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Entry 2018/12/05
Update

映画『来る』解説。中島哲也と岡田准一の新境地を日本ホラー観点から解く|SF恐怖映画という名の観覧車26

  • Writer :
  • 糸魚川悟

連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile026

『リング』(1998)や『着信アリ』(2003)など、和製ホラーはハリウッドでもリメイクされ、世界でも人気のジャンルの1つです。

「音」や「登場描写」でビックリさせるだけではなく、「そこにいることの恐怖」をじわじわと感じさせる演出は和製ホラー独特のものと言えます。

今回のコラムでは、2018年12月7日公開の注目の映画『来る』を、近年の和製ホラー映画とキャストとスタッフという面からご紹介させていただきます。

【連載コラム】『SF恐怖映画という名の観覧車』記事一覧はこちら

映画『来る』の作品情報


(C)2018「来る」製作委員会

【製作】
2018年(日本映画)

【監督】
中島哲也

【キャスト】
岡田准一、黒木華、小松菜奈、松たか子、妻夫木聡、青木崇高、柴田理恵、太賀、志田愛珠、蜷川みほ、伊集院光、石田えり、西川晃啓、松本康太、小澤慎一朗

映画『来る』のあらすじ


(C)2018「来る」製作委員会

幸せな新婚生活を送る田原秀樹(妻夫木聡)は、妻の香奈(黒木華)との間に出来た子供の周囲で、不可解な出来事が相次ぐことに恐怖を覚えます。

ライターの野崎(岡田准一)を通し、霊能力を持つ比嘉真琴(小松菜奈)に様子を見てもらった秀樹は、強大な「何か」がまとわりついていることを知り…。

近年の和製ホラーの歩み

ジャニーズの中でも年代を選ばず人気の高い岡田准一を主演に抜粋し、大々的に宣伝もするなど、2018年の和製ホラーでも間違いなく印象的な『来る』。

そんな本作には、近年の和製ホラーの特徴である様々なジャンルが内包されています。

ミステリー&ホラー『残穢-住んではいけない部屋-』(2016)


(C)2016「残穢 住んではいけない部屋」製作委員会

近年の和製ホラーを語る上で2016年と言う1年は避けては通れないほどの大作ホラーがありました。

その1つ目が『残穢 -住んではいけない部屋』。

アニメ化もされた『屍鬼』や『十二国記』でも知られる小野不由美の小説を実写化した作品として話題となった本作は、怪異の謎を追う「ミステリー」要素と「ホラー」の親和性により人気となりました。

『リング』を始めとした人気の和製ホラーでは、自身に迫る危機から逃れるためにその原因を探る「ミステリー」要素が高く評価されています。

怪異や呪いと言う「理不尽な現象に意味を見出す」ことで活路を見い出す「ミステリー」&「ホラー」は和製ホラーならではの独特なジャンル。

映画『来る』でも、この和製ホラーとしての「定番」は、劇中での「何か」の正体を探る展開にしっかりと描かれており、「定番」としての楽しみ方も期待できます。

エンターテインメント&ホラー『貞子vs伽椰子』(2016)


(C)2016「貞子vs伽椰子」製作委員会

しかし、「定番」とも言える「ミステリー」&「ホラー」に加え、『来る』は「ホラー」と言うジャンルでは稀とも言える新たな境地を切り開いています。

2016年にも和製ホラーとして挑戦的な作品が話題となりました。

「リング」シリーズの怪異の象徴である貞子が、同じく和製ホラーの代表作である「呪怨」シリーズの伽椰子とぶつかり合う『貞子vs伽椰子』です。

「バケモンにはバケモンをぶつけんだよ」と言うセリフやプロットだけで「エンターテインメント」性抜群の本作。

2人のバトルシーンでは少し笑みを浮かべてしまうにも関わらず、両シリーズの特徴や怖さを一切損なっていない怪作とも言える映画でした。

強大かつ危険極まりない「何か」に各地の最強霊能力者たちがぶつかる『来る』も、既にプロットだけで「エンターテインメント」性抜群。

「エンターテインメント」と「ホラー」と言う、かけ離れているとしか思えないジャンルの融合が期待を加速させます。

キャスト・スタッフから見た映画『来る』

先行試写会が開かれ、各レビューサイトには様々な感想が寄せられています。

その中でもひときわ目立つ「異色」や「斬新」と言った感想の正体を、キャストやスタッフと言う着眼点から解説していきます。

監督・中島哲也


(C)映画「告白」フィルムパートナーズ

数多くのCMを手掛け、『下妻物語』(2004)で長編映画監督としても話題となった中島哲也が本作『来る』の監督を担当。

ベストセラー作家、湊かなえの小説を映画化した『告白』(2010)では、猟奇的とも言える復讐物語を「エンターテインメント」に昇華したことで世界的な評価を受けました。

意欲的かつ独特な描写が多い中島哲也ならではの、「ホラー」映画とは思えない映像手法が、意外にも映画『来る』では「ホラー」とマッチしていて、今まで観たことのない演出であり「斬新」との評価が寄せられる理由となっていました。

俳優・岡田准一


(C)2018「来る」製作委員会

「SP」シリーズや『図書館戦争』(2013)、そして2019年に控える殺し屋が主人公の人気漫画の実写化作品『ザ・ファブル』(2019)など、格闘技のインストラクター免許を持ち「肉体派」のイメージが強い岡田准一。

ですが、実はジャニーズの中でも「演技派」として知られています。

大河ドラマ「軍師官兵衛」では、今までの爽やかなイメージを捨て、天下統一を目指し非道の道に足を踏み入れることも辞さない黒田官兵衛を演じ切り、年代を問わずその演技力を見せつけました。

その後、『関ヶ原』(2017)や『散り椿』(2018)など主に時代劇を中心に、殺陣と演技の両面で人気を集める岡田准一が、遂に「ホラー」の世界に上陸。

擦れた雰囲気を持つオカルトライター野崎と言う、今まで彼の演じたことのない役柄を見事に演じており、作品の世界観の構築に貢献しています。

映画『来る』のまとめ

小松菜奈の新境地とも言える「キャバ嬢」&「霊能力者」など、今作には語り切れないほどの注目点があります。

2015年に日本ホラー小説大賞を受賞した澤村伊智による原作小説は、思わず一気読みしてしまうほどの面白さで、監督である中島哲也が読了直後にオファーを引き受けたエピソードも納得の作品。

「ミステリー」&「ホラー」&「エンターテインメント」&「中島哲也」と言う面白さ詰め込みすぎな「和製ホラー」の新境地『来る』は、2018年12月7日(金)より全国で公開です。

次回の「SF恐怖映画という名の観覧車」は…

いかがでしたか。

次回のprofile027では、現代社会の問題を「SF」的視点で描いた12月22日(土)公開の最新映画『クマ・エロヒーム』(2018)をご紹介します。

12月12日(水)の掲載をお楽しみに!

【連載コラム】『SF恐怖映画という名の観覧車』記事一覧はこちら

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