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映画『ジョージ・ワシントン』感想レビューと評価解説。デヴィッド・ゴードン・グリーンの詩的な眼差しで捉えたドキュメンタリータッチな作風|ルーキー映画祭2019@京都みなみ会館8

  • Writer :
  • 奈香じゅん

2019年8月23日(金)に装いも新たに復活をとげた映画館「京都みなみ会館」。

京都みなみ会館のリニューアルを記念して、9月6日(金)からグッチーズ・フリースクール×京都みなみ会館共催の『ルーキー映画祭 ~新旧監督デビュー特集~』が開催されます。

そのなかで上映される『ジョージ・ワシントン』は、『ボストン・ストロング ~ダメな僕だから英雄になれた~』や『ハロウィン』のリブートで監督を務めたデヴィッド・ゴードン・グリーンの長編映画デビュー作品です。

ノース・カロライナの荒廃した町を背景に一般人から選んだ子供たちを主役に据えたある夏の物語。音楽とオレンジ色をセンス良く使って描かれている本作は、詩的な雰囲気漂うドキュメンタリータッチの映画です。

【連載コラム】『ルーキー映画祭2019@京都みなみ会館』記事一覧はこちら

映画『ジョージ・ワシントン』の作品情報

【公開】
2017年(アメリカ映画)

【原題】
George Washington

【監督】
デヴィッド・ゴードン・グリーン

【キャスト】
ドナルド・ホールデン、キャンディス・エヴァノフスキー、ダミアン・ジュアン・リー、カーティス・コットン3世、レイチェル・ハンディ、ポール・シュナイダー、エディ・ラウズ

【作品概要】
本作の監督デヴィッド・ゴードン・グリーンは、映画作りを目指すもハリウッドに反発してノース・カロライナへ戻り、友人たちと資金を集めて本作を製作。

サンダンス映画祭へ出品することなく、ベルリンへ持ち込みます。小さな配給会社カウボーイ・ブッキングが作品に惹かれ、ニューヨーク映画祭で上演。

ニューヨーク映画批評家協会賞の最優秀作品賞、ストックホルム映画祭では撮影賞、そしてトロント国際映画祭でもディスカバリー賞を受賞。

映画『ジョージ・ワシントン』のあらすじ


映画『ジョージ・ワシントン』

ジョージは、ノース・カロライナの工業地帯にある荒廃した町に住む12才の少年。頭蓋骨が固くならずに生まれたジョージはヘルメットを被っています。

近所の同年代ナージア、ヴァ―ノン、バディ、そしてソニアがジョージにとっての仲間。

野良犬を見つけて水浴びをさせるジョージを、従妹の猫を面倒見るナージアが手伝います。

町の青年たちは皆廃品工に従事。廃品で遊ぶ子供を叱りながらも気に掛けています。

犬を連れたジョージは、同居する叔父のダマスカスが猫を虐待したことをリコから聞かされます。

ナージアの態度が最近つれないとこぼすバディに、ヴァ―ノンは、「女は彼氏を捨てて親友に乗り換える」とアドバイス。

ジョージと急接近するナージアのことをバディは心配し、バディの代わりにヴァ―ノンがナージアに問い質します。

ナージアは、「別れたの」と素っ気ない態度。ジョージの方が良いと言うナージアに、ヴァ―ノンは「あいつは馬鹿で臭いし、毎日同じジーンズを履いている」と批判。

「バディみたいな子供は嫌なの。あんたに関係ないでしょ!」とナージアは反論。バディを弟のように思うヴァ―ノンは、気に入りません。

バディはリコに相談。リコは、自分の元彼女が容姿の冴えない別の男に心変わりした経験を語り励まします。

帰宅したジョージはダマスカスを恐れ、老犬を廃品が積み重なる家の裏にこっそり隠します。

教会で会ったジョージに、バディはナージアが好きなのか尋ねます。ジョージは、ただ話すだけだと答えます。

ある日、子供たちはいつものように遊んでいますが、じゃれ合っている際に、バディが足を滑らせて転び頭を強打。

ヴァ―ノンが手を貸しバディは立ち上がるものの、頭から大量に出血して倒れ込みます。

苛立つヴァ―ノンは、何か言おうとしたソニアを怒鳴って床に座り込みます。ジョージは、自分のせいでバディが死んだと言います。

子供たちは自分たちで友人の弔いをしますが、町の壁にはバディ失踪の張り紙が…。

映画『ジョージ・ワシントン』の感想と評価


映画『ジョージ・ワシントン』

思慮深さと芸術的知性を備えた25才の青年に戒められたように、はっとさせられる余韻のある作品。

午後に建物の間から差し込むオレンジ色の陽射しを冒頭に取り込み、最後までレトロに画面を支配。これは、観ているあなたの記憶だと物語ります。

監督・製作・脚本を兼務したデヴィッド・ゴードン・グリーンは、100人以上の子供から教会や床屋で出会った少年少女をキャスト。

自分の考えや意見をしっかり発言できる一般人の方が良いと選択した上でのことでした。

ゴミ処分場が隣接し荒廃が目立つ町を舞台に、圧迫感さえ覚える貧困をカメラが映し出す一方、貧富の格差も人種差別も本作のテーマではありません。

子供はどんな環境でも自分たちの遊び場を見つけます。ジョージ、バディ、ナージャ、ヴァ―ノン、そしてソニアの5人組は、廃品が散らばる平野を自由に駆け抜けます。

ヴァ―ノンがお腹を空かしていると知ったバディの母親が食卓に招き、貧しいながらも食べ物を分け与えるエピソードがあります。

ご馳走になったヴァ―ノンは翌日バディたちが食べるはずだった食事を自分が食べたことを申し訳なく感じます。

1つの小さな出来事の中に、コミュニティの和と他への思いやりを彼は学んでいます。

そして、ジョージが実感する命の重さは彼を大きく変え、初めて将来なりたい自分について考え始めるのです。

人は皆同じように未来を夢見た幼少時代があったことをグリーンは映像化しています。

大人向け映画

町の青年たちは対等に子供たちと会話し、自分の恋愛経験を語り、同じ毎日を繰り返しています。

ジョージが一緒に生活する伯父・ダマスカスも同様。子供の頃に犬に襲われて以来犬が苦手だと言い訳しながら動物を見れば虐待し、世の中を恨むように生きています。

登場する大人たちが象徴するものは、子供を卒業した後に成長が止まってしまう多くの人が辿る末路です。

グリーンの狙いは明快。子供の目で見た世界観を想起させ、大志を抱けと鼓舞する側の大人に対し、「夢や目的を持っていたはずなのに…悟ったように諦めて、実は怠けていませんか?」と問いかけています。

バディの死後ジョージが取る行動はリコにも小さな変化を及ぼし、365日一様に埋もれていた青年は、何かしなければと思い至ります。

子供に話させる

ナージャの探るような瞳とコロコロ変わるおしゃまな表情が可愛らしく、ジョージの物事を見抜くような静かな視線と共に演技ではない自然さを十分に感じられます。

特に「あんたには永遠に生きて欲しい」とジョージを見ずに言ったナージャの本気、そして12才のジョージの台詞「ヒーローは強くて賢いんだ」は、子供の時にしか言えない玉のような言葉です。

グリーンは、脚本を渡して心を込めてカメラの前で読むよう指示したわけでは無く、設定と境界線を示し、後はキャストした子供の思うように話させる手法を取りました。

嘘の涙も陳腐な驚きの表情も一切なく、一方通行で捲し立てる少女の会話や背伸びした少年の理屈はノンフィクションのような効果を生んでいます。

監督デヴィッド・ゴードン・グリーン

デヴィッド・ゴードン・グリーンは大きな回り道をしながら監督として成功。映画を撮りたいと赴いたハリウッドで、映画の内容よりお金儲けが重要視されることに耐えられず、ノース・カロライナへ戻り大学へ進学。

新設された映画科で本作の撮影を担当したティム・オールと出会います。2人はお金を出し合い『ジョージ・ワシントン』を予算42000ドルで制作しました。勤めていた会社も辞め、キャストとクルー全員生活を共にしながら撮影。

世界的に有名なサンダンス映画祭の業界的雰囲気を嫌ったグリーンは、直接ベルリン映画祭に本作を出品。その後カンヌ映画祭で上映された後、大きな注目を浴びましたが、グリーンはカンヌも訪れていません。

理由を尋ねられ、「相応しいドレスが無いから」とグリーンは笑って答えました。

70年代の映画『チャンプ』(1979) や『がんばれベアーズ』(1976)を完璧な映画として例えるグリーンは、テレンス・マリックを尊敬するフィルムメーカーだと公言。本作にその影響を見た批評家から絶賛されています。

まとめ

アメリカ建国の父と呼ばれる初代大統領を冠した映画『ジョージ・ワシントン』。

多くの少年が抱く夢「いつか大統領になる」をテーマにして、アメリカに住む普通の子供に密着した生活を描いています。

与えられた環境に順応して楽しみを見つける子供の柔軟さと目的を失い途方に暮れる大人を交差させ、年を重ねて行くうちに衰える感性を映し出します。

伝記ドラマやホラー映画でも観客を魅了するデヴィッド・ゴードン・グリーンの長編映画初監督作品『ジョージ・ワシントン』は、個人の哲学や詩的な眼差しで捉えたドキュメンタリータッチの作品です。

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