事一覧はこちら

映画『ストレイ 悲しみの化身』の作品情報


(C)SOK LLC (C)Yandex.Studio LLC (C)Star Media Distribution LLC 2019

【日本公開】
2020年(ロシア映画)

【原題】
Тvar / STRAY

【監督・脚本】
オルガ・ゴルデツカヤ

【キャスト】
エレナ・リャードフ、ウラディーミル・ウドヴィチェンコフ、セバスチャン・ブガーエフ、イェン・ラノフ、エフゲニー・ツィガノフ、ローザ・カイルリーナ

【作品概要】
悲しみに沈む心の隙間に忍び込む怪しげな子供。果たしてその正体は…見る者の感情を揺さぶるエミーショナルなホラー映画です。テレビや映像業界で活躍し、フォックス・インターナショナル・プロダクションのロシア事務所で、様々な作品の企画・製作を行ってきた、女性監督オルガ・ゴルデツカヤの、初の長編映画となる作品です。

海外でも高い評価を受けた、アンドレイ・ズビャギンツェフ監督のロシア映画『裁かれるは善人のみ』(2014)で共演した、実生活でも夫婦であるエレナ・リャードフとウラディーミル・ウドヴィチェンコフが、夫婦役として主演している作品です。

映画『ストレイ 悲しみの化身』のあらすじとネタバレ


(C)SOK LLC (C)Yandex.Studio LLC (C)Star Media Distribution LLC 2019

息子のヴァーニャ(イェン・ラノフ)が生まれ、成長する姿に夫婦は幸せを感じていました。しかし今イゴール(ウラディーミル・ウドヴィチェンコフ)は、警察の死体安置所に向かっています。

彼は激しく傷んだ子供の遺体を見せられます。警察は発見した遺体がヴァーニャでないかと、確認を求めますが彼は認めません。一致する特徴を指摘されても、頑なに否定するイゴール。

3年後。イゴールは妻のポリーナ(エレナ・リャードフ)と共に、荒れ果てた建物の孤児院を訪れました。ポリーナはなぜか、修復中の廃墟のような建物に目を奪われます。

その建物の半地下室の鉄格子の付いた窓から、何かがポリーナを見ているようでした。

多くの乳幼児がいる部屋に案内された夫婦。彼らは養子を迎えようと考えていました。イゴールは積極的に子供を抱きますが、ポリーナは関心の無い表情で見つめています。

その場に耐えられなくなった彼女は、建物の外に飛び出します。すると子供の声が聞こえたのでしょうか。その声に引かれるように、最初に見つめた建物へ向かうポリーナ。

ポリーナが鉄格子の付いた窓から、半地下の部屋をのぞき込むと、暗闇の中で何かが動いたようです。彼女はその建物の地下へと降りていきます。

地下の部屋で1人の男が銃の傍らで、血を流し倒れていました。ポリーナはそれに構わず、物音がした隣の部屋を覗きますが何も見えません。

彼女はその部屋に入ります。暗がりの中に、何かがいるようですが正体を現しません。ポリーナは闇に近づきますが、倒れていた男がせき込みました。彼女が男の様子を見たとき、赤い衣服を付けた何かが部屋から外へ出ていきます。

孤児院に警察が現れました。彼女が見つけた男は孤児院の管理人で、自殺を図ったものと判断されます。刑事は発見者となった夫婦と、孤児院を監督する修道女に事情を聞きました。

警備員が子供と暮らしていたようだ、と聞かれても修道女は何も知らないと答えます。変わったことは無いかと訊ねられ、子供たちは墓場から死者が甦ると噂していると答えた修道女。

子供たちの声の方へ向かうポリーナ。見ると数人の子供たちが1人の子を囲み、悪魔よあっちへ行けとはやし立てていました。子供たちの輪の中に、汚れた赤い服を身に付け唸り声をあげる、不気味な男の子(セバスチャン・ブガーエフ)がいます。

騒ぐ子供たちを制止し、輪の中に入ったポリーナは、四つん這いになって唸る男の子に、優しく声をかけます。その子は獣のように飛んで彼女に抱きつきました。

ポリーナに抱かれ大人しくなる男の子。その姿を老いた修道女インドラ(ローザ・カイルリーナ)が、黙って見つめています。

警察はその身元の判らない男の子を保護しましたが、獣のように暴れ、手がつけられません。規則ではモスクワの養護施設に送られることになりますが、その子はトラウマを持ち心身にも問題がありそうで、通常の施設の手に負えないだろうと語る孤児院の責任者。

その話を聞いたポリーナは私は教師であり、夫は医師で問題のある子を世話するのに相応しいと、その子を引き取るとを申し出ました。

それは無理な提案で、警察は規則通りモスクワに送ると答えます。しかしポリーナは引き下がらず、私が見たモスクワの施設は子供に相応しくないと、夫にも説得を願います。

ポリーナの姿勢に複雑な表情を見せるイゴールに、修道女のインドラはあの子を連れて行ってはいけない、必ず手に負えなくなると呟きます。

警官に抱きかかえられた男の子は激しく暴れますが、パトカーに乗せられます。ポリーナが見つめると、その子も彼女を見つめ返します。

警察は管理人の遺体を車に積むと、引き上げようとします。しかしパトカーの中から、あの子供は姿を消しました。

イゴール夫妻も孤児院を後にします。物憂げな顔のポリーナは、追ってきた子供に気付きます。夫に車を止めさせると外に出て子供を抱き、どうしても連れ帰ると訴えるポリーナ。

夫婦は子供を孤児院に近い、別荘に連れて行きます。イゴールは妻に、一時的に預かっているだけだから、子供に執着するなと言い聞かせます。ポリーナはこのまま我が子にしたいと望みますが、夫はそれは違法行為だと言い聞かせます。

子供は現れた飼い猫を威嚇します。イゴールに子供は手のかかる存在に思えました。その子に保管してた、失踪した息子ヴァーニャのおもちゃを見せると、虎のぬいぐるみに関心を示します。

そのぬいぐるみは、ヴァーニャのお気に入りだと喜ぶポリーナ。彼女はベットに入った子供に、おやすみ、ヴァーニャと呼びかけます。妻が子供を息子の名で呼んだことに、イゴールは違和感を覚えていました。

次の日。物音に気付きイゴールがキッチンに向かうと、冷蔵庫が開いています。見るとあの子供が生肉を奪い、咥えていました。イゴールが生肉を取り上げようとすると、唸り声をあげその腕に噛みつく子供。

イゴールが手を上げると、子供はソファーの下に身を隠します。手の付けられない凶暴な振る舞いですが、現れたポリーナは優しく声をかけます。

森の中の夫婦の別荘に、イゴールと旧知の刑事ヴィクトールが現れ、捜査の進展を話してくれました。子供の身元の手がかりはなく、自殺した管理人が密かに育てていたと思われました。

自殺した男はバーシャという元消防士で、20年前にその職を辞めて孤児院の管理人になりました。その経緯は不明だと刑事は語ります。

刑事は夫婦が息子を失った経緯と、ポリーナが身元不明の子供に固執している事情を理解していました。当分は子供を夫婦にゆだねるよう手配してくれた刑事に、礼を告げるイゴール。

夫婦の元を友人の医師ワシリー(エフゲニー・ツィガノフ)が訪れます。彼の診立てでは、子供は6歳程度の体に見えるが、ビタミン不足で発育が遅れた結果であり、動物に育てられた野生児のように、精神的発達が遅れた状態だと判断します。

健康状態を病院で精密検査して、子供は専門家に委ねるべき、というのが彼の意見でしたが、ポリーナの自分で育てる意志は変わりません。

その夜、ポリーナは我が子ヴァーニャに呼ばれる夢を見ます。夢の中でヴァーニャは、何か恐ろしいものに変貌します。彼女が目覚めると、足元に子供が寝ていました。

朝、イゴールは姿の見えない猫を探していました。そんな夫に構わず、掛かりっきりで子供に食事を与えるポリーナ。

夫婦は子供と共に車で外出します。笑顔を見せるようになった子供は、失踪した息子ヴァーニャに似てきました。子供と妻が触れ合う姿に、イゴールの顔にも笑みがこぼれます。イゴールはひざにその子を乗せ、2人でハンドルを握り車を運転します。

イゴールは子供を抱え、妻と共に帰宅します。家の側には飼い猫の、無惨な死骸が転がっていることに気付きませんでした。

夫婦の関係も改善し、その夜ポリーナは夫を求めますが、その姿を子供が見つめています。

翌日ポリーナが家事をしていると、子供が姿を消し彼女はヴァーニャと呼んで探します。黒ずくめの女が子供を連れ出したようですが、ポリーナが駆け付けた時には、女は姿はありません。

警察を訪れ、刑事に女が子供を連れ去ろうとした、とイゴールは訴えます。女の正体が子供の母親なのかは判りません。彼はヴィクトール刑事に、ポリーナがあの子供を養子にして、モスクワの自宅に連れ帰ることを望んでいると伝えます。

ヴィクトールはイゴールに、自分は歌手でアルコール中毒だった母に棄てられ、孤児院で育ったと語ります。彼は母の写真を今も大切にしていました。イゴールのために子供の調査と、養子縁組の手続きの協力すると約束するヴィクトール刑事。

こうして夫婦は養子にした子供に、最愛の息子と同じヴァーニャと名付け、モスクワのマンションの自宅に連れ帰ります。しかしヴァーニャを見た近隣の住人ペーチャとターニャ夫妻は、恐ろしい者を見たような顔をします。

ヴァーニャは1人で食事が出来るようになり、イゴールも我が子のように愛情を注ぎます。親子3人の幸せな生活が始まりましたが、夫婦が仲睦まじい姿を見せると、それを伺うような目つきで見つめるヴァーニャ。

イゴールは手を引いてヴァーニャを公園に連れていきます。彼はヴァーニャに公園にいた子供たちと遊ぶように促します。するとターニャが現れ、イゴールに声をかけました。彼女はポリーナの身を心配しているようです。

子供たちは反応を見せず喋らないヴァーニャを、やがて馬鹿にし始めます。するとヴァーニャは形相を変え、飛びかかって子供を襲いました。血しぶきが飛び散り、慌ててイゴールが駆け付けます。その光景をターニャとペーチャ夫妻は見ていました。

自宅を警察と児童保護局の職員が訪れましたが、イゴールが1人で対応します。相手の子に15針縫う怪我をさせたと告げ、ヴァーニャを学校に通わせるよう求めた相手に、賄賂を握らせて引き取らせるイゴール。

ヴァーニャは1人浴室にこもると、自分の頭を打ち付け血を流します。興奮する息子に落ち着くように、イゴールは必死に言い聞かせました。

額を傷つけ大人しくなった息子を、ポリーナが優しく寝かしつけます。イゴールは養子のヴァーニャの描いた絵が、姿を消した息子の描いた絵と同じだと気付きます。

前の息子の額にも、傷痕があったことをイゴールは思い出します。ポリーナには鏡に映るヴァーニャの顔が、前の息子と同じ顔に見えました。

ポリーナは前の息子ヴァーニャの誕生日を、新たに迎えた養子のヴァーニャの誕生日として祝います。ケーキが運ばれてきますが、ロウソクの炎を見たヴァーニャは何かを思い出したのか、激しく暴れ出します。

ヴァーニャを抱きしめたポリーナは、この子は私たちの本当の息子で、私たちを思い出し、戻ってきたのだと夫に告げます。友人の医師ワシリーの話ではこの子の実年齢は9歳くらい、失踪した息子と同じ年だから、間違いないと言い張ります。

それはあり得ない話だと、イゴールは妻に言い聞かせます。しかし固く信じ、否定した夫を責めるポリーナ。

イゴールはヴァーニャを、ワシリー医師の元に連れて行きました。彼はワシリーに妻が養子のヴァーニャを、実の子と思い込んでいると訴えますが、医師は子を失った母親の感情の、正常な反応だと説明しました。

それ以外にもヴァーニャの行動に、奇妙な点があると訴え、前の息子と同じ絵を描いたと示すイゴール。そこで医師は頭を傷付けたヴァーニャを、念のためMRI検査にかけることにします。

MRIの装置に入る際に、ヴァーニャが叫ぶと停電が起き、機械は不可解な故障で停止します。子供の過去を調べた方が良いと言われ、1人孤児院に向かうイゴール。

イゴールは孤児院の修道女インドラに、自殺した管理人のパーシャについて訊ねます。彼は犯罪者でも暴力的でも無かったが、彼は哀れにも魂を失ったと彼女は告げました。

管理人の部屋は封鎖されたと言われますが、イゴールはその部屋に忍び込みます。まだ血痕が残る部屋の机の脚の下に、彼は何かあると気付きます。

それは火災現場での消防士の勇敢な行動を報じた、20年前の古い新聞記事でした。するとイゴールの前にインドラが現れ、ここに答えは無いと告げます。

警察を訪れたイゴールは、20年前に火災についてヴィクトール刑事に訊ねます。消防士だったパーシャは、その火災現場で子供を助けていましたが、その子の身元は分からず、その後行方をくらまします。

愛するアルコール依存症の母に棄てられ、孤児院で育ったヴィクトール。その経験からか協力的な彼は、イゴールに事件を調べると約束します。

自宅に戻ったイゴールを、ポリーナは笑顔で迎えます。妻から妊娠を報告され共に喜ぶイゴール。

抱き合う両親の姿を、ヴァーニャは黙って見つめていました…。

以下、『ストレイ 悲しみの化身』のネタバレ・結末の記載がございます。『ストレイ 悲しみの化身』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)SOK LLC (C)Yandex.Studio LLC (C)Star Media Distribution LLC 2019

ポリーナがマンションに帰った時、近隣の住人ターニャの飼い犬だけが走ってきます。見ると階段でターニャがうろたえています。怯えてた彼女は何も言わずに去りましたが、階段の上に黙って見つめるヴァーニャが立っていました。

ポリーナが産婦人科で、エコーで胎児の画像診断を受けた際、ヴァーニャがモニターを見つめると、胎児は激しく動きだしモニターが故障します。その直後ヴァーニャは、診療室から1人で飛び出していきます。

買い物でヴァーニャは、母を驚かすイタズラを行います。陳列ケースが走ってきてぶつかりそうになった時、それはヴァーニャの仕業かもしれないと考えるポリーナ。

そして産婦人科でもらった胎児の写真が、切り裂かれたと気付いたポリーナは、たまりかねてヴァーニャを厳しく叱ります。唸り声をあげ彼女の腕に噛みついた息子の顔は醜く変貌し、彼女は恐怖を覚えます。

イゴールが現れると、ヴァーニャは父に抱きつきます。彼にとってヴァーニャは愛しい息子ですが、それを見るポリーナの表情は険しいものでした。

その夜、夫に養子にした息子を検査すべきとポリーナは訴えます。今はヴァーニャを深く愛するイゴールは、息子の行動は心の傷が原因と庇います。妻がヴァーニャの暴力的だと訴えても、取り合おうとしないイゴール。

語り合う両親を、ヴァーニャはのぞき見ていました。逃げ出した息子を追ったイゴールは、失踪した息子の思い出を伝え、今はお前を深く愛していると語りかけます。

イゴールは友人の医師ワシリーに、妻の息子に対する態度の変貌を相談します。ワシリーは愛情の難しさを語り、養子を勧めたのは時期尚早だったと侘びますが、イゴールは黙って聞いていました。

妻子の間を取り持とうと、イゴールは2人と共に公園に行きます。しかしポリーナは、キックスケーターに乗るヴァーニャが、故意にとぶつかろうとしたと怒ります。彼が妻をなだめていると、いつの間にか姿を消すヴァーニャ。

必死に捜しているとヴァーニャが現れ、イゴールは息子を笑顔で抱き上げます。黒い服の人物がヴァーニャを誘い出したようですが、彼は気付きませんでした。

家で笑顔で過ごす父子を、冷たい目で見るポリーナ。ある日イゴールが家に帰ると、ヴァーニャの姿がありません。妻に問いただすと、刑事のヴィクトールが連れていったと答えます。

調査で何か判明したらしく、ポリーナは刑事がヴァーニャを孤児院のインドラに預けるために、引き取っていったと説明します。それを聞いて一度は望んで養子にした息子を、邪魔になるとやっかい払いしたと、妻を責めるイゴール。

ヴィクトールはヴァーニャを後部座席に乗せ、車を走らせていました。何も語らないヴァーニャに、母が歌っていた曲を口ずさんで聞かせました。

後ろから同じ歌を歌う、女の声が聞こえます。ヴィクトールが確認するとヴァーニャの姿は無く、そこには死人のような顔の母親がいました。驚いた彼は運転を誤り、車は事故を起こします。

車に乗り刑事を追うイゴールは、彼の車が事故を起こした場所を見つけます。現場からヴィクトール刑事の遺体が運び出されました。イゴールは警官に子供が乗っていなかったか尋ねると、遺体は1つしか無いとの返事でした。

事故現場からヴィクトールが集めた、捜査資料を持ち出すイゴール。資料には検死報告書と写真がありました。突然、彼はパパと呼ばれます。いつの間にか彼の車の後部座席に、ヴァーニャが座っていたのです。

夫が連れ帰ったヴァーニャを見て、ポリーナは顔色を変えました。家に子供を残し出て行く夫に、彼女はあの子と2人にしないで、と叫びます。しかしイゴールは去り、暗い部屋の中に姿を消したヴァーニャ。

イゴールは孤児院を訪れていました。そこで暮らす子供たちに、管理人のバーシャが自殺した理由を訊ねます。子供たちは、修道女のインドラに聞いてと答えますが、イゴールは金を渡し、何でも知っていることを聞き出そうとします。

子供たちはゾンビの存在を信じており、それを見せると彼に告げました。半信半疑で付いて行くと、子供はスマホで撮影した動画を見せます。そこには大人たちに囲まれた、赤い衣服を付け叫ぶ女の姿が映っていました。

この女は誰だ、とイゴールは尋ねます。子供はバーシャの死んだ妻、レナだと告げます。動画の中で女は人間離れした動きを見せます。女を囲んだ人々の中に、修道女のインドラの顔がありました。そこにインドラ本人が姿を現します。

その頃ポリーナはヴァーニャと食事をしていました。不快な音を立てる息子をポリーナは、嫌悪の表情で注意しますが、自分の食事に針が入っていると気付きます。恐怖する母に、不敵な笑みを見せるヴァーニャ。

イゴールは修道女に、動画に映ったレナについて訊ねます。彼はヴィクトールが残した資料から、死んだバーシャの妻レナは、インドラの妹だと知っていました。

イゴールはバーシャやインドラが、レナの死を偽装して匿い、そして彼女が生んだのがヴァーニャだと考えていました。すると修道女のインドラは、彼に付いてくるよう言います。

洗面所で口の傷を見ていたポリーナは、ヴァーニャが自分に突進してくる姿に気付き、慌てて洗面所の扉を閉めます。扉の向こうから聞こえる、自分を呼ぶ息子の声に怯えるポリーナ。

インドラが案内したのは、1997年に死んだレナの墓でした。自殺した彼女は正式な場所に埋葬することが許されなかったのです。その後バーシャは酒におぼれ、荒んだ生活をしたと語ります。

先程の動画の女性は誰かと訊ねるイゴール。インドラはそれもレナだと告げ、20年前の新聞を見せます。それは火災現場で、少年を救った消防士バーシャを紹介するものでした。

記事の写真を見てイゴールは驚きます。バーシャに助け出された少年の姿は、孤児院で最初に見かけたヴァーニャの姿に似ています。

“それ”には性別も年齢も、魂すら無いと語りかける修道女のインドラ。

馬鹿げた迷信だと否定するイゴールに、修道女はバーシャが助けた少年が姿を消した1ヶ月後、あの地下室に、死んだ妹レナが現れたと告げました。

信じようとないイゴールに、インドラは”それ”は年も取らず成長もせず、失った愛する者の姿で人の前に現れる、と言葉を続けます。立ち去るイゴールに、あの邪悪な存在と暮らしては危険だと叫ぶインドラ。

その頃家では、ポリーナが目の前に現れた、何か邪悪なものに襲われていました。

イゴールが家に戻ると、血にまみれたポリーナが倒れていました。そして彼女に構うことなく、ヴァーニャは無心に遊んでいます。

悲しみの余り叫ぶ女の前に、墓の土をかき分けて何かが現れ、やがてそれは子供となり、悲しみのあまり死んだ女をママと呼ぶ、そんな光景が浮かび上がりました。

ポリーナは病院に運ばれましたが、全身の6%の血液とお腹の赤ん坊を失い、危険な状態でした。彼女が夫に何か語ろうとすると、突然ヴァーニャは逃げ出します。後を追いますが、暗闇の中を逃げ回る息子の姿を見失うイゴール。

イゴールのマンションの隣人、ペーチャとターニャ夫妻の家を何者かが尋ねます。応対に出たペーチャを襲い、時計が欲しいとねだる子供の姿を、ターニャは震えて見ていました。

イゴールが自宅に戻ると、彼が失踪した本当の息子ヴァーニャに、時計の見方を教える姿を捉えた、ホームビデオの映像が流れています。映像を止めたイゴールは、インドラからもらった20年前の新聞を取り出します。

消防士バーシャに救われた子供と、引き取った頃のヴァーニャの顔は瓜二つでした。そこに血まみれのヴァーニャが現れます。禍々しい者にも見える息子は、彼に腕時計を差し出しました。

ヴァーニャの体の血を洗い流すイゴール。息子の差し出した腕時計を手に苦悩していると、ヴァーニャの体は変貌しますが、やがて元の姿に戻ります。

警察に運び出される、ペーチャとターニャの遺体を見つめていたイゴールの手を、ヴァーニャがそっと握ります。

イゴールの元に刑事が現れます。刑事は殺されたペーチャとターニャを調べて発見した、3年前のドライブレコーダーの映像を見せました。それは2人の乗る車が、彼の本当の息子ヴァーニャをはねる映像でした。

2人は事故でヴァーニャを死なせ、密かに亡骸を始末したのです。自分が復讐したと疑っているのか、とイゴールは聞きますが、夫婦は狂犬病の犬か何か、どう猛な動物に襲われ噛み殺されたと警察は判断していました。息子さんは気の毒だったと刑事は詫びました。

イゴールは入院中のポリーナに、かつて警察にヴァーニャと思われる死体を見せられた時、その死を信じたくないばかりに否定したと打ち明けます。意識の無いポリーナの前で、息子に続き君まで失いたくないと、泣きながら訴えるイゴール。

しかし彼女の心拍数モニターは、音を刻むことを止めました。

家に戻ったイゴールは、ヴァーニャに睡眠薬入りのジュースを与えます。彼は眠りについた息子を、修道女のインドラの元に運びます。

イゴールとインドラは、ヴァーニャを地下室のベットに縛り付けます。激しく父を呼ぶヴァーニャの姿は、やがて様々な姿に変貌しました。

目の前にいるのは何なのか、とイゴールは修道女に訊ねます。愛する人を失った者の前に、愛する人の姿で現れる。その人の愛を失うと、他の者の前に現れる。人の弱さにつけ入り、試練を与える存在だと説明するインドラ。

しかしあなたは試練に耐えた、と言う修道女。イゴールは彼女に、本当にそう思いますか、と呟きます。”それ”はまだ、イゴールを呼んでいます…。

霧の深い日、イゴールの別荘を友人の医師ワシリーが尋ねます。ポリーナの死後、仕事を捨て世間から隠れるように暮らすイゴールを心配し、様子を見に訪れたのでした。

しかしイゴールは、何か力になれないかと申し出るワシリーに、1人にして欲しいとだけ告げると、家にも入れず追い返します。

ワシリーは塞がれた窓の隙間から、家の中を覗き込みます。するとイゴールの隣には、女の姿がありました。

その女が振り返った時ワシリーの目に映ったのは、間違いなくポリーナの顔でした…。

映画『ストレイ 悲しみの化身』の感想と評価


(C)SOK LLC (C)Yandex.Studio LLC (C)Star Media Distribution LLC 2019

ロシアの伝統に根差した怪異を女性監督が描く

森や湖や川、自然に根差した伝説が生まれたロシア。古来よりスラブ民族の間で語られたきた精霊や怪物、妖怪の類いの物語は、今も人々の心に生き続けています。

「未体験ゾーンの映画たち2019」では、そんな存在である水の精霊、“ルサールカ”を題材にしたホラー映画『黒人魚』が公開されています。

ロシアには様々な形で生者の前に現れる、死者についての伝承が数多く残されています。そんな物語に着想を得て作られたのが、『ストレイ 悲しみの化身』です。

モデルとなる特定の怪物がいる訳ではないですが、人の悲しみにつけ入るという悪魔的存在を、より現代的な姿で描き、見事に観客の心に響くモダンホラーになりました。

本作はアメリカの映画・映像作品を扱う環境で、長らく製作関係の仕事をしてきたオルガ・ゴルデツカヤの初監督長編映画ですが、女性監督ならではの視点が、愛に関する悲しい物語をより奥深いものにしています。

実はこれ、ホラー映画版『惑星ソラリス』?

参考映像:『惑星ソラリス』(1972)

本作には数々の印象的な映像が登場します。木々の立ち並ぶ森、廃墟と化した建物、そして繰り返し登場する、水面に反転して映りこんだ風景…。

これらは未知の惑星を舞台にしたSFでありながら、人間の内面とロシアの大地への思慕を描いた映画、旧ソ連のアンドレイ・タルコフスキー監督の『惑星ソラリス』を思わせます。

『惑星ソラリス』のストーリーの骨子は、ソラリスの環境が人間の記憶を読み取り、自殺した主人公の妻を実体化させ、彼の前に現れること。もうお判りですね。死者への思いや記憶を扱うという点でも、本作の『惑星ソラリス』からの大きな影響が読み解けます。

本作はハリウッド的ホラー映画のフォーマットで作られ、芸術性の高い演出や、タルコフスキー監督の特徴である長回しシーンなどはありません。

しかしラストシーンの、タルコフスキー映画的に作り込まれた画面には驚かされました。ゴルデツカヤ監督の並々ならぬ、巨匠の作品へのこだわりを感じました。

興味を持った方にはぜひ、かつて『2001年宇宙の旅』(1968)と並び評された、SF映画の名作『惑星ソラリス』を振り返ってはいかがでしょうか。

まとめ


(C)SOK LLC (C)Yandex.Studio LLC (C)Star Media Distribution LLC 2019

伝統的な設定をモダンホラーに作り替え、映像にこだわりを持つ映画『ストレイ 悲しみの化身』。心を揺さぶる、エモーショナルな作品が好きな方におすすめです。

ところで映画に出て来るお母さん、強引に養子を取ったのに、自分の子が出来たらポイかよ、ともっともな感想を持つ人が多いようです。

あれは当初母親の悲しみにつけ入っていた”怪物”が、母の愛情が薄れるや父親の心に忍び込み、父の望む姿の息子になった結果です。同じ姿の息子でも、母からすればどんどん異質な存在になる訳で、互いに攻撃的な関係になる訳です。

というのはホラー映画としての解釈。現実にある養子や連れ子に対する、親の感情の変遷を寓話的に描いたと受け取れば、最初の自然な感想も間違いありません。ゴルデツカヤ監督ならではの、深い洞察を元にした描写でしょう。

同時にこの映画、死別であれ別れた恋人であれ、女性より男性の方が後々まで引きずるものですよ、という物語でもあります。そうです、大抵の場合、男の方がおセンチなんです。

オルガ・ゴルデツカヤ監督、男というものを、本当によくお判りですね…。

次回の「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」は…


(C)kaleidoscope

次回の第40回は戦場でタイムループに陥った特殊部隊を描くホラー映画『ドント・ゴー・ダウン』を紹介いたします。お楽しみに。

【連載コラム】『未体験ゾーンの映画たち2020見破録』記事一覧はこちら


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編集長、河合のび。
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日本映画大学