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映画『キング・ジャック』レビュー評価と解説。監督フェリックス・トンプソンが初長編映画で込めたメッセージとは|ルーキー映画祭2019@京都みなみ会館7

  • Writer :
  • 奈香じゅん

2019年8月23日(金)に装いも新たに復活をとげた映画館「京都みなみ会館」。

京都みなみ会館のリニューアルを記念して、9月6日(金)からグッチーズ・フリースクール×京都みなみ会館共催の『ルーキー映画祭 ~新旧監督デビュー特集~』が開催されます。

そのなかで上映される『キング・ジャック』は、短編映画でキャリアを積んだフェリックス・トンプソンの長編映画監督デビュー作品

『荒野にて』(2019)でヴェネチア国際映画祭のマルチェロ・マストロヤンニ賞を受賞したチャーリー・プラマーにとって初の主演映画です。

淡い恋心や性への関心、そしていじめ、誰もが経験する思春期がテーマ。15才のジャックを通し、少年から男性として成長していくある夏の週末を描いたノスタルジックな物語です。

【連載コラム】『ルーキー映画祭2019@京都みなみ会館』記事一覧はこちら

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映画『キング・ジャック』の作品情報

【公開】
2016年(アメリカ映画)

【原題】
King Jack

【監督】
フェリックス・トンプソン

【キャスト】
チャーリー・プラマー、コーリー・ニコルズ、ダニエル・フラエティ、クリスチャン・マドセン、メルビン・モゴリ、エレン・デビー

【作品概要】
本作の監督を務めたフェリックス・トンプソンは、個人的な経験を基に脚本を書き、一緒に成長した友人をモデルにしています。

主人公を演じたチャーリー・プラマーを含め、当時まだ駆け出し中の俳優をキャスト。本作は、ロバート・デニーロなどが始めたトライベッカ映画祭のナラティヴ部門で観客賞を受賞しました。

映画『キング・ジャック』のあらすじ

15才のジャックは、早朝に学校のいじめっ子・シェインの家へ行き、ガレージのシャッターにスプレー缶で卑猥ないたずら書きをします。

シェインの父親に見つかったジャックは自転車で逃走。帰宅した後、いつものように兄・トムと口喧嘩をした後シャワーを浴びます。

腕立て伏せで鍛えた腕の筋肉を写メで撮り、気になる学校の女子生徒・ロビンへ送信。

母親のカレンはトムを職場へ、そしてジャックを学校へ車で送って行きます。

ロビンから「下半身も見せて」と返信があり、ジャックは早速学校のトイレで写メを撮り送信。

放課後、ジャックは、他の女子生徒から自分の写真をからかわれ、ロビンが見せたことを知ります。更に、落書のことがばれてシェインとその仲間に抑え込まれ、顔中に黒色のスプレーを吹きかけられる始末。

むしゃくしゃする1日を終えたジャックに、カレンは、12才の従弟・ベンが数日滞在することになったので面倒見るよう言いつけます。

最初はベンに優しくなれないジャックですが、一緒に時間を過ごすうちに打ち解けていきます。

しかし、2人で歩いている時に運悪くシェインたちに出くわし、ジャックはベンの目の前でからまれます。

腹を立てたジャックは小石を拾ってシェインにぶつけ、ベンを連れて走り出します。

路上駐車している車の下に潜り込んだ2人は、シェインたちが近づくと息を殺してやり過ごします。

学校のクラスメート・ハリエットの自宅へベンと訪れたジャックは、家にあがらせてもらい、暫く時間を稼ぎます。

Truth or Dareの遊びが始まり、ハリエットとジャックはキスをすることに。ジャックは虚勢を張り、前に経験があると主張。

「私とキスしたい?」と訊かれてまんざらでもないジャックに、ハリエットは身を乗り出してキスをします。

そんな時、外でシェインたちがハリエットの名前を呼び、ジャックを見なかったか尋ねます。

ハリエットは見ていないと答えますが、彼女の父親が不在だと知ったシェインは勝手に家に入ります。

ハリエットは、「逃げて」と言い、ジャックとベンは弾かれるように急いで部屋を出ますが、感づいていたシェインたちが追い掛けます。

足が付いて行かない幼いベンを残したままジャックは1人で逃走。シェインはベンを人質に取ります。

シェインの家まで来たジャックは、フェンスの外からベンが庭の椅子に縛られ、ペンキ弾の的にされている所を目撃。

大笑いしているシェインたちの様子を見ても、ジャックは足がすくんで出て行かれません。トムの職場まで走り、助けを求めます。

トムはジャックを従え、シェインの家に乗り込みます。ベンの姿を見たトムは激怒。

ジャックにベンの縄を解くように指示したトムは、幼い子供であるベンに対する仕打ちを激しく咎めます。

トムは、庭に置いてあったテレビを破壊し、もし自分の従弟にまた手を出せば、次はテレビと同じ目に遭わせるとシェインたちを脅します。

トムは、減らず口を叩くシェインを足蹴りにした後、ベンに声を掛けてシェイン宅を後にします。

シェインに構わないように何度も忠告したにも拘らず無視した弟をトムは責めますが、自分は悪くないとジャックは言い返します。

「お前が誰かの為に何かしたことがあるのか?」と兄は弟を叱ります。

ジャックとベンを家の近くで降ろし、トムは先を急ぎます。ジャックは大丈夫かと尋ねますが、ベンは放って置いて欲しいと突き放します。

「友達の振りをするな」というベンの痛烈な言葉に対し、「このことはお母さんには内緒にして」と返すだけのジャック…。

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映画『キング・ジャック』の感想と評価

子供から大人への移行期

物語に登場する男性キャラクターは皆未熟な少年です。いまだに母親と同居しギャンブルで借金を作るトムも成長し切れていない青年。

劇中を通して描かれるいじめは、トムがシェインを昔いじめたことでジャックが仕返しを受けると言ういじめの連鎖です。

シェインとその仲間たちはチャーリーをいたぶることでエネルギーを発散しますが、キーポイントになるのは、大人の不在です。

舞台になる労働者階級が多く住む小さな町では、子供たちが地域を支配。仕事で親の目が届かないため、失敗を重ねながらトラブルを自分たちで解決する必要性が出てきます。

思春期に起きた出来事は大人になると忘れてしまいますが、幼いなりに考えて選択した行動が人を少しずつ成長させることを本作は描いています。

監督・脚本を務めたフェリックス・トンプソンが込めたメッセージ

忙しいシングルマザーに育てられるジャック。父親不在が影を落とす15才の少年は、激しいいじめに晒されてもやり返す負けん気は失っていません。

しかし、幼いベンが自分の代わりに犠牲になる姿を見ているだけのジャックは、自身の内なる恐怖に敗北します。それを分かった上で、年上のトムは誰かの為に何かして見ろと弟に助言しています。

フェリックス・トンプソンは、成長期に出会った子供たちをモデルに脚本を執筆。

オーストラリア出身のトンプソンはイギリスで幼少期を迎え、ニューヨークへ移り住みました。

夏になると家族と渡英して過ごした友人たちと頻繁に喧嘩をしていたトンプソンは、妹が生まれて変わったそうです。

“妹を守る責任”に気づかされた自身の経験を作品に込め、自分以外の誰かに心を配る役目を与えることが子供の成長には大変重要で、その理由は自分が大人にならないと人の面倒を見られないからだと述べています。

また、「高速道路を車で走っていると、気に留めること無く通り過ぎて行く小さな町にも生活があることを描きたかった」と語っています。

無数に存在する小さな町のジャックは少年だったトンプソンの等身大。誰にとっても共感できる“自分”を投影しています。

実力派俳優チャーリー・プラマー

『ゲティ家の身代金』(2018) や『荒野にて』(2019) で大きな注目を集める若き実力派俳優のチャーリー・プラマー。

プラマーは、脆さと芯の強さを混在させた感情を台詞の行間や全く台詞の無い場面で表現できる才能の持ち主です。

恐ろしく感受性が高く且つ温和であり、同年代では『ワイルドライフ』のエド・オクセンボールドと共に2強と言える今後注目の俳優です。

プラマーは、最初ビデオをトンプソンに送り、連絡を受けて本作のオーディションを受けました。当時まだ14才だった彼の才能に圧倒されたとトンプソンは振り返ります。

プラマーの魅力は、感情を爆発させること無く、悲しみや怒りを体内から溢れんばかりに放出できることであり、まるでその人物が実在しているかのような錯覚さえ覚えるほど彼の演技は自然です。

非情に難しいことをこれだけの若さでこなせるのは稀で、今後楽しみな俳優です。

まとめ

15才のジャックは、ある日家に居候することになった従弟のベンの面倒を見ることになります。

しかし、いじめっ子のシェインにからまれて、ベンを置いて1人で逃走。12才の従弟の方がよっぽど自分より強いことに気づいたジャックは、兄のトムから自分以外の誰かを思いやる大切さを教えられます。

監督したフェリックス・トンプソンの実体験を基にした『キング・ジャック』は、多感な成長期にある少年が自分の足で立つまでを鮮やかに描いたドラマ作品です。

『ルーキー映画祭 ~新旧監督デビュー特集~』は2019年9月6日(金)から京都みなみ会館にて開催されます。

【連載コラム】『ルーキー映画祭2019@京都みなみ会館』記事一覧はこちら


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