連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile173
『ヘレディタリー/継承』(2018)や『ミッドサマー』(2020)など、異色の映画を世に放ち続ける映画製作会社「A24」。
『エクス・マキナ』(2016)や『ムーンライト』(2017)といった作品で数々のアカデミー賞を受賞し、異色なだけでなく作品そのものの完成度の高さも世界から評価されてきました。
今回はそんな「A24」が放つ、アカデミー賞主要11部門にノミネートしたジャンルごちゃ混ぜ映画『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』を、ネタバレあらすじを含めご紹介させていただきます。
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CONTENTS
映画『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』の作品情報
【日本公開】
2023年(アメリカ映画)
【原題】
Everything Everywhere All at Once
【監督】
ダニエル・クワン、ダニエル・シャイナート
【脚本】
ダニエル・クワン、ダニエル・シャイナート
【キャスト】
ミシェール・ヨー、キー・ホイ・クァン、ステファニー・ス―、ジェニー・スレイト、ハリー・シャム・ジュニア、ジェームズ・ホン、ジェイミー・リー・カーティス
【作品概要】
ダニエル・ラドクリフが死体を演じたことで話題となった『スイス・アーミー・マン』(2017)を監督した、ダニエル・クワンとダニエル・シャイナートが手掛けた作品。
「007」シリーズの18作目となる『トゥモロー・ネバー・ダイ』(1998)でボンドガールを務めた本作の主人公エヴリンを演じました。
映画『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』のあらすじとネタバレ
【第1章:Everything】
コインランドリーを経営するエヴリンは仕事に追われる日々を過ごしており、夫ウェイモンドと家族の時間を過ごすことも出来ていませんでした。
ウェイモンドはエヴリンとの離婚を切り出そうと考えていましたが、エヴリンはIRSによる税務監査と旧正月のパーティのために中国からやってきた父ゴンの対応に追われウェイモンドとの話し合いに応じません。
エヴリンとウェイモンドの娘ジョイはゲイであり、白人女性のベッキーと交際していました。エヴリンはそのことを承知していましたが、ゴンのことを「古い人間」と考えるエヴリンはゴンに、ベッキーのことをジョイの「友人」であると紹介しジョイを傷つけてしまいます。
税務監査官ディアドラに呼び出されたエヴリンとウェイモンドはゴンを連れ国税庁に向かうと、エレベーターの中で突然ウェイモンドが別人のような口調になりエヴリンの耳に機器を取り付けます。
「マルチバース」からこの宇宙のウェイモンドの身体を乗っ取り行動していると話すウェイモンドは、エヴリンに「マルチバース」を救うために行動して欲しいと話すと元のウェイモンドに戻りました。
ディアドラから経費の私用での利用に対し厳しい追求を受けるなか、別の宇宙のウェイモンドから貰った紙を眺めるエヴリンは、そこに書かれていた「靴を左右逆にする」と言う指示に従った上で機器のボタンを押すと、身体はその場にいながらも別の「マルチバース」のエヴリン自身に乗り移ることに成功。
その場に先ほどのウェイモンドもおり、彼は自身を「アルファバース」から来た存在だと言うと、虚無的に行動しすべての「マルチバース」を混沌に陥れる「ジョブ・トゥパキ」という存在と戦って欲しいとエヴリンに懇願。
「アルファバース」のエヴリンは「マルチバース」との接触を可能にした人間であり、アルファウェイモンドはエヴリンであれば絶大的な力を持つジョブにも対抗しうると考えていました。
元の宇宙のディアドラとの面談はエヴリンが上の空だったことから不調に終わり、エヴリンとウェイモンドは領収書の再提出を命じられます。
アルファウェイモンドと会っていた宇宙でディアドラがジョブの手下だったことからエヴリンは咄嗟に彼女を殴ってしまい、ディアドラは警備員を呼び寄せエヴリンとウェイモンドの逮捕を命じますが、ウェイモンドにアルファウェイモンドが宿り警備員たちを倒しました。
何とか窮地を脱したものの騒動は大事になり、2人を逮捕するために多量の警察官が国税庁へと侵入。
民間人に紛れながら2人は脱出を試みますが、そこにジョブの部下であるディアドラがこの宇宙のディアドラの身体を奪い現れます。
別の宇宙の自分にアクセスする「バースジャンプ」を行うことで、アクセスした宇宙における自分のスキルを引き継ぐことが出来るため、ディアドラはプロレスラーの自分にアクセスし圧倒的な力で2人を追い詰めます。
「バースジャンプ」をするためにはふざけたような行動を取る必要が有りましたが、「ディアドラに愛を告白する」と言う条件を満たしたことでエヴリンも「バースジャンプ」を実行。
エヴリンはかつてウェイモンドと添い遂げるために実家から駆け落ちをした過去がありましたが、別の宇宙では駆け落ちせずにウェイモンドを見捨てたことでアクションスターとなっていました。
アクションスターの自分にアクセスしたことで戦闘能力を手にしたエヴリンはディアドラを倒し、アルファウェイモンドからジョブの正体を聞き出します。
アルファウェイモンドは「アルファバース」においてエヴリンが危険な実験を行ったことで、全マルチバースを一挙に体験し狂気に堕ちたジョイこそがジョブであると言います。
すると、ジョブが乗り移ったジョイがその場に現れ、宇宙を自由に超越する能力を使い警察官を殺害しエヴリンに接触。
しかし、その場に「アルファバース」のゴンが乗り移ったゴンが現れジョイを車椅子で撥ねたことで、ジョイは正気を取り戻しゴンを含めた4人は部屋に逃げ込みます。
アルファゴンはエヴリンにジョイを殺させることでこの宇宙をジョブの手から守ろうとしますが、エヴリンは殺害を拒否しアルファゴンは「アルファバース」の仲間を全員この宇宙に集結させ、「バースジャンプ」の過剰な利用から第2のジョブになりかねないエヴリンの殺害を命令。
エヴリンは襲い来る刺客を「バースジャンプ」を繰り返しながら撃退しますが、「アルファバース」のウェイモンドがジョイに殺害されただけでなく、やがてエヴリンの身体に限界が訪れ死亡してしまいます。
映画『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』の感想と評価
ジャンルの波が押し寄せるごちゃ混ぜムービー
「マルチバース(多元宇宙)」を題材とし、宇宙規模の戦いが繰り広げられる本作は「SF」映画として語ることも十分に可能な作品です。
ですが、本作の最大の魅力はジャンルが一括りには出来ない部分にあり、本作は「アクション」や「コメディ」や「恋愛」や「ヒューマンドラマ」などさまざまジャンルを包括したごちゃ混ぜムービーになっています。
ごった煮にされたジャンルたちですが、その一つ一つがあまりにも高クオリティであり、カンフーを主軸とした「アクション」にも、突然奇妙な行動をし始めるシュールな「コメディ」にもエンターテイメントとしての楽しさが詰まっていました。
世界で活躍し続けるミシェール・ヨーの集大成映画
英語以外の言語でありながらアカデミー賞において4部門を受賞するに至った『グリーン・デスティニー』(2000)に出演後、『メカニック:ワールドミッション』(2016)に出演するなど世界的に活躍し続ける俳優ミシェール・ヨー。
アクション映画のイメージが強くアクション俳優としての出演の多い彼女は、本作でもキレのあるアクションシーンを次から次へと見せてくれます。
しかし、本作でアクションだけでないミシェール・ヨーの高い「演技力」があってこそ成り立つ作品であり、前述したさまざまなジャンルは彼女の演技の使い分けによって成立していると言えるほどです。
多くの国の多くのジャンルの映画に出演してきたミシェール・ヨーの演技の全てが詰まったような集大成的映画でした。
まとめ
アカデミー賞を始めとした世界の評論家から高い評価を受ける作品と言われると、少しハードルの高さを感じてしまう人もいるのではないでしょうか。
『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』は、そんな心配とは無縁のエンターテインメントに特化した作品です。
シュールな笑いとアクションと「マルチバース」を舞台にした熱い展開、そして家族愛を描いた暖かい物語。
たった1作で多くの映画を観たような充実感を味わうことのできる、怪作と言える作品でした。