連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile175
科学技術や研究は日々進化を続けており、不可思議に思える現象が数日後には科学的に解明されることも珍しいことではありません。
エンターテインメントにもその影響は強く、特に「SF」ジャンルでは数年の経過による科学の進歩で簡単に「古臭い」と言う印象を作品に植え付けられてしまうことになります。
しかし、そんな現実世界の科学の進歩に一切影響を受けない力強さを持った「SF」作品も世には多く存在します。
今回は1960年代に公開された「SF」映画『妖星ゴラス』(1962)を、ネタバレあらすじを含めご紹介させていただきます。
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映画『妖星ゴラス』の作品情報
【公開】
1962年(日本映画)
【監督】
本多猪四郎
【特技監督】
円谷英二
【脚本】
木村武
【キャスト】
池部良、久保明、白川由美、水野久美、志村喬
【作品概要】
『ゴジラ』(1954)を手がけたことで知られる本多猪四郎が、「ゴジラ」シリーズで多くの作品を共に製作した円谷英二と木村武と共に製作したSF映画。
『雪国』(1957)や『暗夜行路』(1959)といった作品で、演技派俳優としての名を地位を得た俳優の池部良が本作の主軸となる登場人物の田沢博士を演じました。
映画『妖星ゴラス』のあらすじとネタバレ
9月29日、土星探査のため宇宙艇JX-1「隼号」が地球から打ち上げられました。
土星へと向かう最中、地球の6000倍の質量を持つ黒色矮星「ゴラス」を発見したと言う連絡を受けた艇長の園田は、「隼号」を土星探査の任務から「ゴラス」の調査へと任務を切り替え「ゴラス」に近づきます。
「ゴラス」に近づいた「隼号」は事前に通達を受けていた質量よりも現在の質量が大幅に上回っていたことで引力の範囲を見誤り、脱出不可能な状態に陥ってしまいます。
「隼号」のクルーたちは助からないことを確信しながらも最期の瞬間まで観測を続け、「ゴラス」の最新のデータを地球に送信し「隼号」は「ゴラス」に衝突しました。
「隼号」の行方不明はクリスマスシーズンの地球に大きな衝撃を与え、艇長の園田を始めとする事故の責任問題を内閣は討論し始めますが、その場に現れた宇宙物理学の研究者である田沢と河野が、「ゴラス」が地球に衝突するという研究データを政府に共有したことで責任問題どころではなくなります。
「隼号」の姉妹艇となる「鳳号」のクルーたちは、「隼号」の一件によって自身たちが宇宙へと上がる計画が中止になると危惧し、宇宙省の長官に直談判。
一方、田沢と河野は人類が生き残る方法を見出せない中、園田の孫の言葉から、地球を「ゴラス」が接近するまでの100日間で40万キロ移動させ、「ゴラス」の引力場から逃れる計画を国連科学会議で発表し、地球の滅亡を前に団結することを決めた各国の協力を取り付けることに成功。
南極に重水素と三重水素を利用したロケット推進装置を設置する計画と並行して、国連は「鳳号」に別案として「ゴラス」を破壊する計画を進めるため「ゴラス」の観測任務を発令。
南極ではロケット推進装置建設のための基地が猛スピードで建設されていましたが、パイプ建設のための工事が落盤によって遅延するなど順調には進んではいませんでした。
地球を離れた「鳳号」は「ゴラス」が地球の6200倍もの質量に増大していることを観測し、小型のカプセル艇にクルーの金井を乗せ「ゴラス」への接近を試みます。
金井は「ゴラス」の観測と「鳳号」への帰投は成功しますが、引力場による強いショックで記憶を喪失してしまいます。
艇長は金井の観測したデータから「ゴラス」の破壊は不可能であると判断し、田沢と河野の進める「南極計画」に全てを託すことになりました。
映画『妖星ゴラス』の感想と評価
地球を動かし人類の滅亡を回避せよ!
1962年に公開された『妖星ゴラス』は、『ゴジラ』を始めとした特撮映画の大ヒットによって勢いに乗る円谷英二の東宝特撮映画50本目の集大成を目指して製作されました。
丘美丈二郎を原作とした本作は「地球をジェットエンジンで移動させる」と言う力強い設定を土台に、地球の滅亡危機を当時として大規模な予算を投入しあくまでも大真面目に描写。
しかし、本作は完全に荒唐無稽と言う訳ではなく、監督の本多猪四郎は東京大学理学部天文学科に通い、可能な限りの科学的考証を行い映画に反映させています。
完全な嘘を描かないことで、荒唐無稽な映画に観客をのめり込ませることに成功させた作品でした。
90分の間、怒涛の展開が止まらない
本作は壮大すぎる設定に相反して上映時間は僅か88分となっています。
そのため物語は無駄なシーンを徹底的に省いた構成となっており、次から次へと地球滅亡を回避する「南極計画」に問題が生じる怒涛の物語が展開。
「それはあり得ないでしょ」と言う些細な疑問を抱く暇を与えず、現代でも未知の分野である「宇宙」の恐怖を鑑賞者に抱かせる『妖星ゴラス』は、時の流れを感じさせないほどに「SF」として優れた脚本を持った作品です。
まとめ
「地球をジェットエンジンで移動させる」と言う「昭和ならでは」とも思えてしまう荒唐無稽な設定は、2019年の中国映画『流転の地球』(2019)にも受け継がれており、600億円以上の興行収入を中国国内で記録しています。
本作で描かれた力強い設定は時代に左右されることなく人の心をひきつけることが出来、映画公開から60年以上が経過してもなお色褪せない魅力を放っていました。
映画『妖星ゴラス』は「午前十時の映画祭14」に選出され、2025年より劇場での上映が決定。
公開劇場と公開時期を調べた上で、ぜひ劇場に足を運んでみてください。
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