2018年3月から一時閉館していた京都みなみ会館が、2019年8月23日(金)に、装いも新たに復活。
リニューアル記念イベントとして、2019年9月6日(金)からグッチーズ・フリースクール×京都みなみ会館共同企画『ルーキー映画祭 ~新旧監督デビュー特集~』が開催されます。
ポール・トーマス・アンダーソンやウェス・アンダーソンの劇場未公開作品や、アカデミー賞に3部門で7回ノミネートされている常連監督のアレクサンダー・ペインの、デビュー作など、全ての作品が未公開作品で、中にはソフト化されていない作品も公開される、貴重な上映イベントです。
今回は、その中から、2019年公開の『ハロウィン』で、監督と脚本、製作総指揮を務めたデヴィッド・ゴードン・グリーンの長編デビュー作で、貧困と怠慢に呑み込まれた町で、力強く生きる少年の物語を描いた作品『ジョージ・ワシントン』をご紹介します。
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映画『ジョージ・ワシントン』の作品情報
【日本公開】
2019年(アメリカ映画)
【原題】
George Washigton
【監督・脚本】
デヴィッド・ゴードン・グリーン
【キャスト】
キャンディス・エヴァノフスキー、カーティスコットンIII、ドナルド・ホールデン、ポール・シュナイダー、エディ・ラウズ
【作品概要】
2008年の映画『スモーキング・ハイ』(日本劇場未公開)でカルト的な人気を獲得し、2013年のロードムービー『セルフィッシュ・サマー ホントの自分に向き合う旅』(日本劇場未公開)で、第63回ベルリン国際映画祭の銀熊賞(監督賞)を受賞したデヴィッド・ゴードン・グリーン。
彼が、2000年に友人たちと資金を出し合って制作した長編監督デビュー作です。
ニューヨーク批評家協会賞新人監督賞などを受賞し、完成度の高さが話題になっています。
映画『ジョージ・ワシントン』のあらすじ
かつては活気に溢れていた、ノースカロライナ州の田舎町。
出口の見えない貧困から、町には怠慢な空気が溢れており、男達は労働意欲を失い、女達は町から出る事を望んでいます。
家庭の事情で、叔父の家で妹と暮らしている少年ジョージ。
彼は頭骨が赤ん坊のように柔らかい事から、いつもヘルメットを被って生活しており「100歳まで生きる」「アメリカ合衆国大統領になる」事を夢見る少年です。
ジョージは、友人のバディ、バディの兄貴分のバーノン、いつも無表情の少女ソニア、そして、ジョージの大人びた雰囲気に憧れる少女、ナーシャ達と毎日を過ごしていました。
ナーシャが恋人関係だったバディと別れ、ジョージへ乗り換えた事で、若干関係がギクシャクしていますが、交友関係は良好です。
ジョージは年老いた野良犬を飼い始め、可愛がりますが、動物嫌いの叔父に見つかると殺されてしまう為、家の裏に隠します。
ある日、ジョージはバディとバーノン、ソニアとトイレでふざけあっていました。
ですが、ジョージに押されたバディが滑って頭を強打し、後頭部から血を流します。
突然の事に戸惑うジョージ達。
やがて、バディは激しく暴れた後に、倒れたまま動かなくなってしまい…。
ジョージを取り巻く残酷な環境
貧困と怠慢に呑み込まれてしまった、ノースカロライナ州の田舎町を舞台に、少年ジョージの成長を描く本作。
ジョージは友人たちと毎日を過ごしていますが、学校にも通っておらず、何をする訳でもなく、ただ日々を生きています。
彼は訳あって叔父の家族と暮らしていますが、叔父は日夜、黙々と薪を割り続け、ジョージと会話をしません。
荒廃した建物などから、明らかに終わりを感じる街並みと、その中で人間らしく生きている人達が対照的な環境。
ジョージは他の子どもたちがはしゃいでいる時も、どこか距離を置き、その目は遠くを見つめています。
ジョージたちには、常に気にかけてくれている青年グループがいますが、彼らは常に集まって冗談話ばかりをしており、その将来性の無さからか、町の女性達は周囲の男達にうんざりしている様子で、いつか町を出る事を望んでいます。
青年達には、人の好さと温かみを感じますが、町の倦怠感に呑み込まれ、ただ時間を潰しているようにも見えますし、この町で生き続けている以上、ジョージは同じ人生を歩むでしょう。
未来への可能性を感じず、打破する為のキッカケも掴めない絶望的な環境。
それが、本作の舞台となっています。
ジョージを変える死生観
未来への可能性を感じないまま、同じメンバーと、何をするでもない毎日を過ごしていたジョージですが、ある出来事により、物語は大きく動きます。
それは、ある人の死に直面したショックがキッカケとなります。
この出来事により、ジョージとバーノン、ソニアの言動が大きく変わり、ジョージはバーノン達と、決別したとも取れるセリフを終盤に話します。
また、ジョージは、ある人の命も救う事になり、ここからヒーローになる事を強く意識するようになります。
倦怠感に呑み込まれた町で、ジョージの人生観が変わる、2つの命に関わるエピソード。
本作中盤の軸となっているので、ここに注目していただきたいです。
貧困と怠慢を打ち砕く純粋な願い
2つの命に関するエピソードを経て、精神的な成長を見せるジョージ。
彼はヒーローになる為に、ある行動を起こすようになります。
その行動は、見ようによってはコミカルに映るかもしれませんが、彼の純粋な気持ちが反映されており、影響を受ける人間も現れます。
無力だったジョージが、未来を変える為に起こす、小さな、本当に小さな戦いの1歩。
また、黒人であるジョージが目指すのは「アメリカの大統領」。
アメリカで初の非白人の大統領、バラク・オバマが誕生したのは2009年で、本作が制作されたのは2000年。
黒人大統領の誕生は、遠い未来の話でした。
本作のタイトル『ジョージ・ワシントン』は、アメリカの初代大統領である事を踏まえると、未来に希望を持てない町で、誰もやらなかった事を始めた少年を描いた本作は、新たな価値観を創造する力を持つ、人間賛歌のように感じます。
つまりは「初めての事は難しいが、不可能な事など何も無い」と感じ、本作が長編デビュー作となった、デヴィッド・ゴードン・グリーンの、作品への意気込みを感じます。
まとめ
本作は、前述したように貧困に呑み込まれた町を舞台にした物語です。
ですが、貧困という感覚は、大人にならないと持ちえない感覚で、町で生まれ育ったジョージ達に関しては関係のないことですし、考えた事もないかもしれません。
大人からすると、将来に繋がらない生き方しかできないジョージ達は、可哀そうに感じるかもしれませんが、ジョージ達にすれば、町の廃墟を訪れるだけで冒険になり、毎日が発見の連続だったのかもしれません。
少年達の感性を反映させるように、町の描き方はスローモーションなどを多用し、幻想的に描かれています。
大人にとっては当たり前の事でも少年達にとっては新しい事、そして、その感覚を忘れなければ、常に新たな事は生まれ続けるはずです。
本作のタイトルにもなった「ジョージ・ワシントン」が、アメリカ建国の父と呼ばれている部分を考えても、本作は、人間の持つ創造性を描いた作品であると言えます。
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