Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2019/04/16
Update

映画『台北セブンラブ』感想と内容解説。愛と時間を求め現代人は彷徨う|銀幕の月光遊戯27

  • Writer :
  • 西川ちょり

連載コラム「銀幕の月光遊戯」第27回

CM・MV監督としても知られるチェン・ホンイー監督が、建築ラッシュに沸く台北のデザイン事務所を舞台に、男女7人が繰り広げる恋愛模様を鮮烈に描き出す!

クラウドファンディングで上映が決まったことでも話題になった台湾映画『台北セブンラブ』。

2019年4月20日(土)から5月10日(金)に、東京・新宿のK’s cinema にて上映される特集“台湾巨匠傑作選2019~恋する台湾~”の一本として先行上映ののち、5月25日(土)よりアップリンク吉祥寺と大阪・第七藝術劇場、6月1日(土)より京都シネマにて公開されます。

【連載コラム】『銀幕の月光遊戯』一覧はこちら

映画『台北セブンラブ』のあらすじ


(C)Red Society Films

2014年、台北市が<2016 年世界デザイン首都>に選ばれ、デザイン業界は沸き立っていました。

エマは提出したアイデアがクライアントから全否定されておかんむり。

そんな彼女を同じデザイン事務所のバーズは女王と呼びますが、新しい女性デザイナーが入所すると聞き、エマに対抗心が生まれます。

新しくやってきたデザイナーはドロシーという美しい女性でした。

実は彼女はバーズが上海の事務所で働いていたときの同僚で元恋人。今回、バーズに誘われ、台北にやってきたのです。

バーズはドロシーにまだ未練たらたらで、彼女が事務所に現れた途端、口説き始めます。彼はドロシーとやり直したくてたまらないのですが、ドロシーは全くその気がありません。

若手デザイナーの阿強(アーチャン)と棋子(チーズ)は恋愛のようなそうでないような曖昧な関係を続けていました。

そんな彼らを統括しているのが、事務所の所長アンドリューで、バーズは彼の大学時代の後輩にあたります。

彼らは、バーズがとってきたデザインホテルのリノベーションプロジェクトに知恵をしぼります。

ホテルのデザインテーマは“愛”に決まりますが、ホテルの代表であるマークもドロシーに夢中になっていました。

果たして無事に“愛”はデザインできるのでしょうか。そして彼らの愛の行方は?

映画『台北セブンラブ』の解説と感想

人生はデザインだ!


(C)Red Society Films
デザイン業界を舞台に、個性的な男女7人が恋愛模様を繰り広げると聞くと、洒落たトレンディー・ドラマのようなものを連想しがちです。

しかし、チェン・ホンイー(陳宏一)監督は、巧みな構成と大胆な設定で、愛と夢を追いながら傷つきさすらう若者たちを描き、トレンディー・ドラマとは似ても似つかない魅力的な偶像劇を作り上げました。

時にコメディー映画、時にメタフィクションを交えたユニークな実験映画のような素振りもみせつつ、デザインを信じ、デザイナーに誇りを持っている人々がユーモラスにかつ快活に描かれていきます。

彼らにとってのデザインとは仕事であったり、理想を追求する夢や情熱であるのは勿論のこと、ここでは愛や人生さえ、密接にデザインと関連のあるものとして浮上します。

映画の原題は、「相愛的七種設計」といい、”7種類の愛の形(デザイン)“と訳すことができます。

“設計”は中国語で、“デザイン”と“罠を仕掛ける”という2つの意味を持っているそうで、そこから愛や人生に罠を仕掛けるという意味合いを作品に読み取ることができます。

しかし、そのような言葉遊びの面白さだけでなく、この作品におけるデザインは、もっと広義な意味が含まれているようにも感じられます。

運命もまたデザインであるといわんばかりの展開にすっかり驚かされてしまうことでしょう。

勿論、チェン・ホンイー監督が台湾のデザイナーから協力を得たという、劇中に使われている洗練された小道具や美術品も見どころたっぷりですし、何より、チェン・ホンイー監督の大胆で、スピーディーで洗練された演出が最高にかっこよく、“映画というデザイン”にすっかり魅了されてしまうのです。

愛さずにはいられない


(C)Red Society Films

エマはクライアントに対して、常に志の高い提案をしています。ですが、クライアントはもっと単純に金になるものを欲します。

曰く、“ビーチ、バラ、チョコ”。そこに愛があるそうです。

エマは猛烈に反発します。でも彼女も自分の案がそのまま通るとは考えていません。

これは芸術ではなく商売。理想を追いつつも、どこかで折り合いをつけないといけないことは彼女もよく知っています。でも愛ってそんなもの?

理想と現実の間で悩む若者たちは、同時に理屈でははかれない恋愛に溺れています。

バーズのドロシーに対する狂おしいまでの想い、マークの所有欲、仕事のために愛すら利用しようとするアンドリューの冷徹さ。愛以前を彷徨う若手のデザイナー2人。

台北という多彩な都市の空の下で、人々は愛を求め、傷つき、その代償を支払いさえします。

台北は恋の都であるとばかりにチェン・ホンイー監督は、彼らの恋愛模様を、切実に描き出すのです。

もうひとりの主人公“台北”


(C)Red Society Films

魅力的な7人の人物に加え、台北という都市もまた、この物語の主人公と言っていいのではないでしょうか。

映画の序盤、台北の都市にエッフェル塔が立っている映像が現れたと思いきや画面からエッフェル塔は消え、本来あるべき台北のランドマーク「台北101」が出現します

エッフェル塔を見たためか、建築ラッシュの台北の街並みが、一瞬、まるでゴダールの『彼女について私が知っている二、三の事柄』(1966)の建設ラッシュに湧くパリの街であるかのように見えました。

また、エドワード・ヤンの『台北ストーリー』(1985)は、急速に発展する台北の街で、そこからこぼれ落ちていく人間を描いていましたが、『台北セブンラブ』は、さらに変容していく台北という都市の中で、戸惑い、迷いつつ生きる人間の姿を見つめています。と、同時に台北という街を生き生きと映し出しています。

とりわけ、車と夜の台北の街の相性の良さは抜群で、ローアングルでおさめられた停車した車と輝く街のショットを始め、車窓から観る夜の台北にすっかり心奪われてしまいます。

本作はチェン・ホンイー監督の長編第三作目にあたり、台北三部作の最終章となる作品だそうです。

台北三部作の全容が明らかになる日が来るのを切に望みます。

まとめ


(C)Red Society Films

デザインホテルのリノベ案件の話し合いの最中、現代人が求めているものは何か?と問われたマイクは「時間」であると答えています。

「時間」をテーマにしたアイデアが交わされる中、終盤、おもむろにテーマは「愛」に変更されます。

愛と時間。これぞまさしく現代人が必要とする二大要素と言えるでしょう。人は常に時間が足らないと感じていますし、愛がなければ生きていけません。

個性的なキャラクターを自在に動かしながら、『台北セブンラブ』は、“今を生きる”ということを、エキサイティングに、スリリングに表現してみせるのです。

ドロシー役には、『目撃者 闇の中の瞳』(2017/チェン・ウェイハオ) で強烈な印象を残したアン・シューが扮し、バーズには『台北に舞う雪』(2010/フォ・ジェンチイ)のモー・ズーイーが扮しています。

また、『ブラインド・マッサージ』(2014/ロウ・イエ)のホアン・ルーがエマを、『私の少女時代-OUR TIMES-』のダレン・ワンが阿強(アーチャン)を、『あの頃、君を追いかけた』(2011/ギデンズ・コー)のチウ・イェンシャンがアンドリューを演じるなど、日本でも馴染みのある俳優が出演しています。

本作は、第51回金馬奨で最優秀新人賞と最優秀視覚効果賞にノミネートされ、第48回ワールドフェスト・ヒューストン国際映画祭では最優秀作品賞を受賞しました。

『台北セブンラブ』は2019年4月20日(土)から5月10日(金)に、東京・新宿のK’s cinema にて上映される特集“台湾巨匠傑作選2019~恋する台湾~”の一本として上映。

その後、アップリンク吉祥寺と大阪・第七藝術劇場にて5月25日(土)より、京都シネマにて6月1日(土)より公開されます。

次回の銀幕の月光遊戯は…


(C)2018 Iota Production / LFP – Les Films Pelleas / RTBF / Auvergne-Rhone-Alpes Cinema

次回の銀幕の月光遊戯は、2019年4月27日(土)より新宿武蔵野館他にて全国順次公開される『パパは奮闘中』を取り上げる予定です。

お楽しみに!

【連載コラム】『銀幕の月光遊戯』一覧はこちら


関連記事

連載コラム

『ザ・ウォーク 少女アマル、8000キロの旅』あらすじ感想評価。シリア難民の少女の葛藤を描く注目おすすめ映画祭第1弾|いま届けたい難民映画祭2024・1

連載コラム『いま届けたい難民映画祭2024』第1回 難民映画祭は、難民をテーマとした映画を通じて、日本社会で共感と支援の輪を広げていくことを目的とした映画祭で、世界各地で今まさに起きている難民問題、1 …

連載コラム

【シンエヴァンゲリオン考察】予告・特報3を解説2:シンジの“紫”の瞳が意味する擬似シン化の“先”|終わりとシンの狭間で2

連載コラム『終わりとシンの狭間で』第2回 1995~96年に放送され社会現象を巻き起こしたテレビアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』をリビルド(再構築)し、全4部作に渡って新たな物語と結末を描こうとした新 …

連載コラム

『同感 時が交差する初恋』あらすじ感想と評価解説。韓国ラブストーリー映画《リメンバー・ミー》のリメイクが描く“時を超えた男女”の出会い|映画という星空を知るひとよ189

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第189回 過去と未来、異なる2つの時代に生きる大学生の男女が1台の無線機でつながっていく……時を超えた運命の出会いが導くピュアなラブ・ストーリー『同感〜時が …

連載コラム

鬼滅の刃遊郭編 アニメPV解説感想!新キャラ登場に“宇随イヤー”を予感させるド派手な演出【鬼滅の刃全集中の考察7】

連載コラム『鬼滅の刃全集中の考察』第7回 2021年2月14日に配信された『鬼滅の刃』アニメ化2周年記念番組「鬼滅祭オンライン‐アニメ弐周年記念祭-」。その番組内でついに、『鬼滅の刃』テレビアニメ2期 …

連載コラム

三池崇史、荻上直子監督ら登壇!SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2019のオープニングイベント開催|2019SKIPシティ映画祭2

第16回を迎えるイベントが、2019年も開幕! 7月13日に埼玉・川口のSKIPシティにて『SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2019』が開催、オープニングセレモニーには各部門のノミネート作品を手掛けた …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学