こんにちは、映画ライターの金田まこちゃです。
このコラムでは、毎回サスペンス映画を1本取り上げて、作品の面白さや手法について考察していきます。
前回のコラムで、次回は『フロントランナー』をご紹介すると告知しましたが、現在サスペンスの話題作が目白押しとなっており、急遽予定を変更させていただきました。
『フロントランナー』は、また時期を見て、ご紹介させていただきます。
今回取り上げる作品は、電話の音声だけで物語が進行する、予測不能の展開が魅力のサスペンス映画『THE GUILTY ギルティ』です。
CONTENTS
映画『THE GUILTY ギルティ』のあらすじ
緊急通報指令室のオペレーターとして働く警察官のアスガー。
彼は、現場で働いていた警察官でしたが、自身が過去に犯した失態により、現在は緊急通報指令室で働いています。
仕事に魅力を感じていないアスガーですが、緊急通報指令室での仕事はこの日が最後、翌日から始まる裁判を経て、現場に復職する予定でした。
アスガーは、緊急通報指令室にかかってくる、麻薬中毒者や強盗被害者からの電話を、面倒臭そうに受け流します。
全く仕事に身が入らない様子のアスガーに、ある女性からの通報が入ります。
イーベンと名乗る女性は、どうやら誘拐されているようで、子供に電話をかけるふりをして、緊急通報指令室へ連絡をしてきました。
尋常ではない事態に、アスガーも本腰を入れて女性を救出しようとします。
アスガーは、イーベンの身元を探る為に、イーベンの自宅へ連絡します。
自宅には、マチルデと名乗る6歳の女の子と、赤ん坊のオリバー2人が留守番をしていました。
マチルデは、イーベンと別居している父親が、突然家に押し入り、オリバーの部屋で大声を出して暴れた後に、イーベンを連れ去ったとアスガーに伝えます。
アスガーは、マチルデの話からイーベンの夫、ミケルを割り出し、再び連絡してきたイーベンから、車の特徴を聞き出します。
アスガーは、北シェラン司令室と連絡を取り合い、現場にパトカーを急行させ、イーベンを保護させようとします。
ですが、パトカーは違う車を追跡してしまい、ミケルに逃げられてしまいます。
アスガーは更に捜査してもらう事を望みますが、北シェラン司令室のオペーレーターは、マニュアル通りの対応をするのみ。
アスガーの勤務時間は残り15分となりましたが、イーベンを救出する事を決意し、1人で別室に移動します。
サスペンスを構築する要素①「音声のみで展開するストーリー」
『THE GUILTY ギルティ』最大の特徴は、メインの登場人物は主人公のアスガーのみで、アスガーと緊急指令室に連絡をしてくる通報者との会話のみで、物語が展開していく事です。
電話相手との音声による会話のみで、ストーリーが進むという展開は、電話をしてきた人物の実態がつかめない事で、不安感を煽る効果があり、サスペンス作品で意外と多い手法です。
『THE GUILTY ギルティ』が優れているのは、会話のみで展開が二転三転していく点で、全ては受話器の先での出来事であり、アスガーと観客は「何が起きているか?」を頭で想像して組み立てるしかありません。
こちらが想像した事を、覆すような急展開が次々と起きる為、作中のアスガーと同じように、電話先の相手の話に引き込まれるようなります。
サスペンスを構築する要素②「リンクする上映時間と劇中時間」
『THE GUILTY ギルティ』は、ワンシチュエーションのサスペンスとなっており、緊急指令室の中でストーリーが展開します。
また、大きく時間が経過する事が無い為、物語の発生から終わりまで劇中で経過する時間は、『THE GUILTY ギルティ』の上映時間とリンクします。
これにより、蓄積されるアスガーの精神的疲労や不安感を、観客も実際の時間経過とリンクして感じる効果を生んでいます。
そして、精神的に疲弊しきったアスガーが、イーベンから告げられる事実。
これにより、精神的にどん底へ突き落される瞬間を、観客はアスガーと共に体験する事になります。
サスペンスを構築する要素③「アスガーが緊急指令室にいる理由」
『THE GUILTY ギルティ』は、イーベンの誘拐事件を如何に解決するか?が、物語の主軸となりますが、同時に「アスガーが何故、緊急指令室にいるか?」という謎も用意されています。
アスガーが自らのミスにより、緊急指令室で嫌々仕事をしている事は、冒頭から分かりますが、何をしたかは最後まで語られません。
ラストに、イーベンを説得する際にそれは語られますが、まるで自らの過ちと内面に向き合い、懺悔をしているかのようでもあります。
それは、会話のみでのコミュニケーションという、視覚での情報が機能しない状況で、ごまかしが利かないからこそ、自らをさらけ出すしかなかったという事でしょう。
緊急指令室での仕事の重要性に、アスガーが気付いた瞬間でもあります。
クライマックスで、それまで1人で事件を追っていたアスガーは、他の仲間と連携を取るようになります。
ここでも、心境の変化が伝わりますね。
音声による会話のみで展開される、シンプルな映画『THE GUILTY ギルティ』は、人の命に関わる警察官という職務と、自らの内面に向き合ったアスガーが、精神的な成長を遂げる、シンプルなテーマの作品となっています。
映画『THE GUILTY ギルティ』まとめ
真夜中に発生した誘拐事件の、孤独な救出劇を描いた本作。
一連の事件の中で、アスガーは、人命に関わる自らの職務の重要性に改めて気づき、精神的な成長を遂げます。
特筆したいのは、本作は上映時間と同じ、1時間30分足らずの出来事を描いている点です。
キッカケさえ掴めば、人は短時間で、劇的に成長できるというメッセージを感じます。
ただ、その為には、無意味に感じる事でも、全力で取り組む気持ちが大切という事ですね。
本作のラストで、アスガーが電話をした相手ですが、これは作品の会話の中にヒントが隠されており、その人物に電話をしたという行動も、アスガーの内面の変化を象徴する、印象的なラストシーンになっています。
電話の相手は誰なのか?アスガーと同じように、劇中の会話を聞き逃さないで下さいね。
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