Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2020/10/05
Update

映画『とっととくたばれ』あらすじと感想考察。ロシアン・スプラッタスリラーはコミカルかつゴア表現がてんこ盛り!【シッチェス映画祭2020】|SF恐怖映画という名の観覧車123

  • Writer :
  • 糸魚川悟

連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile123

「ドラゴンボール」シリーズのピッコロ役や「機動警察パトレイバー」シリーズでの篠原遊馬役の声優として広く知られるレジェンド声優古川登志夫。

そんな古川登志夫が今年もナレーターを務めることとなり、更に白熱すること間違いなしの映画祭「シッチェス映画祭 ファンタスティック・セレクション2020」。

今回は、前回に引き続き今月開催される「シッチェス映画祭 ファンタスティック・セレクション2020開催記念特集」第2弾としてロシア産のスリラー映画『とっととくたばれ』(2020)の魅力をご紹介させていただきます。

【連載コラム】『SF恐怖映画という名の観覧車』記事一覧はこちら

映画『とっととくたばれ』の作品情報


(C)WHITE MIRROR FILM COMPANY 2018

【原題】
PAPA, SDOKHNI

【公開】
2020年(ロシア映画)

【監督】
キリル・ソコロフ

【キャスト】
アレクサンドル・クズネツォフ、ビタリー・カエフ、エフゲーニヤ・クレッグツェ、ミハイル・グレボイ

『とっととくたばれ』のあらすじ

アパートの一室のチャイムを鳴らし、「その時」が来ることを待ちわびる青年マトヴェイ(ビタリー・カエフ)。

彼はその部屋に住む男アンドレイ(ビタリー・カエフ)を殺害するためハンマーを携え待ち構えていましたが、隣人の帰宅により当初の計画と異なりアンドレイの部屋に上がることになってしまいます。

娘の彼氏を名乗るマトヴェイに不信感を抱くアンドレイと、アンドレイを殺害しようとするマトヴェイ、そしてアンドレイを中心に渦巻く殺意の波がマトヴェイの乱入により一挙に押し寄せることになり…。

コミカルな音楽でゴア表現を彩る異色スリラー


(C)WHITE MIRROR FILM COMPANY 2018

キリル・ソコロフ監督の初の長編映画作品となる本作『とっととくたばれ』は、その異色すぎる要素の数々に全世界が驚愕するほどの作品となりました。

本作は著名な映画評論家による映画評を集計するアメリカの大手映画評論サイト「Rotten Tomatoes」で97%の映画評が「新鮮(肯定的)」と判定されるなど世界で高い評価を受けています。

本作の特徴はクエンティン・タランティーノ監督による『キル・ビル』(2003)や三池崇史監督作品を彷彿とさせる、大量の血しぶきや人体欠損を取り入れた「ゴア表現」の苛烈さをコミカルな音楽と表現技法を採用することで、「目を背けてしまいたい映像」が「笑いを誘うシュールな映像」となっている部分にあります。

物語は登場人物たちが命を削り合う至って真面目で鬼気迫る作品でありながら、随所随所に肩の力が抜けるような映像表現を利用することで物語に最後までのめり込んでしまう魅力が存在していました。

作品の方向性が詰まった幕開け

主人公のマトヴェイが殺害対象とするアンドレイの家を訪ね、お互いの不信感を募らせ乱闘となる映画の最序盤。

このシーンには本作の全ての魅力が詰まっていると言っても過言ではありません。

マトヴェイによるアンドレイの殺害計画が隣人やアンドレイの妻の登場により狂っていく「焦燥感」。

武器の存在やマウントの取り合いによって激しく入れ替わる優勢と劣勢によって先の読めない「意外性」。

そして、タイトル『とっととくたばれ』の意味が理解できる、マトヴェイとアンドレイの異常なまでのタフネス。

その後に巻き起こる全てを包括するような、精神的にも画面的にも血潮が湧き出る秀逸な幕開けが展開されます。

先を読ませないスリリングな脚本


(C)WHITE MIRROR FILM COMPANY 2018

マトヴェイが「ある人間」の願いによってアンドレイの殺害を目論んだことで、悪徳刑事アンドレイを中心とした全ての因果が動き始めます。

「誰が善で誰が悪なのか」、物語の経過と共に二転三転するのは善悪の構造だけでなく、共闘関係も優性劣性も次々と反転していきます。

どの登場人物に感情移入してもその人物の価値観を時にあっさりと覆す展開が連続し、心を落ち着かせることが出来ません。

コミカルな演出の次のシーンで鑑賞者を絶望に叩き落とすようなシーンを展開するなど、良い意味で人を裏切る秀逸な脚本を見せてくれます。

一室と一日で描かれるワンシチュエーションスリラー

本作の物語は現在と過去を交互に描き、「どうしてこうなったのか」を分かりやすく説明してくれます。

「現在」の時間軸ではほぼ全シーンがアパートの一室を舞台として描かれ、血みどろで死体だらけのワンシチュエーションスリラーが展開。

全ての因果が一日の一室に集結する「現在」の物語は言わば「群像劇の終盤」を見ているような爽快感があり、「過去」の時間軸を合わせることで本作の脚本の質の高さが分かります。

アンドレイと直接の因果を持たないマトヴェイが関わったことで巻き起こる惨劇の一日。

血みどろの戦いの果てに物語はどこに向かうのか、をぜひその目で確かめてみてください。

まとめ

本作への出演を気に名を知られることとなった主人公マトヴェイを演じたアレクサンドル・クズネツォフの全力を投じる演技と、圧倒的な存在感を放つビタリー・カエフの演技にも注目して欲しい映画『とっととくたばれ』。

本作は「シッチェス映画祭 ファンタスティック・セレクション2020」において劇場で公開予定。

「シッチェス映画祭 ファンタスティック・セレクション2020」はヒューマントラストシネマ渋谷、シネ・リーブル梅田、シネマスコーレ(名古屋)の3劇場で開催予定。

日程をご確認の上、ぜひ会場に足を運んでみてください。

次回の「SF恐怖映画という名の観覧車」は…

いかがでしたか。

次回のprofile124では、引き続き「シッチェス映画祭 ファンタスティック・セレクション2020開催記念特集」として、歴史的事実とホラーを組み合わせた異色の映画『ザ・ヴィジル 夜伽』(2020)をご紹介させていただきます。

10月14日(水)の掲載をお楽しみに!

【連載コラム】『SF恐怖映画という名の観覧車』記事一覧はこちら

関連記事

連載コラム

冬薔薇(ふゆそうび)あらすじ感想と評価解説。伊藤健太郎らキャストが紡ぐ“寄る辺なき者たち”|映画という星空を知るひとよ98

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第98回 映画『冬薔薇(ふゆそうび)』は、多彩な想像力で日本映画界を牽引する阪本順治監督が、主演・伊藤健太郎のために脚本を書き下ろしたオリジナル作品。 生い立ち …

連載コラム

【ネタバレ考察】君たちはどう生きるか|原作小説/元ネタとの違いは?関係ない?“失われたものたちの本”×タイトル意味で知る“導きも誘惑もある現実”|君たちはどう観るか2

連載コラム『君たちはどう観るか』第2回 宮崎駿が「宮﨑駿」として、『風立ちぬ』(2013)以来10年ぶりの長編監督作品を手がけたアニメーション映画『君たちはどう生きるか』。 作中では山時聡真、菅田将暉 …

連載コラム

2020年映画ランキングベスト5|大人の恋愛・夫婦映画たちに三賞を贈る!《シネマダイバー:森田悠介選》

2020年の映画おすすめランキングベスト5 選者:シネマダイバー森田悠介 年半ばに劇場が再開してからしばらく経ちましたが、感染症対策で外出する機会は減り、世評を知るための興行収入も『鬼滅の刃』の独走状 …

連載コラム

『西湖畔(せいこはん)に生きる』あらすじ感想と評価解説。グー・シャオガン最新作で描く‟⽬連救⺟”の物語|映画という星空を知るひとよ220

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第220回 デビュー作『春江⽔暖〜しゅんこうすいだん』で世界から注⽬されたグー・シャオガン監督の2作目は、“⼭の視点で⾒つめる天上と地獄” を描いた『西湖畔(せ …

連載コラム

【映画ネタバレ】ガントレット|あらすじ結末感想と評価解説。ラスト銃撃は“贖罪”と“通過儀礼”?クリントイーストウッドの危うい魅力つまる快作【すべての映画はアクションから始まる34】

連載コラム『すべての映画はアクションから始まる』第34回 日本公開を控える新作から、カルト的に評価された知る人ぞ知る旧作といったアクション映画を時おり網羅してピックアップする連載コラム『すべての映画は …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学