連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」第23回
世界各国の様々な映画を集めた劇場発の映画祭「未体験ゾーンの映画たち2020」は、ヒューマントラストシネマ渋谷、シネ・リーブル梅田にて実施、一部作品は青山シアターにて、期間限定でオンライン上映されます。
2019年は「未体験ゾーンの映画たち2019」にて、上映58作品を紹介いたしました。
2020年も挑戦中の「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」。第23回で紹介するのは、復讐に挑む男を描くリベンジ・アクション映画『ラスト・パニッシャー』。
ハリウッドを代表するスターでありながら、アクション、ホラー映画といった作品に主演し、強烈な個性を発揮するニコラス・ケイジ。その活躍はB級映画ファンの注目を集めています。
今回彼が挑むのは19年の服役後、不治の病で余命僅かと診断され、釈放された元ギャング。長らく別れていた1人息子と家族の時間を過ごしながらも、裏切り者への制裁の念に憑りつかれた、老いた男の壮絶な復讐劇が今始まる…。
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CONTENTS
映画『ラスト・パニッシャー』の作品情報
【日本公開】
2020年(カナダ・アメリカ合作映画)
【原題】
A Score to Settle
【監督】
ショーン・クー
【キャスト】
ニコラス・ケイジ、ベンジャミン・ブラット、ノア・ル・グロ、カロリーナ・ヴィドラ、モハメッド・カリム、イアン・トレイシー
【作品概要】
ボスの身代わりに服役した男の復讐劇を描く、ハードボイルド・アクション映画。監督は2010年東京国際映画祭コンペティションに出品された、息子が銃乱射事件の犯人となった両親を、マイケル・シーン、マリア・ベロが演じた『ビューティフル・ボーイ』のショーン・クーです。
主人公の友人を映画俳優・声優として活躍し、ドラマ『LAW&ORDER』で有名なベンジャミン・ブラットが、息子をバズ・ラーマン製作の、NETFLIXオリジナルドラマ『ゲットダウン』のノア・ル・グロが演じています。
ヒューマントラストシネマ渋谷とシネ・リーブル梅田で開催の「未体験ゾーンの映画たち2020」上映作品。
映画『ラスト・パニッシャー』のあらすじとネタバレ
野球場でノックの要領で球を打つ男たち。その先には椅子に縛り付けられた男がいます。組織のボス、マックスにバッティングを手ほどきするフランク。彼らは裏切り者に口を割らせるべく、打球を当てる拷問を加えていました。
男をいたぶることを楽しむギャングたち。しかしキレたマックスは、手にしたバットを振るって男を何度も殴ります。フランクが駆け付けた時には男は絶命していました。ボスから血まみれのバットを受けとるフランク。
時がたち、刑務所にすっかり年老いたフランク(ニコラス・ケイジ)がいました。彼はは女医から重度の不眠症と診断されます。薬が処方されるものの、効果は限られ不眠はせん妄や幻覚を生み、やがて意識を混乱させ、最終的に死に至ると女医は説明します。
致死性の病に侵されたフランクは、早期に釈放されることになりました。私物を渡され夜の刑務所から出たフランクに、誰の迎えもありません。やむなく彼は1人歩き出します。
すると闇の中から1人の若者が歩いて現れます。それはフランクの1人息子、ジョーイ(ノア・ル・グロ)で、2人が出会うのは19年ぶりでした。荷物を持とうとする息子の提案を断り、フランクはジョーイと夜道を歩いていきます。
夜が明けフードトラックでコーヒーを買い、フランクは息子と話します。生活苦から車を手放したジョーイは、彼の目に痩せて見えました。タクシーに息子と共に乗り込んだフランク。
フランクは昔住んだ家に向かうと、タクシーに息子を残し敷地に入ります。現在の住人の目を盗み、朽ち果てた小屋に入った彼は、中にあった小箱を手に取ります。そしてフランクは地面を掘りトランクを見つけますが、その中には大量の札束と、血痕の残るバットが入っていました。
それをカバンに詰め込み、フランクはタクシーに戻ります。彼がジョーイに見せたのは小箱の中で見つけた、息子が大切にしていた野球カードでした。
緑の中を走りタクシーが到着したのは豪華なホテルでした。ここに泊まると言いタクシー代も払った父が、何か過去にまつわる大金を手にしたと察し、別れを告げるジョーイ。しかしフランクはここは2年目の結婚記念日に、妻と訪れた場所だと説明します。
お前の母ともう一度訪れたかった場所だけに、つれて来たのだと語るフランク。その言葉にジョーイも納得し、2人はホテルに入ります。ボーイに気前よくチップを渡し、高級な部屋に案内されるフランクとジョーイ。
身なりを整えたフランクはジョーイとレストランに入ります。子供の頃大食いだったお前が、1日中何も食べないと語って、息子の身を心配するフランク。ドラックはやっていないと語り、父が不在の19年間を。今語るのは簡単ではないと告げるジョーイ。
フランクは息子がトイレに立った間に、2人分の食事を注文します。息子を待つ間、彼はふと近くの席で老人と語る、着飾った若い女を見つめます。戻って来たジョーイは、あれは娼婦だと父に告げました。
その光景に時代が変わったと感じるフランク。部屋に戻った彼は、明日は買い物に行こうと息子に告げます。刑務所で作ったバットをジョーイに見せ、父はお前が野球を続けていれば、メジャーリーガーにもなれたと呟きます。
しかしカバンに入れた血まみれのバットに息子が気付くと、フランクはとっさに隠します。ジョーイはまだ復讐を考えているのかと、父に訊ねます。あの連中とは縁を切った、これからはお前と二度と離れないと告げるフランク。
しかし彼は息子が眠ったと確認すると、夜の街に出て行きます。馴染みの銃の密売人の元に向かいますが、相手は6年前に死んでいました。今はその娘が商売を仕切っており、フランクは彼女から短機関銃と拳銃を買い、彼女の幼い息子に手製のバットを与えます。
次にフランクが向かったのは、Q(ベンジャミン・ブラット)が経営する酒場でした。突然現れたフランクに驚くQ。彼はフランクのギャング時代の仲間で、ボスがバットで人を殺した時も、共にその場にいた親友でした。
再会を喜ぶQ。2人は酒を酌み交わし語り合います。自分の娘が3日後に結婚すると語るQ。2人の間には長い時間が流れていました。
ボスのマックスは、6年前に死んだと語るQ。それはフランクも聞かされていました。彼はボスの身代わりに捕まり、思わぬ長期間を刑務所で過ごすことになったのです。酷い仕打ちをしたと呟くQに、お前のせいじゃないと答えるフランク。
フランクはかつての仲間、ジミーとタンクの居場所を訊ねます。彼らがマックスの命令で、フランクの大切な人の命を奪ったのでした。フランクはQに拳銃を突きつけて詰問しますが、Qは自分は足を洗い、もう彼ら居場所は判らないと答えます。
体調を崩しトイレに向かった彼をQは気遣い、ジミーとタンクの居場所を探ってみると告げます。フランクは友人に銃を向けた非礼を詫び、去って行きます。
一睡もせずホテルに戻ったフランクに、女医から聞かされた言葉が甦ります。部屋に息子の姿はなく、彼はジョーイの名を何度も叫びます。現れた息子はコーヒーを買いに出ただけだと説明し、そして買い物へ出かけた2人。
フランクは2人分の腕時計を買い、共にスーツを新調し、親子で購入したスマホを操作して喜び、息子に高級スポーツカーを買い与えます。すべて現金で払ったフランクは、息子を助手席に乗せ車を運転し2人ではしゃぎます。
ホテルに戻った2人に、ポン引きの男が娼婦はいるか、と声をかけてきます。適当にあしらうフランクは、男から名刺を受け取りました。
ジョーイは今付き合っている彼女がいて、名前はロレインだと告げます。フランクはその名が自分の妻と同じだと言い喜びます。今まで刑務所に面会に訪れなかったとを詫びるジョーイに、お前を巻き込んでしまったのは俺だと語るフランク。
フランクが刑務所に暮らした間に、ジョーイがドラックに溺れた時期がありました。妻であり母であるロレインの口癖は、今日こそ再出発の日でした。その言葉の通り人生をやり直そうと、父は息子に語りかけます。
自室に戻ろうとしたフランクは、昨日見た女に遭遇します。ジョーイから励まされ女に声をかけたフランク。彼女はシモーヌ(カロリーナ・ヴィドラ)と名乗ります。シモーヌはフランクの態度を、本物の紳士だと褒めます。
シモーヌとベットを共にしたフランク。彼の刺青に気付いたシモーヌに、フランクは自分は19年間刑務所にいたと正直に話し、君に迷惑をかけないと告げました。
フランクはシモーヌに大金を払いますが、それは彼女を傷付ける行為でした。フランクは自分の振る舞いを詫びると、スポーツカーで彼女とドライブします。
彼女にボスの罪を被り、刑務所に入ったと打ち明けるフランク。その結果妻と死別したと語ります。その言葉を聞き自分も、1人息子を育てていると身の上を語るシモーヌ。
車で関係を持つ2人。フランクはシモーヌの姿に亡き妻の面影を重ねていました。ホテルに戻り別れる時、フランクはシモーヌと、明日夕食を共にすると約束します。そしてシモーヌは、自分の本当の名はジェニファーだと彼に明かしました。
しかし彼女と別れたフランクは車を走らせ、いかがわしい店に向かいます。中の個室を1つずつ探りながら、短機関銃を手にするフランク。その部屋の1つに、女をはべらせたジミー(モハメッド・カリム)がいました。
銃を突きつけられても動じないジミーは、お前はボスの身代わりに刑務所に入ると同意した、とフランクに告げます。そしてマックスの居所を聞きに来たのか、と呟きます。
その言葉でマックスの生存を知り驚くフランク。その隙をつきジミーは逃げ出します。フランクは今まで自分が騙されていたと知り、彼の前に新たな復讐のターゲットが現れました…。
映画『ラスト・パニッシャー』の感想と評価
“俺たちのニコラス・ケイジ”の大熱演を楽しもう!
叔父はフランシス・フォード・コッポラ。ハリウッドの名家コッポラ一族の一員にして、『リービング・ラスベガス』で、アカデミー主演男優賞を受賞しているニコラス・ケイジ。
若い頃から熱演を通り越した、”怪演”を見せた彼ですが、その後様々なゴシップや金銭問題など、本業以外の話題で世間の注目を集めることが多くなります。
お蔭で口の悪い映画通から、金銭トラブルで仕事が選べなくなったと言われる始末。しかしB級映画好き、そして彼の”怪演”を愛するファンは、強烈な個性を発揮できる映画に主演する姿に、熱い視線を送っています。
近年は『マッド・ダディ』や『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』、”未体験ゾーンの映画たち2019″上映作『トゥ・ヘル』に主演し、危険な雰囲気のB級映画が大好き、という好事家を大満足させています。本作でもその魅力は爆発しています。
あらすじ紹介をお読みいただければお判りの通り、幻覚付きの死に至る病に侵され、1人芝居のシーンは多数、ベットシーンにシャワーシーン…女優でなくお前がかよ!、とツッコミを入れたくなりますが、彼にとっては通常運転、安心と安定のお仕事を見せてくれます。
“怪演”ですが映画は泣けるハードボイルド
何かと”怪演”に注目集まるニコラス・ケイジの主演作。ホラー・バイオレンス映画にその強烈な個性が発揮されますが、本作は少々テイストが異なります。
ボスの罪を被った彼は、服役中に味わった悲劇の復讐を試みます。しかし実は…という展開を、映画は骨太のサスペンス・ミステリーのスタイルで描いています。
本作の監督はショーン・クー。『ビューティフル・ボーイ』では、息子が加害者となった両親の姿を描きましたが、本作では息子を失った傷心の父の姿を、ケイジに演じさせます。
『ビューティフル・ボーイ』のプロデューサーから脚本を送られ、本作を監督することになったと語るショーン・クー。彼はその内容に興味をそそられ、映画の製作・主演にケイジが加わると脚本に変更を加えられ、そして映画の製作はスタートします。
決して予算は充分ではなく撮影スケジュールは短く、様々な制約の中で工夫を凝らす必要があったと話す監督。そして現場に準備万端で臨み、熱心に振る舞うケイジの姿はスタッフに良い影響を与えた、と語っています。
まとめ
ハードボイルドなクライム映画に、家族の悲劇を盛り込んだ硬派で泣ける映画『ラスト・パニッシャー』。その中でもニコラス・ケイジの個性は爆発しています。
彼の強烈な演技を引き出し、受ける役目を引き受けたのが、息子役のノア・ル・グロ。彼の存在とショーン・クーの演出が、低予算の映画の完成度を明らかに高めています。
この映画の仕掛けは、息子の年齢を考えると早い段階で気付く方もいるでしょうが、映画の価値はこの仕掛け以外の部分の、ドラマ部分にあることは明白です。
ケイジ主演のB級映画、というイメージが本国の映画評論家、一般の映画ファンからの評価を下げているようですが、彼の主演映画を愛する方は、この内容に満足できるはずです。
ニコラス・ケイジファンは躊躇せず見よう!彼を見ているだけで、ポップコーンLサイズに加え、どんぶり飯の3杯はいけます!見逃すとパニッシュされるぞ!!
次回の「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」は…
次回の第24回は第1次世界大戦で活躍した、米軍黒人部隊の秘話を描く戦争映画『グレート・ウォー』を紹介いたします。
お楽しみに。
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