連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile134
年月を重ねるごとに映画やドラマなどのオリジナル脚本の不足は深刻になったと言う闇の面と、特殊効果の進化と言う光の面から漫画やゲームの映像化作品は世界中で増え続けています。
しかし、日本人は世界の中でも原作付き作品の実写化には厳しく、手厳しい批評を受けることとなった作品も多くありました。
そこで今回は、オリジナル作品に力を入れる映像配信サービス「NETFLIX」による、大人気ホラーゲームの実写化ドラマ『返校 シーズン1』をネタバレあらすじを交えご紹介させていただきます。
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CONTENTS
ドラマ『返校 シーズン1』の作品情報
【原題】
返校
【配信】
2020年(NETFLIX独占配信)
【キャスト】
リー・リンウェイ、ハン・ニン、ホアン・コアンチー
【作品概要】
PC専用ゲームとして配信され世界中で大ヒットとなったゲーム『返校 -Detention-』を実写化した連続ドラマ。オリジナルの登場人物を主人公とし、原作の後日譚を交えて物語を構成したことで注目を集めました。
ドラマ『返校 シーズン1』のあらすじとネタバレ
1969年、反思想的な言論が厳しく取り締まられる台湾・翠華高校で禁書を流通させた罪を問われ、ある教師が死罪となり一部の生徒は禁固の処罰を受けます。数日後、翠華高校の分舎「涵翠樓」から1人の女生徒が飛び降り、自殺。「涵翠樓」は現在に至るまで閉鎖されることになります。
30年後、高校生のユンシアンは母親に連れられ寂れた田舎町の金鸞にある、高い進学率を誇る翠華高校へと転校します。
翠華高校では今もなお昔と変わらない厳しい戒律の基に授業が行われ、校門でユンシアンは所持していた小説『1984』を軍人のような指導教官バイに没収されます。またクラスの成績下位の人間は「幽霊」と書かれたタグを着けることを義務付けられ、教師からも奴隷のような扱いを受けていました。
金鸞の主となる成光寺の5代目として生まれたチェンは、学校と「幽霊」のタグを着けられた自分、そして何かに怯えひきこもる叔父ウェイに嫌気が差しており、金を貯め町から出ることを夢見ていました。
ある日、学級長のジエユーから入ってはいけない「涵翠樓」の話を聞いたユンシアンは、時折見える幻覚が気になり立ち入り禁止となっている「涵翠樓」に忍び込みます。
ボロボロの廃校となっている「涵翠樓」の屋上でユンシアンはチェンと出会い、陰でタバコを吸おうとしていたユンシアンをチェンは気に入ります。
しかし、誰も来ないはずの「涵翠樓」の屋上に1人の女生徒が現れると、「自分が分からなくなる」と錯乱しながら屋上から飛び降りてしまいます。女生徒の飛び降り死体を確認したバイと校長は、下手な噂が立たぬように隠ぺい工作を始めます。
「涵翠樓」内に薬を落としてしまったユンシアンがジエユーに「涵翠樓」に入ってしまったことを話しますが、ジエユーとユンシアンの会話を盗み聞きしていた生徒がバイに暴露したことでユンシアンは「幽霊」としての扱いを受けることになってしまいます。
同級生からもいじめられトイレ掃除まで命じられるようになったユンシアンは次第に自身に強くあたる担任教師チョウを恨み始めます。そして薬を取りに「涵翠樓」に入った際、「何者」かに対等な取引を持ち掛けられたユンシアンは「チョウ先生が嫌い」と伝えます。
その夜、ユンシアンが眠りに着くと彼女は夜の「涵翠樓」で目覚め、生徒を探しに「涵翠樓」に入ったチョウが椅子に拘束され勝手に足が真逆の方向に曲がり折れ絶叫する様を目撃。自分が望んだのはこんなことじゃないと叫ぶユンシアンでしたが、彼女の近くに現れた少女は「次はあなたが力になって」とユンシアンに告げるのでした。
翌日、チョウが「涵翠樓」で廃人のような状況で見つかり、バイ教官と校長は30年前に起きた事件との繋がりを感じ始めます。
チョウの不在により、クラスにはシェンが新たな担任として赴任します。
シェンは校長の息子でありながら学校の方針への疑問と生徒を尊重する主義を抱いており、生徒たちの心をつかみます。シェンによって「幽霊」のタグを外されたユンシアンも彼の人柄に惹かれ、徐々に信頼を強めていきます。
一方、バイと校長は立て続けに起きる事故に怯え、チェンの実家に「涵翠樓」のお祓いを頼むことにしました。
お祓いの場が近づき、「何者」かが「涵翠樓」からいなくなることに得も言われぬ不安を覚えるユンシアンは「涵翠樓」に忍び込み、生前の「何者」かの所持品であった鹿の首飾りを持ち帰ります。その日以降、首飾りを通しユンシアンに憑りついた「何者」かがユンシアンの前に姿を現すようになりました。
「何者」かはファン・レイシンと言う同年代の女性の霊であり、かつてユンシアンの住んでいる住居に住み翠華高校に通っていました。
シェンに詩社(詩人たちで結成された同人組織)へ誘われ詩を書き始めたこともあり、ユンシアンはかつてレイシンが書いた詩を読んだり、彼女に自作の詩を聞かせたりするようになります。しかしレイシンの姿は他の者には見えず、ユンシアンは明るくなったと評判になる一方でチェンは彼女に何か異変があったのではと不安を抱き始めます。
詩社でユンシアンを始め様々な生徒と共に詩の賞への応募を目指すシェンは、軍隊のように厳しい翠華高校の規律に疑問を覚えバイと対立しますが、校長は息子シェンを後押しはせずあくまでも翠華高校の規律を尊重します。
ユンシアンは賞の候補作として自身の部屋にあったレイシンの詩を提出しますが、その詩はシェンだけでなく専門家からも大絶賛され大賞を受賞します。ユンシアンは思わず気後れしますが、レイシンも彼女の成功を喜び「良い詩を書くには恋をすること」と彼女にアドバイスをします。
ユンシアンは詩人として彼女を育てようと躍起になるシェンと、教師と生徒と言う関係を越えて急接近し始めます。
授賞式に出席した夜、チェンからピアスを貰ったユンシアンは翌日、幸せな気分に包まれうっかり名前の欄に「ファン・レイシン」と書いてしまいます。その名前欄を目撃したチェンは、叔父のウェイが常日頃手入れしている墓の名前も「ファン・レイシン」だったことを思い出します。
卒業アルバムや新聞記事から「ファン・レイシン」と言う人物が30年前に「涵翠樓」から身を投げ死んだ女生徒であることを知ったチェンは、ユンシアンの着けている鹿の首飾りがレイシンの物であると知り、「涵翠樓」にいたユンシアンから首飾りを奪おうとします。
しかし、彼女とチェンは不思議な力で学校の異世界に移動させられ、ユンシアンはそこでレイシンと対峙します。
チェンがレイシンはユンシアンを憑り殺すつもりだと言い、その真意をユンシアンがレイシンに尋ねると、彼女はただニコリと笑いました。さらにユンシアンが転校してきた日、この棟から飛び降り亡くなった女生徒にも取り憑いていたのではと尋ねると、レイシンは頷きます。
レイシンは自身の復讐のためユンシアンを利用していることも明かし、復讐の完遂に協力して欲しいと願いますが、失望したユンシアンは鹿の首飾りを外し彼女の下を去ります。
翌日、教室にバイが訪れシェンが担任から外れたことを伝えます。その理由としてユンシアンとの親密な関係が問題となったことを話し、チェンとユンシアンに再び「幽霊」の札を被せます。
シェンはユンシアンが再び大きな賞を取れば、彼女の存在を学校側が認めざるを得ないと考え彼女にさらに親密な指導を続けます。しかし、ユンシアンはレイシンの詩を使い賞を取っており、レイシンとの関係を絶った今、以前のような詩を書くことはできなくなっていました。
レイシンの過去の詩をまた使おうとするユンシアンでしたが、かつて盗用が問題となった自身の過去を思い出します。しかし「息子には何もできない」と見下す父を見返そうと躍起のシェンに過度な期待を寄せられ、追い詰められたユンシアンは再びレイシンを呼び出そうとしますが、彼女は現れません。
シェンに追い詰められるユンシアンを見たチェンは、シェンに「詩人なら自分で詩を書け」と言います。そして詩社の人々に、詩人として有名だったころのシェンを知る者はいるかと聞きますが、誰も答えませんでした。
図書館で詩を書こうと苦悩するユンシアンは、図書館の中にあったシェンの詩集を見つけ読みます。そこにシェンがやって来ますが、詩集を読み終えていたユンシアンは、もう詩は書かないとシェンに言います。シェンの詩集は、かつてユンシアンが行ったのと同様に盗作によって書かれた代物だったです。
そのことを見抜かれたシェンは激怒しユンシアンに迫ります。シェンに犯されかけるユンシアンがレイシンに助けを求めると、部屋の電気が一時的に消え、彼女は家へと逃げ延びます。
翌日、レイシンがかつて書いた詩「乗客」がユンシアンの作品として賞を取り、その取材を受けていたユンシアンは、まるで自分が成し遂げたかのように取材に応えるシェンの存在を煩わしく思います。
表向きは良い教師であるシェンへの憤りから心労で倒れるユンシアンが目を覚ますと、そこには家を出ていった父リウがいました。
リウはユンシアンが学校生活について何も語らないのを不審に思い、彼女の日記を読みます。ユンシアンがシェンにされたことに憤慨したリウは教育委員会を巻き込み、シェンにユンシアンが性的暴行を受けたことを直訴し始めます。
委員会からの聴取に対し、シェンは校長の指示通り、ユンシアンから関係を迫ってきたと証言を繰り返します。2人の関係を見ていたジエユーはバイからの言いつけを破り、シェンから関係を深めていったと証言しますが、学校側はユンシアンが過去に盗作行為をしたこと、彼女の精神病の症状を指摘し、今回の一件も全てユンシアンの妄想だと主張しだします。
表向きには善良な教師であるシェンは生徒たちからの信用も厚く、逆にユンシアンは学校内で影口を叩かれ始めます。
聴取の最終日、シェンは保身のためユンシアンに対し恋愛感情はなかったと主張し、委員会はユンシアンの病的状況を考慮した上で今回の一件は彼女の狂言であったと結論付けます。自身のせいで再びバラバラになる家族の様子を目にしたユンシアンは、水を張った浴槽の中で手首を切り自殺を図ったことで、レイシンに身体を乗っ取られます。
ユンシアンは30年前の翠華高校で「レイシン」として目を覚まし、彼女の学校生活を追体験することになります。そしてバイや学校の制度に苦しめられ、盲目の母が浮気をする父を憲兵にスパイだと密告、結果父が廃人のようになってしまったレイシンの過去に苦しめられます。
しかし、それでも後輩の男子生徒ウェイや追い詰められたレイシンを見かねた担任教師インによって支えられていたレイシンは、インの紹介でカウンセラーのチャンと出会います。チャンはレイシンの心の傷を理解し、彼女に読書を進め彼女の心の拠り所となっていきます。
一方、現代ではユンシアンの騒動により自分の目指した正しい道を諦めたシェンは、権力者リーの娘と会食するなど父である校長の言いなりになっていきます。
ユンシアンの身体を乗っ取ったレイシンは、ユンシアンを追い詰めた一人である彼女の母親に幻覚を見せ、恐怖に陥れます。浄化作業中だった鹿の首飾りが無くなっていることに気づいたチェンはユンシアンの家を訪ね、憔悴しきった彼女の母親と出会います。
彼女の話からユンシアンがレイシンに身体を乗っ取られていることを悟ったチェンは、自身の父親から30年前にレイシンによる密告で多数の死者が出たこと、その罪に耐えかねてレイシンが自殺したことを聞かされます。またレイシンの後輩ウェイが自身の叔父であることに気づき、チェンは彼に助けを求めますが、恐怖におびえ切ったウェイは断ります。
そして創立記念日を迎えようとする翠華高校に、ユンシアンの身体を乗っ取ったレイシンがついに現れます。
ドラマ『返校 シーズン1』の感想と評価
2017年にPCゲーム販売サイト「Steam」で販売された台湾産ホラーゲーム『返校 -Detention-』。誰もいない学校を彷徨う恐怖と悲しすぎる結末が人気を呼び、家庭用ゲーム機でもダウンロード販売が開始されたことで日本でも話題となりました。
そんな世界の注目するゲームを「NETFLIX」が実写化したドラマ『返校』は、オリジナル要素を多量に盛り込みながらも「ゲームでは伝えきることのできなかった物語の補完」としての役割も務める原作ファン必見の作品となっていました。
戒厳令下の激しい弾圧と疑心暗鬼の悲劇
本作では原作の登場人物でもあるレイシンの生きる1969年と、ドラマ版の主人公となるユンシアンの生きる1999年の2つの時代で物語が進みます。
舞台となる台湾では1947年から1987年まで「白色テロ時代」と呼ばれる厳しい思想の弾圧が行われていました。スパイの嫌疑をかけられた人間が3000人以上処刑されたこの時代は、家族であっても疑いの対象であり、疑心暗鬼に満ちていた時代でもあります。
本作では「なぜファン・レイシンが命を絶ったのか」が「白色テロ時代」を軸として描かれており、「ただしっかりと話し合うこと」がいかに難しく、そして信じあうことが難しいがゆえに起きてしまう悲劇が原作同様に描かれていました。
原作にはない「救い」の物語
原作となるゲームでは1960年代のレイシンの物語のみが描かれていましたが、本作ではその時代から1969年から30年の月日を経た1999年をベースに物語が展開されます。
「ファン・レイシンの霊」「レイシンの後輩であるウェイの現在」「レイシンの呪いに怯える教官たち」という過去に囚われ続けるそれぞれの思惑が、レイシンに同調する転校生ユンシアンの登場により再び動き出すことになります。
無限に繰り返される悪夢と追憶を描いていた原作のその後を描くことで「レイシンの物語」を完結させた本作は、実写化作品という亜種の作品ではあれど原作の「完結作」や「補完作」と言っても過言ではないほどの完成度となっていました。
そのため、実写化やオリジナル展開と言う要素に鑑賞欲を減らしている人にこそ見て欲しいと声を大にしてオススメしたい作品です。
まとめ
2021年には同原作を実写化した映画作品『返校』(2021)の公開が日本でも予定されている今最も熱いホラーゲーム『返校 -Detention-』。映画版は2019年に台湾で公開されるや否や、わずか24日で100万人の観客動員を記録する大ヒットでスタートし、台湾の映画界に「ゲームの実写化」の形を作り出しました。
その波に乗る形で製作されたドラマ『返校』も、オリジナル展開でありながらも原作の補完を達成する見事なクオリティでブームを牽引。1960年代の台湾という激動の時代に生きた少女の悲劇の物語をさまざまな媒体で楽しんでみてはいかがでしょうか。
次回の「SF恐怖映画という名の観覧車」は…
いかがでしたか。
次回のprofile136では、夫婦の仮面を剥がした先に訪れる人間の恐ろしさを描いたサスペンス映画『ゴーン・ガール』(2014)をネタバレあらすじを含めご紹介させていただきます。
次回の掲載をお楽しみに!
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