連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第95回
夢を追いかけて飛び込んだニューヨーク。作家をめざす主人公は、老舗出版エージェントでJ.D.サリンジャー担当の女性上司の編集アシスタントとして働き始めます。
ジョアンナ・ラコフの自叙伝『サリンジャーと過ごした日々』を原作に、『グッド・ライ いちばん優しい嘘』(2014)のフィリップ・ファラルドー監督が取りまとめました。
夢見る主人公ジョアンナには、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019)のマーガレット・クアリー。『アバター』(2009)『エイリアン』(1979)など数多くのヒット作で活躍するシガニー・ウィーパーが、上司のマーガレット役を務めます。
見どころは、このベテランエージェントと新人アシスタントの知られざる実話を、ハリウッドの名優と注目のルーキーの熱演!
『マイ・ニューヨーク・ダイアリー』は、2022年5月6日(金)新宿ピカデリー、Bunkamura ル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショーです。
CONTENTS
映画『マイ・ニューヨーク・ダイアリー』の作品情報
【日本公開】
2022年(アイルランド・カナダ合作映画)
【原作】
「サリンジャーと過ごした日々」(ジョアンナ・ラコフ 著/井上里 訳/柏書房)
【監督・脚本】
フィリップ・ファラルドー
【キャスト】
マーガレット・クアリー、シガニー・ウィーバー、ダグラス・ブース、サーナ・カーズレイク、ブライアン・F・オバーン、コルム・フィオールほか
【作品概要】
女性エージェントとして働き出す主人公を描いた『マイ・ニューヨーク・ダイアリー』の原作は、ジョアンナ・ラコフの自叙伝『サリンジャーと過ごした日々』。
『ライ麦畑でつかまえて』などで知られるアメリカの小説家J・D・サリンジャーを担当する女性エージェントと作者自身である新人アシスタントを描いた自叙伝です。
本作は、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019)のマーガレット・クアリー、「エイリアン」シリーズの名優シガニー・ウィーバーの共演で映画化されました。
監督は『グッド・ライ いちばん優しい嘘』(2014)のフィリップ・ファラルドー。ヒューマンドラマの名手の監督が手がけた、サリンジャー愛あふれる作品。
映画『マイ・ニューヨーク・ダイアリー』のあらすじ
1990年代のニューヨーク。学生としてニューヨークを訪れていたジョアンナは、「平凡はイヤ。特別になりたい」という思いにかられ、カメラに向かって自分の想いを語っていました。
「自分で書きたい。ニューヨークで」。作家を夢見るジョアンナは、職を探しに人材紹介会社を訪れます。
作家志望は敬遠されるから出版社はダメと言われ、ニューヨークの老舗出版エージェンシーを紹介されました。
面接に合格したジョアンナは、J.D.サリンジャー担当の女性上司マーガレットの編集アシスタントとして働き始めます。
ジョアンナの業務は世界中から大量に届くサリンジャーへの熱烈なファンレターの対応でした。
毎日ひたすらテープを書き起こし、サリンジャーに大量に届くファンレターを処理します。
心揺さぶられるファンレターなのに、サリンジャーが返信をやめた1963年の日付の簡素な定型文を返信します。
ジョアンナはそうすることに気が進まなくなり、ふとした思いつきで個人的に手紙を返し始めました。
そんなある日、ジョアンナは、サリンジャー本人から一本の電話を受けました……。
映画『マイ・ニューヨーク・ダイアリー』の感想と評価
ベテランと新星が織りなす演技のハーモニー
作品の冒頭、堂々と胸をはって自分の夢を語るジョアンナの姿が映し出されます。自分の将来を見つめる明るい瞳と怖れるものなど何もない自身にあふれる表情に心を捉えられます。
作家になりたい。なれないなら少しでも‟書く”仕事に近い仕事をしたい。こんな気持ちからジョアンナは出版エージェンシーに勤務します。
スポーツ選手になれないなら、選手の健康管理マネージャーに。あるいは、スポーツ担当の記者になるといった方もいるでしょうから、この気持ちは大いにわかります。
夢が叶うかどうかは自分次第。だから思い切り頑張ってみる!
火傷しそうなアツい思いに駆られるジョアンナを演じているのは、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019)のマーガレット・クアリー。等身大のキャストそのままのリアリティあふれる演技を披露しています。
しかし、そんなに甘くないのが世間というものです。就職活動初っ端からジョアンナはそのことを思い知らされました。
そして情熱あふれるジョアンナが飛び込んだ出版エージェンシー。ジョアンナを受け止める上司のマーガレットには、ベテラン俳優のシガニー・ウィーバーが扮します。
『エイリアン』(1979)の主役リプリーで大ブレイクしたシガニー・ウィーバー、黙って事務所に座っているだけでも漂う存在感は流石です。
ラスボスのようにどっしりと机に構え、大人社会の常識を的確にジョアンナに教え込んで行きました。
エージェンシーという職業
本作で注目すべきは、主人公ジョアンナが就く「出版エージェンシー」という職業でしょう。
出版エージェンシーとは、著者の代理人として出版社へ企画を持ち込んだり、著作物の権利管理を代行する人のこと。
出版業界の動向を踏まえて最適な出版社や担当者を見つけたり、作家が出版社等と対等に渡り合うために条件を交渉する業務などを行います。
日本ではあまり主流ではないのですが、欧米では一般的なスタイルといいます。
ジョアンナが勤める出版エージェンシーは、サリンジャーをはじめ、ミステリーの女王のアガサ・クリスティー、『サンクチュアリ』や『八月の光』などの20世紀アメリカ文学の巨匠ウィリアム・フォークナーなど、数多の文豪の作品の契約・著作権の管理などを行っているそうです。
職場が出版エージェンシーですから、本作には『ライ麦畑でつかまえて』の他にも、多数の小説が登場します。
読書好きにはとても興味深く、欧米の文學界ものぞき見できるという楽しみがある作品です。
まとめ
ニューヨークという都会の片隅で、理想と現実の間で揺れ動く女性の姿が瑞々しく描かれた『マイ・ニューヨーク・ダイアリー』。
厳しい上司に振り回されながらも、自分の夢を追い求め続けるジョアンナの成長物語でした。
何よりもポジティブに物事を見て、決してくじけないジョアンナに共感します。
誰もが、本作を観れば、やりたかったこと、なりたかったあの職業など、過去においてきたはずの一部の記憶すら宝物に思えてくることでしょう。
明るく鼓舞するようなバックミュージックも心地良く、人生をもう一度見つめ直したくなる大人の自分探しムービーをご紹介しました。
『マイ・ニューヨーク・ダイアリー』は、2022年5月6日(金)新宿ピカデリー、Bunkamura ル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー。
星野しげみプロフィール
滋賀県出身の元陸上自衛官。現役時代にはイベントPRなど広報の仕事に携わる。退職後、専業主婦を経て以前から好きだった「書くこと」を追求。2020年よりCinemarcheでの記事執筆・編集業を開始し現在に至る。
時間を見つけて勤しむ読書は年間100冊前後。好きな小説が映画化されるとすぐに観に行き、映像となった活字の世界を楽しむ。