連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第255回
『ウィッチ』(2015)、『ライトハウス』(2019)、『ノースマン 導かれし復讐者』(2022)などで知られる映画監督ロバート・エガースが、映画『吸血鬼ノスフェラトゥ』(1922)に独自の視点を入れ創り上げた渾身の新作映画『ノスフェラトゥ』。
映画『ノスフェラトゥ』は、2025年5月16日(金)TOHOシネマズ シャンテほかにて公開されます。
夜な夜な夢の中に現れて不安を煽る、正体の分からない<彼>に怯えるヒロイン・エレンとその夫。怖ろしい声とともに<彼>がエレンに会いに来る時、町に不吉な影が落ち闇が人々をのみ込んで……。
世界各国で高い評価を受けている話題作の吸血鬼映画『ノスフェラトゥ』をご紹介します。
映画『ノスフェラトゥ』の作品情報
(C)2024 Focus Features LLC. All rights reserved.
【日本公開】
2025年(アメリカ・イギリス・ハンガリー合作映画)
【原題】
『Nosferatu』
【脚本・監督】
ロバート・エガース
【出演】
ビル・スカルスガルド、ニコラス・ホルト、リリー=ローズ・デップ、アーロン・テイラー=ジョンソン、エマ・コリン、ラルフ・アイネソン、サイモン・マクバーニー、ウィレム・デフォー ほか
【作品情報】
『ノスフェラトゥ』は、『ノースマン 導かれし復讐者』(2022)などの鬼才ロバート・エガース監督が、吸血鬼映画の原点といわれるサイレント映画『吸血鬼ノスフェラトゥ』(1922)に、独自の視点を取り入れて描いたゴシック・ロマンスホラー。
ヒロイン・エレンを演じるのは、本格的なホラー映画への出演は初となるジョニー・デップの娘、リリー=ローズ・デップ。また、不気味な〈彼〉オルロック伯爵は、「IT/イット」シリーズで世界中を恐怖に陥れたビル・スカルスガルドが演じています。
さらに、ウィレム・デフォー、ニコラス・ホルト、トアーロン・テイラー=ジョンソンなど、豪華な俳優陣が顔を揃えました。
第97回アカデミー賞では撮影賞、美術賞、衣装デザイン賞、メイクアップ&ヘアスタイリング賞の4部門にノミネート。
映画『ノスフェラトゥ』のあらすじ
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不動産業者のトーマス・ハッター(ニコラス・ホルト)は、美しい娘エレン(リリー=ローズ・デップ)と結婚しました。
ある日、新婚であるにもかかわらず、自身の城を売却しようとしているオルロック伯爵(ビル・スカルスガルド)のもとへ出かける仕事が舞い込みます。
オルロック伯爵の住む城は遠方にあるために、トーマスの不在中、彼の新妻であるエレンは夫の友人フリードリヒ(アーロン・テイラー=ジョンソン)夫妻の家で過ごすことになりました。
野を越え山を越え、やっとたどり着いたオルロック伯爵の城でトーマスは不気味な光景を目にします。
その頃、エレンは夜になると夢の中に現れる得体の知れない男の幻覚と恐怖感に悩まされるようになっていました。
時を同じくして、夫のトーマスやエレンが滞在する街にも、さまざまな災いが起こり始めました。
映画『ノスフェラトゥ』の感想と評価
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本作のタイトル「ノスフェラトゥ」は、‟不死身の吸血鬼”を指す言葉です。
19世紀にヨーロッパ全土で恐怖を巻き起こしたノスフェラトゥ伝説。本作の舞台も19世紀のドイツとなっています。
吸血鬼といえば、ディナーコートをまとった一見上品な紳士のイメージがありますが、本作に登場する‟不死身の吸血鬼”は、ラストまで姿形がはっきりしない影のような存在となっています。
少女の頃に不気味な影と密約を結んでしまったエレン。それからずっとエレンは夜ごと悪夢を見ることになりました。
夢の中でエレンを呼ぶ〈彼〉は大きな黒い影のまま、エレンの現実の世界に忍び込んできます。
本作でノスフェラトゥを演じているのは、「IT/イット」シリーズで世界中を恐怖に陥れたビル・スカルスガルドです。
3時間半から4時間のメイク時間をかけ、ノスフェラトゥのオルロック伯爵に変貌をとげるビル・スカルスガルド。特徴的な長い爪の手を伸ばし、最凶を呼び込みます。
影のような姿からは想像もつかない、地獄から響いてくるような押し殺した威圧的な声は恐怖を倍増。今までになかったリアルなノスフェラトゥの誕生でした。
一方、悪夢との葛藤を抱えノスフェラトゥに付き纏われるエレンを演じるのは、リリー=ローズ・デップ。
ジョニデの娘だけあって目力の強い様相で、実際に悪霊に憑りつかれたかのような迫力ある演技を披露しています。
彼女はこの役を得るためにオーディションを受け、会場では完全に役になりきっていたと言います。〈彼〉に憑りつかれたリリー=ローズ・デップの迫真の怪演に注目してください。
(C)2024 Focus Features LLC. All rights reserved.
まとめ
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鬼才ロバート・エガース監督が、吸血鬼映画の原点といわれる『吸血鬼ノスフェラトゥ』(1922)に、独自の視点を取り入れて描いたゴシック・ロマンスホラー『ノスフェラトゥ』をご紹介しました。
鬼気迫る怖ろしいノスフェラトゥのオルロック伯爵と、ターゲットにされるエレンの命がけの攻防戦が繰り広げられます。
なぜエレンがターゲットなのか。魔界の者との密約の怖さを思い知ります。監督が本作で描きたかったのは、そんな怖さではないでしょうか。
監督は、映画撮影に必要となれば骨身を惜しみません。キャンドルの明かりが必要となれば適したカメラレンズを使用、スタジオには当時の建物を研究した約60ものセットを組み、本物のねずみ約2000匹を使って撮影しました。
このリアルを追求する監督の執念が、“本物”にこだわる美しい映像となり、世界各国でも高い評価を受けたと言えます。
影のような存在でありながら、ノスフェラトゥの襲来は恐怖を伴うリアルな質感としてスクリーンを通し、観客に向かってじわじわと襲ってくることでしょう。
映画『ノスフェラトゥ』は、2025年5月16日(金)TOHOシネマズ シャンテほかにて公開。
星野しげみプロフィール
滋賀県出身の元陸上自衛官。現役時代にはイベントPRなど広報の仕事に携わる。退職後、専業主婦を経て以前から好きだった「書くこと」を追求。2020年よりCinemarcheでの記事執筆・編集業を開始し現在に至る。
時間を見つけて勤しむ読書は年間100冊前後。好きな小説が映画化されるとすぐに観に行き、映像となった活字の世界を楽しむ。