連載コラム「銀幕の月光遊戯」第27回
CM・MV監督としても知られるチェン・ホンイー監督が、建築ラッシュに沸く台北のデザイン事務所を舞台に、男女7人が繰り広げる恋愛模様を鮮烈に描き出す!
クラウドファンディングで上映が決まったことでも話題になった台湾映画『台北セブンラブ』。
2019年4月20日(土)から5月10日(金)に、東京・新宿のK’s cinema にて上映される特集“台湾巨匠傑作選2019~恋する台湾~”の一本として先行上映ののち、5月25日(土)よりアップリンク吉祥寺と大阪・第七藝術劇場、6月1日(土)より京都シネマにて公開されます。
映画『台北セブンラブ』のあらすじ
2014年、台北市が<2016 年世界デザイン首都>に選ばれ、デザイン業界は沸き立っていました。
エマは提出したアイデアがクライアントから全否定されておかんむり。
そんな彼女を同じデザイン事務所のバーズは女王と呼びますが、新しい女性デザイナーが入所すると聞き、エマに対抗心が生まれます。
新しくやってきたデザイナーはドロシーという美しい女性でした。
実は彼女はバーズが上海の事務所で働いていたときの同僚で元恋人。今回、バーズに誘われ、台北にやってきたのです。
バーズはドロシーにまだ未練たらたらで、彼女が事務所に現れた途端、口説き始めます。彼はドロシーとやり直したくてたまらないのですが、ドロシーは全くその気がありません。
若手デザイナーの阿強(アーチャン)と棋子(チーズ)は恋愛のようなそうでないような曖昧な関係を続けていました。
そんな彼らを統括しているのが、事務所の所長アンドリューで、バーズは彼の大学時代の後輩にあたります。
彼らは、バーズがとってきたデザインホテルのリノベーションプロジェクトに知恵をしぼります。
ホテルのデザインテーマは“愛”に決まりますが、ホテルの代表であるマークもドロシーに夢中になっていました。
果たして無事に“愛”はデザインできるのでしょうか。そして彼らの愛の行方は?
映画『台北セブンラブ』の解説と感想
人生はデザインだ!
デザイン業界を舞台に、個性的な男女7人が恋愛模様を繰り広げると聞くと、洒落たトレンディー・ドラマのようなものを連想しがちです。
しかし、チェン・ホンイー(陳宏一)監督は、巧みな構成と大胆な設定で、愛と夢を追いながら傷つきさすらう若者たちを描き、トレンディー・ドラマとは似ても似つかない魅力的な偶像劇を作り上げました。
時にコメディー映画、時にメタフィクションを交えたユニークな実験映画のような素振りもみせつつ、デザインを信じ、デザイナーに誇りを持っている人々がユーモラスにかつ快活に描かれていきます。
彼らにとってのデザインとは仕事であったり、理想を追求する夢や情熱であるのは勿論のこと、ここでは愛や人生さえ、密接にデザインと関連のあるものとして浮上します。
映画の原題は、「相愛的七種設計」といい、”7種類の愛の形(デザイン)“と訳すことができます。
“設計”は中国語で、“デザイン”と“罠を仕掛ける”という2つの意味を持っているそうで、そこから愛や人生に罠を仕掛けるという意味合いを作品に読み取ることができます。
しかし、そのような言葉遊びの面白さだけでなく、この作品におけるデザインは、もっと広義な意味が含まれているようにも感じられます。
運命もまたデザインであるといわんばかりの展開にすっかり驚かされてしまうことでしょう。
勿論、チェン・ホンイー監督が台湾のデザイナーから協力を得たという、劇中に使われている洗練された小道具や美術品も見どころたっぷりですし、何より、チェン・ホンイー監督の大胆で、スピーディーで洗練された演出が最高にかっこよく、“映画というデザイン”にすっかり魅了されてしまうのです。
愛さずにはいられない
エマはクライアントに対して、常に志の高い提案をしています。ですが、クライアントはもっと単純に金になるものを欲します。
曰く、“ビーチ、バラ、チョコ”。そこに愛があるそうです。
エマは猛烈に反発します。でも彼女も自分の案がそのまま通るとは考えていません。
これは芸術ではなく商売。理想を追いつつも、どこかで折り合いをつけないといけないことは彼女もよく知っています。でも愛ってそんなもの?
理想と現実の間で悩む若者たちは、同時に理屈でははかれない恋愛に溺れています。
バーズのドロシーに対する狂おしいまでの想い、マークの所有欲、仕事のために愛すら利用しようとするアンドリューの冷徹さ。愛以前を彷徨う若手のデザイナー2人。
台北という多彩な都市の空の下で、人々は愛を求め、傷つき、その代償を支払いさえします。
台北は恋の都であるとばかりにチェン・ホンイー監督は、彼らの恋愛模様を、切実に描き出すのです。
もうひとりの主人公“台北”
魅力的な7人の人物に加え、台北という都市もまた、この物語の主人公と言っていいのではないでしょうか。
映画の序盤、台北の都市にエッフェル塔が立っている映像が現れたと思いきや画面からエッフェル塔は消え、本来あるべき台北のランドマーク「台北101」が出現します
エッフェル塔を見たためか、建築ラッシュの台北の街並みが、一瞬、まるでゴダールの『彼女について私が知っている二、三の事柄』(1966)の建設ラッシュに湧くパリの街であるかのように見えました。
また、エドワード・ヤンの『台北ストーリー』(1985)は、急速に発展する台北の街で、そこからこぼれ落ちていく人間を描いていましたが、『台北セブンラブ』は、さらに変容していく台北という都市の中で、戸惑い、迷いつつ生きる人間の姿を見つめています。と、同時に台北という街を生き生きと映し出しています。
とりわけ、車と夜の台北の街の相性の良さは抜群で、ローアングルでおさめられた停車した車と輝く街のショットを始め、車窓から観る夜の台北にすっかり心奪われてしまいます。
本作はチェン・ホンイー監督の長編第三作目にあたり、台北三部作の最終章となる作品だそうです。
台北三部作の全容が明らかになる日が来るのを切に望みます。
まとめ
デザインホテルのリノベ案件の話し合いの最中、現代人が求めているものは何か?と問われたマイクは「時間」であると答えています。
「時間」をテーマにしたアイデアが交わされる中、終盤、おもむろにテーマは「愛」に変更されます。
愛と時間。これぞまさしく現代人が必要とする二大要素と言えるでしょう。人は常に時間が足らないと感じていますし、愛がなければ生きていけません。
個性的なキャラクターを自在に動かしながら、『台北セブンラブ』は、“今を生きる”ということを、エキサイティングに、スリリングに表現してみせるのです。
ドロシー役には、『目撃者 闇の中の瞳』(2017/チェン・ウェイハオ) で強烈な印象を残したアン・シューが扮し、バーズには『台北に舞う雪』(2010/フォ・ジェンチイ)のモー・ズーイーが扮しています。
また、『ブラインド・マッサージ』(2014/ロウ・イエ)のホアン・ルーがエマを、『私の少女時代-OUR TIMES-』のダレン・ワンが阿強(アーチャン)を、『あの頃、君を追いかけた』(2011/ギデンズ・コー)のチウ・イェンシャンがアンドリューを演じるなど、日本でも馴染みのある俳優が出演しています。
本作は、第51回金馬奨で最優秀新人賞と最優秀視覚効果賞にノミネートされ、第48回ワールドフェスト・ヒューストン国際映画祭では最優秀作品賞を受賞しました。
『台北セブンラブ』は2019年4月20日(土)から5月10日(金)に、東京・新宿のK’s cinema にて上映される特集“台湾巨匠傑作選2019~恋する台湾~”の一本として上映。
その後、アップリンク吉祥寺と大阪・第七藝術劇場にて5月25日(土)より、京都シネマにて6月1日(土)より公開されます。
次回の銀幕の月光遊戯は…
次回の銀幕の月光遊戯は、2019年4月27日(土)より新宿武蔵野館他にて全国順次公開される『パパは奮闘中』を取り上げる予定です。
お楽しみに!