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Entry 2021/02/12
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『ファーストラヴ』中村倫也と北川景子の男女バディ映画!庵野迦葉(かしょう)の淡い初恋に潜む“心の闇”に注目!|映画という星空を知るひとよ51

  • Writer :
  • 星野しげみ

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第51回

2021年2月11日(木・祝)よりロードショーされている映画『ファーストラヴ』。

父親を殺害した容疑で女子大生・聖山環菜が逮捕されました。

事件を取材する公認心理師の由紀は、夫我聞の弟で弁護士の庵野迦葉とともに彼女の本当の動機を探ろうとしますが、二転三転する環菜の供述に翻弄され、真実が見えなくなっていました。

精力的に仕事をこなす由紀を支える優しい夫・我聞に窪塚洋介。大学生の時に由紀と付き合い、その心の傷を知る庵野迦葉(あんの かしょう)に中村倫也と、北川演じる由紀を挟んでそれぞれの愛の形を持つ男性陣が気になります。

まずは、イケメン弁護士を演じる中村倫也をフォーカスしてみました。

【連載コラム】『映画という星空を知るひとよ』一覧はこちら

映画『ファーストラヴ』とは?

原作小説は、島本理生の第159回直木賞に選ばれた『ファーストラヴ』です。家族という名の迷宮を描いた傑作長編小説を映画化したのは、『十二人の死にたい子どもたち』(2019)『望み』(2020)の堤幸彦監督です。

スマホを落としただけなのに』(2018)の北川景子ほか、『屍人荘の殺人』(2017)の中村倫也、『今日も嫌がらせ弁当』(2019)の芳根京子に、『源氏物語 千年の謎』(2011)の窪塚洋介といった実力派俳優が集結しました。

公認心理師の真壁由紀は、女子大生・環菜が父親を殺害した事件の取材をしますが、取材を進めるにつれ、事件の裏にある環菜の歪んだ家庭環境を知ることになり、自身の持つ過去の記憶も蘇って由紀を苦しめます。

中村倫也の自然体の演技力

(C)2021「ファーストラヴ」製作委員会

映画『ファーストラヴ』において、主演の北川景子の元恋人役として抜擢されたのが、庵野迦葉(あんの かしょう)演じる中村倫也です。

1986年生まれの中村倫也は、2005年に俳優デビューして以来、コメディからシリアスまで幅広い演技ができる俳優として活躍しています。

近年も『水曜日が消えた』『人数の町』(2020)など、多数の主演映画作を持つ中村倫也。本作でも初共演となる北川景子からは、「同い年なのに、お兄さんみたいに動じない」と頼られていました。

本作については、堤監督から「迦葉は明暗の振り幅が広く、有能な弁護士という複雑な役ですが、それを全てスッと受け入れた上で、最後にある告白を由紀にすることで、一歩前に踏み出す。そこの攻め際、引き際が見事だと思いました。彼を見ていると自然体ってこういう事かなと思うし、その凄みが決して圧にならないところがすごいなと思う」とのお言葉がありました。

中村倫也の物事に動じず堂々とした自然体の演技が、本作のキーマンの一人「庵野迦葉」に命を吹き込んでいます。

イケメン弁護士・庵野迦葉

(C)2021「ファーストラヴ」製作委員会

アナウンサー志望の女子大生・環菜が起こした父親殺害事件の弁護士、庵野迦葉。彼は評判の若手敏腕弁護士でした。

小学生のころに父が亡くなり、男好きの母は迦葉を置き去りにして家を出てしまいます。餓死寸前のところを母の実姉夫婦に助けられました。

引き取られた伯母の家には、迦葉よりも年長の男の子、我聞がいました。

一人っ子の我聞と迦葉は仲が良く、本当の兄弟のようにして育ったのです。

頭のいい迦葉は伯父・伯母に対しては、本当の父母ではないという遠慮を持ちながらも、我聞にはよくなついていました。

迦葉が大学生になったころ、大学の構内で雨宿りをしているどこか空虚な目をした由紀を見かけました。

実母への思慕を持ちながらそれを隠している迦葉は、由紀の心の空洞にいち早く気がつきます。

傷ついた心がお互いを呼び寄せたのかと思うほど、パズルのピースが合わさるように2人は急接近し、本作においてはとても普通に思える‟初恋”のラブストーリーが展開していきます。

しかし、結局はその大きなトラウマが2人を再び傷付けることになるのです。

映画『ファーストラヴ』の作品情報

(C)2021「ファーストラヴ」製作委員会

【公開】
2021年(日本映画)

【原作】
島本理生:『ファーストラヴ』(文藝春秋)

【監督】
堤幸彦

【脚本】
浅野妙子

【キャスト】
北川景子、中村倫也、芳根京子、窪塚洋介、板尾創路、石田法嗣、清原翔、高岡早紀、木村佳乃

映画『ファーストラヴ』のあらすじ

(C)2021「ファーストラヴ」製作委員会

ある大学のトイレで、一人の男性が胸を刺され倒れているのが発見されます。

その頃、血まみれのナイフを持ち川端の道を歩く一人の女性がいました。アナウンサー志望の女子大生、聖山環菜(芳根京子)です。

彼女は、トイレで倒れていた父であり画家の聖山那雄人(板尾創路)を殺した容疑で逮捕され、大きくメディアで報じられました。

その頃、公認心理師の真壁由紀(北川景子)の元にある本の執筆依頼が入りました。

それは、聖山環菜が画家の父を刺殺した事件について、被疑者である聖山環菜を取材し1冊の本にまとめて欲しいというものでした。

彼女について取材の依頼を受けた由紀は、彼女への接見を決意。

環菜の弁護士は、国選弁護人として選任されたのは、由紀の夫・我聞(窪塚洋介)の弟である弁護士・庵野迦葉(中村倫也)でした。

迦葉と由紀は大学の同級生で、過去に因縁を持つ間柄。彼女は戸惑いながらも迦葉に接見希望を申し出て、ついに環菜と対面します。

「あの子はくせ者だよ。心が読めない」という迦葉の言葉に身構えながら、由紀は最初は公認心理師の立場として冷静に環菜を観察します。

環菜は「動機は自分でもわからないから見つけてほしいぐらいだと言った」と言いました。そして「私、嘘つきなんです」とも言います。

迦葉の言葉通りに環菜は感情の起伏が激しく、本心を全くみせない女性でした。

由紀と迦葉、それぞれが環菜との接見や手紙のやり取りを進めていき、2人が環菜から聞いた話の内容を突き合せますが、つじつまの合わない部分があることに気づきます。

「環菜は本当のことを話していない」と由紀は考えました。それを踏まえて、由紀と迦葉は環菜や彼女の父親の那雄人の知人らから家庭環境について話を聞くようにしました。

環菜は小学生の頃から、画家である父親の絵のモデルをしていました。環菜は美しい少女でしたので言い寄る生徒もいたそうです。

接見で環菜の自嘲気味な男性関係を聞き、由紀は思わず「あなた、本当に好きになった人とつきあったことはある?」と尋ねました。

由紀の言葉に環菜は「ゆうじくん……。」とつぶやき、涙を流して取り乱しました。

その様子を呆然と見るしかない由紀でしたが、環菜が本当に好きだったと思われる「ゆうじくん」が環菜の心の傷を解く鍵だと気付きます。

しかしその後、環菜の周囲を調べていくうちに、由紀自身の忘れようとして閉じ込めたはずの過去と対面することになりました。

その思い出したくもない記憶は、庵野迦葉との出会いと別れにも繋がり、未だに夫・我聞に秘密にしていることがさらに由紀を責めます。

まとめ

(C)2021「ファーストラヴ」製作委員会

女子大生が父親を刺し殺した事件を追う映画『ファーストラヴ』。

事件を調べるうちに蘇る過去のトラウマを抱え悩む公認心理師・由紀。彼女と協力して事件を追っている弁護士の庵野迦葉は、由紀の元恋人であり、由紀の夫の弟です。

因縁のように複雑な相関図になる間柄ですが、この辺りも原作に忠実に描き出された作品でした。

庵野迦葉にフォーカスして『ファーストラヴ』をおさらいしました。

事件の渦中の女子大生・環菜ばかりでなく、由紀と迦葉もまた、子供の頃にある意味幼児虐待とも言える体験をしていたということに気がつきます。

事件の背景にある過去のトラウマと性的被害の数々には驚くことでしょう。表立って出てこない心理的被害が込められた事件でした。

心理描写で描き出すサスペンスミステリーを、何の動揺もなく自然体でこなす中村倫也の演技に注目です。

次回の連載コラム『映画という星空を知るひとよ』もお楽しみに。

【連載コラム】『映画という星空を知るひとよ』一覧はこちら





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