連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第163回
指揮者の父子が仕事の依頼間違いをきっかけに、互いの心と向きあう姿を描くヒューマンドラマ『ふたりのマエストロ』。
ある日父に長年の夢だった仕事の依頼が届きますが、それは本当は息子へ送るはずのものでした。父への依頼が誤報とわかり、父として指揮者の先駆者としてのプライドが傷つけられた時、父子のとった行動とは?
監督はブリュノ・シッシュが務め、⽗・フランソワにピエール・アルディティ、息子・ドニはイヴァン・アタルが演じました。また、製作陣が『コーダ あいのうた』(2022)と同じというのも魅力です。
母のエレーヌ役はミュウ=ミュウ。ピエール・アルディティとは本作で3度⽬の夫婦役となり、息のあった演技を披露しています。
映画『ふたりのマエストロ』は2023年8⽉18⽇(⾦)よりヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamura ル・シネマ 渋⾕宮下、シネ・リーブル池袋ほか全国順次公開。
映画公開に先駆けて、『ふたりのマエストロ』の見どころをご紹介いたします。
映画『ふたりのマエストロ』の作品情報
【日本公開】
2023年(フランス映画)
【原題】
MAESTRO(S)
【監督】
ブリュノ・シッシュ
【脚本】
ブリュノ・シッシュ、ヤエル・ラングマン
【キャスト】
イヴァン・アタル、ピエール・アルディティ、ミュウ=ミュウ、キャロリーヌ・アングラーデ、パスカル・アルビロ、ニルス・オトナン=ジラール
【作品概要】
『ふたりのマエストロ』の監督は、俳優としても活動するブリュノ・シッシュが務めました。
『ぼくの妻はシャルロット・ゲンズブール』(2001)のイヴァン・アタルが息子ドニ、『巴里の恋愛協奏曲』(2003)のピエール・アルディティが父フランソワを演じ、『読書する女』(1988)のミュウ=ミュウがフランソワの妻役に。2人は3度目の夫婦役とあって息の合った演技を披露しています。
モーツァルト『フィガロの結婚 序曲』、ベートーヴェン『交響曲第9番』をはじめ、ブラームス『間奏曲第7番』、シューベルト『セレナーデ』、ラフマニノフ『ヴォカリーズ』、ドヴォルザーグ『⺟が教えてくれた歌』、モーツァルト『ヴァイオリン協奏曲第5番』ほか、多数のクラシックが登場します。
映画『ふたりのマエストロ』のあらすじ
パリの華やかなクラシック界で活躍する指揮者の親子がいます。
父・フランソワは、輝かしいキャリアを誇る大ベテラン。息子のドニは指揮者として才能を発揮し、今や飛ぶ鳥を落とす勢いです。
ある日、父へ一本の電話がはいります。それは夢にまで見た世界最高峰「ミラノ・スカラ座」の音楽監督就任の依頼でした。
しかし、ドニは父の偉業を素直に喜ぶことができないでいました。
翌日、ドニにスカラ座の総裁から呼び出しがきます。なんと父への依頼は、息子への依頼の誤りだったというのです。
ドニは父に真実を伝えなければいけない苦渋の選択を迫られます。
映画『ふたりのマエストロ』の感想と評価
父と息子という2人の優秀な指揮者がお互いをライバル視し、なかなか理解し合えていないところへ舞い込んだ仕事の誤報。
父の長年の夢だったその仕事が間違いだったと、どう告げればいいのか。悩む息子の様子を、イヴァン・アタルが熱演します。
また情報の真実を知る父の狂喜と落胆を熟練の技で表現するピエール・アルディティと、そんな父を大河のようなおおらかさで優しく包み込む母を演じるミュウ=ミュウの存在が光ります。
何度も夫婦役を演じてきたベテラン俳優たちによる深みのある演技が、家族内に生じた歪を埋めていきました。
姿形が似ていなくても、性格が違っても、音楽を愛する精神は同じです。
やがて、似通ったDNAが結ぶ父と息子の2人の指揮者の演奏が始まりました。
言葉はなくても、タクトで語る親子の会話にクラシックの調べも重なり、いつまでも耳を傾けたくなることでしょう。
まとめ
仕事の誤報がきっかけで、そりの合わない父と息子がお互いの気持ちと向き合うことになる映画『ふたりのマエストロ』。
主人公父子が2人でタクトを振るう姿から、観客は学ぶことも多いでしょう。
親子の絆をかみしめながら、次々と流れるクラシックの名曲を楽しめるという、贅沢な作品をどうぞお楽しみください。
映画『ふたりのマエストロ』は2023年8⽉18⽇(⾦)よりヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamura ル・シネマ 渋⾕宮下、シネ・リーブル池袋ほか全国順次公開。
星野しげみプロフィール
滋賀県出身の元陸上自衛官。現役時代にはイベントPRなど広報の仕事に携わる。退職後、専業主婦を経て以前から好きだった「書くこと」を追求。2020年よりCinemarcheでの記事執筆・編集業を開始し現在に至る。
時間を見つけて勤しむ読書は年間100冊前後。好きな小説が映画化されるとすぐに観に行き、映像となった活字の世界を楽しむ。