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映画『フルメタルジャケット』感想考察と結末までのあらすじ。少女が銃を向けたラストにキューブリックが見つめた戦争の本質が見える|電影19XX年への旅3

  • Writer :
  • 中西翼

連載コラム「電影19XX年への旅」第3回

歴代の巨匠監督たちが映画史に残した名作・傑作の作品を紹介する連載コラム「電影19XX年への旅」。

第3回は、『2001年宇宙の旅』や『時計じかけのオレンジ』のスタンリー・キューブリック監督が、ベトナム戦争を題材に戦争と兵士そのものを描いた映画『フルメタル・ジャケット』です。

鬼軍曹ハートマンの訓練を耐え抜く兵士の姿とベトナム戦争の二部構成で、ヘルメットに“殺すために生まれた”と刻みながらも、平和のバッジをつけたジョーカーを中心に、戦争そのものを描いた戦争映画。

グスタフ・ハスフォードの小説の原作では短い訓練場面が、映画ではストーリーの半分を占めるほど重厚に作られています。

【連載コラム】『電影19XX年への旅』一覧はこちら

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映画『フルメタル・ジャケット』の作品情報


(c)Warner Bros. Entertainment Inc.

【公開】
1987年(アメリカ・イギリス合作映画)

【原題】
Full Metal Jacket

【監督・脚本・制作】
スタンリー・キューブリック

【キャスト】
マシュー・モディーン、ヴィンセント・ドノフリオ、R・リー・アーメイ、アーリス・ハワード、アダム・ボールドウィン、ドリアン・ヘアウッド、ケビン・メジャー・ハワード、エド・オロス

【作品概要】
監督を務めるのは『2001年宇宙の旅』(1968)や『時計じかけのオレンジ』(1971)のスタンリー・キューブリック。ベトナム戦争を題材に戦争と兵士、そして人間の本質が描かれた戦争映画です。

『ストリーマーズ 若き兵士たちの物語』(1983)のマシュー・モディーンや『メン・イン・ブラック』(1997)のヴィンセント・ドノフリオ、そして元軍人という経歴を持つR・リー・アーメイが出演しています。

映画『フルメタル・ジャケット』のあらすじとネタバレ


(c)Warner Bros. Entertainment Inc.

ベトナム戦争真っ最中のアメリカ。ジェイムズ・T・デイヴィス、通称ジョーカーは、アメリカの海兵を目指し、志願兵として訓練を受けます。

ハートマン軍曹は、志願兵達に厳しい指導を行います。イタリア人もベトナム人も、そしてアメリカ人も皆同じ。等しく価値が無い人間以下の存在なのだと言い切ります。

訓練兵の一人であるレナードは、にやにやしながら太ったといった見た目から、ほほえみデブというあだ名を付けられます。そうして、厳しい訓練の日々が始まりました。

訓練では、ハートマン軍曹が歌う言葉を復唱させられ、そして時には激しく罵られます。訓練兵達は徐々に、正気を無くしていきます。

レナードはその中でも、一番の落ちこぼれでした。運動神経が悪くどんくさいレナードは、ハートマンの訓練について行けません。

ある日レナードは、我慢ができずドーナツを食べようと隠し持っていたことがハートマン軍曹にバレてしまいます。

怒りに震えるハートマン軍曹。しかし罰はレナードには与えず、連帯責任として他の訓練兵に与えられました。腕立てをする様子を見ながら、レナードはドーナツを貪ります。

レナードは訓練兵達から恨みを買い、寝ている間に声を荒げぬよう口を押さえつけられ、暴力を振るわれるようになりました。

ジョーカーはレナードに助けを求められますが、どんくさいレナードを嫌っていたので応じませんでした。

そんなレナードの世話係をジョーカーは任されます。レナードはジョーカーの手助けもあって、厳しい訓練も乗り越えられるようになりました。

そしてついに、ハートマン軍曹にも認められるほどの実力を身につけます。しかし、レナードの眼光は鋭さを増し、狂気に溢れるものになりました。

ハートマンの呼びかけにも返事をせず、レナードは反抗的になっていきます。

ジョーカーが就寝時間の見回りをしていると、トイレにレナードがいました。レナードは拳銃を見つめ、完全被甲弾フルメタルジャケットを装填します。

就寝時間を過ぎても床につかないレナードを見て、ハートマンは怒号を飛ばします。いつものようにレナードを罵りますが、銃を構えたレナードに身体を打ち抜かれてしまいます。

動転したレナードをなだめようとするジョーカー。しかしレナードは制止を振り切り、銃を口にくわえると、引き金を引き自殺してしまいました。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『フルメタル・ジャケット』ネタバレ・結末の記載がございます。『フルメタル・ジャケット』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

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(c)Warner Bros. Entertainment Inc.

やがて、ジョーカーは訓練を終え、報道部員として米軍機関誌に配属されました。

カメラマンのラフターマンと共にベトナムにいると、現地の女性から不慣れな英語で、性的接待の提案されます。15ドルは高いと値引いていると、少年達に隙を見られてカメラを盗まれます。

ジョーカーたち報道部員は、アメリカが有利だという報告のみを求められていました。実際の戦況は絶望的であるにも関わらず、次々と戦地に赴く若者が増えるよう、報じなければならないのです。

しかしその実体は、戦地など見たことのないような報道部隊でした。ジョーカー達は、刺激のない日々に飽き飽きしていました。

ジョーカーは旧正月で戦争も休みになることを見越して、戦場テトに向かいます。しかし旧正月にも構わず爆撃を止めないベトナム軍。アメリカは軍は苦戦を強いられています。

ジョーカー達は取材のため、フバイに来ました。そこではアメリカ兵達が、逃げ惑うベトナムの平民を喜々として撃ち殺していました。

前戦には、訓練兵時代の仲間であったカウボーイがいました。カウボーイが所属していた小隊には、ジョーカーを馬鹿にしベトナム兵に米軍の服を着せて喜ぶ異様な男アニマルマザーがいました。

小隊はベトナム兵の後退といった情報を聞き、その真偽を確かめるべく戦線に向かいます。

しかしそこには爆弾が仕掛けられていました。その後も任務を続けていると、どこにいるかも分からない狙撃兵に、兵士は撃ち殺されます。

生き残ったアニマルマザーは狙撃をくぐり抜け、亡くなった兵士達の分も、狙撃兵を殺すことを誓います。部隊を組み直そうとするカウボーイでしたが、本部へ連絡をしようとしたところを狙撃されます。

煙幕を撒き、ビル内に侵入することに成功したジョーカー。そこにいたのは、一人の幼い少女でした。

ジョーカーの銃は弾切れを起こし、少女に睨みつけられます。間一髪のところでラフターマンが少女を撃ち、ジョーカーは助かりました。

瀕死の少女は、とどめを刺すよう、ジョーカーに頼みます。アニマルマザーは放っておけと言いますが、ジョーカーは少女を撃ち殺しました。

任務を終えたジョーカー達は、愉快にマーチを歌いながら歩きます。地獄のような戦場で、これからも生きていくのです。

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映画『フルメタル・ジャケット』の感想と評価


(c)Warner Bros. Entertainment Inc.

ベトナム戦争を舞台に、兵士の姿が描かれた映画『フルメタル・ジャケット』。

ハートマン軍曹による罵詈雑言や、厳しい訓練に耐え抜きベトナム戦争の前線に向かう姿が、キューブリックらしく淡々としたカメラで収められています。

前半部分で狂っていくレナードも、厳しい指導をするハートマンも、全て同列でどちらに肩入れすることのない神の視点での描写は、キューブリック監督作品の魅力です。

ハートマン軍曹を演じたR・リー・アーメイは最初、フランシスコッポラ監督作品の『地獄の黙示録』(1979)にてアドバイザーを任されていたことから、本作品でも同様にアドバイザーを任されていました。

しかしあまりの迫力から、キューブリックが配役を変えます。ワンシーンに何度も何度もテイクを重ねるキューブリックには珍しく、R・リー・アーメイは憑依的な演技を披露し、2、3度のテイクで成功しました。

だからこそ、ハートマン軍曹が登場する訓練では、厳かで息が詰まるような場面が続いています。

赤子のような動作を強要していく訓練で、レナードは一人殺意で動いていました。怒りといった感情を動機に、訓練を耐え抜いたレナードは、兵士になる前に自殺してしまいます。

これは、レナードだけが訓練で人間が生まれ持っている残虐性を磨かれることなく、兵士になり得なかったという描写でもあります。

ジョーカーが語っていたように、人間には残虐な側面と善良な側面、つまり二面性が備わっていると考えられます。

通常は規則を重んじる社会を経験し、残虐な部分は押さえつけられ、善良な側面が育まれていくのですが……。それを、幼児退行させるような訓練を経てリセットし、残虐性を育てていました。

戦争は人間が行う異常な歴史なのではなく、人間の持つ本質の一つであると、キューブリックは『フルメタル・ジャケット』を通して訴えているのです。

まとめ


(c)Warner Bros. Entertainment Inc.

ラストでは少女が銃を構え、大男3人を撃ち殺していました。追い詰められ瀕死の少女のことは、そのまま放っておくように仲間から言われます。

しかしジョーカーは最初から殺そうと提案していました。少女が英語を話したこともあり周りも、訓練により認識させられた、敵は皆人間以下の存在だという考えを改め、一人の人間として少女を始末していました。

ジョーカーは人間の死を目の当たりにしたことで、戦地での生を激しく実感していたのです。銃を持つ少女、そして兵士達の歌から、戦争の愚かさを訴えているようにも見える結末でしたが、それだけではありません。

反戦といったテーマに留まらず、ただ戦争の中で人を殺す動機やその動機の生まれ方など、戦争へ向かう兵士達の心情……つまり本当の意味での戦争を描いているのです。

次回の『電影19XX年への旅』は…


(c) Warner Bros. Entertainment Inc.

次回の第4回は、若者の半生を描いたスタンリー・キューブリック監督作品『バリー・リンドン』(1976)をお送りします。

【連載コラム】『電影19XX年への旅』一覧はこちら



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