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Entry 2019/10/09
Update

映画『スクールズ・アウト』感想と評価。キャストの演技力が結末の衝撃まで牽引する|SF恐怖映画という名の観覧車70

  • Writer :
  • 糸魚川悟

連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile070

当コラムでは今週も引き続き「シッチェス映画祭ファンタスティック・セレクション 2019」より、おススメの作品をピックアップして深堀していきます。

前回のコラムでは日本の特殊メイクの巨匠梅沢壮一が手掛けた、生きた粘土が人を襲う映画『血を吸う粘土 派生』(2019)が「和製ホラー」の新たな形を作り出していることについてご紹介させていただきました。

そして、今回ご紹介させていただくのは、静かな雰囲気と不気味な雰囲気が同居するフレンチムービー『スクールズ・アウト』(2019)。

サスペンス映画の秀作ともいえる本作の魅力をご紹介していこうと思います。

【連載コラム】『SF恐怖映画という名の観覧車』記事一覧はこちら

映画『スクールズ・アウト』の作品情報


(C)Avenue B Productions – 2L Productions

【日本公開】
2019年(フランス映画)

【原題】
L’heure de la Sortie

【監督】
セバスチャン・マルニエ

【キャスト】
ローラン・ラフィット、エマニュエル・ベルコ、グランジ、パスカル・グレゴリー、アデル・カスティヨン、ルアナ・バイラミ

映画『スクールズ・アウト』のあらすじ


(C)Avenue B Productions – 2L Productions

国内屈指の成績を誇るサン・ジョセフ中学校の中でも、特に優秀な生徒を集めた3年1組を受け持つ教師が授業中に飛び降り自殺を図り、校内は騒然となります。

臨時教師として3年1組を担当することになったホフマンは、クラスの中でも不気味な思考を持つ6人の生徒の存在に気が付き…。

描かれるのは「現代社会への絶望」


(C)Avenue B Productions – 2L Productions

DCコミックスの人気ヴィランを主人公としたスピンオフ映画『ジョーカー』(2019)が10月4日より公開され、週末興行収入で1位を記録するなど大ヒットとなっています。

『ジョーカー』では病を抱えた1人の男が社会からの冷遇をきっかけに崩壊に向かっていく様子が描かれ「まるで現代社会のようだ」と話題となり、「社会への絶望」が生んだ悪の物語として考えるべきことが多い映画でした。

一方、パリで大規模なデモが発生するほどの深刻な経済悪化と貧富の格差が広がるフランスで製作された本作『スクールズ・アウト』では、「現代社会への絶望」がまるで違った形で表現されていました。

国内トップクラスの頭脳を持つ中学生が集まった3年1組の生徒は、他のクラスの生徒から嫉妬の対象として見られ激しい虐めを受けます。

さらに担当教師が自殺を図るなど、3年1組の周囲では騒動が次々と発生しますが、その全てに生徒たちは驚くほどに無関心であり、主人公のホフマンは彼らが何かを計画していることを確信します。

その計画の中身は実際に鑑賞し確かめて欲しいのですが、その動機は頭脳明晰な彼女たちが抱える「未来への絶望」を意味し、衝撃的な結末を迎えることになります。

“「現代社会」を生きる我々が変えていかなければならないこと”をもう一度考え直すきっかけとなると言える作品でした。

雰囲気を作り出した若手俳優陣の演技力


(C)Avenue B Productions – 2L Productions

本作全体に漂う「不気味さ」は若手俳優陣の演技によるものが大きく、作品全体を強く牽引しています。

中でも不気味な6人組のリーダー格となる少女アポリーンを演じるルアナ・バイラミの「虚無」を具現化したような演技は怪演と言え、彼女たちが何を考え、何をしようとしているのか、と言う本作のサスペンス要素を強めています。

また主人公のホフマンを演じるローラン・ラフィットの演技も素晴らしく、「大人」としての強さと「大人」だからこその弱さを同居させながらも真実を追い、罰するためではなく止めるために動く熱血的な主人公を演じ抜き、感情移入をしやすい理想の主人公像を体現していました。

成長物としての魅力


(C)Avenue B Productions – 2L Productions

本作は「不気味」や「現代社会への絶望」だけを描いた作品ではなく、新任教師ホフマンが加わることで「成長物」としての魅力も生まれています。

他の教師が生徒たちの問題行動を見て見ぬ振りをする中で、ホフマンだけがアポリーンを中心とした6人の生徒の計画を「善意」で止めようと行動。

人間らしい悩みや弱さを持ちながらもひたすらにまっすぐ子どもたちを未来に導こうとするホフマンによって、「不気味」なだけだった生徒たちに彼らなりの理由が分かり始め、物語にさらに引き込まれることになりました。

「大人たちから見た世界」と「子どもたちから見た世界」、そのどちらもが正解なわけではないと言うメッセージを感じることの出来る作品でした。

まとめ


(C)Avenue B Productions – 2L Productions

作中では思わず目を逸らしたくなるような過激なシーンがフラッシュバックのように多く映されます。

そのすべてが実際の映像を流用しており、アポリーンたちから見た「現代社会への絶望」を鑑賞者自身が追体験することになります。

「希望に満ちた未来」と胸を張って言うことの出来ない現代だからこそ、次世代の子供たちが何を考え生きているのかを描いた本作が重要となるのかもしれません。

フランス産の秀逸なサスペンスミステリー映画『スクールズ・アウト』は「シッチェス映画祭ファンタスティック・セレクション 2019」にて上映予定。

東京・名古屋・大阪の三都市で開催される「シッチェス映画祭ファンタスティック・セレクション 2019」にぜひとも足を運んでみてください。

次回の「SF恐怖映画という名の観覧車」は…

いかがでしたか。

次回のprofile071も「シッチェス映画祭ファンタスティック・セレクション 2019」の上映作品から1作を選びご紹介させていただきます。

10月16日(水)の掲載をお楽しみに!

【連載コラム】『SF恐怖映画という名の観覧車』記事一覧はこちら




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