FILMINK-vol.15 Bong Joon-ho: Parasite Filmmaker
オーストラリアの映画サイト「FILMINK」が配信したコンテンツから「Cinemarche」が連携して海外の映画情報をお届けいたします。
映画『パラサイト』撮影中のポン・ジュノ監督
「FILMINK」から連載15弾としてピックアップしたのは、2019年・第72回カンヌ国際映画祭コンペティション部門パルムドールを受賞した映画『パラサイト(原題:기생충、英題:Parasite)』のポン・ジュノ監督のインタビュー記事です。
日本公開は2020年1月、邦題は『パラサイト 半地下の家族』と発表された本作の魅力を、監督の視点から読みといていきましょう。
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実体験を基に作られた『パラサイト』
2019年カンヌ国際映画祭パルムドール、シドニー映画祭を制したのは“道化師無しの喜劇、ヴィラン無しの悲劇”を撮った、韓国人のある監督でした。
監督であり脚本家のポン・ジュノは大学生時代、稼ぐために裕福な家族の家庭教師をしていたと言います。父親はグラフィックデザイナー、韓国の中流家庭で育ったジュノ監督は雇用主の家に足を踏み入れた時、“不気味で親しみのない”そんな気持ちを感じたと言います。
「彼らの二階にはサウナがありました。当時の私にとって衝撃的でした。家の中にサウナだなんて、なんて奇妙なんだろうと」
最新にして最高の作品『パラサイト』のアイディアを彼に植え付けたのはこの経験でした。
現在49歳の映画監督が“道化師無しの喜劇、ヴィラン無しの悲劇”と呼ぶ経済的格差の痛烈な風刺『パラサイト』。カンヌ国際映画祭で『パラサイト』は審査委員満場一致でパルムドールを受賞、ジュノ監督は韓国人として初めてこの栄誉ある賞を獲得した監督となりました。
ジュノ監督作品の常連『殺人の追憶』(2003)『グエムル-漢江の怪物-』(2006)『スノーピアサー』(2013)などに出演するソン・ガンホが、今回は失業中の父親という役柄に挑みます。
5月下旬に上映開始された母国のボックスオフィスは絶好調。マイケル・ムーア監督の『華氏911』(全世界2億2200万ドルの興行収益)以来の収益が高いパルムドール作品となることは疑いようがありません。
小さな規模で経済的格差を描く
シドニー映画祭でのポン・ジュノ監督
ジュノ監督は、2013年の黙示録的なスリラー『スノーピアサー』のポストプロダクション中、またNetflix作品『オクジャ』のスクリプトを作成する前に、『パラサイト』の構想を練り始めました。
「『スノーピアサー』は階級闘争と階級格差についての物語で、電車の最後部と最前部の間で抗争が起こります。この映画ではSFとアクションが繰り広げられたので、『パラサイト』はより現実的な方法で、そして小さな規模で経済的格差について描きたかったのです」
『パラサイト』には元もと『The Décalcomanie』というタイトルが付けられていました。これはイメージが形成され、別の面に転写または反射させるという意味を持つ芸術の概念“decalcomania(デカルコマニー)”、“decal(デカール)”という単語が由来のものでした。
「裕福な家庭と貧乏な家庭、二つの家にアプローチする上で私が考えたことは、彼らは同じ平面の上にいるということでした。物語の中では平等と言える立場にいるんです。しかし貧しい家庭にもっと焦点を当てるように構想を変えていきました」
『パラサイト』はチェ・ウシク演じるキャラクターのギウが、パクという裕福な家庭で家庭教師の職を得ることから始まります。誰が一体“パラサイト=寄生虫”なのかと正確に特定することについては、ジュノ監督は消極的です。
「映画の中で彼らは悪事も働きますが、彼らは物語の本当の悪役ではありません」
監督は現代社会の肖像、恐ろしいシステムを劇中であぶり出すのです。貧困家庭が寄生虫とならざるをえないようなシステムを。
「この映画の中の貧しい家庭のキャラクターたちは、実際には賢くて有能です。これだけのスキルと頭脳があれば彼らは仕事を十分にやっていけるだろう、しかし問題なのは彼らにとって十分な雇用が無いということなのです。それは韓国だけでなく全世界が面している経済状況だと思います。適切なシステムが設定されているならば雇用はうまく行き渡りますが、実際にはひどく危険な状況に直面しなければいけないわけです」
ジュノ監督のメンターとは
映画制作中にジュノ監督はジョゼフ・ロージー監督、ダーグ・ボガート出演の『召使』(1963)、クロード・シャブロル監督の『野獣死すべし』(1969)、そしてメイドから“仕事”以上のものを受け取る作曲家と妻、家庭内の愛憎を描いたキム・ギヨン監督の『下女』(1960)などの作品を振り返ったと言います。
「キム・ギヨン監督は私のメンターです。『パラサイト』も、もちろん彼の影響を受けています」
ジュノ監督は『パラサイト』を“階段映画”の一例だと語ります。『下女』でも、“階段”はプロットとテーマの中心です。『パラサイト』ロケーションのほとんどを占めるのはモダンで美しいパクの世帯。家のデザインと登場人物たちのアクションは『パラサイト』後半部分でますます重要なところとなります。
「最初の一時間は観客のための設定やキャラクターの構築。残りの一時間は予期せぬ形で展開が爆発するかもしれませんよ」
セットが物語る恐怖の空間
ジュノ監督はセットに入る前、各キャラクターが物理的にやり取りし作用し合うような精巧で緻密なブロッキングを考えていました。
「脚本を終えた時、私は家の基本的な構造を頭に浮かべていました」
しかしそれを実現させる家の設計は大変困難なものでした。各キャラクターたちは重要な瞬間、互いを確認することができてはいけないと監督は主張します。
「家の中の視認性と非視認性の考え方は映画にとって重要でした。私たちは建築家のところへ意見を求めに行ったのですが、こんなデザインは馬鹿げてると言われてしまいました」
そのため『パラサイト』のチームは要件にあった珍しい物件を探すのではなく、一連のセットで撮影することを選択したと言います。
「こういったアクシデントや衝突に遭遇すると私はもっとワクワクします。セットは非常に囲まれた、閉所恐怖症的な空間です。この映画の90パーセントは、裕福な家と貧乏な家双方で語られることについて描かれます。このセットが、その空間や断面を顕微鏡で覗き込むことを可能にしました」
その結果、社会的なメッセージとブラックコメディ、更には暴力描写が融合した作品が出来上がりました。
「映画内で予期せぬ出来事が繰り広げられているのを見るとき、きっと焦って緊張感に溢れている感覚を楽しんで頂けるでしょう。これを語るのは少し躊躇してしまいます。すごい変態だと思われたくないし!でも観客たちは各シーンを見て笑うとき、同時にその笑いを疑うでしょう。罪悪感も抱くかもしれません」
今後の映画製作について
不適切なジョークも多いことから、本作は北朝鮮を挑発しているとも言われています。韓国と北朝鮮の関係は芳しいものではありません。
「私のアメリカの友人たち何人かは「このまま韓国に住み続けるつもりか?」と問うこともあります。大丈夫か?と。しかし韓国の人々はそれほどそのことについて考えていません。もちろん私たちは戦争を恐れていますが、日常生活を続けます。なぜなら結局のところ、私たちにできることは何も無いからです」
ジュノ監督は2年前『オクジャ』をカンヌにて上映した時、Netflixの配給をめぐる論争に巻き込まれました。監督は『オクジャ』を作ったことは何も後悔していないと言います。
『パラサイト』で久しぶりに母国語である韓国語で映画を撮るのは楽しい経験だったそうです。
「私は本作にて、詳細についてより多く注意を払うことができたように感じました。それは素晴らしいことでした。今後もこんな映画製作ができるように探求していきたいと考えています」
FILMINK【Bong Joon-ho: Parasite Filmmaker】
英文記事/James Mottram
翻訳/Moeka Kotaki
監修/Natsuko Yakumaru(Cinemarche)
英文記事所有/Dov Kornits(FilmInk)www.filmink.com.au
*本記事はオーストラリアにある出版社「FILMINK」のサイト掲載された英文記事を、Cinemarcheが翻訳掲載の権利を契約し、再構成したものです。本記事の無断使用や転写は一切禁止です。
映画『パラサイト 半地下の家族』の作品情報
【製作】
2019年(韓国映画)
【日本公開日】
2020年1月
【原題】
기생충(英題:Parasite)
【監督・脚本】
ポン・ジュノ
【キャスト】
ソン・ガンホ、イ・ソンギュン、チョ・ヨジョン、チェ・ウシク、パク・ソダム、イ・ジョンウン、チャン・ヘジン
【作品概要】
2019年・第72回カンヌ国際映画祭コンペティション部門パルムドールを受賞したブラックコメディ。
『殺人の追憶』(2003)『グエムル-漢江の怪物-』(2006)のポン・ジュノが監督を務め、同2作に出演したポン・ジュノ組常連のソン・ガンホが主演しました。
映画『パラサイト 半地下の家族』のあらすじ
失業中のキテクは家族と細々と暮らしていました。
ある日、キテクは裕福なパクという男の家の家庭教師の面接に行きますが、そこから予期せぬ事件に巻き込まれ始め…。