連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第243回
韓国伝統の歌が紡ぎ出す、ある老夫婦の愛の物語『君への挽歌』。この作品は、世界各地の映画祭で作品賞・監督賞・主演俳優賞を中心に計51冠もの賞を受賞し、「韓国インディペンデント映画史上、最も多くの賞を獲得した映画」と言われています。
映画『君への挽歌』は、2025年2月7日(金)グランドシネマサンシャイン 池袋で公開決定!
イ・チャンヨル監督が、韓国社会で多くの者が向き合う「認知症」と、韓国の口承伝統芸能「パンソリ」を題材に手がけました。
パンソリの歌い手である夫と認知症を患った妻の、生と死の間で歌い上げられる愛の物語『君への挽歌』を、映画公開に先駆けてご紹介します。
映画『君への挽歌』の作品情報
【日本公開】
2025年(韓国映画)
【監督・脚本】
イ・チャンヨル
【プロデユーサー】
イ・ハンヨル
【キャスト】
ソン・ドンヒョク、チョン・アミ、キム・ユミ、ミン・ギョンジン、チャン・テフン
【作品情報】
映画『君への挽歌』は、韓国の口承伝統芸能「パンソリ」の歌い手である夫と認知症を患った妻という、老夫婦の生と死の間で歌い上げられる愛の物語です。
イ・チャンヨル監督が思索の果てに辿り着いた人生の在り方を、口承により人から人へ受け継がれてきた伝統芸能パンソリと、一言では語り尽くせない老夫婦の愛の結末を描いた本作に綴り込みました。
映画制作・配給会社「SCRAMBLE FIILM」代表にして、『輝け星くず』(2024)『幕が下りたら会いましょう』(2021)『笑うマトリョーシカ』(2024)などに出演する俳優・松尾百華による、初の海外配給作品。
映画『君への挽歌』のあらすじ
韓国の口承伝統芸能「パンソリ」の優れた歌い手であるドンヒョクは、ツアー公演や大学教授としての学生たちへの国楽の講義と、長年にわたり多忙の日々を送ってきました。
やがて高齢者となり、彼は「晩年を故郷で過ごしたい」という妻ヨニの願いを受け入れ、夫婦2人での美しい田舎暮らしを始めます。
ないがしろにしがちだった妻との時間を取り戻そうとするドンヒョクでしたが、ほどなくして彼女の言動の異変に気づきました。
今何を話していたのか、何をしていたのかを忘れてしまう……。感情を制御し切れず、時には暴力まで振るってしまう……。
挙句の果てに、愛娘の顔も忘れてしまうという有り様。ヨニは、認知症を患っていたのです。
何もかもを捨てて、愛する妻の介護に向き合うドンヒョク。ですが、認知症が進行し、別人のように変わっていくヨニに、彼の心は疲れ果てていきます……。
映画『君への挽歌』の感想と評価
本作の主人公は韓国の口承伝統芸能「パンソリ」の歌い手である夫・ドンヒョクです。ツアーや後輩への講義など多忙な日々を送り、晩年に妻・ヨニと2人で田舎暮らしを始めますが、ヨニは認知症を患っていました。
認知症は怖ろしい病気です。熱や咳がでることもなく、外見に異常は見られず、一見普通の人と変わらないのですが、記憶力が徐々になくなり、精神も次第に壊れていきます。
常軌を逸した行動を取ることも頻繁で、自分が何をしているのかさえ分からなくなります。その時の気分次第で暴れたり叫んだり、昼夜お構いなしに歩き回ったりと、少しの間も患者から目が離せなくなります。
これは患者の介護経験がある方なら充分理解できることですが、元気なころの患者を知っているがゆえに、認知症を患った姿は見るに忍びなく、介護するのもつらいものがあります。
治る見込みがない認知症。施設に預けるにもあまりに言動がひどいため入居を断られる場合もあります。昼夜を問わずヨニの監視をするのは不可能で、ドンヒョクと娘夫婦は疲労困憊に……。
ドンヒョクは認知症によって壊れていく妻への愛と切なさに、悩み苦しみます。胸が張り裂けんばかりのその想いを「パンソリ」を歌って表現。朗々と響く魂の叫びに胸を打たれます。
認知症を患う妻を介護する夫。認知症を治す手立てはないものか。彼らを救うにはどうすればよいのか。
老夫婦の切なすぎる愛の物語は、自分たちの身にも起こり得ること。決して他人事とは言えない深い社会問題を孕んだ作品です。
まとめ
パンソリの歌い手である夫と認知症を患った妻の、生と死の間で歌い上げられる愛の物語『君への挽歌』をご紹介しました。
主人公のドンヒョクを演じた俳優ソン・ドンヒョクは、認知症を患った自身の母親を15年間支え、本作の撮影開始直前に見送った過去を持っているそうです。
それ故に、認知症の妻を介護する姿に鬼気迫るリアリティを感じるに違いありません。
映画『君への挽歌』は、2025年2月7日(金)グランドシネマサンシャイン 池袋で公開決定!
美しく切ない老夫婦の愛の物語を、ぜひ劇場でご覧ください。
星野しげみプロフィール
滋賀県出身の元陸上自衛官。現役時代にはイベントPRなど広報の仕事に携わる。退職後、専業主婦を経て以前から好きだった「書くこと」を追求。2020年よりCinemarcheでの記事執筆・編集業を開始し現在に至る。
時間を見つけて勤しむ読書は年間100冊前後。好きな小説が映画化されるとすぐに観に行き、映像となった活字の世界を楽しむ。