連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile024
ハロウィン、クリスマス、初詣と宗教的風習を日本独自の文化に改変し取り入れる日本ですが、そのイベントの「宗教的背景」を気にする人は中々いません。
同様に映画と言うジャンルでも、「宗教的要素」が重要な意味を持つことが多くありますが、日本にはあまり「宗教的知識」が浸透していないため、見逃してしまっている方も多くいるはずです。
profile20でもご紹介した通り、「ホラー」や「サスペンス」では宗教との関係がより前面に押されていることが確認できますが、実は「SF」映画にも宗教は大きく関係しています。
今回は「宗教」の中から、日本でも馴染みの深い「キリスト教」に絞り、「救世主」が重要なワードとなるSF映画について、その繋がりを考えていきます。
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CONTENTS
明らかな繋がりを示唆する「SF」映画
アメリカでは日本に比べ「宗教」、特に「キリスト教」に対する馴染みは深く、様々な映画で「キリスト教」や「聖書」をモチーフにした作品が存在します。
この章では、特にその繋がりが有名で、映画内で明らかに繋がりを示唆している作品をご紹介します。
「ターミネーター」シリーズ
1984年にジェームズ・キャメロンにより制作され、大人気シリーズとなった『ターミネーター』。
暴走した人工知能に打ち勝つことになる抵抗軍のリーダーを抹殺するため、過去に送られたターミネーターとの攻防を描く人気作ですが、この作品にはキリスト教的要素があります。
抵抗軍のリーダージョン・コナーは、イニシャルにすると「J・C」であり、キリストの正式な名である「Jesus Christ」のイニシャルと一致します。
映画内でも人類を救う最後の希望となる「救世主」としての役割が与えられ、彼を妄信的に信じるカイルを始めとした登場人物と「黙示録(アポカリプス)」的な終末を舞台とした世界観が、今作の「聖書」的内容を確定させています。
「マトリックス」シリーズ
1999年に公開され、キアヌ・リーヴスをハリウッドスターへと返り咲かせた『マトリックス』も、キリスト教への繋がりが有名な作品です。
主人公の「ネオ(NEO)」は「モーフィアス」によって、自分が生きる世界が仮想現実であることを知ります。
モーフィアスの導きによって「預言者」と出会い「選択」することによってネオが「救世主(ONE)」として目覚めていく物語なんですが、ここまでのワードだけでも「聖書」のワードが複数あるのが分かります。
それだけでなく、後に公開された『マトリックス:リローデッド』(2003)や『マトリックス:レボリューションズ』(2003)の三部作として考えてみると、よりその構造は顕著なものになります。
「救世主」として目覚めただけでなく、人間の希望を紡ぐためその身を犠牲にする「選択」を受け入れる「キリスト」像が「SF」で描かれる「マトリックス」シリーズ。
「ネブカドネザル」や「ザイオン」など、様々な部分にこれ見よがしに配置されたワードに注目し再鑑賞してみてはいかがでしょうか。
深読みすると「キリスト教」に繋がる「SF」映画
先にあげました2つの作品は特に「キリスト教」との繋がりが顕著であり、多くの専門家にその繋がりを指摘されている作品でもありました。
続いてこの章では、あまり話題となることが少ないものの、確かに背景に「キリスト教」的教えを感じることの出来る作品を紹介させていただきます。
「スター・ウォーズ」シリーズでは誰が「救世主」なのか?
全世界で人気のSFスペースオペラ「スター・ウォーズ」シリーズ。
実は今作にも「キリスト教」的要素がそこかしこに散りばめられています。
後にダースベイダーとして暗黒面に落ちてしまう「アナキン・スカイウォーカー」には父親がおらず、母親であるシミが誰とも関係を持たなかったにも関わらず妊娠したという出自があります。
これはまさに「キリスト」と同じ出自であり、エピソード1からエピソード3までの3部作では、「選ばれしもの(chosen one)」としてのアナキンが際立つような物語展開が行われます。
しかしその後、彼は暗黒面に落ちてしまい、子どもを含めた多くの戦士候補生を虐殺。
「キリスト」=「アナキン」として考えるならばあり得ない物語の構図ですが、先述した様々な要素が明らかに「聖書」との繋がりを示唆しています。
それでは、果たしてこの作品における「救世主」とは何者なのか。
この答えに関しては未だ議論の絶えない課題であり、このように数々の考察が出来ることが本シリーズの魅力とも言えます。
「パージ」シリーズ
1年に1度、12時間だけ殺人を含むあらゆる法律が撤廃される「パージ」の設定が人気を博した「パージ」シリーズ。
この作品では1作目から「隣人愛」をテーマにした物語が展開しますが、注目して欲しいのは2作目である『パージ:アナーキー』(2013)です。
フランク・グリロ演じる主人公は「パージ」の日に、かつて自身の息子を飲酒運転の末轢き殺した男に復讐するため、武装した上で車を走らせていました。
しかし、「パージ」の時間に、今まさに攫われそうになる親子を見捨てきれず、親子の逃亡に手を貸すことになります。
長い逃避行の末、親子の安全を確保した主人公は、息子を轢き殺した男家に押し入り復讐をしようとしますが、様々な戦いを経た彼が選んだのは「赦す」ことでした。
男の家を出た主人公は、「パージ」の暗部を仕切る男に邪魔な存在として銃撃を受け重傷を負います。
しかし、トドメを刺される寸前に暗部の男を射殺したのは、息子を轢き殺した男でした。
さらに主人公の助けた親子が彼を救うため、息子を轢き殺した男の運転する車で病院に着いたシーンで物語は終わります。
今作では、「復讐を計画する主人公」が本人にその意図がなくとも「キリスト教」における「隣人愛」と「赦し」の精神を体現し、誰かの「救世主」になり得たことで「救われる」物語が描かれています。
このように一見殺伐とし「宗教」とは無関係のように思える作品にこそ、根幹の部分に精神的な要素が含まれていることがあるんです。
まとめ
今回のコラムでは4作の「救世主」と言うワードが登場する作品をご紹介致しました。
宗教的文化が根強い海外では、ジャンルに関わらず「宗教」をモチーフとした物語をベースにすることが珍しくありません。
実際に現地に足を運べばその場所を舞台にした映画をより楽しむことが出来るように、様々な文化のことを理解することでより作品を楽しむことが出来るんです。
そう言った意味でも、映画鑑賞はまだまだ奥深いものであると気づかされます。
次回の「SF恐怖映画という名の観覧車」は…
いかがでしたか。
次回のprofile025では、2018年12月15日(土)、16日(日)に座・高円寺2にて開催される『傑作? 珍作? 大珍作!! コメディ映画文化祭』の上映作品から、自身が作成したマネキンに恋をする『マネキン』(1985)をご紹介します。
見方を変えると「ホラー」とも言える「無機物との恋愛」を題材にした作品です。
11月28日(水)の掲載をお楽しみに!
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