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『予告犯』ネタバレ結末あらすじと感想評価の解説。謎の男シンブンシが仕掛ける犯人の目的と事件真相にみる“劇場型犯罪”|サスペンスの神様の鼓動55

  • Writer :
  • 金田まこちゃ

サスペンスの神様の鼓動55

動画サイトに突然現れ、予告した犯罪を次々に実行する謎の男「シンブンシ」。

シンブンシの謎と、犯罪の裏側に隠された、ある計画を描いたクライムサスペンス『予告犯』

筒井哲也の同名コミックを、生田斗真、戸田恵梨香、鈴木亮平、濱田岳、荒川良々、窪田正孝など、若手実力派俳優が集結し映像化。

シンブンシの正体と目的が判明した時、シンブンシを追うサイバー対策課の刑事、吉野絵里香が直面する日本の病魔と闇とは?

【連載コラム】『サスペンスの神様の鼓動』記事一覧はこちら

映画『予告犯』のあらすじ


(C)2015映画「予告犯」製作委員会 (C)筒井哲也/集英社

突如、ネット上に現れ、犯行予告を行う謎の男。

男は常に新聞紙で作られた頭巾を被っていることから「シンブンシ」と呼ばれるようになります。

この日のシンブンシの予告は、食中毒を起こしながらも、謝罪会見で完全に開き直った態度を見せた、ある食品加工会社でした。

シンブンシの予告通り、食品加工会社は放火され、工場全体が火事になります。

警視庁サイバー犯罪対策課のキャリア捜査官である吉野絵里香は、過去にシンブンシが行った犯行予告の動画を洗い直します。

最初の犯行予告は、バイト先で虫の天ぷらを揚げた動画を流し、店舗を閉店に追いやったアルバイト定員への制裁。

2つ目は、女子大生がレイプされたニュースにSNSで「ホイホイ着いて行った女が馬鹿」と書き込んだ学生を、監禁したうえで暴行していました。

そして、今回の食品会社への放火が3件目の犯行となります。

絵里香は、鑑識が割り出した情報から、動画が送られた場所が、関東圏だけに存在するインターネットカフェ「ピットボーイ」であることを突き止めます。

サイバー犯罪対策課は、実際に「ピットボーイ」へ向かいますが、シンブンシが使用したと思われる日時は、誰も入室していませんでした。

絵里香は、遠隔操作の可能性を疑いますが「ピットボーイ」のサーバーにアクセスするには、毎回ランダムでパスワードが変わる「ワンタイムパスワード」と、専用のセキュリティキーが必要となります。

専用のセキュリティキーは、各店舗の責任者しか持っていない為、絵里香は「ピットボーイ」の店長を重要参考人として連行します。

その数日後、再びシンブンシからの犯行予告動画が流されます。

次のターゲットは、面接に来た32歳の男を馬鹿にし、面接の様子を実況中継し笑い者にした会社員です。

予告された時間までに、サイバー犯罪対策課はシンブンシを突き止めようとしますが、シンブンシに全てを見透かされたように翻弄されます。

そして、予告された犯行時間になると、ターゲットにされた会社員が拘束された状態で、シンブンシにバットで殴られる動画が流されます。

絵里香が現場に向かうと、シンブンシの姿は消えていました。

絵里香は、これまでの動画に映ったシンブンシの体形が全て違うことから「シンブンシは複数人の犯行である」と考えます。

「ピットボーイ」の個室で、新聞紙の頭巾を外し、天井を眺める青年。彼こそシンブンシの首謀者、奥田宏明でした。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『予告犯』ネタバレ・結末の記載がございます。『予告犯』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)2015映画「予告犯」製作委員会 (C)筒井哲也/集英社

奥田は、IT企業に派遣社員として勤務してきました。

正社員への雇用を目指して頑張って来た奥田ですが、社長にその気は無く、奥田が反抗的な態度を取ったことをキッカケに、社内で嫌がらせを受けるようになります。

精神的に疲弊した奥田は、職業安定所へ相談に行きますが、なかなか仕事が見つかりません。

その時に、奥田は同じ職業安定所で仕事を探していた葛西と出会います。

葛西に紹介され、奥田は違法の投棄物を処分する廃棄所で、住み込みで働くようになります。

奥田と葛西の他に、お腹が出ているお調子者の寺原、元々ニートだった木原、そしてフィリピン人のネルソンも、同じ廃棄所で働くようになり、友達のような関係になっていきます。

ネルソンは、以前「ピットボーイ」で働いており、その時に偶然手に入れたセキュリティキーを、お守りのように持っていました。

奥田はセキュリティキーの構造をすぐに理解し、計算式を書き出したことから、周囲からゲイツと呼ばれるようになります。

奥田は葛西たちと将来の夢を語り合うようになりますが、あることがキッカケで、シンブンシの計画を思いつくようになります。

奥田はシンブンシとして「俺は弱者の見方だ」と動画で語り出します。シンブンシの言葉は多くの人達の心を掴み、やがて支持する人間が増えていきます。

この状況に危機感を持ったのが、議員の設楽木でした。設楽木はテレビ出演し「匿名掲示板を潰す」と宣言します。

これを受けた奥田は、第5の犯行予告として、設楽木の抹殺を宣言します。この予告を受けた警視庁は、捜査に公安警察を投入します。

公安の北村は絵里香の同期でしたが、絵里香は明らかに北村を無視します。

公安の捜査により「ピットボーイ」に「ネルソン・カトー・リガルテ」名義で、頻繁に入店している男がいることが分かり、防犯ビデオに映った男の映像も公開されます。

その映像には、奥田が映っていました。そして、シンブンシが設楽木抹殺を予告した時間になります。

設楽木は、飲料メーカーのイベントに出席していましたが、予告時間に起きたのは、新作飲料の暴発で、中身が吹き出ただけでした。

しかし、その後、設楽木の秘書が「匿名掲示板を潰す」という設楽木の考えを、世論が好意的に受け止めているように、印象操作していたことが分かります。

設楽木の秘書はアルバイトを雇い、ネット上に設楽木へ好意的な意見を流すように指示しており、その現場が動画で流されます。

今回の不正が判明し、設楽木は辞職、議員生命が抹殺される結果となります。捜査班は、動画が流された場所を特定し「ピットボーイ」に乗り込みます。

「ピットボーイ」の個室にいたシンブンシが、店の外に逃げ出した為、捜査班全員で追いかけます。

ですが、シンブンシ追跡中に絵里香は、偶然すれ違った奥田に気付き、絵里香だけ奥田を追いかけます。

あと一歩のところで、奥田に逃げられた絵里香は「社会のせいにするな!甘えるな!」と叫びますが、奥田は「あなたには分からない!」と言い残し、姿を消します。

また、逮捕されたシンブンシは、「ピットボーイ」のアルバイト店員で、シンブンシの考えに共感したことで、シンブンシの犯行に加担したのでした。

数日後、シンブンシによる、6番目の犯行予告動画が流されます。最後のターゲットは、シンブンシを名乗り、世間を騒がせた4人。つまり奥田、葛西、木原、寺原自身でした。

廃工場で重労働を強要させらていた、奥田、葛西、木原、寺原、ネルソン。ですが、ネルソンが過酷な労働に耐えられずに、衰弱して死亡してしまいます。

奥田達は、廃工場の責任者に「ここじゃよくあること、その辺に埋めとけ」と、スコップを渡されますが、怒った寺原が責任者の頭を殴ります。

その後に、4人で責任者を殴り殺してしまいます。奥田達は、廃工場ごと責任者の死体を焼き、その後にシンブンシとして世の中に姿を現すようになりました。

奥田達は、廃工場跡に集まり、葛西が持っていた青酸カリを飲み、自殺する動画を生配信します。

公安の捜査官は、ネルソンの父親であり、印刷工場を営んでいた加藤を事件の首謀者と考え、加藤の印刷工場へ乗り込みます。

ですが、奥田の過去を調べていた絵里香だけは、廃工場の場所を突き止めており、現場に向かいます。

到着すると、そこには倒れている4人が並んでいました。奥田は死亡していましたが、葛西、木原、寺原だけは息があります。

絵里香は、死亡した奥田が握っていたスマホに気付き、スマホの動画を再生します。そこには、事件の真の目的を語る、奥田の動画が残されていました。

奥田達の目的は、最初からネルソンの死体を、父親に引き取ってもらうことで、ネルソンの「お父さんに会いたい」という願いを叶えた形となります。

ネルソンの父親の捜索を依頼しても、聞き入れられる訳が無く、世間を騒がす予告犯として、警察を動かすことを計画したのです。

絵里香は「困ってんなら、助けを求めなさいよ!」と叫びます。さらに、動画が残されており、そこには奥田が葛西、木原、寺原を恫喝し、自分の計画に、無理やり参加させようとする様子が映っていました。

奥田達は「もし生き残ったら、その時は死んだ奴の責任にする」と約束していた為、葛西、木原、寺原は全てを奥田の責任とします。

ですが、その動画は、実は寺原の誕生日を祝った際の動画で、奥田は自分が全ての罪を被るように編集していました。

編集される前の誕生日動画、そこには、無邪気に笑い合う4人の姿がありました。

サスペンスを構築する要素①「謎の予告犯シンブンシ」


(C)2015映画「予告犯」製作委員会 (C)筒井哲也/集英社

ネット上に突然現れ、次々に予告した犯行を実行していく、謎の男シンブンシ

新聞紙で作られた頭巾を被った、独特の見た目が印象的なシンブンシですが、映画『予告犯』は、作品の冒頭からシンブンシが登場し、そのインパクトのある存在感から、一気に物語へ観客を引き込んでいきます

シンブンシのターゲットは「バイトテロをした男」「女性蔑視発言をした学生」「食中毒事件を起こし開き直った会社」「志望者を馬鹿にした面接官」という、問題のある人間や企業ばかりです。

シンブンシは弱者の味方であり、弱者を馬鹿にする人間を成敗していく、ダークヒーローのような存在となっていきます。

それでも、暴行や放火を行うシンブンシは、社会的に見れば明らかに犯罪者。警察が黙っている訳も無く、サイバー犯罪対策課が動き出します。

本作の前半は、次々に犯行を行いながらも、全く手掛かりを残さないシンブンシの謎と不気味さが、シンブンシを追いかけるサイバー犯罪対策課の責任者、吉野絵里香を通して描かれていきます

サスペンスを構築する要素②「社会に存在しない者たちの計画」


(C)2015映画「予告犯」製作委員会 (C)筒井哲也/集英社

犯罪を繰り返しながらも、全く手掛かりを残さないシンブンシ

普通なら、このシンブンシを追いかける絵里香が主人公になりそうですが、『予告犯』の主人公はシンブンシ側で、シンブンシの正体である奥田宏明です

奥田は、正社員を目指していたIT企業で精神的に追い込まれ、精神的な病で社会から2年間離れていました。ですが、2年間の実務経歴が無い時期が問題視され、次の仕事も決まらなくなります。

つまり、奥田自身が、社会から見捨てられた弱者側の人間だったのです。

奥田は違法投棄の処分を行う廃工場で、葛西、木原、寺原と出会い、シンブンシの計画を考えます。

その為、シンブンシは奥田達が、社会を混乱に陥れる為に作り出した、弱者の象徴のように感じるかもしれません。

実際に、絵里香が奥田のことを調べ始める場面で、もともといた派遣会社では「派遣のことまで覚えていない」入院していた病院では「毎月入院費を返済してくれる人」職業安定所では「データ上では、9月まで来ていた」と伝えられます。

つまり奥田は、日本の社会に居場所が無く、データの中に記録としてしか存在していない「社会に存在しない者」となっています

葛西、木原、寺原も同じです。「社会に存在しない者たちの計画」が生み出した存在、それがシンブンシです。

そして、シンブンシの存在に触発された者達が、次々に模倣犯となりますが、彼らもまた社会に居場所の無い者達

もし、実際にシンブンシのような存在が現れた時、映画で描かれているような、犯罪の連鎖が起きるかもしれません。

日本に根付いた「格差社会」の嫌な空気が、本作にリアルさを与えています

サスペンスを構築する要素③「絵里香が目にする日本の病魔」


(C)2015映画「予告犯」製作委員会 (C)筒井哲也/集英社

シンブンシを追いかける絵里香は輝かしいキャリアを持つエリートです。また、途中から介入して来た公安警察もエリートの為、奥田達の存在など考えもしません。

ですが、唯一奥田の過去に目を付けたのが絵里香でした。

絵里香はシンブンシを「社会のせいにしている、努力しない人間」と決めつけていましたが、奥田の捜査を開始し過去を調べる中で、本人の努力だけではどうにもならない、日本の病的な部分を目の当たりにします。

また、絵里香自身も幼い頃は家庭の境遇から、辛い想いを経験していた、もともとは社会的な弱者だったのです。

『予告犯』は最後まで、奥田の真の目的が分からないようになっています

ですが、最後に奥田の目的に辿り着くのも絵里香です。奥田の目的は、廃工場で働いていたネルソンを、父親に合わせる、ただそれだけでした。

目的に対して、手段がかなり大掛かりのように感じますが、奥田達が「社会に存在しない者たち」である以上、ここまでやらないと、声を出しても誰にも聞き入れられなかったでしょう

最後に絵里香が「困ってんなら、助けを求めなさいよ!」と叫びますが、その言葉も、何か虚しく感じます

映画『予告犯』まとめ


(C)2015映画「予告犯」製作委員会 (C)筒井哲也/集英社

格差が広がる社会の病魔を描き出した『予告犯』

奥田が働いていたIT企業で、もともと奥田を馬鹿にしていた社員が、奥田の次のターゲットにされているなど、日本人の陰湿な部分が、何気ない場面でも表現されている作品です。

特に、IT企業の社長、栗原を演じる滝藤賢一の演技がやたらリアルで、栗原のセリフ「派遣にダメ出しされちゃったよ」は、上には絶対に逆らえない、いじめ体質の、閉鎖的な社会を象徴したような、ある意味名セリフです。

本作を通じて感じるのですが、日本は本当に頑張れば報われる、誰にとっても平等な社会なのでしょうか?

精神をすり減らしてまで、耐えながらすがりつく、そんな価値のある社会なのでしょうか?

過酷な労働で亡くなったネルソンへの、奥田のセリフ「ごめんな、こんな国で」が、心に重く響きます。

奥田は葛西、木原、寺原、ネルソンと出会い、本当に楽しい時間を過ごします。一般的に見れば、彼らに明日も未来も無く、置かれた状況から抜け出すのは、ほとんど不可能に見えます。

それでも、夢を語り、何気ない出来事で子供のように笑い合う彼らの姿に、人間としての本質があるように感じました



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