連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第3回
映画『ケアニン〜こころに咲く花〜』は、戸塚純貴が新人の介護福祉士を演じ、介護現場の現実を描いた映画『ケアニン~あなたでよかった~』の続編です。
介護福祉士の大森圭は介護の仕事を追求するため、小規模施設から大型の特別養護老人ホームに転職します。しかし、多くの利用者に対応するために、効率やリスク管理を優先する大規模施設ならではの運営方針に戸惑っていました……。
監督は前作から続投となる鈴木浩介。前作からのキャストの松本若菜や小市慢太郎らはもちろん、ベテランの島かおり、綿引勝彦の熟練の演技が花を添えて心温まる作品となっています。
CONTENTS
映画『ケアニン〜こころに咲く花〜』の作品情報
【公開】
2020年(日本映画)
【監督】
鈴木浩介
【企画・原作・プロデュース】
山国秀幸
【キャスティング】
戸塚純貴 島かおり 綿引勝彦 赤間麻里子 渡邉蒼 秋月三佳 中島ひろ子 浜田学 小野寺昭 吉川莉早 鰐淵恵美 島丈明 坂本直季 牧口元美 松本若菜 細田善彦 小市慢太郎
【作品概要】
テレビドラマ『花ざかりの君たちへ〜イケメン☆パラダイス〜2011』で俳優デビューした戸塚純貴。『ケアニン~こころに咲く花~』は、戸塚が新人の介護福祉士を演じて、介護現場の現実を描いた『ケアニン~あなたでよかった~』(2017)の続編です。
監督は前作から続投となる鈴木浩介。キャストも島かおり、綿引勝彦というベテラン陣が揃い、圭の先輩役となる松本若菜や小市慢太郎らは前作から引き続いての登場です。さらに前作のスピオフ作品となる『ピア~まちをつなぐもの~』(2019)の主演である細田善彦も友情出演。なじみ深い顔ぶれが揃い、シリーズ作品としても楽しめます。
映画『ケアニン〜こころに咲く花〜』のあらすじ
ある大型の特別養護老人ホームに新しい介護福祉士・大森圭が赴任してきました。
以前は小さな施設に勤務していた圭ですが、より深く介護の勉強をするために、こちらへ転勤してきたのです。ゆっくりと入居者に話しかけ、かいがいしく身の回りの世話を焼く圭に対して、責任者たちから注意が与えられました。
「小さな介護施設ならともかく、大きな施設になると入居者一人に時間をかけることは出来ません」。
圭の今いる新しい勤務先は、「多くの利用者に対応するため」という目的の元に、効率やリスク管理を優先するという運営方法をとっていたのです。
以前と違うやり方に、圭は戸惑いを隠せません。そんなある日、施設内に「この施設は女性の入浴を男性スタッフがするのかね」という怒鳴り声が響き渡りました。
声のする方に圭をはじめ、一同が向かうと、そこには車椅子に乘った老婦人・美重子とその車を押す夫の達郎、それに娘らしき荷物を持った女性と孫とみられる高校生の姿がありました。
それは認知症で入所してきた老婦人・美重子とその身内たちでした。入所早々に文句をつけてくるモンスター家族の登場です。そして、圭が美重子の担当につくことになりました。
認知症になった美重子を自宅でずっと介護してきた夫の達郎は、施設のやり方を信用できず、担当の圭にも厳しくあたります。
それでも、圭は言葉を発せず蝋人形のように無表情で座っているだけの美恵子を喜ばせてやりたくて、友人の美容師を施設に呼んで美容サロンを開催します。
綺麗に化粧をしてもらい鏡に写った自分の姿に、美重子はかすかにほほ笑んで「ありがとう」とつぶやきます。
努力が報われて喜ぶ圭ですが、またしても上司や理事長から「自分一人だけヒーローになった気分はどう?」「職場のチームワークを乱しているとは思わないの?」と叱責されてしまいます。
「一人でも多くの利用者さんを笑顔にしてあげたいのです!」。
必死に訴える圭の思いはなかなか上司には受け入れられません。しかし、美重子とはコミュニケーションが取れだし、気難しい美重子の夫・達郎も次第に圭を信用するようになります。
そんな時、圭は達郎のある「願い」を知ることになりました……。
映画『ケアニン〜こころに咲く花〜』の感想と評価
タイトルにもある「ケアニン」とは、介護、看護、医療、リハビリなど、人の「ケア」に関わり、自らの仕事に誇りと愛情、情熱を持って働いている全ての人を指しています。
新米介護福祉士・大森圭の奮闘ぶりを描く本作は、その「ケアニン」シリーズの第2弾です。
必要なのは病気への理解
病気やケガなどで入所を余儀なくされる高齢者たちのお世話をする介護福祉士。
前作は何の気なしに介護福祉士になった大森圭が、はじめて認知症の老婦人の世話をして、本気で介護という仕事に向き合うようになっていく様が描かれていました。
本作でも認知症の老婦人をかかえる家族が登場し、在宅看護の難しさと大変さを描き出します。記憶障害、徘徊、無気力。認知症はその人の人格までもすっかり変えてしまう怖ろしい病気です。
美重子の娘が「お母さんは認知症よ。何もわからないのよ。お母さんはもういないのよ」と叫ぶシーンがありますが、まさにその通りで、この病気は発症前とは全く別人のようになってしまいます。
それがこの病気の特徴と割りきり、本人の行動も理解することができればいいのですが、現実はそう簡単にはいきません。
なぜこんなになったのかと、発症前の人物を知っていればいるほど、哀しみは増すばかりなのです。
気性が荒くなり暴れたりするようになる人もいるなか、美重子は黙って座っているだけですから、そういう意味では比較的介護しやすい方だといえるでしょう。
それでも何も分からない抜け殻のようになってしまった母を見るのは娘や夫にはとても辛いこと。
身内だから感じるそんな辛さを、ケアニン・圭はわかろうとします。そして、身内以上に美重子の記憶の奥に潜む「愛」を理解しようと努めるのです。
介護において大切なもの
圭の今の職場では、介護の効率性ということが重視されていました。効率の良い介護ということは、時間ロスの少ない手早い介護を想像します。
手早い介護をすれば、機械的に動くだけで温かな触れ合いがない介護になるのでは?という疑問が自然とわいてきます。
効率良くが最善か、手厚い介護が優先か。素人のそんな心配を代弁するような介護士・圭の意見に、拍手がしたくなりました。
介護される人が認知症ならその家族は普通以上に、施設の運営方法やスタッフの勤務態度が気になります。「本当にここで大丈夫?」と。
介護される側とする方では、さまざまな理由から意見の食い違いもでてくるでしょう。本作は、そんな心配や懸念に見事に答えています。
圭の頑張りで美重子と達郎の老夫婦の願いが叶ったとき、何が介護において大切なのかとわかることでしょう。
まとめ
明るくて天性の間の取り方を持っている戸塚純貴が主役を務める、映画『ケアニン~こころに咲く花~』。
圭の信念は「認知症であっても心はある」ということ。真正面から入所者に向き合い、一生懸命に“お世話”をする姿がとても頼もしい……。
舞台が小規模介護施設から大規模に変わっても、介護という現場の大変さは変わりません。
けれども、このシリーズでは介護の苦労や問題点を含みながらも、人と人との繋がりや絆の素晴らしさをしっかりと伝えていました。
『ケアニン~こころに咲く花~』は、高齢社会における介護とは何かと考えさせられる一方、日夜奮闘するケアニンと入所者の触れ合いが描かれ、心が温まる作品となっています。
主人公の圭が、介護を通じて人の心の痛みが分かる青年へと成長していくのも楽しみの一つです。