“信が真に通ずる”証を問う、2組の男女のラブストーリー
今回ご紹介する映画『グリーン・デスティニー』は、中国の小説家ワン・ドウルーの武俠小説『臥虎蔵龍』を原作とした、武侠映画です。
『いつか晴れた日に』(1996)でベルリン映画祭金熊賞を受賞した、アン・リー監督によって映画化され、第73回アカデミー賞の外国語映画賞をはじめ4部門を受賞しました。
本作の見どころは『マトリックス』も手掛けた、カンフーアクション演出家ユエン・ウーピンの演出による、ワイヤーアクションで表現した絵巻物のような美しい映像です。
物語は19世紀初めの中国が舞台。伝説の秘剣“碧名剣(グリーン・デスティニー)”をめぐり、4人の男女に渦巻く運命の愛と死闘を描いています。
伝説の秘剣“碧名剣”の使い手として、武術界の英雄リー・ムーバイは、ウーダン山で瞑想修行をしていたが、師からも聞かされていない境地に陥り、血で血を洗う戦いに終止符を打つため、“碧名剣”を預けにユー・シューリンの元へやってきます・・・。
映画『グリーン・デスティニー』の作品情報
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【公開】
2000年(中国・アメリカ合作映画)
【原題】
Crouching Tiger, Hidden Dragon(中国題:臥虎藏龍)
【監督】
アン・リー
【原作】
ワン・ドウルー
【脚本】
ワン・ホエリン、ジェームズ・シェイマス、ツァイ・クォジュン
【キャスト】
チョウ・ユンファ、ミシェール・ヨー、チャン・ツィイー、チャン・チェン、チェン・ペイペイ、ラン・シャン、リー・ファーツォン、ハイ・イェン、ワン・ターモン、リーリー
【作品概要】
“碧名剣”の使い手リー・ムーバイ役には大ヒット映画「男たちの挽歌」シリーズ、『アンナと王様』(1999)のチョウ・ユンファが務めます。
女剣士のユー・シューリン役には香港映画でアクション女優として活躍し、『007 トゥモロー・ネバー・ダイ』(1997)のボンドガールで注目を集めた、ミシェール・ヨーが演じます。
自らの運命やムーバイとシューリンの運命を狂わせていく、高官の娘イェン役には2004年の『LOVERS』と『2046』で主演を務めたチャン・ツィイーが演じます。
映画『グリーン・デスティニー』のあらすじとネタバレ
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ユー・シューリンは家業の運送業を継ぎ、北京に届ける荷駄の護衛をし信頼を築いていました。そのシューリンのところに霊峰ムーダンで瞑想修行をしていたはずのリー・ムーバイが訪ねてきます。
ムーバイは瞑想修行で今までに体験したことも、師匠からの教授もいない不思議な感覚に陥り、武林(武術界)での人生に空しさを覚え、修行を打ち切る決意をしたと語ります。
唯一無二の剣の碧銘剣(グリーン・デスティニー)の使い手として、広くその名を知られたムーバイでしたが、心静かに余生を送ろうと碧銘剣を手放す決心をします。
そこで、ムーバイなどの武侠を庇護しているティエ氏に寄贈するため、北京まで行ってほしいとシューリンのところを訪ねたのです。
しかし、ムーバイには一つ心残りがありました。師匠を殺害し秘技書を奪って逃走した、ジェイド・フォックスの仇討ちを果たしていないことでした。
シューリンが無事にティエ氏に剣を預けると、ムーバイが引退する理由はシューリンと一緒になるためではと聞きます。ティエは2人が思い合っていることを知っていました。
ティエの勧めで屋敷に泊まることになり、そこにユイ長官が来訪します。碧銘剣を書斎に納めに行くと、長官の娘のイェンと出会います。
イェンは碧銘剣に興味津々です。シューリンが剣士だと知ると、さらに瞳を輝かせ、親が決めた貴族のゴウ家に嫁ぐことを嘆きました。
シューリンはそんな彼女に、剣士には“義・信・誠”の掟があり、守らなければ生きて行けず、その生涯は過酷で想像を絶すると言い、女にとって結婚は大事なことだと諭します。
その夜、ティエはユイ長官に碧銘剣を見せると、宮殿は護衛が大勢いるが、北京には多様な人間がいるため、強く柔軟に生きるため武侠界との繋がりを持っていると話します。
イェンが就寝の準備をしているところに家庭教師が現れ、武侠のシューリンと接触していたことを咎められますが、イェンは指図されることにうんざりします。
しばらくするとティエの屋敷に黒装束の賊が忍び込み、碧銘剣を盗み出しました。パトロール中の警官ボーが異変に気づき、捕らえようとしますが、巧みな武術と軽功で屋根伝いに逃走しました。
騒ぎに気付いたシューリンも賊を追います。賊を追う者が他にもいて「ジェイド・フォックスだな!?」と叫び攻撃を仕掛けます。
しかし、ボーが現れると曲芸の練習をしていただけだと立ち去ります。ボーは賊が逃げ込んだ場所が、ユイ長官の屋敷であると気づきます。
一方シューリンは賊を追いつめ、碧銘剣を返せば許すと言いますが反撃され、その技から“ウーダン”の者かと問うと、賊はシューリンを交わし再び逃走します。
シューリンは賊から碧銘剣を取り返すため、攻撃と防御を繰り返しますが賊は手強く、師範級のシューリンでさえも手こずり、ようやく賊の動きを止めます。
しかし、何者かが暗器で賊を助けたため、取り逃がしてしまいました。シューリンは賊の瞳を見て正体がイェンではないかと疑いを持ちました。
翌日、ボーがティエに賊が長官の屋敷の敷地に逃げ込んだことから、碧銘剣は屋敷内にあるのではと報告します。シューリンもまた同じことを伝えました。
ティエは2人の報告に長官を陥れる陰謀かもしれないと考え、碧銘剣が盗まれてしまったことで、ムーバイに北京に来てもらうことにします。
以下、『グリーン・デスティニー』ネタバレ・結末の記載がございます。『グリーン・デスティニー』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。
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ユイ長官の屋敷の壁には、ジェイド・フォックスの人相書きが貼られ、使用人たちが剥がす作業に追われていました。ユイ夫人は人相書きを見て、家庭教師を一瞥します。
ボーは昨夜、賊を“ジェイド・フォックス”と呼び、攻撃していた親子を探していました。娘を見つけたボーは尾行して、家を突き止めます。
イェンが怪しいと思ったシューリンはユイ邸を訪ねます。シューリンを慕うイェンは招き入れると、父親が決めた政略結婚よりも英雄になりたいと話します。
シューリンは名門に嫁げることは幸せだと言いますが、イェンは自分で愛する人を選んで結婚する方が幸せだと答えます。
シューリンにはムーバイの親友だった、スージョウという婚約者がいました。しかし、その婚約者はムーバイの仇ジェイド・フォックスに殺されました。
シューリンとムーバイは同じ敵を倒すために戦ううちに惹かれ合いましたが、シューリンはスージョウを裏切れないと、貞操を守っていました。
イェンとシューリンは姉妹のように親しくなり、仲睦まじくなりますが、その様子を見ていた家庭教師は快く思いません。
ボーはジェイド・フォックスを襲撃した親子から、襲った理由を聞きます。父親の名はツァイといい西域で警官をしていましたが、妻をジェイドに殺されその仇討のため、娘と共に北京まで追って来ていました。
ジェイドは長官の身内になりすまし、屋敷に入り込み隠れていると話します。そこにツァイ親子と決着をつけるため、深夜に呼び出す文を付けた暗器が飛んできます。
ティエ邸に到着したムーバイは、シューリンからジェイド・フォックスの人相書きを見せ、ユイ邸に潜んでいる可能性を伝えます。
深夜、決闘の場所へ向かったツァイ親子とボーの目の前に現れた、ジェイドの正体はイェンの家庭教師でした。
3人は彼女の並外れた強さに苦戦します。そこへムーバイが助けに現れ、ウーダンに潜入し師匠を毒殺して、秘技書を盗んだ報いを受けるよう告げます。
ジェイド・フォックスは女というだけで、弟子として認めなかった師匠を逆恨みし、殺害して秘技書を盗み逃亡しました。
2人の闘いはムーバイの力が上回り、「秘技書を盗んだ割には会得できていない」と打ち果たそうとしますが、そこに碧銘剣を持った賊が現れ、ムーバイの邪魔に入ります。
ジェイド・フォックスは賊を“弟子”と呼び皆殺しにするよう命令します。弟子はジェイドに逃げるよう言い、ムーバイと一騎打ちになります。
ムーバイはその剣術の力量から、ジェイドの弟子ではないと言い放ち、どこで技を会得したか聞くと「お遊び」と答えます。
ジェイドは弟子の強さに困惑しながら、3人の襲撃を交わしツァイを殺害してしまいます。賊はジェイドを連れて逃げ去りました。
警官のツァイがユイ邸の者に殺されたことで問題は大きくなります。ムーバイは屋敷に乗り込み、一味を捕らえると憤ります。
シューリンは宮廷護衛長となる人物の家で騒ぎを起こせば、長官の立場を悪くし、ティエに迷惑がかかるといい、結婚祝いを口実にユイ夫人とイェンを招待できないか相談します。
シューリンはユイ夫人が盗難の事件に触れると、犯人はわかっていると前置きし、ティエは「盗まれたものが戻れば、追求しないと」と話していると言いました。
使用人でも魔が差すことはあるし、善人でもふとした過ちを犯し、自分や家族をも破滅させると、イェンに諭すかのように話しました。
しかし、人殺しにだけは容赦しないと付け加え、ムーバイの師匠を殺した上に、昨夜は警官も殺したと訴えます。
警官と聞いて驚くイェンに、西域から彼女を追ってきた隠密捜査官が殺されたと教えます。しかし、窃盗と殺人は同一ではないと、わざと茶器を落としイェンを試します。
「盗賊は腕が立ち、大変利口」だとイェンをみつめます。そこにティエがムーバイを連れてきます。イェンはムーバイを見て動揺しました。
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賊の正体はイェンでした。彼女は碧銘剣をほんのいたずら心で盗んだことで、殺人事件まで引き起こしたことを悔い、剣を元の場所に戻すためティエ氏の屋敷に忍び込みます。
ところがそこにはムーバイが待ち構えていました。彼はイェンが秘技書を読んでいるが、理解には至っていないことに気づき、自分の弟子になるようイェンを説得します。
しかし、イェンはそれを拒み戦いで決着させようとします。ムーバイはイェンと剣を交えますが、それは剣術の心得を説く稽古でした。
イェンは教えたがる理由を聞きます。ムーバイはイェンの心の清さを見抜き、優秀な弟子をみつけたなら、ウーダンの秘技を伝授したいと語ります。
それでもイェンは逃げるように、屋敷へ戻りました。そこには殺人を犯しながら居座る、ジェイド・フォックスがいます。
ジェイドは騒動の発端は、イェンが碧銘剣を盗んだことからで、同罪だと言い2人で逃げようとそそのかします。
イェンはジェイドに恩義はないと追い出そうとしますが、技を教え込んできた彼女はイェンを弟子いい技を仕掛けると、逆にイェンが彼女封じ込めます。
イェンはジェイドがムーダンから盗んだ秘技書を、こっそり読み解きジェイドが判読していないことに気づいていました。
10歳から技をジェイドから学び、秘技書を解読し彼女を越えたと理解したと同時に、持て余した技の導き手も学ぶ相手もいないと吐露します。
ジェイド・フォックスは「まだ教えることはある」と言い残し、屋敷から出て行きました。
碧銘剣を取り戻したムーバイは、秘技を伝授する使命を感じていました。シューリンはイェンの才能を知り、平穏を望むムーバイから遠ざけようとしたことにも気づきます。
しかし、ムーバイはイェンには正しい指導者が必要で、導かなければジェイド・フォックスと同じ道を歩むと話します。
その晩、イェンの部屋にかつて恋人だった盗賊のローが忍び込み、彼女に荒野に戻って自由に暮らそうと抱きしめます。
数年前、ユイ長官が西域に赴任するため移動し、荒野に差し掛かったところで、ローが率いる“雷雲”盗賊団が襲いました。
好奇心旺盛なイェンはそんなアクシデントも見逃すまいと、馬車の窓を開け見物していると、ローがイェンの目の前に現れ、彼女の櫛を奪って逃げました。
勝気なイェンは集団を離れ1人でローを追いかけ、盗賊たち相手に応戦し暴れ、ローを打ち負かし櫛を取り返すと、家族たちの元に戻ろうと歩きだします。
しかし、イェンは方向を見失い遭難してしまい、照りつける荒野で倒れてしまいました。彼女が気づいた場所は、ローが隠れ家にしていた洞窟です。
ローは粗暴ではありましたが、イェンに対し紳士的で優しい男でした。2人がわかり合い、愛し合うには時間はかかりませんでした。
しかし、突然姿を消した娘を案ずる家族にイェンの心は揺れ、身分の違うローも彼女の気持ちを理解し、家族の元に帰るよう促します。
ローは必ず出世し親を認めさせ結婚するとイェンに誓います。そして、ウーダンの山頂から飛び降り、宙に浮かび飛び去った青年の奇跡の話をし、“信は真に通づる”と諭しました。
ローは約束を果たすため、仕事に就こうとしますが盗賊の過去がバレて、うまくはいきませんでした。そこで北京に越したという情報をもとに追いかけてきたのです。
イェンに結婚をやめ一緒に荒野へ戻ろうと説得しますが、イェンは家族を壊す勇気がなくローに絶縁を言い渡すと、ローはすんなり部屋を出ていきます。
ところがイェンが嫁ぐ日、輿入れの行列にローが乱入し、イェンに一緒に来るよう叫びます。そして、同時にどこからともなく暗器がイェンを襲いました。
ローは家臣たちに捕らえられそうになったところを、ムーバイとシューリンに助けられます。2人の事情を知ったムーバイはローにムーダンで連絡を待つよう言い逃がしました。
その晩、ティエの書斎から再び碧銘剣が盗み出され、イェンがゴウ家から姿を消したと知らせが入ります。
ユイ長官は捜索のために武術家の手を借りたいと、ボーを通して申し出てきます。ムーバイはその申し出を受けました。
イェンは碧銘剣を持って、戦いの旅に出ていました。途中で武術家に絡まれますが、ことごとく倒し、リー・ムーバイの一門かと言われ、彼は“仇敵”だと言い放ちました。
一方、北京から帰路につくシューリンとムーバイは、旅の途中で互いの気持ちを確かめ合いますが、ムーバイの命に沁みついた碧銘剣にまつわる因縁から逃れられませんでした。
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屋敷に戻ったシューリンの元をイェンが訪ねてきます。シューリンを姉と慕うイェンから、現実を思い知ったはずだと、北京の両親の元に帰るよう説得します。
そして、ローのことも知っていると話し、ムーバイの計らいでムーダンに向かったと話すと、イェンの態度が頑なになりました。事情を知って2人をかばっているシューリンはイェンの態度に憤ります。
シューリンは平安を壊してきたイェンに碧銘剣を返すよう迫ると、イェンは友情は壊れ、敵対関係になったと告げ、屋敷から逃げようとします。
シューリンは道場に居た弟子を外に出し、イェンとの戦いに挑みます。シューリンの武術はイェンを圧倒し、かわすのが精一杯でしたが、碧銘剣の力はシューリンの武器をことごとく破壊します。
イェンを追いつめたシューリンでしたが、イェンは碧銘剣でシューリンの腕を切りつけます。そこに戻ったムーバイがイェンに「剣に値しない」と告げると、イェンはムーバイに戦いを挑みます。
屋敷を飛び出したイェンを追い、2人は竹林で剣を交えます。しかし、秘技書を会得しているムーバイには、碧銘剣を持ってしてもイェンは及ぶはずもありません。
ムーバイはイェンから碧銘剣を奪うと、人生を狂わせてきた剣を滝壺に投げ捨てました。しかし、碧銘剣に憑りつかれたイェンは滝壺に飛び込みます。
イェンは碧銘剣を掴みますが、息が尽きて気を失ってしまいます。そこへジェイド・フォックスが現れ、滝壺から浮かんできたイェンを連れ去りました。
ムーバイはジェイドが隠れ住む洞窟を突きとめ、中に入るとそこにはアヘンで意識を混濁させたイェンがいました。ムーバイは気付け薬と術で彼女の意識を戻します。
しばらくして洞窟にジェイドを追ってきた、シューリンとボーが現れると、物陰に隠れていたジェイドが、ムーバイに向け毒矢を連射します。
ムーバイは矢を交わしジェイドに迫ると、とうとう師匠の仇を討ちます。しかし、ジェイドはムーバイも道連れだと言います。彼のクビには毒針が刺さっていました。
ジェイドは10年間イェンに技を教え仕えましたが、彼女は秘技書を盗み読み、自分を裏切ったと恨み、殺そうとしたと告白し絶命しました。イェンはその言葉に絶句しました。
針に仕込まれた毒は心臓に作用し、血液を逆流させる猛毒で解毒法はないといいます。ところがイェンは、材料が揃えば解毒剤を作れるといいます。
シューリンはイェンに急いで屋敷に行き、薬を調合させるよう託します。ムーバイに命を救われたイェンは、ようやく悪の元凶に気づき良心を取り戻します。
イェンはシューリンの屋敷に走ります。ムーバイは時間を稼ぐため、余力を瞑想に使いますが、もたないと察した彼はシューリンへの想いと愛を伝え息絶えます。
解毒剤を持って戻ったイェンは、ムーバイの死を知ると膝から崩れ落ち、碧銘剣を持って近づくシューリンに抵抗せず死を覚悟しました。
しかし、シューリンはボーに碧銘剣をティエ氏に届けるよう託し、イェンにはローの待つムーダンに向い、自分の心に正直に進むよう諭しました。
それから数日後。険しい岩山に囲まれた武術の聖地ムーダンに、イェンの姿がありました。イェンはそこでローとの再会を果たし、2人は愛を確かめ合い朝を迎えます。
床にはイェンの櫛が残され、姿はありませんでした。イェンは霊峰から雲海の広がる下界をみつめていました。
ローがイェンの元に駆け寄ると、ローが話してくれた「信は真に通ずる」伝説を覚えているか聞き、イェンはローに「祈って」と言い残し、橋の上から飛び降り、ローは「荒野へ」とつぶやきます。
イェンは気流に身を任せ、何かに導かれるように飛んでいきます。ローの目には飛び立ったイェンがかつての彼女とは違う姿に見え、目に涙を浮かべて見送りました。
映画『グリーン・デスティニー』の感想と評価
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映画『グリーン・デスティニー』は、優美な男女が華麗な武術で戦い、背景の中国の大自然に引けを取らないダイナミックな武侠の世界を描いていました。
純粋な心を持つ官僚の娘が、“義・信・誠”の掟を破り、武術を悪を貫くために利用したジェイド・フォックスによって、心を捻じ曲げられ人生を破滅させられた物語です。
映画デビュー間もないチャン・ツィーの、少女のような表情と華奢な体型からは、想像もつかないアクションの数々が印象的であり、無邪気さと妖艶さが際立つ本作から、国際的女優への扉を開きました。
すでにアクション女優として活躍しているミシェル・ヨーは、キレのある武術シーンと裏腹に、ムーバイへの愛を心に秘めた無垢な女性を、繊細かつブレない強さを見事に演じました。
“驕り”と“傲慢”がもたらす破滅の道
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官僚の娘イェンはジェイド・フォックスによって武術に目覚め、培った教養も手伝い“秘技書”を解読してしまいます。
イェンはやがて師匠を越える力を手に入れ、“碧銘剣”の存在を知っています。そして思いがけず剣と出会いますが、それは碧銘剣がイェンを選んだともいえました。
ムーバイがムーダンでの瞑想で見たものは、伝承する時を示したのでしょう。イェンとの出会いは必然的でした。
しかし、官僚の娘に生まれたイェンには自由がなく、ジェイドから吹き込まれた武勇伝の数々から、憧れだけが膨脹し技を極め、“男”に縛られたくない気持ちが暴走します。
強引で身勝手な父親とリー・ムーバイの態度がそれに重なってしまい、弟子になることを拒ませました。
力を制御する術、使い道を知らぬまま、碧銘剣を自由に扱ただけで驕りを生み、傲慢な人格へと助長します。
ある意味、“選ばれし者”という自覚があり、ローの行動で立場が悪くなると、自分一人でも生きていけると錯覚させます。
筋はよかったはずのイェンですが心に“義・信・誠”がなかったために、全てを破滅に導いていきました。
イェンは正しい師を持って修行することで、家族を破滅させなかったでしょう。しかし、全てが時すでに遅しだったのかもしれません。
女人禁制のムーダンにおいて、イェンが修行するには完全なる解脱が必要だったともいえ、イェンが霊峰ムーダンから飛び降りたのは、“信が真に通ずる”ことを信じたからでしょう。
イェンは飛び降りたことで、俗世間からの束縛や苦悩から解脱できたと解釈でき、自分の進むべき道がどこなのか、見えていったとも推測できます。
信じるべきムーバイを死なせ、シューリンを信じきれず、孤独にさせた罪を重く感じたはずです。おそらくローと荒野で平穏に暮らせないと思う彼女が進むべきと選んだ道は・・・。
まとめ
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映画『グリーン・デスティニー』は、1942年に書かれた武俠小説『臥虎蔵龍』が原作となっています。
武侠小説の起源には『水滸伝』や『三国志』などがあります。1920年代に儒教的道徳観に基づいて書かれ、「善を勧め、悪を懲らしめる」物語として、中国の大衆に親しまれてきました。
1940年以降は武術による闘いや恋愛などの描写が盛り込まれ、より娯楽性の高い小説が書かれています。
中華圏でカンフー映画が多く制作された所以は、こうした武侠小説の娯楽性を具現化させることで、受け入れられてきたからでしょう。
本作には“軽功”という通常の数倍も高く跳ねたり、速く走ったりする技が多数でてきます。それをよりダイナミックに表現するため、演者にワイヤーを取り付けアクションをさせました。
アクション映画には欠かせないものとなった、ワイヤーアクションの原点がこの映画にはあるというのがポイントです。
また映画『グリーン・デスティニー』は“義・信・誠”を重んじる剣士の心得を通して、人や自分の心の中に、正義を信じる誠実さがあれば、家族や仲間、愛する人たちを破滅させないと伝えています。
そして、正しい道へ導く師を得ること、過ちをすぐに正せる素直さを持つことが、真の自由と平安へと歩ませることを教えてくれました。