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Entry 2019/03/30
Update

【スパイダーバース】ネタバレ感想。アニメ版スパイダーマンは差別や偏見を超えていく|最強アメコミ番付評29

  • Writer :
  • 野洲川亮

連載コラム「最強アメコミ番付評」第29回戦

こんにちは、野洲川亮です。

今回は3月8日に公開されたアニメ作品『スパイダーマン:スパイダーバース』を考察していきます。

“スパイダーマン映画史上最高傑作”と言われるほどの高評価を受け、アカデミー賞長編アニメ映画賞も受賞した本作の魅力を、これまでの作品が乗り越えてきた“差別と偏見”の歴史を交えて探っていきます。

【連載コラム】『最強アメコミ番付評』記事一覧はこちら

映画『スパイダーマン:スパイダーバース』のあらすじとネタバレ

ピーター・パーカーは、スパイダーマンとして10年間ニューヨークの街を守ってきたスーパーヒーローで、市民にとって正義のシンボルとなっています。

そんなニューヨークで暮らす黒人の高校生マイルズは、警官である父親の薦めにより転校した学校に馴染めずにいました。

秀才の集まる学校で、勉強にはついていけるものの友人は出来ず、周囲とのギャップに悩むマイルズは、夜になると寮から抜け出し、叔父のアーロンの元へと向かいます。

アーロンを慕うマイルズは、勉強のことや今日授業で出会った気になる女の子の話をします。

アーロンは女子への落とすための話しかけ方、肩に手を置き「よお」と低い声で言うことを伝授すると、マイルズをある場所へと連れだします。

地下鉄の線路から抜けていった、その場所には大きな壁があり、二人はそこでスプレーアートを楽しみます。

そこへ1匹のクモがマイルズの手に噛みつきますが、マイルズは意に介さず叩き落とし、寮へと戻っていきました。

翌日のマイルズは体調が優れず、自分の心の声が大きな音で聞こえ、汗も止まらない状態になり、パニックになっていると、昨日出会った女の子と出会います。

自己紹介で「グワンダ」と名乗った彼女に、マイルズは教わった通りに肩に手をやり声を掛けますが、反応はイマイチ。

すると、グワンダの肩に置いた手が離れなくなってしまい、慌てる中でグワンダの髪にも手がくっついてしまい、やむを得ずグワンダはくっついた髪を切り落とすことになります。

事態に戸惑うマイルズは、昨夜に寮を抜け出したことを教師にとがめられそうになり逃げだすのですが、逃げ回る中で手が壁や天井にくっついてしまいます。

部屋に戻ったマイルズはスパイダーマンのコミックを目にし、自分にスパイダーマンの能力が宿ったことに気付いたマイルズは、噛まれたクモを調べるために昨夜の場所へと向かいます。

クモの死骸を調べようとしたマイルズは、大きな音を耳にしてそちらへ向かうと、音の先ではスパイダーマンとグリーンゴブリンが戦いを繰り広げていました。

そこではキングピンが異世界への次元を開く実験を行っていて、逃げ出そうとしたところで落下してしまったマイルズを、スパイダーマンが助け、マイルズに自分と同じ力が宿っていることを察します。

マイルズに事態を解決した後に、力の使い方を教えると告げるスパイダーマンでしたが、実験の途中で起きた爆発に吹き飛ばされます。

重傷を負ったスパイダーマンは、装置を止めるためのキーをマイルズに託しますが、キングピンにより殺されてしまいました。

動揺し、気付かれてしまったマイルズは、キングピンの手下プラウダーの追跡を何とか振り切り、両親のいる自宅へと逃げ込み泊めてもらうことになりますが、そこでスパイダーマンことピーター・パーカー死亡のニュースを目にします。

スパイダーマンの追悼式で、ピーターの妻MJが話した「一人ひとりがスパイダーマンなのです」という言葉に奮起し、スパイダーマンとして活動することを決意します。

しかし、ビルから飛ぶ練習をしている最中に、誤まって装置停止のキーを壊してしまいました。

落ち込んだマイルズは、ピーターの墓を訪れますが、そこでマイルズに声をかけてきたのはピーターそっくりの顔をした男でした。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『スパイダーマン:スパイダーバース』ネタバレ・結末の記載がございます。『スパイダーマン:スパイダーバース』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。
男の正体はピーター・B・パーカーという、別次元からやってきたもう一人のスパイダーマンでした。

こちらのピーターとは違い、中年になってヒーローとしての活動もしなくなり、MJとも離婚、家に引きこもっていたところで、実験で起きた爆発が原因で、次元を超えてやってきたのです。

こちらの世界の状況を伝え助けを求めるマイルズに、ピーターは渋々ながらも同意し、マイルズにスパイダーマンの力の使い方を教えることを決めます。

キングピンの研究所に忍び込み、コンピューターを盗み出そうとした二人は、その手下である女性、ドクターオットーと出会い、アームによる攻撃を受けます。

マイルズは透明になる能力を自覚したものの、使いこなすことは出来ず、追い詰められたところに白いスーツのスパイダーマンが現れ、二人を救います。

白いスパイダーマンの正体はグワンダで、本名はグウェン・ステイシー、彼女も別次元からやってきたもう一人のスパイダーマンでした。

スパイダーマン特有の能力、スパイダーセンスを頼りに転入した学校でマイルズと出会ったことを明かしたグウェンと共に、三人はこちらの世界にいるピーターの叔母、メイを訪ねます。

なぜかすぐにピーターが別次元から来たことを察したメイは、三人を地下にあるスパイダーマンの研究室へと連れていきました。

そこには、白黒のノワール世界から現れた“スパイダーマン・ノワール”、日本の女子高生姿でスパイダーロボットを操縦する“ペニー・パーカー”、そして動物キャラクター世界から来た喋る子豚“スパイダー・ハム”の三人が、それぞれの次元から集結していたのです。

そこで、マイルズ以外の5人は別の次元に身体が適応できず、自分の世界へ戻らなければいずれ死んでしまうことが分かり、皆がそれぞれの世界に戻った後に、誰かがが装置を停止しなければいけなくなります。

ピーターはその役割にマイルズを推しますが、他のスパイダーマンたちは力をコントロール出来ないマイルズに任せられないと言い、マイルズはショックを受け、その場を去ります。

落ち込んだマイルズはアーロンの元へと向かいますが、そこへプラウダーが現れました。

透明になってやり過ごしたマイルズでしたが、マスクを外したプラウダーの正体がアーロンだったことを知ってしまいます。

メイの家へと逃げ、5人にプラウダーの正体を伝えるマイルズ、そこへ追ってきたアーロンを含むキングピンの手下たちが襲いかかります。

アーロンに殺されそうになったマイルズはマスクを外し、アーロンはショックを受けて動けなくなります。

しかし、そんな姿に怒ったキングピンはアーロンを銃撃、マイルズはアーロンと共に脱出しますが、アーロンはそのまま死んでしまいました。

そこへ警官であるマイルズの父親が現れ、アーロンの亡骸を見て犯人はスパイダーマンだと勘違いしてしまいます。

寮の部屋へと戻ったマイルズは、ピーターから装置を止めるのは自分がやると言われます。

マイルズはピーターが死なせないために自分がやると伝えますが、力をコントロールできないマイルズには無理だと言われ、糸で拘束され、別れを告げられます。

口と身体を塞がれたマイルズの元へ父親が現れます。

マイルズの状態に気付いていない父親は、ドア越しに弟アーロンの死、そして自分がマイルズへ理想を押し付けていたことを詫び、自分の選択をしろと伝えて去っていきます。

父の思いを感じたマイルズは、自分の隠された能力を覚醒させ、電気で糸を切断してメイの家へと向かいました。

そこでマイルズは亡きピーターのスーツを黒スプレーで塗装、黒のスパイダースーツを身にまとい、装置のある研究所へと急ぎます。

5人のスパイダーマンたちはキングピンの手下たちと戦っており、ピーターはオットーに追い詰められますが、突然オットーのアームがオットー自身を殴り始めます。

それは透明になる能力を、コントロール出来るようになったマイルズの仕業でした。

マイルズが覚醒したことを察した一同は、最後に装置を停止する役割をマイルズに任せ、それぞれの次元へと帰っていきます。

一人になったマイルズは、キングピンと対決しますが、その圧倒的な力の前に劣勢に立たされます。

しかし、諦めずに立ち上がったマイルズは、アーロンに教わった女子を落とすための話しかけ方でキングピンの肩に手を置きます。

その瞬間、キングピンに電流を流し勝利したマイルズは、装置を停止させました。

現場に駆け付けていた父親に電話をかけたマイルズは、お互いの誤解やすれ違いを解消し、また学校へ通うことを伝えます。

そしてマイルズは、学校に通いながら2代目スパイダーマンとして、ニューヨークの街を飛び回っていきます。

アメコミ映画の歴史も踏襲した“異色の正統派”

本作は2018年12月に公開されるや、各界で大絶賛を浴び(日本公開は2019年3月)、アカデミー賞の長編アニメ映画賞を受賞しました。

冒頭から、ピーター・パーカーがスパイダーマンとしての“自己紹介”を観客にすることで、細かい設定を気にせず作品世界に入っていくことが出来ます。

そこでサム・ライミ監督版の実写映画作品をメタ的にイジってみせ、映画シリーズのファンにも「ちゃんとあなたたちの気持ちは分かってるよ」というジャブをかまして、序盤から観客の気持ちを積極的に掴みにきます。

コミックの一コマ、一コマがのようなタッチで描かれたキャラクターや背景は、正にアメコミの紙に印刷されたページをめくっているような錯覚と気持ちよさに溢れています。

いかにもマンガらしい効果音、効果線も可視化させており、これらのコミック的演出の数々は、今後もアニメ業界でも新機軸となり得る予感をさせます。

黒人のスパイダーマンが主人公、別次元から複数のスパイダーマンが出現し(モノクロ紳士、日本の女子高生、動物までいる)、スパイダーマンたちが入り乱れてストーリーが進行する、という設定だけを聞くとかなりの異色作が想像されます。

ところが実際の作品は、これぞ王道!とでも言うべき、ヒーローの誕生から苦悩、葛藤、成長が余すことなく描かれていました。

主人公マイルズは、家庭や学校における疎外感を味わい自身のアイデンティティーを見失いつつあります。

そんな時に唐突に超能力を手に入れ、そして目の前でピーター・パーカーの死を目撃したことで、普通の高校生であるマイルズがなけなしの勇気をふるい、ヒーローとしての能力と責任感を育てていく過程に観客は熱狂していきます。

またブラックミュージックやファッション、アートも、劇中のあらゆるところで盛り込まれており、音楽的、ビジュアル的なカッコ良さも、大きな見どころの一つとなっています。

ソニー・ピクチャーズ社内のメールのリークがきっかけ⁉︎

(C)Marvel Studios 2017

本作が製作される一つのきっかけとなった事件が2015年にありました。

ソニー・ピクチャーズ社内のメールがリークしてしまったこの事件で、スパイダーマン映画の関する取り決めに「ピーター・パーカーは白人の異性愛者でなければならない」というものがあったのです。

これが世間の目に止まると、アメリカでは非白人のスパイダーマン誕生の機運が急速に高まっていきます。

本作の原作コミックは2014年から2015年に渡って発表されたもので、この時期が被ったことも本作が映画化された大きなきっかけとも言えるでしょう。

機運に乗って製作された本作の好評はアメリカだけでなく、世界中に伝播していき、“スパイダーマン映画史上最高傑作”と言われるまでに高まりました。

思い返せば、近年の他作品でも既存の価値観や人種差別、偏見を打ち破ってきた映画は存在していました。

『ブラック・パンサー』(2018)、『キャプテン・マーベル』(2019)、『ゴーストバスターズ』(2016)、これらの作品はいずれも公開前にネット上でバッシングや低評価を受けます。

これは人種、性別を理由とする差別や偏見に基づくものがほとんどであり、作品の出来不出来を無視したヘイト行為でした。

しかし、上述した映画はそういった負のエネルギーを、作品のクオリティーで吹き飛ばしてみせます。

『ブラック・パンサー』は3部門を受賞し、『キャプテン・マーベル』と『ゴーストバスターズ』も、共に大ヒットし、強く逞しい女性像を見せつけてくれました。

フィクション作品が現実世界の差別や偏見を吹き飛ばし、さらに面白い表現を見せてくれる、映画ファンにとってこんなに素晴らしいことはありません。

次回の「最強アメコミ番付評」は…

(C)2019 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.

いかがでしたか。

次回の第30回戦は、4月19日公開の「見た目はオトナ、中身はコドモ」なスーパーヒーロー『シャザム!』の公開前情報を解説していきます。

お楽しみに!

【連載コラム】『最強アメコミ番付評』記事一覧はこちら

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