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映画『ガールズ・オン・ワイヤー』あらすじ感想レビューとQ&Aレポート。中国シスターフッド映画が描く“ワイヤーだらけ”の過酷な現実から逃れようとする女性たち|TIFF東京国際映画祭2025-13

  • Writer :
  • 松平光冬

映画『ガールズ・オン・ワイヤー』は第38回東京国際映画祭ワールド・フォーカス部門で上映!

自らを取り巻く苦難から逃れようとする女性2人を描いた中国映画『ガールズ・オン・ワイヤー』が、第38回東京国際映画祭ワールド・フォーカス部門で公式上映されました。

2025年11月4日の3回目の公式上映後、監督・脚本のヴィヴィアン・チュウが登壇して行われたQ&Aの模様を、作品レビューと併せてレポートします。

【連載コラム】『TIFF東京国際映画祭2025』記事一覧はこちら

映画『ガールズ・オン・ワイヤー』の作品情報


(C)2025 TIFF

【日本上映】
2025年(中国映画)

【原題】
想飛的女孩(英題:Girls on Wire)

【監督・脚本】
ヴィヴィアン・チュウ

【共同脚本】
ショーン・チェン、ポン・ジン

【撮影】
ヤン・ホンユー

【音楽】
ウェン・ジー

【キャスト】
リウ・ハオツン、ウェン・チー、チャン・ヨウハオ、リウ・イーティエ

【作品概要】
長編2作目の『天使は白をまとう』(2017)がヴェネチア映画祭コンペティション部門に入選、世界中で数々の映画賞に輝いたヴィヴィアン・チュウの監督作品。

『天使は白をまとう』のウェン・チーと『ライド・オン』(2024)のリウ・ハオツン演じる従姉妹が、自らを取り巻く苦難から逃れようとする様を描きます。

音楽を『薄氷の殺人』(2015)のウェン・ジーが担当。本作はベルリン映画祭コンペティション、2025年の第38回東京国際映画祭ではワールド・フォーカス部門で上映されました。

映画『ガールズ・オン・ワイヤー』のあらすじ


(C)2025 TIFF

事業に失敗した家族の負債を返済するため、映画のスタントウーマンとして働いているファン・ディーのもとに、実の姉妹のように仲良く育つも絶縁状態だった従姉妹のティエン・ティエンが訪ねてきます。

麻薬中毒者で暴力を振るう父親を密告したことから麻薬組織に捕らえられ、自己防衛のために組織の一員を殺して追われていたティエン・ティエン。

当初は彼女を助けるのを拒んだファン・ディーでしたが……。

映画『ガールズ・オン・ワイヤー』の感想と評価


(C)2025 TIFF

本作『ガールズ・オン・ワイヤー』の主人公ファン・ディーは、職業こそ女優ですが、大きな役がつかず、実母が始めた衣料品製造業が抱えた大きな負債の返済のために、スタント業もこなしています。

衣料品といっても、その実は香港で流行っていたファッションブランドの模造品を製造・販売するというもの。

1997年の香港返還が気運となり、中国本土で家内制手工業で一山当てようと闇稼業に乗り出し、その大半が失敗するというケースが少なくなかったと云われます。

本作はそうした2000年代以降の知られざる中国市場を下地とする一方で、スタント業の過酷さも映し出します。

少しでも稼ぐために生理痛を抱えてでもスタントをこなそうとするファン・ディーですが、完璧を求める監督のOKが出ずに、何度も何度もリテイクをする姿はつらいものが……。

さすがに現実の映画業界はここまでではない……と思いたいものの、スタント業界で働く女性の実情が垣間見えます。


(C)2025 TIFF

ファン・ディーの従姉妹ティエン・ティエンも、過酷な日々を送ってきました。

男友だちとの間に子をもうけるも、その父の家族に育児を放棄されシングルマザーとなり、麻薬中毒に陥った父親からは金をせびられる日々。

耐え切れずに麻薬組織を警察に密告したことで捕らえられ、麻薬漬けにされてしまいます。

家族の事業失敗を機に絶縁状態となっていたファン・ディーとティエン・ティエン。さまざまな葛藤を乗り越え、過酷な状況を抗おうとする2人のシスターフッドな運命が力強く描かれます。

観ていて気になったのが、劇中で「カラス」をフィーチャリングする描写がいくつもあること。幼いティエン・ティエンがカラスを飼おうとしたり、黒装束を纏ってスタントをするファン・ディーは黒いカラスを連想させます。

カラスが意味するものとは? それはQ&Aイベントで明かされました。

映画『ガールズ・オン・ワイヤー』Q&Aイベントレポート


Q&Aイベントに登壇したヴィヴィアン・チュウ監督/撮影:松平光冬

今回の東京国際映画祭の審査員を務めたヴィヴィアン・チュウ監督作『ガールズ・オン・ワイヤー』のQ&Aイベントが、11月4日の3回目の公式上映後に行われました。チュウ監督登壇のイベントはこの回だけということもあり、会場には多くの観客が。

「今日は私の映画を観に来てくれてありがとうございました。お疲れになったでしょう?」と、ハードな内容の自身の作品を観終えた直後の観客に、ねぎらい(?)の言葉をかけた監督のあいさつからイベントがスタート。

本作は浙江省寧波市にある映画村「象山影視城」で撮影を行っており、チェン・カイコー監督の『運命の子』(2020)でも使用されたとのこと。

「この映画を作った動機や、観客に伝えたいことは何か」との問いに、「実在した家庭をモデルに脚本を書きました」と明かした監督。

「その家族は、2018年頃に重慶で役所勤めから商売を始めた人たちを取材していた時に知りました。彼らは洋服の縫製生活を営んでおり、当時の中国は改革開放で生活を変えて商売を始める人が増えていたんです。でも、商売をしているうちに麻薬などのさまざまな問題が絡むようになり、それは私の理解の範疇を超えていました」

そして、「翌年の2019年にモデルとなった従姉妹の1人が亡くなったことで、彼女たちのつらい思いや教訓を皆さんに知ってもらいたかった」と、本作を撮る決意をしたそう。

「カラスが劇中で登場したり、ポスターアートにも扱われているのは何故か」という質問には、「とても素晴らしい質問ですね」と笑顔に。

「カラスは中国古来の地理書『山海経(せんがいきょう)』に出てくる鳥で、元々は縁起の良い“太陽の中にいる使者”と考えられていたんです。ところがこの2000年の歴史の間で、いつしか不吉な存在と言われるようになってしまった。そうした境遇は、社会の片隅に追いやられた女性とも関連しているのではないかと思い、カラスと重ねました」

「深くお話ができませんでしたが、こうした機会を設けていただき感謝します」と謝辞を述べつつ、観客席にいた音楽担当のウェン・ジーを紹介して、イベントは終了となりました。

まとめ


ヴィヴィアン・チュウ監督と石坂健治・東京国際映画祭シニアプログラマー(右)/撮影:松平光冬

本作の英題「ガールズ・オン・ワイヤー」とは、スタントアクションで使用する「ワイヤー」に加えて、女性を縛る「ワイヤー」の比喩でもあるとチュウ監督は明かしています。

現代社会に生きる女性は、歴史や権力、性差などの見えない「ワイヤー」で縛られているものの、それらを解き放って自由に飛ぶことができる──その思いは、中国語の原題『想飛的女孩(飛びたい女の子たち)』に込められているのです。

現在と過去のタイムラインを交互に見せてそれぞれの現象を補完しあう構成や、悪人なのにオフビートなキャラクターを醸し出すティエン・ティエンを探す追手たちの存在など、趣向を凝らした一作となっています。

【連載コラム】『TIFF東京国際映画祭2025』記事一覧はこちら

松平光冬プロフィール

テレビ番組の放送作家・企画リサーチャーとしてドキュメンタリー番組やバラエティを中心に担当。『ガイアの夜明け』『ルビコンの決断』『クイズ雑学王』などに携わる。

ウェブニュースのライターとしても活動し、『fumufumu news(フムニュー)』等で執筆。Cinemarcheでは新作レビューの他、連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』『すべてはアクションから始まる』を担当。(@PUJ920219)



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